第三百三十五話 冥界士相譚その2
晴斗から"妙な話"を聞いた白備と直人は、
確かに"妙な話"の内容に、真剣な赴きで聞いていた。
晴斗によれば、
冥界に昇った幽霊は、
お盆と言った特別な行事の時以外、
現世に帰ることは、基本的に禁止されている。
例え、お盆が近いとは言え、
"ユメ"と名乗る女性の幽霊が、
数日も前倒して現世に降り立つ事は、
かなり難しいものであった。
白備「た、確かに晴斗さんの言う通り、冥界に昇った幽霊は、お盆やお彼岸、年末年始と言った特別な日でしか降りて来られませんね。まして、規則などを徹底している冥界です。前倒しで現世に降りれるなど、閻魔大王様の特別な許しがない限りあり得ません。」
直人「へぇ~、年末年始も先祖さんたちが降りて来るのか‥これは初耳だ。にしても、そんな冥界事情まで知ってるなんて晴斗は凄いな?」
晴斗「えっ、あ、いや、そ、それは‥。」
白備「確かに、冥界の"規則"は冥界に携わる人しか知らないはず‥。」
晴斗「そ、それを言うなら白備も同じじゃないか?」
白備「い、いえ、私の場合は、冥界の業務に少しだけ携わっていますから、基礎程度は心得ていますよ。」
晴斗「っ!?」
直人「ふーん‥特別な日以外、現世に降りる事は基本禁止‥。さすがに、その辺の本の知識で話しているわけでもないだろうし。」
晴斗が天才なのは、よーく知っている。
しかし、その知識が行き過ぎている故に、
時々晴斗が、何者なのか分からなくなる時がある。
とまあそのため、
三国志の天才軍師、諸葛亮孔明と称された、
戦国時代の天才軍師、竹中半兵衛の名を取り、
"半兵衛"としてのあだ名があるわけだが‥。
とは言っても、
冥界の件の話を淡々と話されては、
白備と直人は、もちろん注目するわけである。
晴斗「‥えっと、ほ、本から学んだ事だよ。」
晴斗は二人から目を逸らして、
一応、嘘ではない事実を話す。
直人「へぇ~、本ね~。」
白備「確かに、現世の妖怪絵巻や、妖怪の文学者が書いた冥界真書見たいな物なら、類似してる事が書いているかもしれませんね。」
晴斗「そ、そう、それそれ。それを読んで学んだよ?」
白備が発した、それらしい書物に、
晴斗は迂闊にも乗ってしまう。
白備「‥なるほど、晴斗さん?嘘はダメですよ?」
晴斗「っ、う、嘘じゃないよ!?」
白備「いいえ、嘘です。もう少し昔なら信じていましたけど、今の時代は、冥界や幽霊の存在が徐々に浸透している世の中ですよ?そのため、ここ最近の冥界は、命の価値を落とさないために、冥界の事情は厳しく取り締まっています。ですから、その様な書物は現世にあるはずがありません。」
晴斗「っ。」
久々に足元をすくわれた晴斗は、
今まで直人にも黙っていた秘密を打ち明ける。
晴斗「‥はぁ、参ったな。ちょっとした手助けが、こんな墓穴を掘るなんて‥。」
直人「‥晴斗。お前は、何者なんだ?」
晴斗「‥ふぅ、"これ"は墓場まで持って行くつもりだったんだけど、仕方ない‥。直人、俺は"死神"と人間のハーフなんだよ。」
直人「っ、し、死神!?」
白備「なるほど、それなら納得がいきますね。」
晴斗の思いきった告白に、
直人は驚き、白備は納得した。
直人「で、でも晴斗?今まで死神っぽい事は、してなかっただろ?」
晴斗「あぁ、一度もした事はないよ。ほら、昔から俺は体が弱かっただろ?昔は、どっちかと言えば、外で遊ぶよりも知識を蓄える方が好きだったからさ。」
直人「た、確かに、晴斗が遊ぶ相手は、決まって"俺たち"か、"葵"に限定してたな。」
白備「そうですね、今思えば‥。私が両津家に来た時から、晴斗さんが、他の人と遊ぶ光景は、あまり見た事がありませんでしたね。」
晴斗「まあ、今だから言えるけど、直人と遊んでいた大きな理由は、微量の妖気を間接的に接種できたからなんだよね~。本当、丁度良かったんだよ。」
直人「まるでWi-Fi扱いだな。」
晴斗「あはは、確かにな。」
白備「あはは、でも、それならそれで、素直に言えばよかったのでは?」
晴斗「当時はそうはいかないさ。あの時は、"無い物"が"有る"になって、間もない頃だったからな。軽蔑されて友達を失いたくなかったんだよ。」
直人「‥そんなこと考えてたのか。そもそも、白備たちと暮らしてる時点で、そんな軽蔑すると思うか?」
白備「確かにそうですね?」
晴斗「そ、それ以上言うな。子供の頃の俺は、本当にデリケートで怖がりだったんだよ?そこまで冷静に考えられるわけないさ。と、取り敢えず、ユメって言う幽霊には警戒する事だよ。」
話を強制的に終わらせた晴斗は、
一人その場を後にしようとする。
直人「お、おい、どこに行くんだ?」
晴斗「っ、ち、千夜ちゃんの所だよ。」
直人「部屋は分かるのか?」
晴斗「っ、そ、それは‥。」
白備「わ、私が案内しますよ。千夜の機嫌が早く治って貰えれば、それに越した事はありませんからね。」
晴斗「‥う、うん。」
恐らく咄嗟の行動だったのだろう。
千夜の部屋がわからない晴斗は、
白備に連れられ、大広間の入り口から移動するのであった。
そして、
一人になった直人は、
子供の頃の記憶を改めて振り返る。
‥‥ふぅ、死神ね。そう言えば、晴斗の家にはあまり言ってなかったけど、確か玄関に"でっかい"大鎌があった気がするな。子供の頃は、飾りかと思ったけど、今思えば‥、答えが丸出しだったんだな。
まさに灯台もと暗し。
子供の頃の記憶とは言え、あれを見て何も気にしないとは、些か面白いものである。
しかし、
ここで更なる気になる事を思い出す。
‥ん?ちょっと待てよ。それなら、三条美香先生って、死神と結婚‥。いや、晴斗の母さんが死神って事も‥。
謎を解決しても再び謎が出て来る三条家に、
直人は逆に怖くなるのであった。
ここで小話。
久々に出てきた二年一組の担任にして、
見た目は小学生で、学園の男子学生からロリ担任として呼ばれている三条美香先生。
実は、三条晴斗の母親であり、
二人を並べると、良く兄妹に間違えられる程の若さ‥と言うよりは、成長と老化が、かなり早い段階で止まった"ロリバ‥‥"である。
また、親子で同じ学校に居る事は、差ほど珍しくはない話だが、大抵の親子関係はバレるものである。
だがしかし、
この春桜学園には、"三条"と名乗る生徒は他にもいるため、この親子関係は、一定の人物にしか分からないものになっていた。
まして、父親似の晴斗は、
更に対象外であった。
そして、一番気まずいと思われる晴斗は、
そもそもクラスが違うため、日常的には一緒ではないが、学園内では母親ではなく、一人の教師として接していた。
そして、話は戻し‥。
直人「うぅ‥すごく気になる‥けど、三条家の秘密を深く知りすぎたら冥界送りにされそうな気がするな‥。」
久々に興味がそそる様な話に、
直人の好奇心が先走る中、突如脳内に声が響き渡る。
‥三条美香先生について、
‥気になるいけない生徒。
今度は、
人妻ロリ教師に手を出してしまうのかしら‥。
そんな悪い弟にはお姉ちゃんがお説教よ♪
直人「っ‥い、稲荷姉‥、直接脳内に次回予告みたいな、話を振らないでください。」
直人が独り言の様に言うと、
目の前に転移術のゲートが開かれ、
和服姿の稲荷が現れるのであった。