表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
373/431

第三百七十一話 冥界士相譚その19

八月九日。

呪霊三女の一角、

貞美率いる怨霊らの反乱から一日が経過した。


県を(また)いでのこの反乱は、

貞美の早期討伐が功を奏し、完全に鎮圧された。


その後も多少の警戒体制は敷かれたものの、

日本政府はこの現状をいち早く世間(せけん)に伝えるべく報道陣への働きを呼び掛けた。


そのため朝のニュースは、

この事件で持ち切りとなり、どこを回しても特番が組まれる程の注目度であった。



一方、妖楼郭の医務室にて、

生と死の境界を彷徨(さまよ)っていた平沼は、

愛するユメの妖気を授かり更なる救命処置の末、

奇跡的な復活を遂げた。


しかし、奇跡の復活を遂げた平沼であったが、

平沼の魂の一部となったユメに、夜な夜な襲われ朝から再び死にかけていた。



更に一方、再び傷ついてしまった温泉街では、

朝から復旧作業が始まり多くの人たちが参加していた。



桃馬「よっと、それにしても昨日の怨霊たちは、ここまでしてでも、自分らの苦しみを知って欲しかったのかな。」


憲明「まあ、そうだろうな。怨霊らが抱える気持ちは、その"当事者"か、同じ想いを抱えた同胞にしか分からないからな。例え言葉で苦しみを打ち明けたとしても、気持ちを知らぬ者からしてみれば、所詮は客観的に捉えられるだけで、(しん)に共感を得るには難しいだろうな。」


桃馬「…だから、行動で示す訳か。」


憲明「よっと、まあ言葉で分からないのなら、行動で示すって事に俺は否定しないけど、流石にこれは共感できないな。」


桃馬「そりゃそうだ。むしろこれは八つ当たりだな。」


憲明「まあ、怨霊らの気持ちはどうあれ。個々が抱えている"感覚"と"気持ち"を、"何も知らない他人"が読み取るってのは本当に難しいものだと思うよ。例えば、"人を笑う"にしたって、(とら)え方一つで"侮辱"や"喜び"の意味を持つし、加えて"声のト音"や"その場の空気"、互いの気分次第で大きく意味が変わっていくからな。」



桃馬「確かに、そう考えると人の苦しみを知るのは難しいな。(しん)()み取れなければ、逆にその人を追い詰めてしまい、最悪暴走させてしまうもんな。」


憲明「まあ、その人の気持ちをしっかり汲み取れるのなら別に構わないけど、生半可な気持ちでその人の"傷"と"闇"に触れるのはやめた方がいいよな。」



己の怨念を晴らすためとは言え、

無慈悲に、そして無差別に厄災をもたらす怨霊らは、

もはや許すべき存在ではない。


しかし、桃馬と憲明は考えた。


"怨念"とは、怨霊だけでなく、生きし者たちが個々に抱えている、"苦しみ"と言う名の"闇"であると。


怨霊だから悪いのではない。

怨念に囚われた存在が悪なのだと。



苦しみによる悲しみ。

苦しみによる焦り。

苦しみによる寂しさ。

これなる自我のある者には、まだ救いはある。


だがしかし、

苦しみによる憎悪。

苦しみによる妬み。

苦しみによる殺意。

これなる自我を忘れて怨念に囚われ厄災を招く存在は、

怨霊に問わず、生きし者らにも言える大罪である。




桃馬「さてと、盆まで過ごす予定だったけど、この調子だと明日には帰りそうな気がするな。」


憲明「そうだな。一応その判断は直人次第だけど、まあ直人の事だ。先に俺たちを帰して、自分は一区切り着くまで帰らないって言い出すかもな。」


桃馬「…直人ならあり得るな。」


憲明「でもまあ、例え帰されそうになったとしても、問題は帰りのバスが有るか心配だな。」


桃馬「心配?うーん、まあ、確かに今は警戒態勢が敷かれているとは言え、流石に帰れないことはないだろ?」


憲明「と思うだろ?でもな、"ツイスター"や"ビッグドッグ"の書き込みを見ると、想像以上に混乱している見たいだぞ。…ほらよ。」


うっかりスマホを部屋に忘れてしまい、

反乱の情報を朝のニュースレベルでしか知らない桃馬に対して、朝からSNSの情報を集めていた憲明は、帰りの一件で危惧する内容を見せた。



そこには、怨霊の出現により一部の道路や鉄道などで、

事故に伴う交通麻痺が発生していた。


当然、交通のインフラ設備もボロボロとなっており、夏の暑い日には不運とも言うべき事態であった。


しかもこの事態が、全て怨霊によるものであれば、まだ"仕方がない"と感じるところであるが、実際インフラ設備の破壊は、自己防衛に拍車がかかり暴走した、一部の国民によるものであった。


インフラ設備の破壊の例として、


100tと書かれたハンマーを持った一団が、

ひたすら怨霊に向けて上下に振り下ろし、

鋪装を破壊しながら退治していた件。

※実際のハンマーの重さは15キロほどである。


また、上級魔法の乱用。

魔改造されたダイナマイトなど。


構造物を破壊するには、

十分な条件は揃っていた。


桃馬「…これはもはや、事件なのか、事変なのか、よく分からないな。」


憲明「これは"内乱"レベルだよな。朝のニュースでも言ってたけど、今回の死傷者が少なかったのは、俺たちの"自衛意識が向上しているから"って言ってたしな。まあ俺としては、自衛意識が向上しているのは良い事だと思うけど、実際その反面、色々と問題になりそうなんだよな。」


桃馬「問題…?」


憲明「あぁ、ちょっと待ってな。えっと、あ、これだ。」


桃馬「ん?…っ、こ、これは…。」


憲明が見せたSNSの内容に、

桃馬も嫌な予感を感じた。


その内容とは、

先の戦いで恐怖の象徴であった怨霊に勝利を収めた事により、世間は怨霊への恐怖心が薄れ、この機に乗じて"怨霊共を皆滅(みなめっ)するべし"と唱える声が増えていた。


まさに、"臭いものには蓋をする"かの様に、

"平和を乱す怨霊は全て滅する"と言った、不吉な怨霊狩りが既に始まっていたのだ。



桃馬「これは酷いな。怨霊に取っては因果応報とは良く言ったものだけど、これだと内乱よりもたちの悪い"魔女狩り"だな。」


憲明「魔女狩りか、確かにそうだな。今やその気になれば誰でも怨霊を倒せる事が出来る上に、大義名分で絶対的な悪を倒せるから物騒なものだ。」


桃馬「うーん、大義か。それだと結局、不の念をばら蒔いてるだけに思えるけどな。」


憲明「まあ、それは捉え方次第だろうな。現に怨霊による被害も増えているし、無抵抗だと一方的に呪い殺されるしな。まあ中には、怨霊たちも好きで怨霊になった訳じゃないと思うし、中には亜種族(あしゅぞく)みたいに話が通じる怨霊も居るかもしれないよな。」


桃馬「…亜種族か。確かにリヴァル"兄さん"とアイシュ"姉さん"が良い例だもんな。」


憲明「そうそう。絶対的な悪もしかり、絶対的な善もしかり、一から十まで考え方が一緒な訳ないさ。当然、その一、二割くらい考え方が異なる"変り者"がいるだろうし、要はその変り者をどう見極められるかが、問題なんだけどな。」


桃馬「そうだな。ちょっとでも悪い印象を持つと、その"もの"の全てが悪いと捉えてしまうからな。」


この先の平穏な日々が心配される情勢に、

桃馬と憲明が深く考え込んでいると、

元気の良い二人の美女が駆けつけて来た。


桜華「桃馬~、手伝いに来たよ~♪」


桃馬「ん?あっ、桜華か。妖楼郭の手伝いは終わったの…かっ!?」


憲明「っ!?…~~//。」


桜華の声に誘われ桃馬と憲明が振り向くと、そこにはピチピチのブルマに白い半袖を(よそお)った桜華とリフィルが目に飛び込んできた。


本来なら喜んで迎え入れたい桃馬と憲明であるが、

二人の姿を見た瞬間、早速目のやり場に困り始めた。



異世界レベルのスタイルを持ち合わせている桜華とリフィルに、ブルマを主軸とした服装は、かなりの破壊力があった。


しかも、公衆の面前で堂々と駆け寄ってきてるため、桃馬と憲明は思わずそっぽを向いてしまった。



サイズが合わないのか。

白い半袖から胸の形がくっきりと象徴され、

ピチピチのブルマには、お尻のラインと形が引き立ち、更には太ももから"ふくらはぎ"までの美脚をしっかり引き立たせていた。



この時代にブルマとは、少々古い感じがするが、

ここに来て桃馬と憲明は、スタイル抜群の二人を見たことにより、なぜ現代にブルマが消えたのか、なぜ異世界系の物語にブルマがチラチラと出てくるのか、何となく理解したのだった。




リフィル「憲明~♪見て見て~♪千夜ちゃんから体操着を借りたんだけどどうかな??」


憲明「い、いいんじゃないか?(そ、その姿で人前に出てくるなよ!?)」


桜華「桃馬もどう?凄く動きやすきんだよ?」


桃馬「お、おう、良いと思うよ。(や、やばい、見たら理性が終わる!?)」


理性の崩壊を恐れて、そっぽを向いた桃馬と憲明であったが、当然、そんな事情を知らぬ桜華とリフィルは、再び二人の前に立った。


これにはさすがに、二度目のそっぽは不味いと判断した桃馬と憲明は、目を逸らしながら感想を述べ始めた。


そうなると、桜華とリフィルからしてみれば面白くないわけで、更に距離を縮めて迫り始めた。


リフィル「むぅ、二人ともどうして目を逸らすの?もしかして、似合ってないとか?」


桜華「も、もしかして肌が多いのは嫌でしたか?」


桃馬&憲明「そ、そんなことはない!?」


桜華とリフィルが、

真っ先に肯定すべき服装に疑問を持ち始めると、

桃馬と憲明は、咄嗟(とっさ)に二人の方を向いて本音を漏らした。


リフィル「じゃ、じゃあ、どうしてそっけないの?」


桜華「そ、そうですよ、しっかり理由を言ってください。」


桃馬「うぐっ、そ、それは…。」


憲明「え、えっと…、うぅ……ろい…から。」


リフィル「えっ?ろい??」


憲明「そ、その…その姿が…え、エロいから…直視できないんだよ。」


リフィル「ふぇ?」


桃馬「そ、そう。だから、ひ、一目が気になって、その…ごめん。可愛いけど、そ、外では着ないで欲しいかな。」


桜華「え、えっと…、そうでしょうか?水着よりは良いと思いますけど?」


桃馬「そ、そりゃあ、水着よりは布の面積は広いけど、その…な、何か駄目なんだよ!?」


憲明「そ、そうそう。な、何て言うか、そ、"そそられる"と言うか…。」


リフィル「…クスッ、そそられる…ね~♪ふふっ、憲明のエッチ。」


憲明「~~っ!!!??」


おどおどする憲明の仕草に、

小悪魔的な感情をくすぐられたリフィルは、

思わず憲明の耳元に色っぽい声で囁くと、憲明はオーバーヒートを起こして倒れてしまった。


桃馬「っ!?の、憲明!?」


リフィル「あはは♪憲明は可愛いな~♪」


桜華「…クスッ。とても可愛いわね♪」


桃馬「ふ、二人とも純粋な男心を弄ぶな…よ。へっ?あ、えっ?お、桜華?」


倒れた憲明に駆け寄った桃馬は、

純粋な男心を弄んだ行為を注意するため、二人の方へ視線を向けた。


しかしそこには、先程まで桜色であった髪が、

一瞬の内に妖艶なパープル色に変わった桜華がいた。


見た目は桜華その者だが、

クールで気品のあるカリスマ性を漂わせていた。


そう、今の桜華は、いつもの桜華ではない。


桜華の体に眠る桜華の母、藤霞(ふじか)さんが出てきてしまったのだ。


しかも桃馬に取ってこの展開はピンチである。

あの獲物を捉えた瞳。間違いなくスイッチが入っている。桜華よりも義母との経験が多い桃馬は、その調教とも言えるプレイが身に染みて動けなくなっていた。


桜華様「クスッ。ブルマなんて本当に久しぶり~♪それより桃馬くんが、娘のブルマ姿に興奮するなんて本当に変態ね♪」


桃馬「あ、あわわ!?(は、恥ずかしすぎる!?だ、駄目だ。お、俺、恥ずかしすぎて死ぬ!?てか、三回は死んでる!?)」


リフィル「あ、桜華ちゃんが桜華様モードになった~♪」


桃馬「お、おいリフィル!?他人事だと思って笑うなよ!?は、早くふじ…じゃなくて、桜華を止めろ!?」


リフィル「やだよ~♪そっぽを向いた罰だよ~♪」


桜華様「ふふっ、そう言うこと♪復旧作業は少し休みましょうね~♪」


桃馬「っ、あ、ちょっ!?か、(かつ)がないでくださいよ~~!?」


こうして桃馬と憲明は、

スイッチが入ってしまった二人に連れられ、

再びトラウマ級の"しごき"を受けるのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ