第三百八十一話 異世界皇女戦記英雄譚その9
愚かしくも一方的にリブル公国への侵攻を始めた。
ジレンマ軍と亜種族らによる連合軍は、リブル公国軍の大反攻により呆気なく壊滅。
これにより、リブル公国の隣国。
ジークフリーデン国の姫にして、エニカの幼馴染みでもあるエル姫を始め、多くの人質たちを奪還した。
その後、リブル公国軍と微食会は、勢いに任せての進撃は行わずに一時リブル公国へ帰城していた。
エル「ふぇ~ん!!えにがぁ~、怖がっだよぉ~。」
エニカ「うんうん、怖かったわよねエル。無事で本当に良かったわ。」
エル「えぐっ…うん。でも、みんなが…酷い扱いを…。」
エニカ「…そうよね。でも、もう大丈夫よ。ここなら、もう酷い目は合わないからね。」
例え安全な所へ来れたとしても、心の傷が完全に癒える事はない。
そのためエニカは、どう言葉をかけたら良いか分からず、ただただ安心させてあげる事しかできなかった。
エル「ひっく、でも…お父様とお母様が…。」
エニカ「…大丈夫よ。お父上とお母上は、絶対に助けるわ。」
エル「…うぅ、うん。」
エニカは、優しくエルを抱き締めると、取り乱すエルを落ち着かせるためにそっと頭を撫でた。
エルと侍女たちの様子を見るに、ジレンマ国に侵略された国々は、非道な扱いを受けさせられるのだとエニカは感じた。
すると、エニカの心の奥底に、今まで感じた事のない、真の怒りが込み上げて来る。
世界の運命を左右する一戦に勝利しても、混乱する異世界に取っては氷山の一角にすぎない。
そのためエニカは、この乱を終わらせるべく、手始めにジレンマ軍によって占領された国々と村々を解放するため、外道国家ジレンマ国に対して宣戦布告を告げた。
この宣告布告で、一番やる気を示したのが、現実世界出身である、準メンバーを含む微食会の一行らであった。
微食会の一行らは、エニカとルイの目を盗んでは、リブル公国の地下にある牢獄で集会を開いた。
当然、牢獄には囚人も居るわけだが、話を聞かれては集会の邪魔になるため、ここは穏便に眠り魔法で囚人らを一時的に眠らせて、まとめて狭い牢へとぶち込んだ。
しかし、一目を避けれる牢獄であっても、いきなり百人近くの同級生が姿を見せなくなるのは、流石にエニカとルイが怪しむところだ。
そのため微食会の幹部たちは、ラグラと女子たちに頭を下げて頼み込み、エニカとルイの気を逸らしてもらい……、更には、先の戦いで動けなくなった近藤を抑え込むため、妹のラシュリーナを医療室に残した。
また、大西雷音、坪谷勇二郎、本間孝の三人も、
エニカとルイの近くに置き完璧な体勢を作り上げた。
しかし、茂野天については別で、城へ退却後すぐに恋人のラグラに捕まり、そのまま命懸けの決闘に駆り出された。
つまり、今の獄中には、百人近くの男子たちが密集している訳である。
薄暗い獄中で、大義ある戦いに血湧き肉踊らせる男子たちは、大いに称賛の声を響き渡らせていた。
するとそこへ、先の戦いで瀕死の重症を負うも、運悪く延命させられた一人のジレンマ兵より、敵情を聞き出した渡邉蒼喜と星野仁が合流する。
藤井「おぉ、二人ともどうだった?敵の下っ端でも良い情報は得られたか?」
渡邉「あぁ、それなりには聞けたかな。」
星野「まあ、内容は酷いものだよ。正直、あの場に近藤が居なくて良かったくらいだ。」
藤井「やっぱり、そんなに酷いのか?」
渡邉「酷いも何も、平気で女性を人質にするくらいの事はあるな。」
番場「それで、その酷い情報とは?」
渡邉「うん、今回攻めて来たジレンマ国だが、元は山賊、盗賊、海賊が結集して築かれた賊物の侵略国家の様だ。しかも、侵略された人々の扱いは、奴隷の様に虐げられ、女は性的に、男は肉体的な労働源として扱われている様だ。」
渡邉の証言に獄中は大いに騒いだ。
周囲の反応がこれ程までなら、当然近藤が聞いたら話の途中で斬り殺しているだろう。
藤井「うーん、絵に描いた様な展開だな。」
高野「そうなると気になるのが、このジレンマ国が、どこまで侵攻の手を伸ばしているかだね。今はあっちこっちで争いが始まってるから、今時点での勢力図みたいなのが欲しいね。」
渡邉「そうだな。下手に動けば挟撃を受ける可能性もあるし、最悪の場合、隙を突かれてリブル公国の領内に再び侵入される事だってある。」
番場「うーん…、今回の戦いに勝っても戦況の主導権は、未だにジレンマって事か。」
星野「いや、そうとは限らないよ。現に今回攻めて来たジレンマ国の部隊は、盗賊団の団長とその直轄の軍師だったらしいからな。しかも、亜種族まで出したと言う事は、おそらく本隊の可能性が高い。」
番場「と言うことはつまり。」
星野「今のところ侵攻して来る部隊はいないだろうな。そもそもリブル公国を攻めるには、ジークフリーデンへ通る道。もう一つは、エルンストと経由している"ルクステリア"を通る道のどちらかだ。まあ、日本全国から集まりやすいルクステリアは、まず陥落する事はないだろうし、ここから攻められる事はないだろう。だが…。」
ここから大侵攻を受ける心配は無いが、星野には少し思い当たる節があるのか、顔をしかめていた。
その様子に渡邉は、星野の思い当たる節を読み解き、
自分自身でも少し引っ掛かるポイントを告げた。
渡邉「空からの奇襲と海賊らによる山越えか…。」
星野「あぁ、空からの奇襲は結界で守るとして、強引に山を越えられるのは流石に怖いな。」
リブル公国の位置は、多方面から侵攻される様な位置ではなく、ジークフリーデン国とエルンスト国の二ヶ国に挟まれ、更には高々くそびえ立つ山々が背後に連なっている。
実際、この山を越えれば海がある訳だが、その山道は非常に険しく、徒歩によるリブル公国への輸送等が困難な事から港などはなかった。
そのため何も整備されていないため、大軍を率いての侵攻は、空からの襲撃以外無いと思われていた。
藤井「まあ普通に考えても、あの山を大軍を率いて越えるのは一苦労だな。けど、相手に山賊がいるなら話は別だな。海賊船を輸送船にして、多くの山賊らを岸に届ければ、あとはジリジリと迫ってくるだろうな。」
高野「それなら罠を張るか…、それとも砦でも築くか。」
番場「良い考えだと思うけど、砦は流石に厳しいだろ?」
藤井「いや、どっちも良い考えだ。罠はマッキーの鋭利な糸を使えば、山賊共の侵攻を遅らせられるし、砦は小さいのでも良いから、ゆうちゃんに簡単な砦を書いてもらおう。」
渡邉「うん、そうなると後は配置だな。山側にはマッキーとゆうちゃんを主にして後の守り手をどうするか。」
男子登山部「それなら俺たち登山部がやるぜ!」
男子魔術部「おいおい、たった八人の登山部だけじゃ足りないだろ?ここは魔術部も行くぞ!」
男子剣道部「斥候、遠距離が揃ったなら剣道部も行くぞ。」
男子士道部「何!?それなら士道部も。」
男子剣道部「士道部は攻め特化だろう?肝心なところで抜けてどうするんだよ。」
男子士道部「っ、そ、そうか。」
渡邉「はいはい、みんな静かにしろ。そもそも、百人近くしかいない時点で、マッキーとゆうちゃんを始め、登山部八人、魔術部十二人、剣道部十五人。合わせて三十七人は、流石に少な過ぎる。足りない分は、リブル公国の兵を回すつもりだ。あと、忘れないで欲しい事がある。俺たちが重要視するべき事は、攻めよりも守りだ。リブル公国が攻め落ちては、全ての終わりだからな。」
男子士道部「そ、それじゃあ、俺たち全員守りの方が良いって事か?」
男子剣道部「ま、まあ、よく考えれば、攻め側にたった六、七十人ってのは少ないよな。」
渡邉「いや、俺たち現実世界の人間は、この世界の者より強いと思う。まあ、特性とかに差はあるとは思うが、少なからずここにいるみんなは、一端の将レベルだと思うぞ。」
男子剣道部「おい、一端の将だってよ。」
男子士道部「ごくり、お、俺たちそんなに強いのか。」
藤井「何を今さら、先の戦いで亜種族を圧倒してたじゃないか?」
男子剣道部「い、いや、あれは小物っぽかったからな。」
男子魔術部「そうそう、帝都の変が起きた時に現れた亜種族と比べて弱すぎだもんな。」
確かに彼らの言う通り、 此度の戦いは見掛けだけの亜種族が多く、種族的にも疎らであった。
おそらく、適当に集めた烏合の衆の可能性が高いだろう。
藤井「ま、まあ、そう思えるならそれでも良いけど、だが決してその力を傲るなよ。ここは異世界であって戦場だ。油断したら死ぬからな。」
男子一同「おぉぉっ!」
その後微食会は、思い当たる節を次々と議題に上げては話し合い、
人民解放戦線へと踏み切った。
そしてその二日後、日本の国会にて義勇志士案が議会で可決され、異世界の各地で義勇志士らが続々と参戦し、群雄割拠の乱に風穴を開けるのであった。