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第三百六十六話 冥界士相譚その14

呪霊三女の一角、"貞美"との死闘の結末は、

たまたま修行の関係で近くに居合わせていた、

新発田(しばた)孔真(こうま)率いる陰陽師の参戦により、貞美はここに滅した。


しかし、貞美が滅したと言って、

怨霊、魍魎らの攻勢がすぐに止まる事はなかった。



温泉街を中心に戦火が広がる各地では、

警察機構を主軸に、退魔士、陰陽師、妖怪。

更には、自衛本能に目覚めた国民たちが、

迫り来る厄災に怯むことなく対峙していた。



怨念の中心と化した温泉街では、

貞美が滅してから数分後、妖楼郭を主軸に反撃を開始。


ものの一時間で鎮圧するも、温泉街には草津事件と同様に、警界官による警戒体制が敷かれ物々しい雰囲気を漂わしていた。


再び傷だらけになってしまった温泉街は、厄災を払った安堵の声よりも、犠牲により哀しむ人たちの声で木霊していた。



今回の事件で、温泉街だけでも警察機構を含めて三十人を超える死者を出し、負傷者は百人近く出てしまった。


※後の総集計で、

死者数、九十二人。

負傷者、千人を超える。


これに対して日本政府は、

もはや反乱レベルの暴動を許してしまった事に、

新たな対策が必要であると考え、対応に追われる事になる。





話は戻し、


暴動の鎮圧後、

警察機構を主軸に周囲を警戒する中で、

外部からは、妖楼郭の一部従業員を始め陰陽師らが警戒に参加。


一方、貞美を抑え込むために陰陽力を使い果たしてしまった新発田孔真と柏崎(かしわざき)(みさき)は、妖楼郭にて寝込んでしまい、功労者としては格好のつかない状態であった。



更に、身籠り計画が失敗に終わってしまった稲荷はと言うと、貞美を滅してから気が抜けてしまい、自室に籠っては涙で枕を塗らしていた。


対して稲荷の計画に捲き込まれ、秘密の部屋に閉じ込められていた桃馬たちは、稲荷の弟である白備によって無事に救出された。


事の次第を聞いた桃馬たちは、

そんな惨事(さんじ)が起きている事など露知らず。


呑気に気絶しては蕩けていた事に、情けなく感じてしまっていた。特に、直人とエルンはノイローゼにまでなってしまった。


※ちなみに、ご褒美とも言える稲荷のお仕置きを受けていた"サキュバス皇女"のルシアは、未だにおやすみ中である。


更に更に、貞美と交戦した犬神とシャルは、圧倒的な力の差を思い知らされ、慣れない敗北感に囚われていた。特にシャルは、不完全でも魔王の力を取り戻しても敵わなかったために、犬神の尻尾に抱きつきながら気を紛らわせていた。




そんな緊張感が取れない状態の中で、

桃馬たち動ける者は、一階の大広間に集まった。



桜華「うぅ、最近こんなのばっかりですね。」


桃馬「そうだな…。草津事件から始まって、帝都の変、学園の襲撃、そしてこれ…。たった三ヶ月で大きな事件が起きすぎているな。」


憲明「…ネットも荒れてるな。世界崩壊、乱世突入、米○町化、エデン、極め付けは、"共存共栄の反動によるもの、即刻断交すべし"だとよ。」


小頼「ご都合主義の定番な台詞ね。状態が悪くなるとすぐに掌を返して叩き始める。調子の良いにも程があるわ。」


憲明「…おい小頼、それをネットに上げるなよ?一発で炎上するからな。」


小頼「わ、分かってるわよ。でも、悔しいじゃない。この十年で異世界の共存共栄で、あらゆる問題を解決して来たじゃない。資源による争い、環境問題、新たな文化の発展。そして、誰もが夢見た異世界ファンタジーの確立…。それなのに、何よこの"平和ボケしたアンチ共"は!!」


小頼は珍しくご立腹であった。

何故なら小頼に取って異世界の共存共栄は、

自分の人生を大きく転換した事だからだ。



ここで小話。

十年前の日本の経済は、

かつてのバブル崩壊、就職氷河期に次ぐ、

経済恐慌(けいざいきょうこう)が起きていた。


当時の政府と政治家たちは、

表向きは対策を練ると言いながらも、

裏では己の(ふところ)事情を優先とし、賄賂や裏金と言った権力の横暴を図っていた。



そのため、当時の小頼の両親は、

経済恐慌により職を失い酷く追い込まれていた。


一時は、一家心中も考えたそうだが、

経済恐慌発生から一ヶ月後の事。


日本近海の太平洋に、

突如異世界に繋がる亜空間ゲートが現れたのだ。


これに小頼の両親は、今の状態を変えられるチャンスだと思い、政府が募集した調査団に入団。


それ以来、異世界の調査の成功を納め人生の逆転を果たした。この機に政治の中枢(ちゅうすう)が、中田栄角政権に代わると、汚職政治家の糾弾を始め、異世界の共存共栄案が発足。これにより、経済恐慌の影響で苦しむ人でも、誰でも希望が持てる時代へと変わって行った。



話は戻し、


珍しく激昂する小頼に対して、

大広間に集まった桃馬たちは、

小頼の怒りを理解しつつも驚いた。


特に、親友のリフィルは、

エルフ特有の長い耳を"ピン"と斜めに上げていた。

※驚きの仕草である


リフィル「小頼ちゃんが、こ、こんなに怒っているところ…、初めて見たかも…。」


桃馬「まあ、無理もないさ。こんな後先考えていないツイートは、小頼の"人生の象徴"を侮辱している様なものだからな。」


桜華「"人生の象徴"ですか…。でも、私もこのツイートは気に入りませんね。便乗している感じがします。」


桃馬「あはは、ネットの書き込みやツイートなんてそんなものだよ。誰かが先陣を切って始めれば、賛同者が集まり群れを成す。少人数だと言えない事が、不思議と多人数になる事で、同様の意見なら全て肯定されるのだと錯覚しては暴走が始まる。そして最後は、"バカ"を真似してトラブルを撒き散らすだけの輩が量産されるって事もある。」


桜華「うぅ、何だか"人"が怖いと言うよりは、"理性を欠落してしまった人たち"が怖いですね。」



桃馬「そうだな。例え、このアンチたちが唱える"共存共栄の廃止"が叶っても、魔力と妖力の存在は残るだろうし、今回見たいな霊的事件は継続的に増えるだろうな。それに、ここで日本政府が手を引いたら、この機に乗じて世界各国が"異世界"の主権を求めて争うだろうよ。それこそ、共存共栄の廃止より恐ろしい話だよ。」


桜華「た、確かに…。ここで異世界との繋がりを切るのは、現状の秩序を根元から切り倒す様なものですね。」



現状、異世界の共存共栄の主導権は、

中立な立場にある日本が統括している。


もし、これが崩れる事になれば、新たな(ほころ)びを生じさせ、下手をすれば第三次世界大戦への引き金になってしまう可能性だってある。


しかし、

共存共栄の基盤は崩れることはないだろう。


実際のアンチによるツイート率は、

全体の二割程度であり、現時点での世論の声は、

共存共栄の賛同者たちで占めていた。



憲明「いや~、それにしても少し前までの日本では考えられない程の自衛意識だな。それに比べて、埼玉県に(おもむ)いた戦闘反対議員による交渉団って何だよ。交渉の席に立たせるどころか話し合う前に、一方的に攻撃を受けて失敗してるじゃねぇか。」


桃馬「あはは、それが本当ならコントだな。だいたい、ここ最近の事件を振り返れば、話し合いで解決できる様な相手じゃないって事くらい分かるだろうに。」


にわかに信じがたい情報に、

桃馬は冗談かと思い笑った。


憲明「いやいや、これはマジもんみたいだぞ?ほら。」


信じていない桃馬に対して、

憲明はスマホを桃馬に差出すと、

交渉の一部始終を捉えた動画を見せた。


スマホの画面には憲明の言う通り、

交渉段階の以前に、一方的に怨霊らに攻撃され追いかけられている議員の姿があった。


桃馬「…えっと、"こいつら"はバカなのか?」


憲明「大方そうだろうな。ちなみに書き込みには、ピク○ン四散、リアル○ごっこ、学ばない平和ボケの象徴とか書かれてるな。」


桜華「ま、まあ、出来る事なら血を一滴も流さずに、平和的に進めば良いですけど、さすがに相手が悪いですよね。」


リフィル「うんうん、"私の世界"もそうだけど、武器を持って攻めて来る相手に対して、始めから話し合いで解決するなんて無理な話だよ。例え出来たとしても、全て失うリスクがあるよね。」


桃馬「ふぅ~ん。平和に浸って過ごす人たちと、間近で戦いを経験している人たちの温度差は、やっぱり大きいな。」


その後の桃馬たちは終始こんな感じで、暇潰しに妖怪の温泉街へ行こうにも、一時避難者でごった返しているため、外へ出る事はできなかった。


そのため桃馬たちのグループは、

SNSの情報を見ながら、大切な時間を弄ぶのであった。


ちなみに小頼は、小頼商会の仕事をしつつも、

アンチのツイートを見ては、"ブツブツ"と語りながら、小頼商会の会員を捲き込んだアンチ狩りを始めるのであった。




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