第三百四十二話 犬神捜索その2
犬神捜索のため、
朝から妖楼郭中を探し回るシャルたちは、
とにかく犬神が居そうな所をローラー作戦で、
汲まなく探している頃。
監視カメラから犬神を探している、
桃馬と昴に進展が起きた。
昴「ん?おいおい桃馬?もしかして、この"ちびっこ"たちに、もふられてるのがポチか?」
桃馬「おぉ!そ、その子だよ。って、何してるんだよ。」
昴「えーっと、時刻は‥二十一時十一分か。」
桃馬「はぁ、これじゃあ、神様としての面子がないな‥。」
昴「ん?神様?」
桃馬「っ、あ、いや、こほん。じ、実はこのポチって子は、自称"犬神様"を名乗る痛い子なんだよ。」
昴「へぇ~、あの犬神様をね。まあ、犬科の種族なら憧れるのも無理もないか。」
桃馬「そ、そうなのか?」
昴「まあな、そもそも犬神様は、犬の大妖怪として君臨していた凄い方みたいだからな。でも、神様になってからは、自由奔放にあちらこちらへと飛び回っているとか、聞いた事があるな。」
桃馬「へ、へぇ~。そうなんだ。」
大体当たっている事に、
桃馬は苦笑いをしながら返事を返した。
昴「まあそれでも、犬科の中では憧れの的だからな。それに、このポチって子も自称するくらいなら可愛らしい"神様"じゃないか♪いや~、昔の白備を思い出すな。」
桃馬「えっ?白備も憧れていたのか?」
昴「あぁ、小さい頃にな。"我は大妖怪犬神白備なり"‥ってね。」
桃馬「ごくり、か、可愛いな。」
昴「だろ?それが、どうしてあんな堅物になったのやら‥。」
二人が、監視カメラの映像そっちのけで、会話に夢中になっていると、二人の背後から冷たくて重い視線と低い声が響く。
白備「堅物で悪かったな‥昴?。」
昴「っ!?」
桃馬「っ、は、白備‥。」
白備「はぁ、お客様をフロントで待たせて何をしてるのかと思えば、"桃馬"と何話してるんだ?」
昴「あ、いや、これは‥。」
桃馬「す、すまない白備。ちょっと、人探しのために昴を借りていたんだ。業務の妨害をしてすまない。」
さすがに、自分のせいで昴が責められるのは、身内として後味が悪いため、桃馬は勇気を出して庇う。
白備「‥人探しですか?」
昴「そ、そうそう!ほら、この子なんだけど、白備はどこかで見てないか?」
桃馬の弁護に便乗した昴は、モニターに映る犬神を指差して、話をそらそうとする。
これに白備は、その場しのぎの誤魔化しかと、 半信半疑の思いの中でモニターを覗いた。
白備「ふぅ、全く‥昴は‥。どれどれ‥うーん、この犬は‥確かシャルさんの弟様ではないですか?」
桃馬「そうそう、実は昨夜から見当たらないみたいなんだよ。」
白備「昨夜からですか?なるほど、人探しと言う事は本当みたいですね。」
昴「分かってくれたか♪それじゃあ、白備も手伝って‥。」
白備「しかし、それはそれです。それより昴‥。あの話を桃馬さんに漏らした事について‥、後でたっぷりと詳しく聞かせてもらうから‥取りあえずフロントに行って接客してもらえるかな??」
昴「ひっ、あ、で、でも、桃馬を一人にさせるわけには‥。」
白備「それなら私が代わりに付いているから大丈夫だよ。」
桃馬「っ!?」
まさかの交代展開に桃馬は驚愕する。
しかも、
聞いてはならない話を聞いてしまった分、
気まずい感情が押し寄せてくる。
おそらく、この後の展開は、
"十中八九"口封じの可能性が極めて高い。
まして、身内ながら殆ど接した事がない白備に対して、どう接してやればいいのか分からなかった。
そうこうしていると、白備はモニター室から昴を追い出しフロントに立たせると、モニター室の内鍵を閉めるや桃馬に接近する。
密室の空間に、
白髪でけもみみのイケメンと二人っきり、
しかも、何されるか分からない空気に、
桃馬は生唾を飲んだ。
桃馬「ごくり。」
白備「さて‥、桃馬さん。」
桃馬「は、はひっ!?な、なんでしょうか?」
嫌な予感しかしない白備の低い声に、
桃馬は思わず声を裏返した。
白備「‥そう警戒しなくてもいいですよ?ただ、人探しをする前に、昴が話した事を口外しないと誓ってもらえますか?」
桃馬「も、もも、もちろん。と、と言うより、言いふらすほどの話では‥。」
白備「だからこそです。幼少の私は、"戦隊"ものに憧れる子供の様なものでした。それゆえ、同種族にして大妖怪である犬神様に憧れを持つのは、至って普通であり、必然的なんですよ。」
かなり分かりやすい誤魔化し方ではあるが、
気の重い桃馬にとっては、頷いて返事をするのが精一杯であった。
白備「では、早速探し出しましょうか。」
桃馬「っ!、う、うん。」
高度な誤魔化しを終えた白備は、
モニターの映像を確認しようと、
桃馬の真横に座った。
すると桃馬は、
不思議と心臓が締め付けられそうな気分になる。
ギールやジェルドを弄ぶ時の様な感覚とは、
また違う感覚で、シンプルに押し倒したい感覚が襲う。
知的属性。けもみみ。堅物。イケメン。
真面目。弟キャラ。親戚。など。
襲う材料は十分に揃っていた。
だがしかし、
ここで問題なのが直人の存在である。
もしここで白備を、
ギールやジェルド見たいに襲えば、
下手したら一族離別の危険があった。
だが今、桃馬の真横には、
ギールやジェルドを勝る程の美男子が居る。
更には、上質で男すらも魅了する"もふさら"な尻尾が左右に揺れ、不純な欲を掻き立たせる。
そうなれば、一族離別くらい安いものだと、
桃馬は意を決して再び生唾を飲むと、
白備の"もふさら"な尻尾にそっと手を伸ばした。
指先が上質な毛並みに触れると、
そのまま吸い込まれるかの様に、
"もふもふ"で"ひんやりサラサラ"とした楽園の感覚に旅立った。
が、しかし、
当の白備は感じていないのか。
平然とモニターを確認していた。
白備「これは可愛そうに、子供たちに一時間近く弄ばれるとは‥。もう少し先を見てみるか。」
桃馬「ぽけぇ~♪、はっ!?うぅん、そ、そうだな。」
ギールやジェルドとは違う、
最高の毛並みに思わず意識が持っていかれそうになるが、白備の独り言のお陰でいちじてきではあるが、我に返ることができた。
それより、弱点でもある尻尾を触られているのに、どうして白備の無反応がないのか、少し気になるところである。
左手から感じる安心感と癒し、
これ以上言うことかない感覚。
いやむしろ、
再び意識が遠退いて来ていた。
白備「うーん‥ん?おや?外に出た‥。えっと、そこから‥帰ってないか。」
桃馬「ぽけぇぇ~。」
白備「桃馬さん、お探しの子は外に出たっきりみたいですよ?」
納得がいく結論が出た所で、
白備は、モニターを見ながら桃馬に現状を伝えるも、桃馬からの返答はなかった。
それよりは、
すぐ隣に居たはずの桃馬が、
突如居なくなっていたのだ。
白備「と、桃馬さん?えっ?桃馬さん!?どこですか!?」
完全密室の中での失踪に、
白備は珍しく取り乱し、フロントへ追いやった昴の元へ駆け込んだ。
白備「す、昴!?と、桃馬さん見なかったか?!」
昴「えっ?さっきまで一緒だっただろ? 」
白備「そ、それが、いつの間にか、い、居なくなったんだよ!?」
昴「っ、な、何だって!?い、いや、落ち着け‥。こっそり部屋を出たって言う可能性はないか?」
白備「い、いや、それはない。内鍵が閉めてあったからな。」
昴「っ、そ、それなら密室だな‥。てか、何で内鍵を閉めたんだ?」
白備「あっ、いや、それは‥。お、俺もよく分からない。」
白備は尻尾を振りながら、
"分からない"と言うが、
実は嘘だ‥。
内鍵を閉めた理由は、
単に、過去の秘密を聞かれたために、
例え相手が桃馬でも、返答次第では記憶を消してやろうとしていたのだ。
昴「うーん、そうか。となると、転移術によるもの‥ま、まさか、姉さんたちが‥。」
白備「っ!そ、そうか。兄さんが駄目なら血縁者である桃馬さんを‥。」
昴「だ、だけどよ。兄さんと夫婦の約束をしてるのに、従兄弟に手を出すか普通?」
白備「で、でも、姉さんは気まぐれのところあるからな‥。もしかしたら、精気だけを取る気かも‥。」
昴「た、確かにあり得るな、それなら姉さんの部屋に行ってみたらどうだ?さすがに、もう居るだろ?」
白備「そ、そうだな。早速行ってくるよ。」
犬神に続く、
桃馬の失踪。
果たして、二人の行方は如何に‥。