第三百二十九話 淫靡な通り魔美女
時刻は二十一時頃。
稲荷と直人の平穏な一時は、
突如、終わりを告げる事になる。
幸せそうに眠る二人の前に、
少し慌てた様子のアイシュが、
転移術のゲートから飛び出して来たのだ。
アイシュ「っ、ま、まだ寝ていたのか。全く、エルンが大変な事になっていると言うのに、呑気な弟だな。」
アイシュは、器用に直人を稲荷から剥がすと、
転移術のゲートへそのまま投げ込んだ。
時を戻す事、
三十分前。
桃馬たちが、
温泉から上がってちょうど部屋に戻る頃。
小さな事件が起きていた。
これは、事件が起きる直前までのお話。
桃馬「いや~♪すごくいい湯だったな♪」
ジェルド「わふぅ~♪」
ギール「ふへぇ~♪」
温泉心地良さと桃馬の躾を受けた二匹は、桃馬の肩にしがみついては蕩けていた。
憲明「ふぅ~、やっぱり、妖気を含んだ温泉は格別だな♪」
ディノ「はい♪不思議と力が漲ってきますよ♪」
京骨「あはは、そうだろう♪妖気の力は、色々と回復させてくれるからな♪特に、魔族や妖怪、魔力と妖力に干渉する者には打ってつけだよ。」
憲明「確かにそうだな。今の京骨を見れば説得力あるな。」
憲明の言う通り、
今の京骨は妖気を大量に蓄え、
いつもより男前になっていた。
しかし、数時間後には、
再び情けなく干からびるのであろうと、
この時の憲明は容易に予想ができた。
京骨「あはは、これでルシアに襲われても、逆にマウントが取れるかもしれないな♪あはは♪はっ‥は‥はっ‥。」
勝ち誇った高笑いが、徐々に弱々しくなり、
最後は歯切れが悪くなった。
憲明「ん?どうした京骨?」
ディノ「な、何かありましたか?」
急な京骨の異変に、
憲明とディノが心配して振り向くと、
そこには、先程まで逞しく男前であった京骨が、徐々に弱々しく干からびていき、その場で倒れるのであった。
一方、少し話は変わり。
妖気に酔った犬神はと言うと、
一足先に女湯の出入り口付近にて、
エルゼが出て来るのを待ち構えていた。
犬神「‥わふぅ~♪エルゼ~♪エルゼ~♪」
"犬神"としての誇りを捨て、
ストーカー神と化したショタ犬は、
一見愛くるしい感じで尻尾を振るも、
実際は、穢れきった酷いものであった。
するとそこへ、
妖楼郭に泊まっている純粋無垢で穢れのない子供たちが、醜くも愛らしい光景に注目するわけで、気づけば犬神の背後に、三人の子供たちが尻尾を物欲しそうな目で見ているのであった。
しかし犬神は、
頭の中がエルゼ一色に染まっていたため、
背後に迫る刺客に全く気づかなかった。
そして夜でも元気な子供たちは、
自分達と同じくらいの犬神を前にして、
そのまま尻尾に飛び付き、駄目神様をもふり倒すのであった。
そして、犬神が子供たちにもふられている頃。
問題となる女湯では、
ルシアによる皇国直伝の調教を受けたエルンが、完全にサキュバスモードと化していた。
漆黒の立派な羽。
上級サキュバス以上のフェロモン。
普段隠している立派な逆ハート型の尻尾。
瞳の奥には、ハート型の模様が浮き出ており、
甘い吐息をもらしては、もじもじさせていた。
今のエルンは強制的に、
今までにないくらいに発情させられていた。
しかも、そのレベルは普段の倍、
いや、軽く十倍は越えており、
直人の生命に脅かす程の危険なレベルであった。
もはや、稲荷よりも危険な存在と化していた。
エルン「はぁはぁ‥んんっ♪」
ルシア「完璧な仕上がりね♪やっぱり、クールな女子が堕ちる姿は格別ね♪」
リール「ごくり、え、エルン‥か、カッコエロカワいい!」
シャル「お、おい、ルシアよ!?エルンは大丈夫なのか!?」
色々と関心があるリールは置いといて、
普通に見ても、かなり危険なエルンの状態に、
さすがのシャルは不安を抱えながら質問する。
ルシア「うーん、私もちょっとやり過ぎたかもね。早いところ直人に鎮めてもらわないと、まわりの男たちを襲っちゃうかもね。」
シャル「っ!?な、なんだと!?る、るる、ルシア!?お、お主は何をしているのだ!?な、直人の行方は、まだはっきりしてないのだぞ!?」
ルシア「まぁまぁ、そう焦らないで♪さすがにこんな時間だし、部屋に行けば戻っているわよ♪」
両津家の事情について皆無に等しいルシアは、
後先考えず危険な行為に走っていた。
最悪の場合、直人には色々と悪いが、
桃馬を筆頭に餌になってもらうしかない。
一応ディノなら楽に鎮めることはできるかもしれないが、もし魔力を吸われエルンの力になると考えると、かなり危険な状態になるだろう‥。
そんな一方で
エロチックながらも格好いいエルンの姿に、
健全ゾーンの三人はと言うと‥。
エルゼ「わふぅ~♪すごいすごい♪」
シール「はぅ~♪かっこいい~♪」
加茂「うぅ、エルンさん‥、すごいスタイル。」
エルゼとシールは、
尻尾を振りながらサキュバス化したエルンの虜になるっていると、その隣では、自分の貧しいスタイルを比較し、恵まれたスタイルを羨ましがる加茂がいた。
エルン「はぁはぁ‥んんっ♪、(あぁ、駄目だ‥、ルシア様の淫毒と淫気が強すぎて、正気を保つだけで精一杯だ。このままでは、視線に入った男性を襲ってしまいそうだ‥あぁ、ダメだ‥直人以外とするなんて‥そんなの‥ダメなんだ‥。)」
サキュバスとしての本能に、必死で抗うエルンであるが、さすがに限界が近かった。
何とかギリギリで正気が保てているのも、
直人以外の男性と体を重ねるなど、考えられないと思っているからであった。
しかし、
本能と理性の対比は、八対二。
エルンの体の主導権は、既に本能が握っていた。
そのためエルンは、
二割の理性を生かして浴衣に着替えると、
直ぐに部屋に戻ろうと女湯から飛び出した。
ルシア「ん?っ!?え、エルン!?」
シャル「ぬわっ!?え、エルンが逃げたのだ!?」
リール「っ!ま、まずいよ!?は、早く追いかけよう。」
ルシアでも予想外の展開に、
その場の六人は急いで浴衣に着替えて後を追った。
一人危険な状態で、廊下を走るエルン。
二割の理性で、早く部屋に戻ろうとするも、
目の前には、温泉から上がったばかりの桃馬たちがいた。
エルン「はぁはぁ‥直人‥。はぁはぁ‥ごくり。」
愛する夫を想い過ぎたせいか、
エルンの目には、桃馬たちが直人に見えていた。
そのため、本能に囚われたエルンは、
背後から押し倒す気持ちを抑えながらも、最後尾に居た京骨に、ドレインタッチで襲うのだった。