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第三百六十七話 冥界士相譚その15

呪霊三女の一角、貞美が起こした厄災により多くの人々が妖楼郭を中心とする宿屋へ非難している頃。


未だに物々しい雰囲気が漂う温泉街では、

警察機構を主軸に警戒体制が敷かれていた。



そんな中、警察機構とは敢えて合流せず、

こっそりと単独調査に出ている二人の"姉弟(きょうだい)"の姿があった。




ヴィーレ「よっと。これが音に聞く呪霊三女の厄災か。うーん、あたしが想像していたより被害は小規模だな。」


ギール「小規模って…、以前起きた草津事件より大規模だよ。」


ヴィーレ「まあ、それと比べれば大規模かもしれないが、あたしが上官に聞かされた話だと、呪霊三女の一人動けば日本全土が荒廃すると聞かされていたからな。」


ギール「に、日本全土がっ!?んんっ!?」


ヴィーレの口から漏れた衝撃的な話に、

ギールは思わず声を上げて驚いた。


これにはヴィーレも、無意識に警界庁の機密情報を漏らしてしまった事に気づき、慌ててギールの口を塞いだ。


ヴィーレ「こ、こらギール!?そんな大きな声で反応するな!」


ギール「っ、ご、ごめん。で、でも、日本全土って…流石にそれは大袈裟だろ?」


ヴィーレ「ま、まあ、現状の爪痕を見る限りだと大袈裟に思えるが…。現に"あちらこちら"で怨霊らが決起したみたいだからな。これがもし、貞美が倒されずに長引いていたら、更に戦火は広がった可能性もある。」


日本全土の荒廃と言っても、

ヴィーレが聞いた話は今から五年前の話。


この日本全土の荒廃説は、死神との交流から得た情報により、最悪の場合を想定したものであった。



当時は今と比べて国民の自衛意識が低く、冥界の存在が明らかになってから間もない頃であった。



当然、怨霊の反乱など前例は無く。

強いて言えば、逸話や伝説程度である。


そのため、大袈裟と唱える者は多くいた。


しかし、この想定は正しかった。


今回の事件は、

国民の自衛意識が向上していたとは言え、

もし、覚醒した貞美を野放しにすれば、

更に怨霊らの勢いが増し、その被害は各地だけでに止まらず、日本全土へと飛び火したであろう。




ギール「うーん、確かにヴィーレ姉の言う通り、この事件は県を(また)いでいるからな。そう考えると孔真と(みさき)が来なかったら正直不味かったかもな。」


ヴィーレ「そうだろうな。怨霊にとって陰陽師や退魔士の類いは天敵だ。とは言ってもギールの友達が、覚醒して間もない貞美を抑え込める力を持っていたのは幸いだったな。」


ギール「今は二人仲良く"ゲッソリ"してるけどね。」


ヴィーレ「はははっ。それでも抑え込めただけでも凄いと思うぞ?」


ギール「…確かにそうだけど、あれは流石に格好つかないよ。」


ヴィーレ「まあそう言うな。今回の英雄だぞ?」


ギール「英雄か、あの二人には似合わない称号だな…、ん?あれは…。」


二人が他愛のない話しをしながら歩いていると、

ギールは少し離れた所から、道端で倒れている白い服を着た女性を見つけた。


ヴィーレ「ん?どうしたギール?」


ギール「ヴィーレ姉、あそこに倒れている人がいるよ。」


ヴィーレ「なに…?っ、ギールいくぞ。」


ギール「お、おう。」


倒れた女性を視認したヴィーレは、

ギールと共に女性の元へ駆けた。



ヴィーレ「おい、しっかりしろ大丈夫か?」


?「…んんっ……。」


ギール「っ、意識はあるみたいだよ。」


ヴィーレ「よし、取り敢えず妖楼郭へ運ぼうか。よっと。」



女性の意識があると確認した二人は、

急いで妖楼郭へと戻るのであった。



その頃、妖楼郭の医務室では、

恋人の"ユメ"に化けた貞美により、

瀕死の重症を負わされた一反木綿の平沼が、

生と死の境界を彷徨(さまよ)っていた。


外傷の回復処置は(ほどこ)されるも、

怨念の瘴気(しょうき)まで消すことはできず、

平沼の全身を蝕んでいた。



平沼の回りには、

千夜を始め、平塚、平野、平間、平賀の五人が見守っていた。


平塚「千夜…、沼は大丈夫だよな。」


千夜「……わからないわ。」


平塚の力の無い声に、千夜は悲しい表情をしながら首を横に振って答えた。


平塚「…ぅっ。沼…。」


平間「塚…今は無事に沼が、一命を取り留めるてくれるのを見守るしかないよ。」


平野「だけど、一命を取り留めたとしても、その後はどうするんだよ。…きっと消すことが出来ない深い傷を負うことになるよ。」


平賀「…愛するユメさんの姿でやられたからね。その分、心の傷はきっと深いよ。」


千夜「そうよね。せっかく愛する人と奇跡的な再会をしたのに…、こんな結末なんて…、私なら耐えられないわ。」


平沼の置かれている絶望的な未来に、

五人は哀れみながら苦痛を共感した。


特にその苦痛は、

千夜に取っては大きな影響を与えていた。


例え、心を寄せる晴斗に化けた相手でも、愛する晴斗の姿で手を掛けられるのは、それは死よりも苦痛なものである。


そのため、平沼が一命を取り留めたとしても、

そこに待つのは、一生消えぬ傷を抱え、地獄の様な苦しい日々を送る姿を容易に考えられた。


ならば、このまま助からない方が、

平沼にとって幸せかもしれないと思うだろう。


しかし、幽霊の存在が証明されているこの時代。

例え命を落としたとしても、生前の苦しみを残してしまうため、上手く冥界へ昇れず苦しみを抱えた彷徨(さまよ)う亡霊となるか、あるいは怨霊になるかの二択である。



ここで小話。


一方で、冥界と幽霊の存在が証明されていなかった時代では、"生き物が命を落とすと輪廻転生(りんねてんせい)と言った生まれ変わりが出来る"とよく言われたものです。


しかし、実際の生まれ変わりは、

そう易々と出来るものではありません。


基本的に輪廻転生が出来る条件としては、

閻魔大王様からの裁きで地獄の刑期を終えた魂。


あるいは、天国へ昇ったものの、個々の魂が背負っている"苦しみ"や"未練"などの私念(しねん)を断ち切り、清魂(せいこん)となった魂が、輪廻転生の対象になっています。


しかし、私念を持つ魂には問題があり、

私念を持つ全ての魂が冥界に行くわけではなく、その大半が現世に留まり"苦しむ彷徨う亡霊"から、悪霊、怨霊へと変わって行きます。


そのため、一見苦しみから解放してくれそうな死でも、例え天国へ昇ったとしても私念が付き纏い、半永久的に苦しむ事になります。



なお、現世に留まってしまった幽霊たちは、

死神たちの導きのもと冥界へ補導されるのですが、実際手が足りていないとか…。



※この内容は、この物語のフィクションです。




そして話は戻し、


妖楼郭の医務室で重苦しい空気が漂う中、

先の貞美の死闘で重症を負った、妖楼郭の大旦那である刹丸(せつまる)が、アイシュとリヴァルの肩を貸りながら現れた。


刹丸「千夜、平塚。平沼の容態はどうだ?」


平塚「っ、大旦那様…。」


千夜「…あまりよくはありません。」


刹丸「…そうか…。」


アイシュ「…大旦那様、申し訳ございません。私がもっとしっかり見張っていれば、こんな事には…。」


リヴァル「っ、アイシュだけが悪いわけじゃないよ。…俺だって同罪だ。」


刹丸「二人とも自分を責めるのは、やめろと言っただろ?」


アイシュ「…しかし。」


刹丸「…二人の気持ちはよく分かる。しかしらあの不意討ちから瞬時に対処をするなど俺だって困難だ。」


アイシュ「……ぅぅ。」


リヴァル「…うぐぅ。」


千夜「お兄様、お姉様。どうか深く思い詰めないでください。平沼がこうなってしまったのは、二人のせいじゃありませんよ。」


アイシュ「千夜…。」


リヴァル「うぅ、すまん…。」


責任に押し潰されそうな二人に、千夜が優しく(なだ)めると、二人は(うつむ)いて悲観の想いを(とど)めた。


刹丸(全く二人は真面目だな。それより千夜の言葉じゃないと折れないとは…。なんか…悔しい。)


これも兄弟の絆であろうか。


千夜の言葉には素直になる二人の鬼人に、

少し悔しがる刹丸だが、同時に兄弟としての言葉の重みについて知るのであった。



重苦しい空気が立ち込む医務室にて、

生死を彷徨(さまよ)う平沼を見守る千夜たち。


怨念の瘴気(しょうき)が平沼を(むしば)み、

もはや助かる見込みすらも怪しく、何も出来ない時間がただ過ぎて行った。


しかしそこへ、

これも(えにし)の強さなのだろうか。

外に出ていたヴィーレとギールが、白い服を着た女性を連れて現れるのであった。




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