第三百三十九話 年の功
桃馬の火種を"もろ"にもらい、
リフィルからの手痛い制裁を受けた直人は、
シャルたちの前で無様に気絶していた。
これには、ヴィーレに抱えられていた豆太も、
慌ててヴィーレから離れて駆け寄った。
豆太「はわわ!?わ、若様!?大丈夫ですか!?」
ヴィーレ「あ、豆太!?」
先行する豆太につられて、
ヴィーレも駆け寄った。
一方シャルは、
赤面している桜華の隣で、笑顔なのにも関わらず妙なオーラを漂わしているリフィルと、如何にも桃馬が悪そうな光景に、何が起きたのか事情を聴き始める。
シャル「と、桃馬!一体、な、何があったのだ!?」
桃馬「えぁ、これはその‥。」
リフィル「クスッ♪桃馬と直人が、悪いんですよ♪私と桜華ちゃんの年齢を詮索するんだから~♪」
シャル「なに?年齢とな?」
憲明「ね、年齢だけで、やり過ぎじゃないか?」
シャル「いや、待つのだ憲明よ。確かに"おなご"とは、下手に気にしない者以外、年齢を気にするものなのだ。ちなみに憲明は、今までにリフィルに歳を聞いた事はないか?」
憲明「お、俺か?う、うーん、そう言われれば‥ないな。」
リフィル「クスッ♪」
女子としてのプライドが強いのか、
リフィルは、半目で憲明に視線を向けると、
光のないエメラルド色の瞳と共に不敵な笑みを浮かべた。
この意味は直ぐに憲明もわかった。
"余計な事を言えば、直人の様になる"と、
見えない強力な圧に、憲明は苦笑いをする。
そんな中で、
純粋で素直な二匹の仔犬たちは、
疑問に思っていた。
エルゼ「わふぅ?そんなに年齢とか気にするものかな?私は十六才だけど?」
シール「わふぅ~♪私は十五才だよ~♪」
ギール「ま、まあ、俺たち獣人は、人間より二倍は生きるけど、成長スピードは成人になるまで人間と変わらないしな。」
ジェルド「そうそう、特に魔族やエルフ族は、長命だからな。学園にも百を越えた子はざらだろうよ。てか、百を越えてないと大半のエルフは、見た目小学生だからな。」
桃馬「や、やっぱり‥じゃあ直人が言っていた事は‥ひっ!?。」
ジェルドとギールの説得力ある意見に、桃馬が頷き同感していると、背後にリフィルが笑みを浮かべた状態でこちらに迫っていた。
リフィル「何かしら~♪桃馬~♪」
桃馬「あ、いえ、なんでも‥。」
リフィル「クスッ♪ギールとジェルドも余計な詮索をしないで、早くご飯を食べて今日の予定を決めましょうよ♪」
憎悪に駆られたリフィルは、
桃馬の開いた口を閉じさせ、
ギールとジェルドに警鐘を鳴らした。
しかし、
これにギールは応じず、そのまま話を蒸し返す。
ギール「う、うん。でも、エルンの歳って十歳で一歳みたいなもんだろ?普通のエルフじゃ気にしないだろうに?」
リフィル「こ、この世界に来てから、ちょっと意識するようになったの!い、一歳でも歳は歳だからね!」
知らぬ間に、現実社会の悲しき"性"を埋め込まれていたリフィルに、シャルは高らかに笑った。
シャル「ぬはは!二百もまだ越えぬ小娘が何を言っておるのだ?我は二千は軽く越えておるわ!」
おそらくメンバーの中でも最高齢のシャルに、
リフィルは言い換えそうにも、自分より幼く見えるシャルの姿に、返す言葉がなかった。
しかも、元の姿に戻れば、
見事なお姉さんの姿である。
リフィル「っ、そ、そうだった‥。シャルちゃんは、昔の魔王様だったね。」
シャル「むっふぅ~♪だから、気にする事はないのだ♪それにエルフ族は、八百才から老いが始まるものなのだ。だから、今のリフィルは、"生娘"のままでいいのだ~♪」
リフィル「あぅ、生娘‥。うぅ//」
シャル「むっ?ん?」
シャルの論理に、
リフィルは赤面しながら、憲明の方はチラチラと見ると、シャルは、直ぐに憲明の方を向く。
憲明「っ、///」
すると憲明は、
シャルと目線を合わせない様に逸らしては、
"もじもじ"と赤面する。
シャル「ふむふむ、なるほど~。やはり、お主らは初々しいのだ。」
ギール「なーに、大人ぶった事言ってるんだ。シャルは、歳を取ってもそこまで成長してないだろうが?」
何だか、おっさん臭いギールの発言に、
いつもの喧嘩パターンに入る。
がしかし、今回は何が違った。
シャル「ふふ~ん♪」
ギール「な、なんだよ?いつもなら"ふがぁ~"とか言うのに‥。」
シャル「ちっちっ~、その挑発にはもう乗らぬのだ。何故なら余は、最年長のお姉さんなのだからな。」
勝ち誇った発言に、
ギールは少し心配しながら、
ちょっとイラついた。
ギール「‥‥ロリバ‥ごふっ!?」
シャル「それは禁句なのだ!」
"ロリ"の時点で何を言うのか察したシャルは、
ギールの腹部に飛び蹴り見舞うと、ギールはそのまま廊下に追い出された。
これに呆れたジェルドは、
痛がるギールの元へ近寄り、
今まで思っていた事を告白する。
ギール「いってて‥。」
ジェルド「はぁ、なぁギール?もしかして、シャルに構ってもらうために、わざと怒らせてないか?」
ギール「っ、な、なな、何の事だ?お、おお、俺が構ってやってるだけだけど??」
明らかに分かりやすいリアクションに、
ジェルドは"ジト目"で、ギールを見つめた。
ギール「‥‥、はい、してました。」
心の弱いギールは、あっという間に陥落。
自らシャルに構ってもらうために、
敢えて怒らせ、向こうから仕掛けさせると言う、手の込んだやり口を認めた。
ディノ「や、やっぱり、兄さん‥、シャル様が嫌いじゃなかったんですね!」
ギール「っ!こ、こらディノ!?今、そ、そんな事をここで言う‥な。」
二人の話を聞いてしまったディノは、
感極まって爆弾並みに恥ずかしい一言を漏らした。
これにギールは直ぐに誤魔化そうとするも、目の前に満面な笑みを浮かべたシャルが立っていた。
しかも、シャルは都合の良い地獄耳。
二匹の会話は随時、聞こえていた。
シャル「にまぁ~♪そうか~♪そうだったのか~♪やはり、ギールは可愛い寂しがり屋の犬だの~♪」
ギール「は、はわわ‥。」
敢えてシャルを怒らせていたのは、
大きな理由があった。
それは単純に、自ら甘えている事がバレたら、調子に乗らせるだけじゃ飽きたらず、毎日マウントを取ってくるからである。
しかし今日バレた事により‥。
めでたく、"奴隷"の称号を得るのであった。
その一方、
シャルによって気難しそうになった憲明とリフィルは、恥ずかしそうにしていた。
リフィル「‥の、憲明‥。」
憲明「ど、どうしたリフィル?ち、ちなみに、お、俺は、と、歳なんて気にしてないからな?エルフが長命って事は、前から分かっていたことだし‥。そ、それに今更だよ♪」
リフィル「‥‥憲明‥。」
リフィルの表情は、
いつもと比べて暗かった。
一度気にしていた鎖が外れたせいもあり、
知らぬ間に埋め込まれた性に、縛られている事が改めて自覚する。
憲明「そんな顔するなよ?リフィルらしくないじゃないか?」
リフィル「で、でも‥あぅ。」
憲明は、
リフィルに近寄ると優しく頭を撫でた。
憲明「全く‥、そんな事で嫌いになるかよ。それに、リーゼとアクスは、もっと上なんだろ?」
リフィル「そ、そうだけど‥。」
憲明「それなら、この話はここまでだな。俺は、三人を見限ったりしないから安心しろ。」
リフィル「うぅ~。憲明~。」
憲明の純粋な気持ちがリフィルに届くと、
リフィルは憲明に抱きついた。
一方、
何とか危機が去って安堵する桃馬に、
桜華が近寄ると、そのまま耳元に囁く。
桜華「と、桃馬って‥と、歳上が好きとか‥ある?」
桃馬「ん?う、うん、歳下より歳上の方が好みだけど‥。」
桜華「よ、よかった‥、ち、ちなみに、わ、私はいくつに見えるかな?」
桃馬「っ!お、桜華の年齢!?」
ここで超難関とも言える質問を投げ掛けられた。ヒントは、歳上と言うワード。
つまり、十七才未満ではないと確定している。
そして、ここで桃馬の選択は、
精霊として答えるか、
人間として答えるか、
あるいは他を吟味した上で答えるか迷っていた。
下手な年齢を言えば、藤霞さんが出て来て夜まで犯される可能性があるため、ここは正解したいところである。
そのため桃馬は、
極めて安全な選択をするのであった。
桃馬「えっと‥十七から二十‥辺りかな‥?」
桜華「‥クスッ、大体あってるわ♪答えは十八だよ♪」
桃馬「‥‥へっ??」
桜華の面目を考慮して、
かなりの安全圏を選択したが、
実際は全く変わらない歳の差に、
桃馬は思わず呆然とした。
直人がやられる前の反応なら、
軽く千は越えている様な仕草であったが、
実際は、たったの一~二歳差であった。
桃馬「え、えっと、桜華?本当の事を言ってもいいんだよ?」
桜華「ふぇ?わ、私は本当の事を言ったよ?」
桃馬「‥そ、それにしても、反応がオーバーな気が‥。」
桜華「むぅ~、桃馬は乙女心を分かってないね~。年下の彼氏を持つと、例え一歳でも気にするものなんだからね?」
桜華は、桃馬の両頬を掴むと引っ張り始める。
桃馬「ふへぇ~、ご、ごめんへぇ~。」
女性と言うのは、
小さな事でも気にしやすいものだ。
それ故、
基本的なレッドゾーンを把握して、気を付ける事が重要だと桃馬は思った。
※レッドゾーンリスト
年齢、身体的(特に体重に繋がる内容)。
個々が抱える個人的なレッドゾーンなどがある。