第三百八十話 異世界皇女戦記英雄譚その8
激戦を繰り広げる亜種族軍とリブル公国軍及び微食会の戦いは、リブル公国軍側の大優勢で事が進んでいた。
多少の暴走とフレンドリーファイアが気になる所はあるが、それでも大きな損害を与える事態ではなかった。
その一方、総大将のエニカ姫はと言うと、攻めの勢いを崩すこと無く、単身で数十体の亜種族を討ち取っていた。
姫騎士にしては強すぎるエニカに対して、
動揺する亜種族から"脳筋姫"と言われ、これに憤りを感じたエニカは亜種族への攻勢を強めていく。
突出するエニカの姿に、少々まずいと感じた微食会の三人は、坪谷勇二郎が召還した飛龍に乗り込み、エニカの元へ向かおうとする。
しかし飛龍は、召還から二分足らずで、
戦闘狂と化したラグラによって撃墜された。
これを見ていたエニカは、
少々呆れた様子で見ていた。
エニカ「な、何やってるのよ…。」
亜種族「戦場でよそ見するんじゃねぇ!」
エニカ「っ、しまっ!?」
完全に意識を奪われてしまったエニカの背後に、
屈強で性欲が強そうな亜種族が棍棒を振り下ろす。
このままでは、エニカは棍棒の餌食となり、
屈強で性欲が強そうな亜種族に倒されてしまう。
そうなればエニカは、
この屈強で性欲が強そうな亜種族に拐われ、
口には言えない程のイベントが起こる事は間違い。
しかし、そうはさせないのが、
鬼神のルイ・リーフであった。
亜種族が振り下ろした棍棒が、
エニカを捉えるギリギリの所で止まった。
ルイは愛槍の四方華戟を器用に、
棍棒とエニカの間を通して防いだ。
ルイ「エニカを殺らせたりしない…ふっ。」
亜種族「っ。ぐわっ!?」
ルイは、亜種族の棍棒を軽々と払うと、
目にも止まらぬ速さで亜種族をなぎ払った。
エニカ「る、ルイ!?」
ルイ「エニカ、戦場でよそ見は良くない。」
エニカ「っ、ご、ごめんなさい。」
勢いに任せて我を見失っていたエニカは、
ルイの注意により我に返って反省した。
亜種族「おのれぇ…。邪魔しやがって…。」
エニカ「っ、ルイの一撃を耐えるなんて。」
ルイ「…エニカ、ここは私に任せて。」
ルイの一撃を受けて深い傷を負った屈強な亜種族は、
棍棒を強く握り締めるなり立ち上がった。
今までルイの一撃を受けた相手は、ほとんど一撃の内に倒されてきたが、珍しくルイの一撃を耐えた相手に対して、ルイはエニカを後ろに下げさせると前に出た。
亜種族「小娘風情が…。こうなれば、貴様を殺してエニカ姫をもらうぞ。」
ルイ「…お前にルイは倒せない。それとエニカを渡す気もない。」
亜種族「うぐっ、小生意気な。死に晒せぇぇっ!」
揺るがないルイの態度に、色々と劣等感を感じた屈強な亜種族は、両手で棍棒を強く握り締めると勢いよくルイに突撃した。
しかし、ルイの一撃を耐えた屈強な亜種族であっても、所詮ルイに取って見れば小物と変わりはなかった。
ルイは、屈強な亜種族が振り下ろした棍棒を再び軽くなぎ払うと、そのまま首を跳ねた。
亜種族の首が宙を舞い、
付近にいる亜種族の足元に落ちた。
戦場である以上、首の一つや二つが跳ぶのはおかしくない話だ。しかしこの後、ルイの威嚇が加わることにより、死への恐怖が何十倍にも跳ねあげることになる。
ルイ「…まだやる?」
愛槍の四方華戟を構え、刺す様な鋭い視線を向けながら、たった四文字の言葉を言い放ち重圧をかけた。
怖じけずいた亜種族は、一部戦線を離脱。
急速に悪化する亜種族軍の戦況でも、
亜種族は攻撃の手を緩めず交戦を続けた。
しかし、その攻勢も長くは続かなかった。
同盟関係であるジレンマ軍の動きが無い事から、
不審に感じた亜種族軍の将が、ジレンマ軍の本陣へ物見を送り込んだ。そのわずか数分後、物見に送られた亜種族は、慌てた様子で引き返して来ては、ジレンマ軍の全滅を告げた。
これにより戦意を完全に挫かれた亜種族は、総撤退を決断。これに対して、リブル公国軍と微食会は激しい追撃を開始するも、亜種族の全滅までとは行かなかった。
こうして、異世界の命運を欠けた重要な一戦は、
リブル公国と微食会による帝都側の勝利に終わった。
注) ここからも本編ですが、この世界の戦争論が始まりますので、不快な方は流してください。
戦いが終われば、残るは死屍累々。
この地獄の様な光景を見れば、誰でも戦争など、
悲惨で愚かで痛ましいだけの産物だと思うだろう。
確かにそうだ。
戦争は多くの不幸を招き、
多くの人々を苦しめるだけの産物である。
罪の無い子供から老人までも捲き込み、
大切な家族、平穏に暮らす場所、安寧の地を奪われ、
更には、飢饉や飢餓と言った飢えを広め、世界全体に混乱に陥れるだけの不当な行為だ。
戦争は無い方が一番良い。
それは誰が考えても普通で当たり前の考えだ。
しかし、ここで一つ考えてみよう。
此度のジレンマ軍の様に、
武力を持って不当に侵略する者らに対して、
平和の声は届くだろうか。
否、まず届かない事であろう。
武力で訴える者は、
平和を望む声を無視して、
武力を持って略奪に走るだろう。
例え聞き入れたとしても、一方的に属国とされ、
厳しい搾取に続いて、人権などは全く保証されず、平和を願った声は、降伏の声として聞き入れられ、後は奪われるだけの悲惨な末路である。
これでは戦争しない代わりに、全てを投げ売って奴隷になりますと言ってる様な物である。
中には、それでも構わないと言う者もいると思うが、現実的に考えてみれば、抵抗する意欲が湧くのは当然であろう。
そして運命の決断を迫られた、
この二つの世界には、
勝てば異世界と現実世界の絆は保たれ、
二つの世界が安寧に繋がる道。
負ければ全てを失い、
両世界を崩壊させる程の大戦争が勃発する道。
この二択に迫られている。
戦争は確かに良くはない。
しかし、平和を望む声は、奪う側からして見れば、
所詮は戯れ言でしかない。
武力を持って迫り来る厄災には、
もはや、武力を持って抗う他はない。
まして守りたい"もの"があるなら、
命を賭けてでも抗わなければならい。
それ故に、真の決断を誤ってはならないのだ。
この二つの世界は、
平和のための諦めではなく。
平和のための抵抗を選んだのである。
まして、現実世界側(日本国)からして見れば、ここで負けてしまうと、異世界からの資源を得られなくなり、再び現実世界では、資源を巡る大戦争、第三次世界大戦の構図が完成してしまうため、何としてでも勝ちたいところである。
明日を勝ち取るため、守るためには、
時には武器を持って戦わなければならない。
武力は攻めて勝ち取るものではない。
武力は守って勝ち取るものである。
攻めは野心と野望を望み。
守りは平和と希望を望む。
それ故の群雄割拠を静める大義である。