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第三百八十四話 異世界皇女戦記英雄譚その12

界斗と金守(かなもり)の喧嘩に危機感を感じた景勝と(さとる)は、急いで高台から降りて避難した。


その直後、界人と金守が居る高台にて、轟音を響かせながら、高台を崩壊させるまでの大乱闘が起きた。



これに対して一部の帝都の兵士と義勇志士らは、敵の襲撃かと思い警戒するも、二人の凄まじい喧嘩は、帝都の城外を越えて、西から攻め立てるリングデルト軍の陣へと飛び火した。




リングデルト兵「な、なんだ!?敵襲か!?」


界人「いってて、あの糞ジジィ…こんな敵陣深くまで飛ばしやがって…。」


大乱闘の際に金守の重い拳をもらった界人は、リングデルト軍の後方にある兵糧庫へと飛ばされていた。



リングデルト兵「き、貴様何者だ!?」


リングデルト兵「まさか、帝都側の差し金か!」


何処からともなく、勢いよく飛ばされて来た界人に対して、リングデルトの兵たちは武器を構えて威嚇した。


するとそこへ、

たまたま近くに居合わせた一人の将が近寄った。


リングデルト将「失礼、その身なりを見るに異世界の方ですね。単身で何をしに来たかは知りませんが、ここに来たからには、おいそれと帰すわけには行きません。ここで大人しく捕まるか、ここで死ぬかを選んでもらいましょうか。」


界人「…はぁはぁ。残念だがどっちでもないな。まあ、強いて言えば、面倒事とに捲き込まれる前に早く俺を帰した方が良いと思うぞ。」


リングデルト将「ほぅ。その面倒事とは一体何の事でしょうか?」


界人「…ふっ、下らねぇ親子喧嘩だ。」


リングデルト将「親子喧嘩?あはは、これは、おもしろい冗談ですね。」


界人「冗談じゃないさ。…嘘だと思うなら後ろを見てみな。」


リングデルト将「まさか、そう言われて素直に向くわけないでしょ?差し詰め、視線を逸らして隙を伺うつもりでしょうが、そうは行きませんよ。」


界人「…ならお好きに。」


リングデルト将「ふっ、変な事を言う方ですね。では、反抗の意思があったと見なして死んでもらいましょうか。」


界人の忠告を戯言(たわごと)だと思ったリングデルトの将は、剣を掲げて界人を斬ろうとする。そこへ突然、背後から重圧を感じさせる老人の声が聞こえた。


金守「おやおや、物騒な物を持ってるじゃないか。」


リングデルト将「っ!?」


金守「喧嘩中とは言え、大切な我が子を斬ろうとするとは、お主…覚悟はできておろうな?」


リングデルト将「くっ、何者です!」


リングデルトの将は、背後から聞こえた老人が、自分より格上であると声のトーンだけで感じ取った。


振り向くだけでも恐ろしく感じる圧に、リングデルトの将は剣を強く握るや振り向き様になぎ払った。


しかし、恐怖により振るった剣は金守に届かず、

金守は、親指と人差し指だけで剣を摘まんでは、いとも簡単にへし折った。


金守「こんなものかね…。」


リングデルト将「っ、あ、ぁぁ。」


目の前に居るムキムキの巨漢老人に、

リングデルトの将は絶句した。


しかも、この老人の背後には、

地に伏して悶え苦しむ多くの配下がいた。


金守「すまんが大人しくしててもらえんか…。喧嘩の邪魔だ…。」


リングデルト将「は、はひっ。」


界人「へっ、こんな敵陣深く入って来てもなお、喧嘩をしたがるとは元気がいいことだな…。」


金守「はっはっ、ここでお前さんを倒して、孫たちから"かっこいい"おじいちゃんって、思ってもらいたいからな。」


界人「俺を倒すって…、そもそも親父、敵を違えてないか。」


金守「間違えてなどおらん。そもそも、わしを年寄り扱いをした挙げ句、暴言を吐いて喧嘩を売ったのはお前の方じゃ。」


界人「うぐっ、ちっ…、親と一緒に異世界に居るのは調子狂うな。」


ピリリリッ!!


少し気まずい空間に、

突然、携帯の着信音が鳴り響いた。


金守はズボンのポッケから、異世界でも繋げられる様に魔改造した、折り畳み式魔通信用の携帯を取り出した。


※ネットの使用は不可。



金守「おや、こんな時に誰からじゃ。おぉ、エルンちゃんからか。もしもし、エルンちゃんかい?一体どうしたんだい?」


エルン「お、お祖父様大変です!?な、直人が、直人が、」


金守「むっ、お、落ち着きなさいエルンちゃん。直人がどうしたんだい?」


エルン「じ、実は、め、めめ、目を離した隙に部屋から居なくなっていまして…。いつも持っている妖刀もないので、もしかしたらそちらへ行ったのかと…。」


金守「なっ、なんじゃと!?ま、待て、トイレとかは見てないか?」


エルン「は、はい。トイレを含めて、リールと一緒に家中を探したのですが見当たらないんです。」


金守「っ、何と言うことだ…。わしとの約束を破ってもなお…。そこまで異世界が大切なのか。」


界人「っ、親父!まさか、直人が家を抜け出したのか!?」


金守「あぁ、どうやらその様だ。すまない、エルンちゃん。まずは落ち着いて、家の外を回るんだ。家からなら恐らく学園へ行ったと思うし、きっと足取りも遅いはずだ。」


エルン「わ、わかりました。すぐに探してみます!」


金守「すまない、頼むよ。」


未来の孫嫁(まごむすめ)からの電話を切ると、

金守は深刻な表情になる。


界人「親父。」


金守「はい。」


界人「俺も"うっかり"してたが、確か親父には、妖魔病にかかった直人の看病を頼んでたよな?」


金守「…え、えっと、その…あの時は、異世界へ行こうとしていた直人も諦めてくれたし、それにエルンちゃんとリールちゃんが側で看病していた方が良いかなって思ったんじゃけど…。」


界人「なるほど、親父は直人を甘く見たな。直人の意思はそう簡単に曲がったりしないぞ。」


金守「なっ、むむっ。」


界人「…取り敢えず学園のゲートなら、確かルクステリアの領域だな。例え、一足先に異世界へ踏み込んだとしても、今のルクステリアの領内は安定している。だが、途中で倒れたら獣の餌だな。」


金守「っ!!?な、なな、直人が獣の餌!?うおぉぉっ!!そんなことさせるかぁぁっ!」


孫の事を知らな過ぎたとはいえ、大切な孫を危機へ(おもむ)かせてしまった事に、金守は悲観な声を上げながら、飛べない界人を残してルクステリア領へ向けて飛び去った。


界人「あ、おい、こら親父!?俺一人、敵陣に残してどこ行くんだ!?」


当然、置いていかれた界人はこの反応である。


一方、金守の異様な力に戦意を削がれたリングデルトの将が、恐る恐る話しかけた。


リングデルト将「…あ、あの~。」


界人「ん?なんだまだ居たのか。異常過ぎる親父はもう居ないし、殺り合うなら相手になるぞ?」


リングデルト将「あ、いえ…その…えっと、…わ、我々…帝都に降伏致します。」


界人「ん?降伏…?」


リングデルト将「あ、あの様な方が、一人や二人と、まだ多くいるのであれば、いくら三国が束になったとしても勝ち目はありません。配下の命を無駄に散らさないためにも、降伏を受け入れてもらいたい。」


界人「うーん、と言われてもな。ここは敵陣の奥深くだろ?降伏を受け入れたとして、帝都へ戻ろうにも敵さんの目もあるし、例え上手く目を盗んだとしても、敵と勘違いした帝都側に攻撃される可能性だってある。」


リングデルト将「そ、それなら、ある程度のところで白旗を掲げて帝都へ接近して見るとか。」


界人「それは厳しいな。見たところ、ここの部隊は、後方の兵糧部隊の様に見える。物資の運搬するための目的ならまだしも前線に向かうのはかなり不自然だ。下手に注目を集めて白旗の所持かバレれば、その場で処刑か、後方から矢が飛んで来るだろうな。」


リングデルト将「…そうですね。前線までなら怪しまれずに行く手はあります。」


界人「なに?」


リングデルト将「おっしゃる通り、私共の部隊は兵糧を管理している部隊です。物資の運搬についても、先の軍議で運搬時間が決められ、前線へ向かうチャンスはございます。あとは、白旗を馬車に隠すだけですけど…。」


界人「なるほど、それなら怪しまれずに行けるな。けど、問題はどうやって帝都へ向かうかだ。この部隊の人数を考えれば、無傷に帝都へ行くには難しいだろうな。」


リングデルト将「はい…、我らの部隊は約二百人。もし、帝都へ向けて一斉に走り出せば、後ろから射殺(いころ)されるでしょう。」


界斗「…やはり、闇夜に紛れて逃亡か。それだと夜襲だと勘違いされるかもしれないしな。うーん、連絡さえ着ければ問題ないんだけどな。」


リングデルト「あとは運搬後、一斉に馬車へ乗り出して強引な突破もありますけど…。」


界斗「…単純だけど、歩くよりはマシだな。」


リングデルト「であれば…えっと…。」


リングデルトの将は、

界人の名前を言おうとしたのだろう。


しかし、界人の名前が分からないため、

今更、名前を聞こうにも言いずらそうにしていた。


これを察した界人は、

少し笑みを見せながら答えた。


界人「ふっ、両津界人だ。」


リーマス「両津…界人様。えっと、私はリーマス。リーマス・エデリングと言います。」


界人「リーマスか。よろしくな。ちなみに界人で良いぞ。」


リーマス「は、はい、界人様。」


界人「様は付けなくていいぞ?」


リーマス「い、いえ、これだけは様を付けさせてください。それでは話の続きですが、もし、強行突破なら、界人様には荷車に隠れてもらうか。我々と同じ鎧を着て頂き共に行動するかですね。」


界人「ふむ、それなら同じ鎧をもらおうか。敵陣の視察にも関わるからな。」


リーマス「なるほど、それは良案ですね。では、早速ご用意します。」


界人「あぁ、頼むぞ。」


リーマス「はっ。」


リーマスは、新たな主を得られた事が嬉しいのか、意気揚々に帝都に降る準備に移るのであった。





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