第三百四十七話 犬神捜索その4
今時よく考えれて見れば、犬が突然言葉を話しても差ほど珍しくはないこの頃。
さすがに普通の犬が言葉を話す事はないが、
獣人族が好んで犬化していれば話は別である。
そんな中、憲明たち四人は、
言葉を話す不思議な"ハスキー犬"に連れられ、湯畑から少し離れた所にあるお寺に案内された。
するとそこには、
なんと首から下まで地面に埋め込まれて、
呑気に寝ている犬神がいた。
桜華「ふぇ!?い、犬神様!?」
憲明「っ!?こ、これはどう言うことだ?」
リフィル「あはは♪地面から生えてるね~♪」
ジェルド「‥ま、まるで雑な晒し首だな。」
犬神の哀れな姿に四人が驚いていると、
ここまで案内してくれたハスキーが突如光輝くと、黒い着物を身に纏い。白と黒が混ざったクールなけもみみ美男子が現れた。
桜華「は、はわわ!?は、ハスキーが、い、イケメンになった!?」
リフィル「ふぁ~♪すごいすごい♪駄犬ハスキーを感じさせないクールな顔立ち‥。ごくり、こ、これはジェルドを越えてるわね。」
憲明「あ、あぁ。これはかなりレベルが‥。」
突然のけもみみイケメンの出現に、
桜華とリフィルが驚愕しながら喜んでいると、
憲明だけは、嫌な予感を察して恐る恐る横目でジェルドを見る。
すると、想像通り。
ジェルドは、格上のイケメンを睨んでいた。
ジェルド「‥‥ジーー。」
憲明「お、おいジェルド?何睨んでるんだ?!失礼だろ!?」
ジェルド「‥う、うるせぇ、あ、あんなイケメンが、と、桃馬にす、擦り寄ったんだぞ!?普通なら足蹴にしてもおかしくない対象なのに‥不公平だ!」
憲明「し、仕方ないだろ?あの時は、俺も桃馬も何も知らなかったんだからな。」
何とも小者臭がするジェルドの理屈に、
憲明は、ただ不可抗力であったと言うしかなかった。
するとここで、
駄犬風ハスキーの姿から、クールな獣人に姿を変えたイケメンがようやく口を開く。
覇盧「こほん、皆様。突然この様な事をして申し訳ありません。私は、護国院覇盧。こちらに居られる"白山乃宮"様の支神でございます。」
桜華「ふぇっ!?し、支神様!?」
覇盧と名乗る"神様"に、
桜華は声を大きくして叫んだ。
これには、無礼ながらもずっと"神様"を睨んでいるジェルドを除き、リフィルと憲明が話に食い付く。
憲明「っ、お、おいおい、また神様かよ。」
リフィル「桜華ちゃん?支神様って何??」
桜華「あ、えっと、支神様って言うのは、上級階級の神様を支える神様の事だよ。」
リフィル「上級階級?えっ、ちょっと待って!?まさか犬神くんってそんなに偉い神様なの!?」
憲明「っ、か、加茂ちゃんと同じ位かと思っていたけど違うのか!?。」
今更ながら"あの犬神"が、
高い位の神様である事を認識する二人。
今まで、神様以下の扱いをしてきた事もあり、
憲明とリフィルは、とうとうここで天罰が下るのだと思った。
しかも、ここはお寺の敷地内。
死んでも直ぐにあの世に行けると言う、
都合のよい寸法である。
すると覇盧と名乗る神様は、
先程からずっとポメ公を抱き締めている憲明の元へ迫った。
これに憲明は、完全に人生終了を悟ると、
抱き締めたポメ公の温もりを十分腕の中で感じさせ、名残惜しくポメ公を解放した。
未練はあるが、
一応思い残す事がない憲明は、
ひと思いで"やってくれ"と願った。
しかし現実は、
思っていた以上に優しかった。
覇盧は、憲明の前に立つと、
解放されたポメ公を持ち上げると頭を下げた。
覇盧「すまない。佗盧がすっかり甘えて。」
憲明「えっ?あ、あの‥お、俺をこ、殺さないのですか?」
覇盧「えっ、殺す??な、何故ですか?」
憲明「あ、いえ、てっきり、犬神‥様の扱いが悪いから‥天罰が下るのかと‥。」
覇盧「ま、まさか、そんな事はしませんよ?むしろ我々が感謝する側です。」
憲明「か、感謝ですか?」
てっきり、殺伐とした空気になると思い気や、
何とも和んだ空気に、憲明を始め桜華とリフィルは落ち着き始める。
しかし、感謝と言っても、
"される相手"が違う気がするため、
どこかと気が引けてくる。
桜華「えっと、覇盧様?一応私たちは、犬神様の友人としての立場なので、感謝のお言葉は、ギールたちにした方が‥。」
覇盧「た、確かにそうですが、例え友人でも、白山乃宮様と接してもらえて嬉しいのです。白山乃宮様は、自由気ままの性格が強い方なため、神の世界でも、かなり浮いていますので‥。」
かなり悲しい事実を改めて聞かされると、
憲明たちは犬神の神生を哀れんだ。
すると、覇盧に抱かれたポメ公が、
じたばたと暴れて覇盧から離れると、
覇盧と同様に光輝き、短い着物を着た立派な白髪ショタが現れた。
ジェルド「っ!」
憲明「っ、ごくり。」
桜華「はわぁ~♪か、かか、可愛い~♪」
リフィル「こ、ここ、これは、す、すごい!はぁはぁ‥じゅる。」
天使とも言える可愛い神様の出現に、三人が視線を奪われる中、ずっと覇盧を睨んでいたジェルドも、視線を奪われ釘付けになった。
覇盧「こら、佗盧?大人しくしてないと駄目じゃないか?」
佗盧「わふぅ?あっ!」
憲明「えっ?おっとと。」
覇盧の注意が聞こえていないのか、
佗盧は、憲明を見つけるや直ぐに抱きついた。
覇盧「こ、こら佗盧!?な、何しているんだ!?」
憲明「だ、大丈夫ですよ♪た、ただ甘えてるだけみたいですし。」
覇盧「し、しかし‥。」
リフィル「はぅ~。の、憲明ばっかりずるいわよ!?わ、私にも抱きついてよ~。」
桜華「わ、わわ、私にも、もふらせてください!」
憲明「お、おお、それは良いんだけど。そ、それより、どうして犬神は埋まってるんだ?正直これが一番謎なんだけど‥。」
覇盧「えっと、これはその‥。」
佗盧「昨夜、僕たちが埋めたんだよ♪」
覇盧「こ、こら佗盧!また、勝手に話しを進めて‥。」
憲明「えっ?二人が犬神を?」
桜華「ふぇ!?支神様がですか!?」
リフィル「クスッ、面白そう♪もしかして、お灸を据えに来たのですか?」
覇盧「は、はい。実はここ最近の白山乃宮様の私生活と"神力"が日に日に弱まっている事が、神界の方で明かになりまして、そのまま懲罰対象に指定されたのです。」
ジェルド「私生活‥か。」
桜華「うぅ、た、確かに。心当たりはありますね。」
リフィル「あはは、しかも現在進行形だもんね。」
憲明「‥皮肉だけど、今回ばかりは犬神に取っては良い薬になったかもな。」
懲罰に関して哀れみを感じる所ではあるが、
結局は、懲罰の正当性を認める所であった。
むしろ、顔も埋められないだけ"まし"であると思うのであった。
その後、
埋められた犬神は、
無事に掘り起こされて救出されるのだが、
さすがに昨夜から今まで、首から下まで埋められたショタに、誰も気づかないのは不自然である。
実は、憲明たちが来るまで、
認識阻害の結界が張られており、
観光客の人たちからは、ホラーとも言える犬神の姿を見る事はなかったのだ。
ここで小話。
昨夜のエルゼのストーカーに失敗して、
子供たちから"もふられた"後、どうして外に出たのか。
それは昨夜、
支神である覇盧が、神でしか聞く事ができない神言を犬神が受け取ったからである。
犬神は覇盧の要請を受け、一人でお寺に来るも、背後から佗盧に襲われ気絶。
かなり弱くなった犬神の姿に、
佗盧は呆れ果てると、お遊びと嫌がらせを込めて埋めたのであった。
ちなみに、佗盧の真名は、
青海院佗盧と言い、
ある程度の整理がついたところで、
シャルたちを呼びつけるのであった。