第三百五十話 蹂躙被害者奪還作戦
時を少し戻し、
午後十二時半の頃。
昼食を終えて部屋に戻ったエルンとリールは、未だに戻っていない直人に対して、心配し始めていた。
昨夜の一件と白備からの"桃馬と身柄交換"と言う事から、おそらく十中八九、稲荷に襲われているのだと悟った。
そのため、すぐにでも直人を助けに行こうと思うが、何分稲荷の部屋が分からないため、二人は、直人の兄弟の中でも簡単に教えてくれそうな昴に訪ねる事にした。
昴が働くテリトリーである受付には、
予想通り昴が立っており、暇そうにしていた。
エルン「あ、あの昴さん?」
昴「ん?おぉ、エルンちゃんにリールちゃんか。どうした??」
エルン「えっと、稲荷さんのお部屋って、どこかわかりますか?」
昴「っ!?え、エルンちゃん!?も、もしかして、姉さんに呼ばれたのか!?」
簡単なお訪ねかと思いきや、
まさかの"稲荷の部屋"についての話に、
昴は嫌な予感を感じつつ驚いた。
エルン「あ、いえ、じ、実は午前中に直人が、白備さんに連れられて稲荷さんの所に行ってしまって‥。」
リール「うんうん、それから昼食の時間になっても来ないし、部屋に戻ってもいないから心配なの。」
昴「っ、な、何だって!?白備のやつ何してるんだよ‥。そ、そうだ、昼食時に桃馬くんや白備は見てなかったか?」
嫌な予感しか感じない二人の話に、昴は午前中に起きた"稲荷絡みの件"と少し前に起きた"桃馬くんの失踪"について、何かしら関連があると感じ取った。
ちなみに、この予想は後に当たる事になる。
エルン「い、いえ、見てません。」
リール「そう言えば桜華ちゃん、心配してたね??」
昴「ごくっ。‥不味い事になったかもな。よ、よし、今から姉さんの部屋に行ってみよう。」
エルン「あ、あの、や、やっぱり、そ、その‥い、営んでるのでしょうか?」
昴「‥可能性はあると思うけど、ま、まさか、桃馬くんの前でするとは考えにくいけどな‥。」
そう言う昴であるが、
少なからず嫌な予感は感じている。
あの姉さんの事だ、
暴走すれば見境なく兄さんと"する"だろう。
その後昴は、
二人に対して、部屋で待つ様に勧めるも、
二人の強い意思に負けてしまい、そのまま稲荷の部屋へ連れていく事にした。
そして三人は、稲荷の部屋の扉前まで来ると、
ここで昴が先行、少し扉を開いて部屋を覗いた。
すると部屋の中から、
甘い妖艶な声が漏れ出始める。
これに昴は、
反射的に一度閉めると三人は全てを察した。
リール「な、なな、い、いい、今のって、稲荷さんの声だよね。」
エルン「あ、あぁ‥。ごくり、す、昴さん。そ、その、中の様子は‥。」
昴「っ、す、すまない。反射的に閉めたから、み、見てなかった。」
エルン「‥‥で、では、も、もう一度‥。」
昴「あ、あぁ‥。」
気になるエルンの要望に、
昴は再び扉を少し開ける。
するとそこには、
誰かを床に押し倒し、喘ぎ声を上げながら楽しんでいる稲荷の後ろ姿があった。
リール「はわわ、は、は、はげ、はげしぃ‥。」
エルン「う、うむぅ‥い、稲荷さんは誰としているんだ。」
昴「ごくり‥に、兄さんか‥と、桃馬さんか。」
リール「も、もし、これが桃馬なら‥。修羅場だね。」
エルン「こ、こら、何冷静に分析しているんだ。」
リール「ご、ごめん。で、でも、このまま助けに入っても返り討ちに合いそう‥。」
エルン「う、うむ‥。もし失敗すれば、確実に、稲荷さんの"おもちゃ"にされてしまうな。」
的確な展開予想に、
昴は苦肉の策を提案する。
昴「‥仕方がない。このまま乗り込んでも捕まるのが関の山だ。ここは、様子を伺うしかないな。」
エルン「や、やはり、その方が賢明か。」
リール「で、でも、早く手を打たないと手遅れになるよ‥。」
昴「だとしても、ここで捕まっては三人を助け出せる可能性はゼロだよ。」
リール「あぅ。そ、そうだけど‥。」
昴「まあとにかく、今は辛いと思うけど、ここはチャンスを待とう。」
エルン「う、うむ。ここで稲荷さんが少しでも部屋を出てくれれば好機なのだが。」
下手に動けば稲荷に捕まり、そのまま"おもちゃ"にされかねない賭け引きに、三人は慎重になって救い出すチャンスを伺った。
それから、三十分後。
ついに、そのチャンスが訪れる。
メインを程よく食べきった稲荷が、
突如デザート欲しさに、エルンとリールを求めて部屋を出たのである。
上機嫌な稲荷の姿が、
そのまま廊下から見えなくなると、
三人はすぐに稲荷の部屋へと入り込んだ。
しかしそこには、
両腕を拘束され"半裸"で虫の息の桃馬と、
"全裸"で一時的に正気を失っている直人。
更には、首を枷で繋がれ、しかも"半裸"の状態で横たわっている白備の三人が、
無惨な姿で放置されていた。
まさにこの光景は、苛烈なエロゲーのワンシーンとも思える光景であった。
昴「に、兄さん!?って、桃馬さんに、は、白備まで‥。」
リール「はわわ!?な、なな、なんだこれは!?」
エルン「な、直人!?だ、大丈夫か!?しっかりしろ!?」
"三人"は慌てて駆け寄るも、
被害者である三人の反応は薄く、
よくても白備が、小声で途切れ途切れに話せる程度であった。
昴「おい!しっかりしろ白備!?」
白備「‥ぁ‥‥‥ば‥‥る‥‥げ‥‥ろ。‥‥‥さん‥を‥つれ‥て。」
妖気を一気に半分以上吸われ、その疲労と消耗から、言葉すらまともに話せない状態であった。
そのため白備が言おうとした、
"昴逃げろ。兄さんを連れて"、
と言うメッセージも途切れてしまったのだ。
そのため昴は、白備が一体何を伝えたかったのか分からなかった。
昴「っ、ば、ばる‥げろ‥?‥"さんをつれて"‥って、お、おい、な、なんだって!?」
勘の良い人ならともかく、
当然、普通の人なら聞き返すだろうメッセージに、昴は無理を承知で聞き返した。
すると白備は、
ありったけの力を振り絞り、
簡潔的で手短に伝える。
白備「‥‥逃げろ‥。くふっ。」
昴「っ!は、白備!?」
とうとう力尽きた白備は、
イケメンけもみみ美男子の姿のまま、
ある意味食べ頃と言った状態で意識を失った。
一方その隣では、
まんまと稲荷の妖気製造機にされてしまい、虫の息になるまで搾られた桃馬を、リールが心配そうに様子を伺っていた。
,
リール「おーい、桃馬?大丈夫か??」
桃馬「‥‥ぁ‥‥‥ぁ‥ぁ‥。」
桃馬の瞳に光はなく、
それどころか、基準値を越える疲労とエネルギー消費のせいで、会話ができない程まで思考が働いていなかった。
リール「うーん、この様子だと昨夜の直人とより重症かな??おーい。」
これにリールは、
思わず軽い往復ビンタをするも、
やはり桃馬の反応は薄いものであった。
更に床に倒れている直人はと言うと、
昨夜の時に、愛する二人の嫁に襲われた時と同様な状態であり、一日も経たずにデジャブが発生していた。
エルン「‥こ、これは相当だな‥。よ、よし、リール、昴さん?ここはすぐに、三人を安全なところへ連れて行きましょう。」
昴「そ、そうだな。ここに長居してもリスクが大きくなるだけだからな。」
リール「で、でも、どこにいくのですか?ここは、稲荷さんに取って家みたいなものですから、すぐに捕まっちゃうよ?」
エルン「う、うむ。た、確かにそうだな。例え、どこへ逃げても隠れても、稲荷さんが得意の転移術を使って来たらそれまでだな。」
稲荷が転移術を使える時点で、
もはや安全な所など、何一つもないと思う二人。
しかし昴には、
最適な心当たりがあった。
昴「それなら大丈夫だ。大旦那様かアイシュ姉さんに事情を話せば、きっと助けてもらえると思うよ。」
エルン「えっ?それは本当ですか!?」
リール「おぉー!。それは頼もしいね♪さすがの稲荷さんでも、強力な監視役の前では手も足もでないよね♪」
エルン「よ、よし、そうと分かれば急ぎましょう。」
昴「あぁ、と言いたいけど‥その前に、二人の拘束を解かないとな。」
エルン&リール「あっ‥。」
肝心な所を見落としていた二人は、
思わず"キョトン"とする。
先程まで、すぐにでも"この部屋"から立ち去りたいと思う中で、完全にタイムロスとなり得る桃馬と白備を見るや、"このまま見捨てようかと"、そんな感情が脳裏を駆けた。
このまま本命の直人を助け出せば、
めでたくトゥルーエンド。
助けている間に稲荷さんが戻れば、
めでたくバッドエンド。
上手く三人助け出せれば、
めでたくハッピーエンドが待っている。
普通ならここは妥協して、
トゥルーエンドを取りたいところ。
しかし、
既に身内である二人を見捨てる事は、
リールとエルンにはできなかった。
二人は、昴と共に鍵の捜索を始める。
しかし、その五分後の事‥。
三人は、転移術戻った稲荷に捕獲され。
見事めでたくバッドエンドの展開に、
発展してしまったと言う。
そして、生き残りは、
憲明、晴斗、京骨、ジェルド、桜華、小頼、
リフィル、ルシア、シャル、ディノ、ギール、犬神、エルゼ、シール、ヴィーレ、加茂。
果たして、次の餌食になるのは誰か‥。