第三百二十八話 家宅捜索
直人の失踪を引き金に、
実弟の白備でさえも詳しく知らない魔の空間。
両津稲荷の部屋に大規模な家宅捜索が入ろうとする頃。
稲荷の協力者であるアイシュは、
早速証拠隠滅のため、直人たちが寝泊まりする部屋に仕掛けた転移術の妖気を払い、直ぐに白備たちと合流した。
白備「に、兄さん。どうかご無事で。」
昴「いや‥、どう考えても無事ではすまないだろ。」
白備「こ、こら昴!縁起の悪い事を言うな!?」
月影「そ、そうですよ!兄上がアへ顔決めて、姉上に蹂躙されてる姿なんて見たくありませんよ!」
白備「っ!?つ、月影!?どこでそんな言葉を覚えた!?」
月影「ふぇ?そ、それは‥えっと‥//あ、姉上から見せてもらった如何わしい本の内容とかではなく、あう、えっと///」
大好きな兄を心配するあまり、
つい口を滑らせた思春期真っ只中な月影は、
稲荷から密かに貰ったエロ同人誌の展開を想像してしまったのだ。
ちなみに、けもみみショタが高身長のお姉さんに弄ばれると言うハードプレイ物である。
小頼商会出版
"純粋けも耳ショタが高身長のお姉さんに捕まりました"より。
動揺を隠せない月影の様子に、
とうとう思春期に入ってしまったのだと、
白備たちが実感する中で、昴が話を戻す。
昴「‥ま、まあ月影の思春期入りは置いといて。俺だって兄さんには無事でいてほしいよ。でも、六時間近く経ってたら‥もう‥。」
白備「うぐっ、た、例え手遅れでも、助け出すんだよ!」
そう言うと白備は、勢いよく稲荷の部屋を開けると、白備を先頭に昴と月影が入り込んだ。
しかし、
リヴァルとアイシュは、
部屋の前で立ったまま、入ろうとしなかった。
特にはリヴァルは、
ここまで来ても冷静過ぎる、
アイシュの反応に疑いを持ち始めていた。
今回の件は、
協力者がいない限り不可能だと断言できる。
アイシュとは、かなり長い付き合いだが、
鬼人になってからは、更にクールで頼もしくなり、兄弟の中でも、かなり安全かつ中立な立場になっている。
しかし、
ああ見えてアイシュは、
昔から押しに弱い性格。
今回の件で稲荷姉さんに、強く頼まれたか、
それとも調教されて言う事を聞いているだけなのか、はっきりとした詳細は分からないが、今回の件で協力者がいるなら、アイシュが一番怪しいと言える。
アイシュ「ん?リヴァルはいかないのか?」
リヴァル「‥なぁ、アイシュ?」
アイシュ「あ、あぁ、どうしたリヴァル?」
リヴァル「‥もしかしてだけど、稲荷姉さんとグルじゃごふっ!?」
"稲荷姉さん"、"グル"の二つのワードと不穏な空気に反応したアイシュは、瞬時にリヴァルの"みぞおち"辺りに渾身の拳をねじ込んだ。
するとリヴァルは、そのままアイシュに凭れかかる様な形で気絶した。
アイシュ「全く、リヴァルは本当に感が良いわね。よっと、」
アイシュは、転移術でゲートを開き、
念のために用意した隔離部屋へと投げ込んだ。
アイシュ「さてと、今日一日だけでは、姉上のために頑張らないとね。あんなに幸せそうな寝顔を見せられちゃ、邪魔はできないからね。」
時折二人の様子を見に行くアイシュは、
幸せそうに弟と添い寝をする稲荷の姿に心を打たれており、この後も白備たちを監視しながら捜索のフリをするのであった。
そして、その弟たちは、
二人が居るはずもない部屋で、
必死の捜索に奮闘していた。
白備「そ、そっちは、何か見つかったか?」
昴「うーん、淫靡な道具以外は、変わったものはないな。」
月影「こっちも隠し扉みたいなものはありませんね。」
白備「うーん、姉さんの事だから、やっぱり結界とかで扉を隠してるのかもな。」
昴「なっ!?結界張られてたら、どうしようもないぞ!?」
月影「あぅ、確かに‥、姉上ならそこまで用意していそう。」
これもまた稲荷の日頃の行いのせいか、
完全に犯行の手口を読まれていた。
確かに、稲荷の秘密の部屋は、
何重もの結界が張られており、
出入りするには、結界を解く他、
転移術が唯一の方法である。
転移術が得意なアイシュはともかく、
他の人ではまず入ることは不可能である。
そもそも、
アイシュから一言教えれば済む話だと思うが、会議の時点でのパニック状態から、果たして話を聞いてくれるか分からない状況。
しかも、白備、昴、月影の三人は、直人を崇拝するあまり、最悪の展開を考える癖があることから、教えようにも教えられなかったのだ。
しかし、リヴァルが退場した今、
アイシュはダメ元で、焦る三人に語りかける。
アイシュ「三人とも?そう心配しなくても、直人は大丈夫だと思うぞ?」
白備「あ、アイシュ姉さんも、そ、そんな悠長な事言ってないで手伝ってくださいよ~。」
とまあ予想通り、
こんな感じで返ってくるわけで、
会議の場で同じ事を言っても、
結局同じ展開が目に浮かぶ訳である。
昴「あれ?そう言えばリヴァル兄さんはどこへ?」
アイシュ「あいつなら、私のお使いで色々と回ってもらってるよ?」
昴「な、なるほど、色々とですか‥、まあ、アイシュ姉さんが、言うのだから信頼できるな♪」
アイシュ「‥ふっ、褒めても何もでないぞ?」
それからと言うもの、三人の兄弟たちは、
見つかるはずのない秘密の部屋を、
必死で一時間以上も探すのであった。
その頃、
呑気に寝ている直人と稲荷はと言うと‥。
ようやく直人が眠りから目覚め始めた。
直人「すぅすぅ~。うぅん、ん‥、はへっ?ここは‥。ん?稲荷‥姉?」
柔らかでクッションの様な感触と温もりに抱かれた直人は、寝ぼけながらも隣で眠っている無防備な稲荷を見つめる。
お姉さんを襲うには、
完璧とも言える大チャンスな展開。
稲荷の淫らな体を主導権を握りながら味わうには、これ程までのチャンスはないだろう。
だがしかし、直人は襲うどころか、
無意識に稲荷の頭に手を伸ばし撫で回した。
サラサラな金髪に"もふさら"な"けも耳"の感触に、心が癒された。
稲荷「んんっ‥なおくん‥。すぅすぅ。」
夢の中でも直人と一緒にいるのか、
稲荷は直人の名前を口ずさみながら眠っている。これに対して寝ぼけている直人は、ほのぼのしく見つめていた。
いつもなら色っぽく淫らに乱れているが、
今日に限っては、きちんとした着物姿で、理想のお姉さん見たいに振る舞っている。
最低な主人公なら、
ここで襲う選択をするだろうが、
寝ぼけた直人の選択は、
大好きな稲荷姉の隣で、
安心しながら再び眠りにつくのであった。
それから、この平和な一時は、
夜の二十一時近くまで続くのであった。