第三百二十六話 捜索係
桃馬たちが豪華な夕食を楽しんでいる頃。
厳重な稲荷の監視体制だったのにも関わらず、
エルンの話から、かなり早い段階で直人が稲荷に拐われたと思える証言に、昴は大慌てで白備の元へ駆け込んでいた。
白備「な、なに!?兄さんが既に姉さんに拐われているだと!?」
昴「はぁはぁ、エルン姉さんの話だと身内の用事で昼間の内にどこかへ行ったとか‥。たぶん、姉さんの所だよ!?」
白備「お、落ち着け昴?それなら監視カメラで、直ぐに分かるはずだ。」
昴「そ、そうだな!今すぐに監視チームに聞いてみよう。」
昴は、急いでスマホを取り出すと、
直ぐに監視チームに電話を掛けた。
しかし‥。
昴「な、なに!?兄さんは一歩も外に出てないだと!?ま、窓とか、転移術の反応は!?」
信じがたい話に、
昴は思い当たる誘拐方法を疑った。
だがしかし、窓から稲荷が映ってなく、
室内での転移術の反応はなかった。
昴「そ、そんなバカな‥。じゃあ、兄さんはどこに‥、っ!そうだ、晴斗なら何か知ってるかもしれない!?」
白備「あ、おい!?監視チームは何を言って‥って、はぁ、行っちゃった。仕方ない、取りあえず‥千夜以外に連絡しておくか。」
いつもなら焦る白備であるが、
昴の異常な焦りっぷりに、白備は焦ってはならないと思い、冷静に兄弟たちに連絡を飛ばすのだった。
ちなみに、千夜と晴斗の件は、
白備の知るところであり、二人の純愛を邪魔しない様に気を付けていた。
もしここで、水を差す事をすれば、
それこそ大変な事になる。
それに、晴斗のお陰で経理部はかなり安定している。申し訳ない気持ちはではあるが、もう少し、千夜と妖楼郭のために手伝ってもらいたいのであった。
それから、
白備の連絡によひ妖楼郭会議室にて、
白備、月影、リヴァル、アイシュ が集まった。
月影には、会議室に来る途中に、
稲荷の部屋を見に行ってもらったが、
なんとそこには、稲荷の姿はなかった。
完全な監視体制の中での犯行に、
四人は頭を悩ませていた。
リヴァル「うーん、にわかには信じがたいけど、昴の話が本当なら‥、一体どうやって直人を‥。」
白備「転移術の反応がないし、兄さんと姉さんの出入りもない。しかも、リールさんとエルンさんが部屋を出てから数分後には、晴斗さんが部屋から出ている。」
リヴァル「となると、晴斗くんが部屋を出る前までは、直人が居た可能性が高いか。」
白備「普通ならそうでしょうね。何かあれば直ぐに気づくと思いますから。」
稲荷と直人の失踪に続き、
犯行手口の謎に、更に混乱が広がる。
そんな時、動揺と混乱のせいで、
今にも頭の中が爆発しそうな月影は、
最終手段に踏み込む。
月影「こ、こうなったら、ローラー作戦です!思い当たるところを回って、探し出しましょう!」
白備「た、確かに、月影の言い分は確かだけど、稲荷も五枚、十枚も上だ。下手をしたら"いたちごっこ"になるぞ?」
月影「あぅ、た、確かに‥。」
リヴァル「騒ぎが大きくなれば、もっと複雑なところに逃げるか‥。稲荷姉さんならやりかねないかもな。」
三人が必死で作戦を立てる中、
両津家の次女にして直人の二人目の姉に当たる。
巨乳で褐色高身長、長い銀髪に、立派な二本角を生やした"アイシュ"が、ため息をつきながら口を開く。
アイシュ「はぁ、全く。姉上と直人は、仮にも夫婦なのだぞ?そんなに心配することか?」
リヴァル「なっ!?し、心配するだろ!?アイシュもここ最近、稲荷姉さんの様子を見て何か変とか思わないのか!?」
アイシュ「はぁ、リヴァルは"鬼人"になってから、更に冷静さを失ったな?」
リヴァル「な、なんだと!?そう言うアイシュも、シャル様を見ては、どさくさに紛れて飛び付こうとしていただろうが!」
アイシュ「っ!な、何の事かわからないな?あの時私は、シャル様に跪こうとしたのだが?」
痛いところを突かれ、冷静に誤魔化そうとするも、長い付き合いのリヴァルに取って、アイシュの嘘を看破するなど簡単であった。
リヴァル「へぇ~、それは悪かったな。じゃあ、今度から邪魔はしないよ?」
アイシュ「っ、な、なんだよ?やけに大人しく引き下がるな?」
リヴァル「さてね~。」
普通にじゃれつき始める兄妹に、
見かねた白備は制止を呼び掛ける。
白備「二人とも!いつもの喧嘩なら後にしてください!」
アイシュ「っ、す、すまない白備‥。」
リヴァル「ご、ごめん。」
話が一歩も進まない中、そこへようやく、
晴斗のところへ走った昴が合流すると、
四人は昴の顔を見るなり驚いた。
昴の顔には、
千夜がつけたと思われる引っ掻き傷があり、血が滴り落ちていた。
白備「ど、どうした昴!?顔が血だらけじゃないか!?」
昴「お、俺の事は良いから!そ、それより、晴斗からの話だけど、かなり妙な話だよ。」
白備「か、かなり妙?」
リヴァル「そ、それはどう言う事だ?」
昴「あぁ、晴斗が部屋を出る前に、兄さんが先に部屋を出たみたいなんだよ!」
白備「っ!な、なんだって!?」
アイシュ「っ。」
月影「そ、そんな‥、カメラには映ってなかったのにどうして!?」
リヴァル「‥っ、まさか、扉に転移術を‥。」
白備「っ!しまった‥、内部に気を取られ過ぎて、扉からの転移術対策をしていなかった。」
月影「はわわ!?じゃあ、兄上は今頃‥、姉上に‥。」
昴「くそっ、姉さんの仕業だと分かっても、居場所がわからない。もう拐われてから、数時間は経っている。きっと、兄さんは‥妖気と精気を搾り取られて‥ごくり。」
月影「す、昴兄!何て事を言うのですか!?」
白備「くそっ、こうなれば賭けだ、今から姉さんの部屋を家宅捜査だ!あと、運が良ければ扉に転移術の妖気が残ってるかもしれない。手分けして兄さんと姉さんを探しだすぞ!」
リヴァル&昴&月影「おぉー!」
男たちが、二人の捜索に熱を込める中、
アイシュは至って冷静‥と言うよりは、
色々と呆れていた。
アイシュ「はぁ、(全くうちの男たちは、直人の事になるといつも過保護にするんだから‥。それに、姉上も姉上よ。普通に直人と接していれば、こんな事にはならないと言うのに‥。)」
両津家の中で、
恐らく一番中立で安全な立場にあるアイシュ。
直人と稲荷の関係もそこまで口にはしないが、
稲荷の歪んだ愛には、毎日色々とツッコむ日々を送っていた。
今回の件も、直人が来る一時間前。
突然稲荷に呼ばれ、不安ながら部屋に伺うと、稲荷は珍しく頭を下げて、直人との触れ合い作戦の協力をお願いしてきたのだ。
一応、白備たちから、
稲荷の"こう言った"お願いに関して、
注意を受けていたが、あまりにも珍しいお願いに負けてしまい。
条件付きで了承した。
内容は、
朝から働くこと。
身だしなみをしっかりすること。
直人との激しい性交は禁止。
全責任を負うこと。
この四点であった。
朝から働くことに関しては、
三日ぶりの睡眠と言うこともあり、
一応今日だけは目を瞑るとして‥。
いつかは母親になられる身、
この数日間で、色々と変わってもらおうと、
密かに思っているのであった。