第三百三十八話 禁断の年齢
人数的に色々と似つかわしくない大部屋にて、
朝食を取る四人の若者たち。
朝の会話は、
禁断の"年齢"についての話題で、
盛り上がっていた。
桃馬「それにしても、さすが妖怪だな‥。分かってはいたけど、凄い長寿だ。」
リフィル「う、うんうん、わ、私のお婆様より若いなんて驚きでしたよ‥。」
桜華「あはは、妖怪は種族によって老化のスピードは異なりますからね。それに山姥で、えっと‥560歳くらいなら、妖齢で、二十八歳でしょうか?」
桃馬「っ、に、二十八!?そ、そうなると‥えっと、妖齢一歳で、年齢二十歳くらいか。」
リフィル「二十年に一歳って‥、わ、私たちエルフより長生きね。」
直人「まあ、妖怪ならそんなものだろうな。全く、それで何が老い先短いだよ。縁起でもない。」
桃馬「まあまあ、そう怒るなよ?たぶん、ひ孫見たさに、気が焦ったんだろうよ。」
直人「‥ひ孫って、婆やなら十八代くらい孫がいそうだけどな。」
桃馬「ま、まあ確かにあり得るな。でも、仲居の婆さんからしてみれば、生まれてくる子供はみんな孫みたいなもん何だろな。」
直人「‥そうかもな。」
お年寄りの感情事情を何となく考えていると、
桃馬は、禁断の話題を滑らしてしまう。
桃馬「そうだ。妖怪の年齢計算が平均で二十年に一歳なら、エルフと精霊はいくつなんだろう?」
リフィル「そ、そうね。エルフは普通の人間の十倍は生きるから、十年で一歳ってところかな?」
桜華「ふぇ!?い、意外と短いのですね?」
リフィル「でも、この基準は私の国の考え方だから、何とも言えないかな?中には、精霊と一体化して不死になる子も要る様だし、千年越えても生きてるエルフも居るみたいだね。」
直人「種族によって異なるところは、妖怪と合点がいくな。」
リフィル「後は、個人差はあるけど、エルフは生まれてから十歳から十二歳まで普通に成長するけど、それからの成長が、かなり遅くなるわね。」
直人「おぉ、それなら妖怪と同じだな‥(一部除くけど‥)。もしかしたら、魔族も同じかもな‥。」
桜華「なるほど~、と言うことは、身体的成長と老化が遅くなるのは、個々が持つ魔力や妖力が影響してるせいかもしれませんね。」
桃馬「その可能性は大だな‥、もしかしたら人生、千年時代になるかもしれないな。」
直人「千年か‥。夢の様な話だけど、色々と問題が起きそうな話だな。」
桃馬「まあ、確かにな‥。」
人生千年とは夢の様な話だが、
人には長すぎる夢である。
今やその気になれば、
誰でも千年の月日を生きれる様になるが、
もしこれが普通となり、月日が流れる事で、
食料問題や格差問題などに発展する可能性が目に見えていた。
直人「俺が言えた義理じゃないけど、俺は千年生きるのは別にいいかな。今の時代、幽霊になっても現世に留まれるからな。」
桃馬「でもそれって、申請とか要るんだろ?」
直人「もちろん、確か、各妖怪の役場、あるいは冥界直轄の窓口に申請しないとダメみたいだけどな。」
リフィル「な、なんて言うか。死亡届けと住民票の申請が纏まった感じですね。」
直人「まあ、大体そんな感じだな。でも、申請には、冥界通貨で十文が必要だけどな。」
桃馬「へぇ~、なんか三途の川の六文銭みたいだな?」
リフィル「あぁ~♪それ知ってる知ってる~♪確か、日本の思想で、死んだ人は川を渡って閻魔様に裁かれるんだよね♪」
一国の姫でありながらも、
意外と死亡届けと言い、住民票と言った、一般の学生では分からないであろう知識を持っていた。
更には、日本のお話に食い付いてくるリフィルに対して、直人と桃馬は驚いた。
直人「そうそう、よく知ってるな?」
リフィル「これでも日本の滞在は長いのでね~♪」
桃馬「‥も、もしかして、そう言った書類の書き方とか分かるのか?」
リフィル「うーん、私が日本に来た時に、ある程度の申請用紙は役所から持ち出したからね。書き方については、戸籍抄本しかないかな?」
桃馬「す、すげぇ‥。」
直人「うんうん。」
桜華「さ、さすがリフィルちゃん。実行力がありますね♪」
リフィル「いやいや~♪それほどでも♪」
一応、住民に関する申請や届けなどは、
お住まいの役所に行けば、普通に常備されており、書き方の例も備えてある。
しかし、何も知らない人からしては、
もはや暗号見たいな物であり、あたふたしながら書く人は実に多い。
そのため、
桃馬は確認がてら、リフィルに尋ねた。
桃馬「なあ、リフィル?もしかさて、リーゼさんとアクスさんが書いてくれたってオチじゃないよね?」
リフィル「もう~♪疑いすぎたよ~♪むしろ、あの二人は混乱してオーバーヒートしたくらいなんだから~♪」
桜華「ふぇ!?い、意外です‥。優秀そうなのに‥。」
リフィル「まあ、今だから言えるけど、日本語の言語翻訳が、凄く難しかったんだよね~。ほら、日本の文字って、ひらがな、カタカナ、漢字の三つを使って文章とか作ってるでしょ?そのせいで、翻訳がバグるのよね~。まあ、今は簡単だけど。」
直人「‥まあ、確かに日本語は難しいな。地域によっては、方言とかもあって話し方や表現が全く異なるし、同じ言葉でもトーンの一つで、意味が変わったりするからな。結局、文でも話でも、誤解がない様に意思疏通ができるかがポイントだな。」
桃馬「うーん。改めて考えると言い方一つで、相手に誤解を与えやすい言語だよな。」
桜華「‥そ、そうですね。気を付けないと知らぬ間に、相手を傷つけてしまいますからね。」
禁断の話から徐々に変わり、
分かっていそうで分からないと言う、
かなり興味深い所へ行き着いた頃。
再び禁断の話題が始まる。
桃馬「あっ、そうだ。話が変わるけど、リフィルと桜華って、いくつなんだ?」
桜華「ふぇ?」
リフィル「っ‥へぇ~♪」
禁断の話題から外れたと思い気や、
桃馬は、内心情の理由から、誰もが気になるであろう異種族たちの年齢について聞こうとする。
今さっきまで、言葉には気を付けようみたいな話をしていたのに、即行風穴を開けたこの男。
当然、桜華は突然の事にキョトンとし、
リフィルは笑みを浮かべながら不穏なオーラを放つ。これに直人は、鼻でため息をつき桃馬を哀れんだ。
リフィル「桃馬~♪女の子に歳を聞くなんてよくないよ~♪」
桃馬「っ、あ、いや、ご、ごめん。さっきの寿命の話で‥つ、つい聞きたくなって‥。」
桜華「あぅ‥。」
リフィル「ほら~。桜華ちゃんが"シュン"としちゃったじゃないの~?」
桃馬「ご、ごご、ごめん桜華!?か、軽はずみだった‥。」
桜華「うぅ~//」
徐々に顔を真っ赤にしてうつむく桜華に、
リフィルは励ました。
リフィル「よしよし、大丈夫だよ桜華ちゃん♪デリカシーの無い桃馬に、聞かれたくもない事を質問されて恥ずかしいよね~?」
桃馬「うぐっ‥。」
かなり悪役に下手あげられた桃馬に、
見てられない直人がフォローを入れる。
直人「はぁ、桃馬?別に二人が百を越えてもいいだろ?エルフが人間の十倍なら、リフィルはおそらく、百五十から百八十歳くらい‥へぶっ!」
レッドゾーンに足を踏み入れた直人は、
リフィルの魔力によって作られた光の弓矢より、側頭部を射ぬかれ一発KOした。
桃馬「な、直人!?ひっ!?」
リフィル「クスッ♪桃馬も"あぁ"なりたいかしら?」
桃馬「ご、ごごご、ごめんなさい!?」
リフィル「クスッ‥次、変なことしたら‥。桜華ちゃんの健全な盗撮写真を買ってること‥バラすわよ?」
桃馬「は、はひっ‥。」
脅迫と共に光の矢を向けられて、
逆らうことができない桃馬は、
どこかの"ハリー"や毛利と名乗る女子学生並みに気絶する直人を、横目で見ながらリフィルに降るのであった。
するとそこへ、
少し遅れたシャルたちが、
勢いよく襖を開けて入って来る。
シャル「おはよ~なのだ~♪って、な、何があったのだ!?」
当然、修羅場の様な光景に、
シャルが驚いていると、その後ろから続々とギールやジェルドたちが、大部屋に入ってはこの光景を目にするのであった。
ちなみに、
リール、エルンは、昨夜の暴走で汗を流すため温泉に浸かっていたが、疲労と妖気の補給が心地よく、長時間動けなくなっていると、アイシュが心配で見に行った時には、逆上せて沈んでいたそうな。
そのため二人は、部屋で療養中である。
京骨、ルシアは、色々とやり過ぎにより、
グロッキーになっていた。
犬神は、昨夜から行方不明。
小頼は、色々と編集中であった。
結局、
二人の歳は聞けず、桃馬がつけた火が暴発し、
直人に飛び火した展開で幕を閉じた。
しかし、直人が気絶覚悟(?)で導いてくれた、リフィルの本気とも言える反応に、何とか、百八十歳辺りに絞り込めた。