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第三百八十三話 異世界皇女戦記英雄譚その11

八月十五日、

日本時間、十三時の刻。


混迷渦巻く異世界の地"カルガナ"にて、

己の野望を燃やし、平和な秩序を壊そうとする賊を討伐するべく、日本国首相"中田栄角"を始めとする義勇志士たちが、ここ帝都グレイムに集結した。


中田栄角は早速、義勇志士たちを広場に集めると、

安明天皇より授かった異世界平定の勅命(ちょくめい)を義勇志士らの前で読み上げた。


"朕、全世界の平和を望む。故に、平和の盟友である帝都グレイムを支援する事を強く望み、帝都グレイムに刃を向け、平和を(あだ)なす者には、皆これを朝敵と見なし、朕は、これを速やかに征討(せいとう)し、一日でも早い両世界の平和を望む。例え非難の対象になろうとも、朕は一切の責任を受け入れ、立ち上がった義勇志士を誇りに思うと共に、この命を預ける所存である。"



中田「…願わくば誰一人欠ける事なく、この戦乱を収め、生きて日本国へ戻る事を深く願うところである。」


義勇志士「おぉ、天皇様がついに動かれたか。」


義勇志士「この難しい時代で、よくご決断して頂けました!」


義勇志士「必ずこの戦いに勝利して、順風満帆な異世界ライフを送るぞ!」


象徴ながらも安明天皇からの勅命は、

予想を超えて義勇志士たちの士気を高めた。


中田「これが陛下のお言葉である!我らは、この暗雲(あんうん)に満ちたこの世を照らす日輪の光であると共に官軍である。平和を乱す朝敵を(ことごと)く討ち果たし、新たなる時代の夜明けをもたらすぞ!」


義勇志士「おぉぉぉっ!!」


安明天皇と中田による大号令は、

多くの義勇志士たちを奮い立たせた。


(とき)の声が帝都中に響き渡りると、

三つの(にしき)の御旗が高らかに掲げられた。



菊一紋の旗には、"天照大神"(アマテラ)とあり、

世界を平和に照らす思いが込められている。


日の丸の旗には、"須佐之男"(スサノオ)とあり、日本人としての誇りと何度でも立ち上がる意地を込められている。


三日月の旗には、"月宮夜見"(つくよみ)

人道を忘れず、決して思い上がりなどで、外道に落ちてはならいと言う(いまし)めが込められている。



これに義勇志士たちは、三つの御旗に続き、

いつかこの日が来るであろうと作られた、個々の御旗が掲げられた。


横二つの逆三角の旗には、

"古見ヶ万歳"(こみけばんざい)


祈る姿のエルフの旗には、

"廻瑠巫然勝譚"(えるふしかかたん)


交差する悪魔の尻尾の旗には、

"悪魔之下僕"(あくまのげぼく)


二匹の人狼の御旗には、

"獣愛愛護師団(じゅうあいあいごしだん)"


など、それらしい漢字で何とかそれ風に誤魔化しているが、正直、三つの錦の旗以外は、個々の胸の内にある願望である。



もはや、今の義勇志士らの勢いに勝る者は無し、

今からでも帝都より飛び出して、裏切った国々を(ことごと)く返り討ちにする事もできるであろう。


そんな現状を帝都の高台にて、佐渡桃馬の父である佐渡景勝と両津直人の父である両津界人が、酒を汲み交わしながら様子を伺っていた。


景勝「想像以上に士気が高まってるな。」


界人「あははっ、ここは戦場だってのに、まるでお祭り騒ぎだな。」


景勝「ふぅ、調子に乗り過ぎて足下をすくわれなければいいがな。」


界人「確かにな。高め過ぎた勢いは、時に理性を乱して暴走を招く。そこを敵に突かれたら、どんなに士気が高かろうが、あっという間に総崩れだ。」


景勝「あぁ、そうならないためにも、攻守の判断だけは誤ってはだめだ。下手をすれば、関ヶ原の戦いの様に一日で敗けが決まるからな。」


景勝と界人は、士気が高まる同胞たちを背にして、テーブルの上に広げられた帝都周辺の地図に目を向けた。



界人「うーん、帝都に侵攻してるのは、表沙汰(おもてざた)は三ヶ国だが、実際支援等を入れたら六ヶ国。肝心の友好国である海洋国家アポリシスは内戦状態で、敵か味方かわからない状況だ。」


景勝「そのため制海権は、アーデントとリングデルトの二ヶ国によって七割喪失。海洋国家が内戦にならなければ、制海権は安泰だったろうにな。」


界人「そうだな。いっそのこと、戦艦"大和"見たいな大型戦艦が帝都にあれば…。」


景勝「それは流石にないだろ?この世界の船は、未だに木造船だからな。まあ、もしこの世界に戦艦大和の様な戦艦があれば、たった一隻だけでこの世界の全制海権が取れるな。」


界人「何かロマンはあるけど、クソゲーだな。」


景勝「あぁ、とんだチートだ。」



中世文化レベル敵国に対して、

旧近代文化で挑もうと考えるこの二人。


しかしこれでは、あまりにも異世界のバランスとロマンを破壊してしまうため、比較的に安全で楽な考えではあるが、クソゲー並の外道案として放棄した。


そもそも、この異世界の地に、そんな大型戦艦など持ち込めるはずもなく、しかも建造するなど不可能であった。




二人が異世界の地図を見ながら、三国包囲網の攻略法を考えていると、そこへ二人の父である"佐渡 金守(かなもり)"と、相川家の当主である相川 (さとる)が駆けつけた。


金守「はっはっ、二人ともかなり悩んでるようじゃな?」


景勝「げっ、おっとう!?」


界人「な、何で親父がここに…直人の看病をしているはずじゃ…さ、覚、説明しろ!?」


覚「す、すまない。気づいたら帝都に来てた見たいで…、お、俺だって急に背後から声をかけられて驚いたんだぞ?」


界人「うぐ、こっそり抜け出したか。」


金守「おい、界人?わしが来たらまずいのか?」


界人「まずいも何も、少しは歳を考えろって!?」


金守「ほほぅ、七十では不服か?三国志に出てくる老将 黄忠(こうちゅう)は、定軍山の戦いで自分よりも若い夏侯淵(きこうえん)を討ち倒したぞ?」


界人「親父は"蜀の五虎将"見たいに強くないだ…ごふっ!?」


老人扱いする界人に対して、少し怒った金守は、

一瞬の内に界人の懐へ入り込むと、そのまま正拳突きを見舞った。


景勝&覚「っ!?」


金守「この程度も避けられんとは情けない。わしを老人扱いするのは、孫だけで充分だわい。」


界人「はぁはぁ。異世界系チートジジイめ…。」


金守「ほぅ?」


景勝「お、おいばか!?」


覚「か、界人すぐに謝れ!?」


金守「優しい直人はそんな事を絶対に言わないと言うのに、久々に少し躾が必要のようじゃな。」


金守の体から赤いオーラが漂うと、黒髪に白髪が混ざった短髪の髪が瞬く間に金髪へと変わると、軟弱そうな老人の体型が見る見る内に、全身ムッキムキな巨漢へと進化した。



突然ですがここで小話。


ここに来て登場した、

佐渡金守と相川覚についてのご紹介。


佐渡金守は、

佐渡景勝と界人の父親であり、

桃馬と直人の祖父に当たる。


異世界の交流が始まる前までは、至ってどこにでも居る普通のおじいちゃんであったが、異世界との交流が始まった途端、駆け出し冒険者の街"ルクステリア"に(おもむ)くようになり、気がつけば強い爺さんになっていた。


相川覚は、

佐渡家一門、相川家の婿養子として迎えられた当主で、両津界人とは幼馴染みの間柄である。


しかも、相川覚の子である相川葵は、

両津界人の子である両津直人と、同門ながらも大親友の仲でもある。


そもそも、相川家は佐渡金守の今亡き妹が(とつ)いだ家柄で、血筋をたどれば直人と葵は親戚関係である。


ちなみに相川覚の職業は、

意外にも医者であり、獣人族の専門医でもある。


異世界との交流が始まる前までは、エルフやサキュバスなどのド定番派であったが、いざ異世界との交流が始まるや幼馴染みの両津界人と共に、どっぷり獣人派になってしまう。


しかも、医者の立場上、獣人族の専門医ならどさくさに紛れて"もふれる"事を知ると、覚は迷わず医療範囲を広げたそうな。


更に覚は剣術にも長けており、春桜学園で剣聖と呼ばれている葵に引けを取らない武闘派でもある。




そして話しを戻し。


ムキムキの巨漢爺さんへと進化した金守は、

動けない界人を脇で抱えるや、掌を掲げて界人の尻を叩き始めた。



界人「あぎゃぁぁっ!?こ、この糞ジジイ加減しろって、いてぇぇっ!?」


金守「加減をしては躾にならんじゃろ?昔はよう叩かれたじゃろうが。」


界人「今と昔じゃあ、威力が違うだろう!?てか今の時代、躾を盾にして肯定するのはよくないぞ!?」


金守「ふむぅ…。確かにそうじゃな。」


界人「分かったなら早く下ろせ…ごはっ!?」


金守「ボディスラムじゃあぁっ!」


金守が界人の持ち方を変えると、

テーブルの上に叩きつけた。


覚「なっ!?」


景勝「あぶねぇ、地図閉まっておいてよかった~。」


まるで子供と戯れる父親の様なやり取りに、

覚と景勝は、少し引き気味に様子を見ていた。


界人「かはっ…。」


金守「ふぅ~、これでよし。」


景勝「いや、よしじゃないですよ!?」


覚「そ、そそ、そうですよ!?な、何してるんですか!?」


金守「安心せい、この程度で伸びる男じゃな…へぶっ!?」


界人「この糞ジジイが!」


金守の視線が外れている隙に、界人は上半身を起こして金守の顔面に頭突きをかました。


景勝「や、やばい…。覚くん、逃げるぞ。」


覚「え、えぇ。捲き込まれる前に行きましょう。」


一体何をしているのだとツッコミたい所だが、

別に親子としての仲が悪いと言うわけではない。


そもそもこの二人、昔から悪ふざけをし合う仲であり、互いに異世界の力を得てからは、その悪ふざけのレベルが日に日に増して行った。


そのため、喧嘩の様なやり取りも"しばしば"あるが、今回のはガチの喧嘩の兆しである。




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