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第三百八十二話 異世界皇女戦記英雄譚その10

異世界で起きている群雄割拠で一番の激戦区は、おそらく"帝都グレイム"と弱体化した帝都を滅ぼそうと決起した、西の"リングデルド公国"、東の"アーデント公国"、南の"マダル王国"の連合軍による戦いであろう。


帝都グレイムには、日本防衛陸軍、通称"特殊自衛隊"が駐屯しており、連合軍の激しい侵攻を防いでいた。


しかし、日本防衛陸軍の隊員は約五千人。


帝都の兵と一足早く現実世界から救援に来た義勇志士を入れても総勢は約三万人程度。対して連合軍の総勢力は十万人を越える大軍である。


兵力差から見ても、明らかに多勢に無勢の現状。


更には、三方からの同時侵攻のために、アーデント軍を日本防衛陸軍が抑え、リングデルト公国軍とマダル王国軍は帝都の軍で抑え込んでいた。




ここで小話。


現状三倍近くの戦力差でありますが、ここでもし、現実世界から戦車や近代武器と言った兵器を持ち込めれば、戦力差の話はどうと言う事はありません。しかし、現実世界から持ち出した近代兵器は、不思議な事に持ち込んだ瞬間、(ことごと)く消滅してしまいます。


ならば、異世界で作れば良いのでは?…と思うでしょうが、そもそも工場を立てるための重機すらも消滅してしまうため、作ろうにも作れないのです。


それはまるで、異世界事態に意識があり、

急速な近代化を防いでいるかの様にも見えます。


もしそうなら、急速な近代化を防ぎたいと思う気持ちは当然かもしれません。


急速な近代化は、世の中の生活を便利にするとは言え、その代償は、異世界全体の環境を破壊する事だけでなく、各国の緊張を高めてしまうリスクがあります。これは、現実世界の歴史を見ても明らかになっている事です。


※例、四大公害病、残虐的な戦争等である。


現実世界の発展は、過去の時代に見合った間違いだらけの段階から始まり。時代が流れる度に、間違いに気づいては改め、苦難と厄災を乗り越えながら発展していきました。


これこそ、

時代と進化がもたらした段階と言えましょう。



しかし、発展の過ちを知らない者に、いきなり近代的な段階を持ち込めば、必ず後先考えずに悪用する者が現れるだろう。


そうなっては、現実世界の二の舞である。



話は戻し、



三方から攻め立てる連合軍に対して、

"帝都連合軍"の防衛方法は、唯一、現実世界から持ち出せた旧式の野砲(やほう)を始め、大砲や単発式小銃からなる武器での抵抗であった。



しかし、旧式のため連合軍の侵攻を完全に足止めする事は出来ず、更には、連合軍側も数十門の大砲を持ち合わせており、戦場は、魔法と弾丸が飛び交う熾烈(しれつ)な戦いとなっていた。


これにより、攻めの兆しがない限り接近戦での戦闘を禁じられていた帝都連合軍は、数に押されながら徐々に後退していった。



そして、八月十五日。

気づけば、帝都の防衛陣は城近くまで後退していた。


この時点で帝都側の負傷者は、無理な突撃をしなかったためとは言え、それでも二千人近くの負傷者を出していた。


対して敵側は、突撃を繰り返していた事もあり、

死傷者は一万人を越えていた。



しかし、ここで厄介なのが。

回復魔法使うヒーラーの存在である。


帝都側もヒーラーを備えてはいるが、多少の負傷であればヒーラーの力で直ぐに完治してしまうため、場合によっては、小銃に撃たれても突っ込んで来るパターンがあった。




これにより、とうとう帝都の中心まで追い詰められた帝都連合軍だが、士気が落ちている様子はなく、次なる決戦に備えていた。



その要因として、同日、日本の国会にて義勇志士案が可決した事により、日本国から中田栄角を始めとする約三万近くの義勇志士たちが、帝都に集結したからであった。


更に中田栄角は、帝都へ来る前に世間からの非難を受ける覚悟で、畏こくも安明天皇へ拝謁(はいえつ)し、反乱鎮圧の勅命をもらったのである。



これは中田栄角が帝都へ赴く少し前の事。


宮殿、松の間にて、

安明天皇と中田栄角の二人が顔を会わせた。



安明天皇「中田よ。そなたの覚悟を見させてもらったぞ。」


中田「はっ。終戦記念日のこの日に、あの様な事を申し上げたのは、非常に断腸の思いでありました。」


安明天皇「犠牲なくして平和なし。この素晴らしき時代に栄光あれ。確かに、断腸の思いでならなければ言えない程の(はばか)る言葉であるな。」


中田「はい、まして戦争を放棄している日本に取っては、禁句の様なものです。しかし、陛下には前以てお伝えしていましたが、もはや争いは避けられません。」


安明天皇「うむ、かなり残念ではあるが、異世界を無くして今の世界に秩序無し。また、異世界との交流によって日本を始めとする、混迷していた世界の情勢を安定させ、起こりべくして起こるはずの厄災をはね除けているのも事実。」


中田「はい、あとは国民がどう思ってくれたか。帝都の変では数多くの国民が立ち上がりましたが、此度の戦いは本当の戦争です、果たして立ち上げるかどうか。」


安明天皇「おそらく必ず国民は再び立ち上がるてしょう。此度の国会で中田は、多くの国民たちが心の中で思っていても、(はばか)れる様な事を堂々と代弁したのです。きっと、異世界を愛する国民を始め、世界中の人々が立ち上がるでしょう。」


安明天皇は、中田の不安を支えるかの様に後押しすると、懐から一枚の紙を取り出し、中田の前にそっと置いた。


中田「へ、陛下これは?」


安明天皇「…戦争を心から反対する国民には悪い事であるが、私も異世界を愛する一人として、共に戦おうと思う。」


中田「っ、と、と言うことは…。」


中田は嫌な予感を感じ紙を開くと、

安明天皇は、紙に書いてある勅命内容を発した。


安明天皇「…太平洋戦争以来の聖断である。"朕は、全世界の平和を望む。故に、平和の盟友である帝都グレイムを支援する事を強く望み、帝都グレイムに刃を向け、平和を(あだ)なす勢力は、これを朝敵と見なし、朕は、これを速やかに征討し、一日でも早い両世界の平和を望む。例え非難の対象になろうとも、朕は一切の責任を受け入れ、立ち上がった義勇志士を誇りに思うと共に、この命を預ける所存である。"」



中田「へ、陛下…こ、これはなりません。これを詔勅(しょうちょく)しては…。」


安明天皇「よい。国民が命を賭けて異世界を守ろうとしているのだ。本来なら私も帝都へ赴きたいところであるが、武術にあまり取り柄のない私では足手まといだ。ならば私ができる事は一つ、命を賭けて全ての責任を負う事だけだ。」



中田「そ、そんな。陛下に責任を負わせるなど。」


安明天皇「もう遅い。既に各国の大使館に同じ紙を渡している。」


中田「な、なんと言うことを…。」


安明天皇「ふ、あははっ。その様な顔をするな。中田の罪は私も背負う。正午の終戦記念日の式には、"固く契った誓いが破れようとも、かつて大日本帝国がアジア解放と称して始めた太平洋戦争への反省は、永久(とわ)に片時も忘れる事なく、平和への戦いを持って世界平和に貢献すると、ここにお誓い申し上げる"…と。」



中田「…なんと滅茶苦茶な。」


安明天皇「滅茶苦茶なのはお互い様ですよ。さて、話はここまで。中田栄角に命じます。大義に背かず、(おの)が信念を貫き、世界の平和と安寧のために奮戦せよ。そして勝って戻ってくるのだ。」


中田「っ…ははっ!」




国会中継より、異世界の動乱に対して任意制の参戦を表明した中田栄角は、日本だけでなく世界各国に衝撃を与えた。賛否の声が絶えず広まる中で、更なる衝撃的な事が起こった。


日本時間正午の終戦記念日の式にて、中田首相の欠席の中で、安明天皇から詔勅(しょうちょく)が読まれた。


その内容は、此度の混迷する異世界への任意参戦は、天皇公認であると認めると共に、侵略への反省を胸に刻み続け、平和への誓いを持って戦いに貢献していくと、堂々と全世界に発信したのであった。


突然の宣言に動揺する会場、これにテレビ局を含めたマスコミは大騒ぎである。


更に各国の大使館は、正午の終戦記念日式に合わせて、安明天皇より(たまわ)った勅命文を本国へ送信し、日本国の覚悟を示したのであった。


これにより、

大きな時代の一歩を踏み切った日本国は、

異世界平和への防衛権を確立したのであった。




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