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第三百六十八話 冥界士相譚その16

重苦しい空気が立ち込む医務室にて、

刹丸を始め千夜たちが、怨念の瘴気(しょうき)(むしば)まれ、生死を彷徨(さまよ)い続ける平沼を見守る中。



一方で、訳あって警察機構とは別行動を取り、温泉街の警備及び調査に当たっていたヴィーレとギールは、荒廃した道端で倒れている"白い服を着た"女性を発見する。ヴィーレとギールは、女性の意識があることを確認すると、急いで妖楼郭へと戻り、フロントにいる(すばる)の元へ駆け込んだ。


ギール「昴さん!」


昴「うわっ!?ぎ、ギールくん?ど、どうしたんだい?」


ギール「道中で倒れていた女性を見つけたので、手当てをお願いしたいのです。」


ヴィーレ「一応意識はあるのだが、念のため瘴気に汚染されてないか調べてほしい。」


ヴィーレが、背中に背負った女性を"チラッ"と見せると、昴は直ぐに事の次第を理解した。


昴「っ、先の被害者ですね、分かりました。えっと、医務室はここのフロント横にある関係者以外立入禁止の扉を開いて左手奥にあります。」


ギール「左手奥ですね、ありがとうございます。」


ヴィーレ「うむ、さすが"若"の弟だな…、それより…ふーん。」


昴の素早い対応に感心したヴィーレは、

昴の体を上から下へ、下から上へと目で舐めるかの様に見始めた。


狼の癖に草食系のギールとは違い、

肉食系のヴィーレは、目の前に居る食べ頃のイケメン男子を狙い始めていた。


昴「え、えっと…?」


ヴィーレ「ふっ、君、昴くんだったかな?」


昴「えっ、えぇ、そうですけど…そ、それが何か?」


ヴィーレ「ふっ、別に何かって訳ではないんだ…。ただ、昴くんは"若"…いや、直人くんとは、また違った魅力を感じるなって思ってな。」


無意識にその身をフロントへ乗り出すと、

今にも飛びかかりそうな瞳を向けながら、クールでカリスマ溢れる姉御オーラを出し始める。



※ちなみにこの行為は、ヴィーレ特有のナンパ術で、もしこれに誘われた者は、一晩中悲鳴を上げながら後悔するとか…。



昴「に、兄さんとは違った魅力か…うーん。」


突如訪れた貞操のピンチ。


しかし、昴はこの危機的状況に全く気づくことは無く、むしろ、危機感よりも兄である直人との魅力の違いについて考え込むのであった。


ヴィーレ(あ、あれ?反応が薄い…?。ふ、普通なら動揺とかする所なのにな。)



普通の男性なら動揺の一つや二つ見せるところだが、思いもよらぬ昴の反応に、ヴィーレは逆に動揺してしまう。


そもそも昴には、稲荷と言う"エロ"と"姉属性"を兼ね揃えた過激な姉を持っているため、ある程度のエロ耐性は付いていた。



※ちなみに、この便利な耐性は昴だけでなく、

稲荷の実弟である白備にも耐性を持っている。



一方、ヴィーレの茶番に付き合うギールは、

呆れながらもヴィーレに声をかけた。


ギール「はいはい、そこまでだよヴィーレ姉?下手な行動を取ると豆太が泣くぞ?」


ヴィーレ「っ!?…こ、こほん。よ、よし、少し長居しをしてしまったが医務室に急ごうか。」


ギール「はぁ、すみません昴さん。今のヴィーレ姉の話は気にしないでください。」


昴「おっ、おお、分かった。あっそうだ、医務室についてなんだけど、医務室として解放している部屋以外は入らないように頼むよ?」


ギール「え、あ、はい分かりました。」


ヴィーレ「あはは、扉開いて左手奥なんだろ?さすがに間違えて入ったりはしないよ。」


昴「そ、それなら良いのですが、一応、危険な所もありますので気をつけてくださいね。」



昴の言う危険な所とは、

"(あやかし)ノ儀"を()り行う部屋を始め、妖気貯蔵室、敵襲に備えての武器庫などである。


また、妖気貯蔵室においては、

妖楼郭の心臓部とも言える部屋であり、

これを下手に触って壊してしまうと、瞬く間に妖楼郭は崩壊してしまう。


更に、膨大な妖気を貯めていることから、妖気に耐性のない者が近寄ると、妖気中毒を起こしては自我を失い、最悪暴走する可能性がある。



昴は、敢えて詳細を伝えなかったが、

姉御系のヴィーレを察するに、詳細を伝えたら確実に向かうだろうと思い、伝えようにも伝えられなかったのだ。



そのため、二人が扉を開いて左手に行くまで、

心配そうに見送るのであった。





二人が左手奥へ進むと、そこには緊急に設けられた医務室が解放されており、廊下には従業員たちが入り乱れ、負傷した人たちの応急処置に当たっていた。




ギール「ま、全く、豆太を強制的に襲った挙げ句…、昴さんまで襲うとするなんて何考えてるんだよ?」


ヴィーレ「あ、あはは、わりぃ…ついな。で、でも、ギールにこの感覚は分からないと思うが、あの昴と言う子は、間違いなくドMで堕ちやすいタイプだぞ。」


ギール「うわぁ…、知りたくもないな…。」


ヴィーレ「まあ、そう言うな。ギールだって、シャルちゃんと言う凄い子が居ながら、桃馬くんを狙ってるじゃないか?」


ギール「っ、シャルは妹だっての!?ほ、本命は…と、桃馬ってだけだ。」


ヴィーレ「へぇ~、本命ね~。でも、あたしの目だとそうには見えないけどな~。むしろ、逆か?」


ギール「っ、ふ、ふん。す、好きに言ってろ…って、話を逸らすなよ!?」


ヴィーレ「あはは、本当は"若"を含めた兄弟を襲ってみたいが、それだと豆太が悲しむからな。」


ギール「…俺が止めなければ、昴さんを襲おうとしたくせにか?」


ヴィーレ「ふっ、襲うと言っても"交尾"をするとは言ってないだろ?」


ギール「いやいや、ヴィーレ姉の襲うは交尾と"イコール"だろ!?」


ヴィーレ「"口"ならセーフだろ?」


ギール「なわけないだろ!?この淫獣が!?」


ヴィーレの変態的思考に、

とうとうギールはツッコミを入れてしまう。


ヴィーレ「ふふっ、へぇ~、言ってくれるじゃないか?」


ギール「っ、あ、いや…、その…。」


本当の事とは言え、

ヴィーレに対して淫獣扱いをしてしまった事に、

ギールは目を泳がせながら小さく尻尾を振る。


動揺するギールに、

ヴィーレは優しく頬を撫でると、

余裕に満ちた表情で意味深な事を語り出す。


ヴィーレ「ふっ、ギールは本当に可愛い"弟"だな…。"食べてやりてぇくらいだ"…。」


ギール「わふっ!?」


耳元で最後の一言が(ささや)かれると、

ギールは毛を逆立て、尻尾と耳を直立させた。


ヴィーレ「何てな。まあ、ギールの色恋だ。精々頑張るこった。」


ギール「うぅ、(卑怯だろ…。)」


姉としての貫禄を感じさせるヴィーレのオーラに、ギールは舐められたまま、お預け感のある屈辱を味わうのであった。




その後二人は、多くある医務室の内、

診察してくれる部屋を従業員に聞きながら、

人が込み合う廊下を歩くのであった。








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