表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
387/431

第三百八十五話 異世界皇女戦記英雄譚その13

帝都グレイムでの本国決戦が刻々と迫るにつれて、

"一部を除く"帝都の将兵と、現実世界から集まった義勇志士らに緊張が走っていた。



そんな情況下の中で佐渡金守と両津界人は、

人騒がせにも高台を破壊する程の親子喧嘩が始まった。


これにより界人は、金守の重い拳を受けては敵陣深くまで飛ばされ、金守からのきつい(しつけ)を受けるピンチを迎えた。


しかしそんな時、金守の携帯に孫嫁(まごむすめ)であるエルンから、病人である直人の脱走を聞かされる。


この報に血相を変えた金守は、界人を敵陣深くに残してルクステリアへと飛び立って行った。




そして視点は、一旦現実世界へと移し、両津家から脱走をした両津直人についておさらいしよう。



地味に長い草津旅行から帰った直人は、その日の八月十二日の夜に突然倒れてしまい、そのまま救急車で運ばれると言う事態になっていた。この時点で直人の体温は、四十度を越える高熱が出ており、当然、意識は朦朧(もうろう)としていた。


病院の医師からは、妖怪と魔族なら一度はかかる、

妖魔病であると診断された。


ちなみに妖魔病は、人間で言う麻疹(はしか)の様な病で、例え妖魔落ちした人間が、麻疹にかかった事があっても、妖魔病にかからないと言う事ではない。ちなみに、一度発症すれば、麻疹と同様に免疫が付くため、再び妖魔病を発症する事は極めて低いとされている。



しかし、免疫がついたからと言って、

再び妖魔病を発症しないわけではない。


特にサキュバス族に取っては"あるある"な話だが、妖魔病を発症した者に対して、精気や妖気、魔力などの力を吸い取ってしまうと、およそ八割の確率で発症してしまうのだ。



恐らく直人は、草津に行った時点で妖魔病に感染してしまっていたのであろう。そのため、可愛い"弟"を襲いまくっていた稲荷も、ここに来て同様の妖魔病に苦しめられていた。



発症の当日。


稲荷「はぁはぁ…、な、直人~。直人はどこじゃ~。」


白備「姉上?兄さんなら今日帰ったでしょ?」


稲荷「はぅ~、はぁはぁ。白備…お願いじゃ…、わたひを直人の所へ連れて行って…。」


白備「だめです。兄さんも倒れてしまって大変なんですから。」


稲荷「そ、それなら…余計に会わないと…。はぁはぁ、はへえ~。」


白備「あ、姉上!?もう、言わんこっちゃない。大人しく寝ててください。」


どさくさに紛れて直人の元へ行こうとする稲荷であったが、結局病には勝てず、白備の厳しい監視下の元で、稲荷の行動はかなり制限されていた。




そして直人が病院に運ばれてから翌日の事。



当然直人の容態は、直ぐには良くなるはずもく、意識が朦朧(もうろう)とした状態の中、丸一日、病院の病室にて寝込んでいた。



しかも八月十三日は、ちょうど異世界の各地で動乱が目立つ様になり、ネットやメディア等でも大きく取り上げられていた。


そうとも知らない直人は、少し容態が落ち着いた翌日の十四日にて、ニュースとネットの情報から異世界の窮地を知る事になる。



異世界と言う楽園の危機に、直人は"こうしてはいられない"と思い"ふらふら"な状態で異世界へ(おもむ)こうとした。これに対して、母親である両津 杏佳(きょうか)を筆頭に、嫁のリールとエルンが全力で止めに入る。


しかし、簡単に引き下がろうとしない直人は、無理に()を通したため、やむ終えないと感じた母親に(えり)を掴まれては、そのままベッドへ投げ飛ばされた。


その後直人は、この監視下では到底病院を抜け出せないと悟り(諦め)、隙ができるまでは大人しくしている事を決めた。



大人しくしている間に、自分のスマホを見てみると、昨日辺りに三条晴斗を始め、燕奏太、高田海洋からメッセージが送られていた。


晴斗〔直人大丈夫か?エルンから聞いたけど、大変な目に遭ってる様だな。昨夜の今日で良くはないとは思うけど、無理して異世界に来るなよ?〕


直人「ふぅ…。(晴斗は優しいな。それに比べて…こいつらは…。)」


奏太〔よう直人w。リールから聞いたぞ。草津から帰って早々、妖魔病を発症したんだってなw。まあ、かなり辛いと思うけど安静にしていろよ。とまあ、それより今、異世界の方が大変な事になっててな、これから異世界の窮地を救うために、多くの学園の生徒たちが、こぞって学園に集まってるんだよね~。流石に直人は無理だろうから、良い知らせが来るように願っていてくれよ~w。〕


直人(奏太の野郎…。近々楓先輩の前で泣かしてやる…。あと、海洋は何を言ってるんだ…。)


海洋〔病には"ちゃんこ"が効くぞ。体力付けて土俵際でごっつぁんです。〕


直人(取り敢えず、飯を食えと言いたいようだけど、実際症状はインフル並みだから食欲ないんだよな。)


昨日の今日で、完全に出遅れている直人は、

ため息をつきながらスマホをテーブルに置いた。


直人(それにしても、学園か…。今回は先生たちに止められたりしないのかな。確か帝都の変の時は、生徒会が先生たちを説得して参戦できたけど、今度のは規模が違うしな…。てか、明日は終戦記念日…だったかな。こりゃあ、タイミングが悪いな。)


色々と気になる所はあるが、実際歩くだけでもやっとな状態に、直人は病室の天井を見ながら、その日も大人しくしていた。



そして、翌日の八月十五日。

直人は、重篤な峠を乗り越え、異世界へ行かないと言う約束の上、何とか退院を果たした。


家に着いた頃には、

祖父である金守が駆けつけており、

皮肉にも孫の隔離部屋を用意していた。


杏佳「それじゃあ直人?私は仕事に戻るから、お義父さんやエルンちゃんとリールちゃんの言う事を聞きなさいよ?」


直人「わ、分かってるよ。」


杏佳「…もし抜け駆けしたら…分かるよね?」


直人「し、しないっての!?」


金守「安心しなさい杏佳さん。わしがしっかり見てやりますから。それにエルンちゃんとリールちゃんも居ますし、変な真似はしないでしょう。」


杏佳「それならいいのですけど…。」


リール「大丈夫ですよお母様♪直人の事ならお任せください♪」


エルン「そうです。この部屋から少しでも出ようものなら、少々手荒ですが阻止してみせます。」



二人の手には、各自の愛刀が握られており、

リールは笑顔、エルンはクールな表情をしていた。



二人の様子を見ていた直人は、

心の底から絶え間ない恐怖を感じていた。


直人(やべぇよ、この二人…。今回ばかしは、本当に大人しくしてないと、マジで手足を切り落とされるかも。)


リール「…と……おと…直人!」


直人「っ、な、何だいリール?」


リール「もう~、何ボーッとしてるの?」


エルン「まさかですが、早速逃げ様としていませんか?」


直人「うぐっ…に、逃げるも何も…。この状態で逃げれるなんて思わないよ。(刀さえ持ってなければな…。)」


リール「あはは、そうだよね~♪流石に今の直人でも、ここから逃げるのは厳しいよね~♪」


エルン「うむ、お爺様にリール。そして私が入れば、まず抜け出す事は不可能ですからね。」


杏佳「…クスッ、私の娘たちは本当に頼もしくて可愛いわね♪」


リール「あぅ!?」


エルン「なっ!?」


リールとエルンを実の子の様に気に入っている杏佳は、完全なる失敗フラグを作る二人に心を打たれ、その可愛さから思わず二人を抱き締めた。



金守「直人や?良い子と巡り会えたな?」


直人「…うん。ちょっと、荷が重いけどね。」


金守「…なあ、直人や?もし、爺ちゃんとの約束を守れるなら、三人だけにしてやろうか?」


直人「っ、爺ちゃん…。」


金守「さっき"見ててやる"と言った手前、やっぱり二人に任せるなんて正直恥ずかしい所じゃが、ここは孫夫婦のためだ。大人しく安静にしてくれるなら、爺ちゃんはちょっと、異世界へ行ってくるよ。」


直人「……ん?」


金守「ん?」


直人「じ、爺ちゃん…。今なんて?」


金守「えっ?大人しく安静にしてくれるなら…。」


直人「いや、そのあと…。」


金守「異世界へ行ってくる…。」


直人「何で爺ちゃんが異世界に行くの?」


金守「えっ、いや、友人を助けにだな。」


直人「ジーー、俺より爺ちゃんを止めるべきだと思うけど…。」


金守「何を言うか。わしはこう見えて強いのだぞ?病に苦しむ直人と比べれば、まだ安心安全じゃぞ。」


直人「…はぁ、漫画でよくある"じいさん最強補正"か。」


金守「はっはっ、孫にはあまり見せたくはないな。」


直人「…わかったよ。でも無理はしないでよ。」


金守「おうよ。じゃが、お爺ちゃんとの約束も忘れないようにな。」


直人「…うん。」


普通ならエルンとリールに看病されるのは、

直人に取って凄く嬉しいことだ。


何せ戦闘以外、不器用で天然っぽい属性を持ち合わせている二人であるため、色々と可愛い一面を拝めるからだ。



少し前なら風邪を引けば、祖父の金守が真っ先に駆けつけてくれたが、今は二人の嫁に看病されたいと言う気持ちが大きかった。



これも成長の一つなのであろう。


祖父から少し離れていく感じが少し寂しく感じた。




それから数時間後の事。



直人は金守と交わした約束通り、

家で大人しくしていた。



しかしその間にも、世間では義勇志士案の可決と共に、正午に行われた終戦記念日で、安明天皇が発した衝撃的な聖断により、異世界へ赴く義勇志士たちが急速に増えて行った。



これに直人は、妖魔病のせいで、

義勇志士として立てないことを酷く落ち込んだ。


これが自分への憎悪として直人の心を動かしたのか。


買い物に出かけたリールと、夕御飯の支度をしているエルンの隙を見ては、未だに"ふらふら"な体を起こしては、こっそりと外へ抜け出した。


が、しかし、


その足取りはかなり遅く。


エルンが金守に電話した時には、

まだ学園まで半分の位置であった。


直人「はぁはぁ…。(やべぇ。すげぇ視界が歪む…。)」


真夏の炎天下と言う事もあり、病人である直人に取ってはかなり(こた)える道のりであった。


そのため、途中で意識が失ったのだろう。


突然目の前が真っ暗になると、

気づいた時には見覚えのある明るい天井が見えていた。


直人の両隣には、エルンとリールが、

直人の腕を掴みながら"スヤスヤ"と眠っていた。


直人の腕は二人の両胸に押し当てられ、

更には柔らかな太ももにまで挟まれていた。


それはまるで、絶対に逃がさないと言わんばかりの掴み様であった。


完全に指一つ動かせない直人は、暴発しそうな感情よりも、二人に迷惑をかけた事に胸が張り裂けそうな気持ちであった。


これは少し考え過ぎかもしれないが、急に部屋から姿を消して、挙げ句の果てには道中で倒れていたとか、どれ程心配させてしまった事だろうか。


直人は、静かに目を閉じて涙を流した。


そして翌日。

当然直人は、愛する二人にこっぴどく叱られるのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ