第三百五十三話 賽投げと引き金
稲荷の恐慌(強行)的な身籠り計画により、
一人、また一人と被害者が続出する中、
手頃な"おもちゃ"こと、
サキュバス界、シフェルム皇国"第三皇女"のルシアを得た稲荷は、ちょっとした箸休めとして完堕ち調教に勤しんでいた。
一方、視点を大きく変わり、
早朝の頃に突如として現れた"ユメ"と名乗る幽霊について気になる"三条晴斗"は、直人の妹である"千夜"に深い理由は告げずに、無理を言って経理部の仕事を手伝いながら"ユメ"の監視していた。
当然予想はしていたが、
中々尻尾を出さない"ユメ"に対して、晴斗は身を呈して探ろうとするも、ここでちょうど良く、午前中の内に連絡を取っていた、母にして死神である"三条美香"から返信を受け取った。
やはり、一度冥界に昇った幽霊が、お盆前に現世に降りる事は、まずあり得ないと言う。
まして、"ユメ"と名乗る幽霊が、冥界を出入りしている記録はおろか、冥界リストにも該当していないらしい様であった。
となれば、
自縛霊、浮遊霊、悪霊、怨霊の四つに、自然と絞られてくる。
そしてここから更に、
一反木綿の平沼の話を思い出す。
"ユメ"と名乗る女性の幽霊は、
過去に呪霊三女の一角、
貞美の呪いを受けてしまい。
数十人にも渡る人間の霊魂が無惨に喰い千切り、人の魂を貪る悪霊となるも、たまたま近くにいた、しがない退魔士に払われたと言う。
しかしその後、
"ユメ"と名乗る霊が成仏したのかは、
詳細が不明である。
取り敢えず、その場に縛られているだけの自縛霊は論外として、浮遊霊、悪霊、怨霊の筋が高いと思われる。
これに対して、
母である"三条美香"は、悪霊の線を警戒した。
なぜなら、一度悪霊化してしまうと、
例え一度払われたとしても、冥界へ昇らない以上は悪霊のままだからである。まして、呪霊三女の一角、貞美の呪いを受けているのなら、特に警戒しなくてはならない。
ここで一番恐ろしい展開としては、"ユメ"と名乗る幽霊が、"貞美"の新たな"器"として、新たな霊体の姿を得るパターンである。
これが、呪霊三女の一角、"貞美"の捜索困難な理由である。
呪霊三女の中でも、
妬むほど好ましい生きた女性や
霊体を中心に食らう"貞美"は、
一つ、二つと魂を貪り、
死体の皮を被るかの様に、
自らのカムフラージュに使っていると言う。
一応冥界でも、
わかる範囲の顔は割れてはいるものの、
実際は半分も特定されていないと言う。
そんな大物が何の因果か、
この妖楼郭に現れ、"貞美"討伐の好機が訪れたのだ。
これには当然、
三条美香は冥界本部へ連絡。
すると、早々に閻魔大王からの勅命により、数十名の死神が続々と妖楼郭へ向かう事になった。
これにより、
妖楼郭に灯された不穏な灯火が、
不気味に輝き始める。
そして話を戻し、
一部で緊張感を漂わす中、
経理部では意外と熱々な展開が始まっていた。
ユメ「さぁ、平沼様♪あーん♪」
平沼「ゆ、ユメ‥、嬉しいけど、み、みんなが見ているから自重してくれ。」
綺麗な長い黒髪に白いワンピースが、すこぶる似合う"ユメ"は、愛する平沼のために人目を気にせず、経理部専用の弁当を食べさせようとしていた。
これにはさすがに、
あの平沼でさえも堪える様で、思わずそっぽを向いては、素っ気ない態度を取る。
これに対して"外野"は、
気だるげながらも激しくブーイングを起こした。
平塚「おいおい、折角の奇跡の再会にその態度はないと思うぞ?」
平野「うん‥。今の態度はユメさんに対する冒涜だね。」
平賀「‥恥ずかしいのなら、今日は休んで外でいちゃつけば良いのに‥。」
平間「そうそう。今は最強の助っ人、"晴斗"くんが居るんだから。」
晴斗「っ!あ、いや、さ、最強って‥、で、でも、俺は‥。」
恥ずかしがる平沼対して、
"四平"たちが善意で煽る中、まさかの外に出させようとする平間の発言に、晴斗は動揺しながら焦り出し始める。
折角警戒の的が、
この狭い空間に閉じ込めていると言うのに、
わざわざ外に出すなんてとんでもないことである。そのため晴斗は、上手い具合に引き留め様とここで。
しかしここで、千夜が先に動く。
千夜「こら平間!晴斗様は善意で手伝ってくれているのよ!それを良い事に仕事を投げるのは許さないわよ!」
平間「っ、で、でも‥。二人の再会を祝すくらいなら、これくらいは妥当だと思うけど‥。」
平野「そうそう、五十年以上ぶりなら特にそうさせるべきだと思うぞ?。」
平賀「平間の言う通りだ。空いた穴は俺たち四人で分担すれば言い話だ。」
平塚「うんうん、それなら良い案だと思うけど、どうだろうか??」
千夜「うっ、うーん、そ、それなら‥構わないわ。」
晴斗「えっ!?」
まさかの千夜がごり押されると言う展開に、
晴斗は思わず声を上げてしまう。
これには当然平沼も、
勝手に話を進められ、午後からデート展開に決められた事により、思わず声を上げて待ったをかけた。
平沼「お、おいおい!?な、何勝手に話を進めているんだ!?」
平塚「まあまあ、そう恥ずかしがるな。"この奇跡とも言える時間"を無駄にするなよ。」
平沼「うぐっ、塚‥。」
平間「まっ、そうだな。盆が過ぎれば"また会えなくなる"し、今の内にユメちゃんと楽しんで来いよ。」
平賀「そうそう。何なら今夜のベッドメイキングもセットして‥‥あっ、ご、ごめん‥、冗談だからそんな怖い顔をして"銃口"を向けないでくれ。」
茶化される事に耐性がない平沼は、
引き出しの中に入れてある"妖銃"を取り出し、調子に乗って好き放題語る平賀に銃口を向けていた。
※ちなみに、この様な展開は月に三回程度あり、意外にもデフォルトである。
平沼「‥ふっ。な、なら、その話に甘えてやるよ。」
ユメ「ひ、平沼様‥。」
平沼「‥千夜、午後から有給だ。ここまで煽られたんだ構わないな?」
千夜「えぇ、それは構わないわよ。」
いやいや、構っちゃダメだよ!?
今ユメさんを外に出すと面倒だから!?
千夜の承認により、
晴斗は本格的に焦った。
もしユメさんが悪霊、怨霊の類いなら、
平沼さんを利用して魂魄を食らう可能性がある。更に怖いのは、平沼さんを食らい擬態を得ることである。
正直の所、二人の跡をつけたいところだが、
千夜に無理を言ってまで、ここに居させてもらっている分、やっぱり戻るなど到底言えるものではない。
しかし、理由を話せば"すんなり"と返してくれそうだが、それでは千夜を巻き込んでしまいそうな気がして動けなかった。
結果、二人を外に出してしまう事になり、
更には、晴斗の知らないところで、
冥界から数十人もの死神たちが向かって来るのであった。