第三百三十話 廊下に屍
突如、エルンに襲われた京骨。
今夜の"ため"に蓄えた妖気を全て吸われ、
悲しくも早い段階で干からびてしまった。
しかもこれが、
恋人のルシアが原因だとは露知らず、
何故襲われたのかも分からず、
京骨の意識は徐々に遠退くのであった。
憲明「きょ、京骨!?って、え、エルン!?」
ディノ「えぇ!?ど、どど、どうしたのですかその姿は!?ま、まるで上級サキュバスではないですか!?」
京骨の異変に気づき振り返った二人は、
妖気を吸われ干からびた京骨と、サキュバス化したエルンの姿に驚いていた。
更に、後方の騒ぎに反応した桃馬が振り向くと、
桃馬、ギール、ジェルドも続けて驚愕する。
桃馬「ん?何だ‥?って!京骨!?そ、それに、え、エルンなのか?」
ギール「わふっ!?あぅ。」
ギールは何かを察知したのか。
かわいい声を上げながらも、桃馬にしがみついた。
桃馬「っ、ぎ、ギール?ど、どうした?」
ギール「はぁはぁ‥わぅ‥。」
桃馬の問いに、
上手く答えられないギールは、
何かに堪えている様な感じで桃馬の肩にしがみつく。
対してジェルドは、桃馬の肩から降りると、
普段のイケメンの姿へと姿を変えた。
ジェルド「と、桃馬!今すぐ、ここから離れろ!この淫気と妖気が混ざった匂いは、かなり強烈だ‥。こんな匂いを嗅いだら‥催淫されちまうよ。」
逞しいジェルドは、
桃馬に注意を促しながら、エルンに歩み寄ると、 徐々に怪しいオーラを放ち、"くるり"と桃馬の方へ体を向けた。
一瞬ジェルドは、
身を呈して、桃馬を守ると思いきや、
シンプルな裏切りを見せた。
ギールが"ヒヨッ"ている今、
一瞬良いところを見せておいて、直ぐに相手の雰囲気に呑まれて敵対する、完璧な展開を作り上げたのだ。
※もちろんジェルドは、
崔淫されていません。
桃馬「っ!ジェルド‥お前‥。」
ジェルド「はぁはぁ、桃馬~♪そんな"ヒヨッ"て動けない駄犬を捨てて‥、俺と一つになろうよ~♪」
桃馬「っ!き、気持ちの悪いことを言うな!?だ、誰がお前なんかに体を捧げるかよ!?」
完全に穴を狙っているジェルドに、
桃馬は恐怖を感じて、一歩、また一歩と後ろへ下がる。するとジェルドも、一歩、また一歩と接近する。
ジェルド「わふぅ~♪そう、怯えるなよ~♪さっきまで一緒に風呂に入った仲だろ?」
桃馬「それはショタならの話だよ!完全に押し倒す気満々の姿で迫られたら普通嫌だろ!」
ジェルド「わぅ?俺はむしろ歓迎だけど?」
桃馬「俺以外の男でもか?」
ジェルド「と、桃馬だけにきまって‥。きゃふっ!?」
桃馬「‥っ!な、何だ!?」
突如、高い声をあげたジェルドは、
見る見るうちに、美味しそうなショタへと姿を変え、その場に倒れ込んだ。
ジェルドの背後には、サキュバス化したエルンが立っており、気づけば憲明、ディノまで倒れていた。
この数分の内に、四人の妖気、精気、魔力を搾り取ったエルンは、体を重ねない理性だけを残して、後はサキュバスの本能を剥き出しにしていた。
エルン「はぁはぁ‥、直人~♪」
桃馬「っ、え、エルン!?め、目を覚ませ!?こ、こんな所、直人が見たら悲しむぞ!?」
エルン「クスッ、体を重ねていないからセーフだよ♪」
桃馬「あ、いや、う、うーん。」
確かにエルンの言う通り、
四人を襲ったとは言え、性行為ではなく"ドレインタッチ"での襲撃であった。
例え直人が知っても、
おそらく笑いながら受け流すだろう。
状況的には、ちょっと良くはなったが、
立場上は全く変わらない。
桃馬は、とにかく逃げる隙を伺う。
そうこうしていると、
エルンを追いかけて来たルシアが、
少し遠くから声をかける。
ルシア「待ちなさいエルン!」
エルン「っ!る、ルシア‥様?」
ルシア「もう~、一人で行動しちゃ駄目でしょ‥ん?っ!?京骨!?えっ、うそ‥、憲明‥ジェルド、ディノくんまで‥。」
暴走モード全快のエルンを見つけて安堵するルシアは、そのままエルンに近寄るも、倒れている男たちを、遠目で一瞬オブジェか何かと思ったが、近くに迫ると愛する京骨が無惨な姿で倒れており、更には、憲明、ジェルド、ディノまでも倒れていた。
自分の蒔いた種で、
愛する京骨がエルンに喰われた事により、
ルシアはその場で腰を下ろした。
ルシア「うぅ、京骨‥。ふぇーん!」
エルン「っ、ルシア様!?」
いつも通りの干からびた京骨を前にして、大泣きするルシアに、一瞬我に返ったエルンは急いで近くに寄り添った。
同時に助かった桃馬は、
気が抜けてその場に腰を下ろした。
するとここで、
大泣きするルシアの声を追って、
シャルたちが合流する。
シャルたちの目にも、
いつもの干からびた京骨、
そして、半身スライム化したディノ。
ショタしたジェルド、見た目は何ともない憲明が目に入った。
シャル「ぬわっ!?な、何だこれは!?っ、ディノ!?」
シール「わふっ?みんなどうして寝ているのですか?」
エルゼ「えっと、多分‥。エルンさんに精気を吸われたのかな?」
リール「うわぁ~、エルンちゃんやるね~♪」
外野からの意見は様々だが、
何より四人が致命的な瀕死状態ではない事に安堵するのであった。
ちなみに、
瀕死の様に見える京骨だが、
いつも通りの干からび様に、
瀕死の数には入っていなかった。
そして、今回の元凶であるルシアは、
自業自得の結果に嘆いていた。
ルシア「ひっく、私の京骨が‥、エルンに取られちゃったよ~。」
エルン「えあっ、その、わ、私はドレインタッチで吸っただけで、せ、性行為はしてませんよ!?」
ルシア「ひっく、本当に?」
エルン「は、はい!な、直人以外の人とは、体を重ねない様に意識してましたから‥一応。」
ルシア「ひっく。うぅ‥。ごめんなさい‥エルン。」
体の関係はないと分かると、
ルシアは涙を流しながらエルンに謝った。
エルン「ルシア様‥。」
するとそこへ、
稲荷の家宅捜索から一時離脱していたアイシュが、ルシアの鳴き声を聞き付けた。
アイシュ「一体何の騒ぎだ?」
リール「あ、アイシュさん!?えあっ、これはその~。」
シャル「おぉ~♪アイシュではないか♪良いところに来たのだ♪」
アイシュ「っ!シャル様!?それにリールと、え、エルンなのか?えっと、何があったのですか?」
敬愛するシャル様と溺愛する二人の妹たちを前にして、一瞬意識がおかしくなりそうになるも、強度の精神力で何とか踏み止まった。
シャル「う、うむぅ、話せば長いのだが‥。」
ルシア「ひっく、うう。」
エルン「えっと‥それは‥。」
リール「そ、それは私が説明します!」
淫靡な内容と罪悪感から話せない三人に、
リールが意を決して説明をするのであった。
アイシュ「なるほど、過度なイチャつきが招いた事故って事か。それにしても、"元凶の子"の彼氏が‥、エルンに襲われるとは少し傑作だな。」
リール「感心してる場合ですか!?エルンが正気に戻っている内に、早く部屋に連れて行かないと‥。」
アイシュ「いや、部屋に連れて行っても、今のエルンではら直ぐに我を忘れて脱走するだろう。」
リール「じゃあ、どうしたら‥。」
アイシュ「ふぅ、仕方ない。直人の力を借りるしかないか。」
リール「ふぇ!?な、直人の居場所が分かるのですか!?」
エルン「っ!な、直人は無事なのですか!?」
リールの言葉に反応したエルンは、尻尾をフリフリと揺らしながらアイシュに迫った。
アイシュ「っ、あ、あぁ、心配はいらない。直人なら無事だ。姉上とゆっくりしているだけだ。」
エルン「そ、そうですか。よかった。」
アイシュ「っ//(くっ、私の妹たちは悪魔なのに天使か!可愛すぎるではないか!)」
安堵する表情がとても可愛いエルンと、
いつも元気で明るいリールに囲まれ、逆に暴走しそうになるアイシュは、咳払いをしながら冷静になる。
アイシュ「こほん、よ、よし、直ぐに直人を呼んで来るから二人は先に部屋に戻っていてくれ、あと‥うーん、これをどうしようか。」
シャル「それなら我らに任せるのだ♪」
アイシュ「っ!?シャル様にその様な事はさせられませんよ!?後で使用人を呼びますから‥。」
シャル「遠慮するでない♪この場は我らの問題で起きた事なのだ。我らで何とかするのだ!」
アイシュ「し、しかし‥。」
シャル「そう固くなるでないアイシュよ♪こう言う時のために、生き残りがいるのだからな♪」
アイシュ「生き残り?」
シャル「なぁ~♪桃馬にギール~♪」
満面な笑みで、
二人の生き残りに視線を向けると、
謎の圧をかける。
魔王に睨まれた二人は、逆らうことができず、
そのまま受け入れるのであった。
桃馬「っ、あ、あぁ、別に構わないが?」
ギール「う、うぅん、ま、任せてくれ。」
アイシュ「っ、シャル様‥、わ、わかりました。では、ここは任せますのでお願いします。」
シャル「うむ!任せるのだ~♪」
こうしてアイシュは、
この場をシャルに任せ、溺愛するエルンとリールと共に部屋に向かうのであった。