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第三百五十八話 冥界士相譚その6

これは草津事件の再来か、

それともそれ以上の惨事か…。



大怨霊と大妖怪の一騎討ちは、

凄まじい衝撃波と共に大地を揺らし、

普通の者なら失神してしまう様な妖気で満ちていた。



温泉街と妖楼郭に混乱の灯火が広がる中、

妖楼郭で平和的に楽しんでいた魔王"シャル"たちはと言うと、シャルとヴィーレの薦めで、ギール、ジェルド、小頼の三人に、シール、エルゼ、豆太、加茂の四人を託して妖怪の里へと避難させていた。


肌を刺す様な危険な感覚に、

シャルたちは現地へ向かおうとするも、

結界の類いが張られており、窓から出るは愚か、部屋から出られないでいた。



そのため、

綺麗な黒髪に二本の立派な角を生やし、

最近"魔王"としての気品を感じさせるシャルは、禍々しい二つの妖気に誘われるかの様に窓の外を見つめていた。



シャル「むう、どうなっているのだ…。」


ディノ「なんだか我々を外へ出させない様にしている気がしますね。」


ヴィーレ「ディノの言う通りだな。こいつは保護結界だ。おそらく、あたしたちが異変に気づいて、すぐに動く事を見越した誰かが、結界を張ったんだろうな。」


元警戒官にして、

ギールの従兄弟の姉であるヴィーレ。

オレンジ色の長髪に、姉御風のカリスマを漂わす美女は、結界に触れただけで性質を見抜いた。


シャル「…むぅ、となるとこれは、直人の姉の稲荷とか言う狐の仕業か。」


ディノ「あ、あり得ますね。」


ヴィーレ「まあ、誰が結界を張ろうが、この結界の中に入れば安全だな。」


シャル「あ、安全は良いのだが、それだけでは解決しないではないか?」


ヴィーレ「まあ、確かに解決はしないな。相手が大人しく去ってくれればいいが、この妖気を察するに、どうやら片方は多くの者を殺しているらしいな。」


シャル「っ、ヴィーレはそこまで分かるのか?」


ヴィーレ「まあ、"本能"って言えばいいのかな。たぶん、この妖気なら犬神くんや支神様も分かっていると思うぞ?」


シャル「なぬ?」


ディノ「えっ?」


ヴィーレの言葉に流され後ろを振り向くと、

そこには、イケメンの姿で神主(かんぬし)風の白い和服を(よそお)った、覇盧(はろ)侘盧(たろ)が、主である犬神の神力を吸い取っていた。



シャル「…一体二人は何をしているのだ?」


ディノ「えっと、ある意味これは、(あるじ)を犠牲にしてでも、生き残ろうとする光景ですかね。」


ヴィーレの言葉とは裏腹に、

衝撃的な光景を見てしまった二人は、

神様としては、あるまじき行為に引いてしまう。


覇盧「っ、ご、誤解するな!?これはれっきとした儀式なんだよ!?」


侘盧「あはは、まあ誤解されても無理もないよね。」


シャル「な、なら何をしているのだ?」


侘盧「それはね~。」


シャルの問いに答えようとした時、

さっきまで開かなかった宿泊部屋の扉が、

勢いよく開かれ、血相を変えた三条晴斗が駆け込んできた。


シャル「っ、こ、今度は何なのだ!?」


ディノ「は、晴斗!?ど、どうしたのですか!?」


晴斗「はぁはぁ、すまない…シャルと…はぁはぁ、犬神様は…ゼェゼェ…いますか。」


シャル「よ、余はここに居るが?」


晴斗「はぁはぁ、よ、よかった…シャルはいる様だね。あと、犬神様は……ん?な、何あれ…?」


シャルがいる事を認知した晴斗は、息を切らしながら顔を上げると、すぐに犬神と支神様の異様な光景が目に入った。


一応、犬神が徐々に干からびている光景を見る限り、"犬神の力を搾り取っている最中(さなか)"であると共に、騒ぎの件について大方気づいているのだと察した。


シャル「う、うむ。えっと、晴斗には悪いが、"ポチ"の名誉のために、今はあまり見ないでやってくれ。」


晴斗「えっ、あ、う、うん。(とは言っても、いつもと変わらないんだけどな…。)」


名誉とは言っても、

既に日常的とも言える"品のない光景"に、

晴斗は、心の中で苦笑いをした。


侘盧「こほん、えっと、僕の話しは続けていいのかな?」


シャル「す、すまぬのだ。えっと、ちなみに晴斗は、この騒ぎの件で来たのだな?」


晴斗「う、うん、実はこの騒ぎの元凶に心当たりがあってね。シャルと犬神に力を借りようと思ったんだよ。」


シャル「ふむ、なるほどな。それならちょうど良いな。侘盧よ、話の続きを頼むぞ。」


晴斗が同じ目的で動いていると察したシャルは、

侘盧に話の続きを促す。


侘盧「うん、えっと今やっているのは、"白山乃宮(はくさんのみや)"様の神力を覇盧(はろ)と一緒に吸い取って、穢れた神力を浄化して清らかな神力にする儀式なんだよ。」


シャル「ふむぅ、それは興味深い儀式なのだ。」


ディノ「確かに、魔力も少しずつ使わないと古い魔力が循環してしまって、"いざ"と言う時に強い魔法が使えませんからね。」


ヴィーレ「まあ、神力と魔力もそうだが、あたしたちが持つ"力"ってのは、第二の血管みたいなものだからな。」


覇盧「その通りです。特に白山乃宮様は、ここ最近"犬神"としての品が落ちている事もあって、ご覧の通り神力のほとんどを清めないと、ほとんど役に立たない事でしょう。」


晴斗「しれっと、手厳しい事を言いますね?」


侘盧「あはは、まあ、僕と覇盧でこの騒ぎを鎮められると思うけど、生憎(あいにく)、私たちの様な支神は、神界(しんかい)の規定で、"許可"あるいは"命令"が無い限り、地上での戦闘が禁止にされてますからね。」


シャル「ふむぅ、そんなのがあるのか。恐らく地上での振る舞いが厳しいのは、十中八九秩序のパワーバランスを維持するためだろうな。」


晴斗「それは十分にあり得ますね。一人の神様が地上で好き放題に力を振るえば、一人、また一人と地上に降りては力を振るい、終いには、地上が神様同士の戦火に捲き込まれる可能性だってありますね。」


ヴィーレ「ほぅ?そこまで考えるとは、頭が回るじゃねぇか?」


晴斗「あ、あくまでも可能性ですよ。」



侘盧の話から"やや"話が脱線し始めている中、

突如、再び大きな轟音と共に強い妖気が伝わる。



ディノ「っ、こ、これは不味いですよ!?こ、こうなったら動ける方から救援に言った方が…。」


覇盧「っ!それはダメだ!」


徐々に嫌な予感が募る中、慌てたディノが扉の方へ行こうとすると、先程まで優しい顔をしていた覇盧が、本物の狼の様な表情になるや強い口調で制止する。


ディノ「ひゃいっ!?」


シャル「ど、どうしたのだ覇盧よ?」


覇盧「……。」



突然の制止に驚いたシャルが訪ねるも、

覇盧は、狼の様な表情を保ったまま深刻そうに、

うつむき始める。


侘盧「覇盧…。」


覇盧「……あぁ、この肌を刺す様な殺意と孤独な哀愁…。この温泉街に"呪霊三女"の誰が来ている。」


ヴィーレ「っ、呪霊三女…。」


シャル「むっ?何なのだ?その呪霊三女とは?」


ディノ「な、何だか、名前だけでも危険が伝わりますね。」


侘盧「…危険なんてものじゃないよ。呪霊三女は、神界でも警戒する程の存在。悪霊、怨霊、呪霊の三霊に分けられ、その頂点に立つ三霊。己の遺恨と未練など、負の感情を纏って命を落とし、晴らす事ができない恨み辛みを抱え、無差別に呪い殺し、魂を喰らい、同じ境遇を取り込み、不幸を楽しむなど、神をも恐れぬ危険な存在だよ。」


シャル「ほぅ?それは全世界に取って、利害が一致する敵であるな。しかし、どうして神が恐れるまで放置したのだ?」


侘盧「え、えーっと、それは…。」


犬神「…それは当時の神たちが、そこまで怨霊の類いに無関心だったからだよ。」


侘盧「っ。」


覇盧「白山乃宮様…。」


かなりドストレートなシャルの疑問に、侘盧は、言いずらそうにしていると、先程まで干からびていた犬神が、ショタの姿から凛々しい青年の姿で語り出す。


犬神「神界で怨霊の類いを警戒する様になったのは、今から千年以上前。菅原(すがわらの)道真(みちざね)様が、宮廷から追い出された事で深い遺恨を残して亡くなられ、そのまま大怨霊なると宮廷の者を次々と呪い殺し、度重なるは天災を与えた。更にその呪いは、付近に居た神をも捲き込み多くの死者を出したと聞いている。」


シャル「え、えっと…お主本当に、ぽ、ポチなのか?」


ヴィーレ「おやおや、こいつはすごい変わりようだな?」


ディノ「り、凛々しくて神々しいです!」


いつもの犬神じゃないと言いたくなる様な凛々しい変貌に、二匹の支神を除くシャルたちは驚愕した。


犬神「…それから、怨霊や悪霊が増え冥界でも取り締まりが強化されるも、力の強い霊は、生身の人や妖怪を喰らい。体を乗っ取り足がつかなくなる始末。それが今の現状に繋がっているわけだ。」


シャル「な、何と言う存在なのだ。それでは、亜種族よりたちが悪いのだ。」


犬神「無論そうなります。ですが、悪霊、怨霊、呪霊は、基本的に同じ類いの霊としか群れませんが、例外に利害の一致で群れる場合があります。もし、呪霊三女の利害が一致する時は、たった、一日でこの世界の人口を半数以上まで呪い殺せるでしょう。」



シャル「な、なんだと!?」


晴斗「い、一日で…半数以上って。」


ヴィーレ「…冗談きついぜ。あたしが警界官だった時は、確か一ヶ月で日本全滅だったぞ。」


ディノ「はわわ!?そ、そそ、そんな存在と相手をしたら、ふ、普通に死んでしまいますよ!?」


犬神「だろうな…。くんくん。」


ディノの全うな意見に、

犬神は目を閉じて"何かしら"の臭いを嗅いだ。



犬神「…おそらく、さっきの轟音が響いた際に、多くの死神たちがやられたみたいだな。」


晴斗「っ、そ、そんな、ここに来た死神たちは、腕が(たつ)人ばかりですよ!?」


犬神「なら、それすらも越える相手だと言うことだ…。さて、覇盧、侘盧。」


覇盧&侘盧「は、はっ!」


犬神「犬神"白山乃宮"が命じる。自衛のための戦闘を許可する。相手が罪無き人を襲う場合は容赦なく撃て。一人でも多くの人を戦火から守れ。」


覇盧「は、はい!」


侘盧「仰せのままに。」


普段だらしがない、生意気短パン小僧とは、

到底思えない程の神々しい犬神の姿に、

覇盧と侘盧は嬉しそうに命令を受けた。


対してシャルたちは、

おそらく、もう二度と見れないであろう犬神の有志に唖然としていると、犬神は意図も簡単に結界をすり抜け、目にも止まらぬ早さで戦場へと向かった。







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