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第三百七十六話 異世界皇女戦記英雄譚その4

唐突な亜種族軍の到来により、リブル公国軍を率いる"エニカ"姫は、この機に乗じて華々しい戦華(せんか)を飾ろうと打って出た。しかしそこへ、エニカたちの危機を察知した"リブル公国軍の(じゅっしん)(ちゅう)"にして、微食会(びしょくかい)の藤井 尚真(しょうま)、茂野 (そら)、坪谷勇二郎、番場 誠太(せいた)らの乱入及び先制により、亜種族軍の足並みは大きく崩れた。


本来この役目を自分の力で飾ろうと思っていたエニカであったが、彼らの過保護過ぎる妨害によって、再び出鼻を挫かれてしまった。



ここまで来れば、指を咥えて見ている事しかできない所であるが、藤井たちが導いた優位な戦況を活かすため、エニカは亜種族軍に向けて突撃するのであった。




その一方で、

最前線に残った高野、大西を除く渡邉、近藤、本間、星野の四人はと言うと、単身堂々と現れた"ジレンマ"軍の指揮官"ガルベル"と対峙していた。



ガルベル「ふっ、まさか、俺の静止を無視するとはな。」


星野「あ、いや、そ、それは、えっと、すみません。」


渡邉「ばか、明らかに敵臭い相手に仁くんが謝ってどうする?」


星野「あっ、いや、た、確かにそうだけど。せっかく、俺たちを分散できる好機だってのに、わざわざ転移魔法を止めたりするか?」


本間「うーん、確かに。そう言われてみれば…。」


近藤「むしろ向こうからしてみれば、亜種族を叩かれる事が厄介と言うことか。」


ガルベル「…い、いや、別にそう言う事ではないのだが。」



ガルベルの行動に不審に思う四人の男たち。


しかし、実際ガルベルに取って亜種族は、己の利益を得るための駒であり、この際どうでもいいものであった。


強いて言えば、これから始める"ショー"を見せつけ、足止めをしてやる思惑であったが、この際四人残った事でも良しと捉えていた。


星野「…えっと一応確認ですけど、あなたは何者ですか?」


ガルベル「っ、こほん。我が名はジレンマ国レインブル団三団長の一人、ガルベル・イザベルである。」


渡邉「ほら見ろよ仁くん。やっぱり敵だったろ?」


星野「そ、そうだな。しかも何かの三団長の一人って事は、おそらく大将かもな。」


近藤「…ほう?大将直々とは良い度胸だな。」


本間「下手な事をする前に殺るか…。」


目の前の屈強なおっさんが敵の大将だと分かると、近藤と本間の態度が激変。刀の(つか)に手を置くや殺意ある眼力で今にも斬りかかろうとしていた。


ガルベル「小僧が。そう気を急ぐな。俺はただ交渉しに来たんだぜ。」


本間「交渉…?」


近藤「ふっ、生憎(あいにく)だが、こっちは貴様らの和睦や降伏など受ける気はない。ふざけたことを抜かせば…。」


ガルベル「俺を殺すってか?くくく、それは楽しみだが、これを見ても同じことが言えるかな。」


怒り浸透のあまり吸血鬼の力が漏れ始める近藤に、

ガルベルは余裕に満ちた表情で大剣を地面に突き刺すと左手を上げた。


すると、ガルベルの背後から続々と賊徒共が現れた。しかもその中には、拘束された銀髪のダークエルフの美女を始め、明らかに囚われの姫であろう金髪美女、そしてその背後には、ボロボロになった若い女性たちがいた。


この光景に四人の男たちは、

一瞬にして現状を理解した。


当然、このふざけた現状に四人の怒りは極限状態であった。特に近藤の場合は完全に堪忍袋の緒が切れていた。



近藤「っ。貴様…。」


渡邉「っ、尚弥(しょうや)待て!今斬りかかるはまずい。」



人質による交渉。


それは言われずとも知れる非道的な行為である。


特に情に厚い近藤に取っては、決して許されざる行為であり、目の前の外道共を皆殺しにしようと刀を抜く。しかし、刀が半分鞘から出たところで、まだ理性のある渡邉が刀の柄に手を置き抜刀を阻止した。


近藤「っ!蒼喜(そうき)止めるな!あの外道共は、ここで俺が殺る!」


渡邉「落ち着けって!今動けば人質が殺されるぞ!」


近藤「ぐっ、そうかもしれないな。だが…、あいつらにその気はねぇよ。どうせ同情でも買って、不平等な交渉に持ち込んでは、こちらの意見は一方的に無視するはずに決まってる。」


星野「確かに、人質を前に出して交渉の場に着かせようとするなら…大いにあり得るな。」


本間「あぁ。残念だが後ろの女性たちは、"もう"ってところだな…。」



ガルベル「くくく、そこの血気盛んな小僧は、俺たちの手口をよく分かってるようだが…、さて、どうする?大人しく交渉に着くか…、それともこの女共を犠牲にして一戦交えるか。」


近藤「ぐっ…、仁くん…。」


星野「…ぅぅん。この間合は良くないな。下手に転移魔法を使えば、その間に人質が殺される。」


渡邉「仁くんの言う通りだ。しかも相手は、俺たちが少しでも変な動きを見せれば、一人ずつ殺すだろう。」


本間「そうなると交渉の時に隙を伺うしかないか…。」


一方的に攻撃を阻止されてしまった四人。

不本意ではあるが、ガルベルの交渉を受け入れる他はなかった。


しかしここで、

姫様らしき金髪の女性が声をあげた。


?「くっ、ガルベル!(わたくし)との約束を破っただけでなく、戦の交渉材料にするとは、どういうつもりなのですか!」


賊徒「ちっ、勝手にキャーキャー(わめ)くな!」


?「かはっ!?」


女性「エル姫様!?」


賊徒「貴様らも喚くんじゃねぇ!」


エルと言う姫様に対して、

容赦なく"みぞおち"を蹴り上げる賊徒。


地面に悶え苦しむその姿に、

おそらく侍女(じじょ)か、メイドであろうか。

心配そうに声を上げるも、その後には賊徒からの卑劣な暴行を受けた。



ガルベル「てめぇら、何勝手に手を上げてんだ!」


賊徒「す、すみやせんだんちょ…。」


ガルベルの叱責に、大人しく従う賊徒であったが、

突如その内の一人が、歯切れを悪くしながら倒れ込んだ。


賊徒「あはは、おいおい何してるんだ?」


すぐ近くにいた賊徒が、近くに寄り様子を見ると、

首から大量の血が流れていた。


賊徒「なっ、お、おい、しっかりしろ!?」


賊徒「ま、まさか。あいつら殺りやがったか!?」


倒れ込んだ賊徒の首には、

的確に頸動脈が切られていた。


賊徒「っ、団長!」


ガルベル「っ、まさか…。」


同胞の叱責のため、一瞬だけ四人から目を逸らしたが、同胞らが四人を見ていたため、隙を与える程ではなかった。


しかし、相手は音に聞く十神柱。

小さな隙が命取りになるため、ガルベルは直ぐに視線を四人の方へ戻した。



一見、四人が動いた様子は見られないが、今の光景を目にした事で、四人の表情はより一層曇り始めていた。



ガルベル「…お前らがやったのか?」


近藤「知るかよ。そっちが勝手に倒れたんだろうが。」


渡邉「だな。魔法特化の仁くんは除いて、俺たちは近接専門だ。こっから的確に殺れるかよ。」


ガルベル「…じゃあ誰が。」


本間「まあ、強いて言えばそちらに裏切り者がいるとかじゃないか?」


ガルベル「裏切り者だと…。」


星野「…そうですね。例えば、あなたの近しい人とか。」


ガルベル「近しい人…。」


本間と星野が適当に答えた一言が、

偶然にも思わぬ展開を招いた。


本来なら信じがたい事だが、この時ガルベルの脳内に一人の"近しい人"が思い浮かんだ。


そう、軍師にして魔道士である。

キクリ・エニシスである。



ガルベル「まさか…。キクリが。」


もし、キクリが裏切り者なら、今の状況は非常によろしくない。なぜなら、今キクリは本陣の丘から随時兵を送ってくれている訳だが、もし裏切り者がキクリなら、本陣に残るは兵は、キクリの兵だけである。そうなれば、背後から挟撃(きょうげき)を受けて壊滅である。



鉄則のレインブル団であるが、

実際は賊の烏合の衆。


しかし、キクリに至っては、

盗賊団結成からの腐れ縁であるため、

信じられない事だが、動揺を隠せなかった。



すると、ここまで物静かであった、

銀髪のダークエルフが笑い始める。


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