第三百三十七話 婆と孫
朝食会場は昨夜の夕食会場と同じ、
特別感のある大部屋にて用意された。
中の様子も昨夜の時とほとんど同じで、
空のお膳が人数分並べられていた。
と言うより、桃馬たちの食事会場は、
帰るまでずっとここである。
これには、
昨日寝込んで来なかった、桜華とリフィル、
そして多忙により来れなかった直人は、
適当に席に着くなり、ただただ驚愕した。
桜華「す、すす、凄く格式高いお部屋ですね?」
リフィル「ふぁ~♪凄く風情がある大部屋ですね♪でも‥、食事をする時、色々と気を使い過ぎて料理の味も分からなくなりそう~。」
直人「こ、こんな大層な部屋を用意してたのか。」
直人でも初めて入る大部屋に、
三人は辺りをキョロキョロと見渡していた。
桃馬「あぁ、やっぱり俺たちには、待遇が良すぎるよな。」
直人「よ、良すぎるも何も‥、これじゃあ、リフィルが言う様に、料理の味なんて分からなくなるな。」
桃馬「そう思うだろ?でも、シャルたちは直ぐに慣れてたけどな。」
直人「‥す、凄いメンタルだな。」
思いの外に昨夜の夕食は、
平和に楽しんでくれていた様で、
何より直人は安心した。
するとそこへ、
大広間の襖が開かれると、
仲居のお婆さんが訪ねてきた。
婆「皆様おはようございます。昨夜はよく眠れましたでしょうか?」
桃馬「あ、仲居のお婆さん、おはようございます。昨夜は、ぐっすりと眠れましたよ。」
婆「それは何よりです。おや?若様ではないですか。おはようございます。」
直人「おはよう婆や、昨日は顔出せなくて悪かったね。」
婆「いえいえ、白備様から無事だと聞いて安堵しておりましたよ。それより、お子の方はできましたか?」
直人「っ!?なっ、ななっ!?ま、まだ子供は、で、でで、出来てないよ!?」
婆「おやおや、そうでしたか。婆は、一日でも早く若様のお子が見たいものですが‥。」
婆さんの素直で強い言葉のストレートは、
直人を翻弄させ動揺を誘った。
そしてその隣では、
桃馬たちがヒソヒソと笑う。
桃馬「す、凄い動揺だな。」
桜華「クスッ♪優しいお婆さんの素直な言葉のストレートは、良いところを突きますからね~。」
リフィル「あはは♪世話焼きですね~♪でも、直人が今でも人間だったら、とうにできていたかもね~♪そうなれば、育児のために学園を退学‥、そして過酷な夫婦生活が始まるのね‥。」
桜華「り、リフィルちゃん?ちょっと怖いよ?」
桃馬「で、でも、凄くあり得る話だな。一歩間違えれば、俺たちも他人事じゃないよ。」
リフィル「クスッ♪とは言っても、エルンちゃんとリールちゃんが、身籠ろうと思わなきゃ、魔力などの餌になるだけなんだけどね~。」
直人のすぐ近くで三人が盛り上がる中、
直人とお婆さんとの話は、まだ続いていた。
直人「あ、あのね婆や?き、気持ちは分かるけど‥、今の俺は学生だよ?しかも、未成年だぞ?こ、子供なんてまだ早いよ。」
婆「ふぅ‥、若様がお子を作られるその頃まで、婆は生きてますかな‥。」
直人「なっ!そ、それは卑怯だろ婆や!?」
婆「いえいえ、この通り婆は、若様が成長する度、歳を取りました。それ故に、いつポックリ逝くか分からない身‥。ですから、一目でも若様のお子が見たいのですよ。」
直人「ば、婆や‥‥。」
なんとも卑怯な老い先短い宣告に、
直人は困り果てていた。
とうの前から、子供を作る様な行為はしているが、まだ、直人とエルン、リールの三人は、まだ学生のため、子供の件は少なからず五、六年早い話である。
ここで長話。
※この世界成り立ち話のため、
飛ばし推奨。気になる方は自己責任でお願いします。
今の時代、現実世界に魔術や妖力などの文明が入って来た事から、魔族、亜人、妖怪、また、"妖力や魔力"を持った人間や半妖半魔などは、
自らの妖力と魔力を調整する事で、
自由に子を身籠る事が出来る様になっていた。
その仕組みは至ってシンプルで、
例えば、
魔力と妖力などを持つ者同士が、
受け入れれば、子供を身籠る事は簡単である。
しかし、双方の内一人でも、
受け入れず魔力や妖力などを調整した場合。
身籠る事は、ほとんどない。
これにより、
事実上の"愛の結晶"論が完成する。
しかし、
力を持たぬ一般人と力を持つ者では、
力を持つ方が、主導権を持つため、
従来より問題となっている、"過ち妊娠"率は低いが、別件の性犯罪が点々としている。
そのため、
かつて日本国が、問題にしていた少子化問題。
そして、"赤子の育児放棄"問題と"過ち妊娠"問題の改善に、大きく転換するきっかけにもなった。
そのため、"中田政権発足時"に制定された、
法と政治の大改革の一部が以下の通りにある。
異種族結婚の承認。
育児法の制定。
内容、
養育手当ての保証。
※一世帯子供一人につき、月十万円の支給。
しかし、支給限度は一世帯あたり子供五人までとする。尚、五人までの制限は、二年後の新規に適応する。例えば、二年後までに六人目が出来れば、六人分の支給を得られる。しかし、二年後に六人目を作った場合、支給は五人分となる。
そして、罰則。
育児目的に使わず、
親の私利私欲に使われたと判断された場合、
懲役五年から十年。
その間子供の保護については、
現状調査の上、判断される。
育児放棄、暴行による行為。
懲役三十年以上。
殺害。死刑確定。
犯罪法。
強姦致傷改定。
※"一般の人間"と"力を持つ者"について、
悪質で無責任な"身籠り"と"身籠らせ"について、懲役五年から十年となっている。
この厳重な法の元、
今の日本はうまく回っていた。
ちなみに、
高頻度で搾られている直人は、
稲荷から密かに教えてもらった事を何となく実行し、妖気を吸われながらも、妖気調整により二人の身籠りを注意していた。
がしかし、当の二人の魔族は、
直人の子種を魔力生成のための餌あるいは、栄養剤にしているため、そもそも心配する必要性はない訳だ‥。
しかし今の直人は、そうとも知らずに妖気調整が成功していると思い込んでいるのであった。
そして、話を戻し‥。
婆やの老い先短い宣告に、
困り果てる直人であったが、
ふっと、冷静に考えてみれば、
婆やは、妖怪"山姥"であり、
歳を取ったと言っても、昔から何一つ変わっていないことに気づく。
直人「はぁ、老い先短いって、今年で婆やは、いくつだよ?」
婆「もう、御歳568歳ですよ。」
直人「‥ふぅ、あぶねぇ~。婆やの悪知恵にハマるところだった。婆やは、妖怪なんだからもう五百年も生きれるだろ?」
婆「何を言いますか。例え長生きの身でも、所詮は人と同じ。何かしらのきっかけで呆気なく逝くものですよ?」
直人「う、うーん、そう言われると‥。言い返せないな。」
縁起でもない謀を見抜いて論破するも、さすがに何百倍も生きている"年の功"の前では、逆に論破され言葉も見つからず手を引くのであった。
その後、
楽しげな孫と祖母の様な会話が終わると、
仲居の婆さんは、何事もなかったかの様に、
料理の手配に戻るのであった。