第三百二十三話 神隠しの始まり
ここまでの出来事を簡単に総括。
温泉の効能に蕩けた桜華に続き、
リフィルに対して"イチャ"ついた小頼は、長湯のせいで逆上せてしまい、三人はそのまま部屋に運ばれた。
それ以降三人は、同じ部屋で大人しく寝たきりの状態になるのであった。
その後、温泉街から戻った桃馬と憲明は、よく分からない光景に驚くも、事情を聞いた瞬間安堵し、心配、呆れなど、複雑な思いの中で看病に至ったのだった。
そして、ギール、ジェルドたちはと言うと、
意外にも何の外傷もなく楽しげに帰ってきていた。
しかし、
ヴィーレやシャル、そして駄犬が三匹いる中、
当然、そんなわけないと思うだろう。
そうです。実際は色々合ったんです。
今回は、たまたまWin-Winの感じになったため、仲良く過ごした様に見えているだけです。
ヴィーレと豆太は"おねしょた"プレイに走り。
それを見て興奮するシールとエルゼ。(腐女子属性としての興奮。)
そして今やストーカーの神となった犬神は、
希望の光(エルゼとの恋路)が、更に輝き始めた事に上機嫌であった。
一方で、残りのシャルたちは、
普通にプールで楽しんでいた。
そして、リールとエルンは、
温泉街から部屋に戻ると、
当然、直人と晴斗の姿はなく、
何となく察しながらも、ゆっくり過ごしていた。
最後に京骨とルシアだが‥、
結局二人は、人気のない路地裏で、
ずっと愛し合っていたらしく、色々と搾られ干からびた京骨をルシアが担いで、妖楼郭へ帰還したと言う。
その後、ルシアは宿泊部屋にて、
三十分程度、京骨を追い込んだらしい。
こうなるとつくづく、サキュバスの彼氏は命懸けであると感じる。
そして時刻は十八時半。
初日からハイペースな一日を過ごした桃馬たちは、夕食を取るため各自動き出す。
妖楼郭一階の大広間にて、
一足先に直人と晴斗が待っていると思い、
桃馬と憲明が足早に向かうも、
そこには、
直人と晴斗の姿はなかった。
直人に至っては何となく予想がつくが、晴斗まで居ないのは些か心配であった。
桃馬「うーん、先に居ると思ったんだけどな。やっぱり、直人は来ないのかな。」
憲明「まあ、初日だからな。家族(稲荷)と過ごしてるんだろうよ。それより、晴斗が心配だよ。」
桃馬「そうだな、もしかしたら、猫耳の女の子‥えっと、確か千夜ちゃんだったかな?その子と一緒に居るなら良いのだけどな。」
憲明「ごくり、も、もしそうなら‥。まさか、お楽しみ中とか?」
桃馬「まあ、可能性はあるな。現に、ここに着いた時の熱々な様子を見る限り、それは十分にあり得るよ。‥ん?ちょっと、待てよ。そうなると、俺と晴斗は、ちょっと離れた親戚になるのか‥。」
憲明「‥た、確かに、でも気にする程でもないだろ?」
桃馬「まあ、確かにな。これは忘れておこう。」
こうして、二人が駄弁っていると。
続々に"みんな"が集まって来た。
リール「うぅ~、やっぱり、直人がいないよ~。」
エルン「ふむぅ、仕方がないだろ?直人にだって、稲荷さんたちと久しぶりに食事をしたりと、家族と過ごしたいだろうからな。」
リール「で、でも、それなら、私たちも誘ってくれるよね?」
エルン「う、うむぅ。確かに、私もそうは思うが‥。いや、図々しい考えはやめておこう。もしかしたら、晴斗と共に手伝いをしてるだけかもしれないからな。」
リール「あ~、それはあり得るかもね♪」
エルン「それに、もし食事なら、稲荷さんから直々に誘われそうな気がするからな。」
リール「おぉ~、それも一理あるね♪」
二人の美女が、
都合の良い解釈をしている頃。
直人と晴斗はと言うと。
晴斗は、千夜と共に経理部にて、お手伝い中。
直人に至っては、未だに稲荷と就寝中であった。
更に一方で、
桃馬と合流したギールとジェルドは、
桃馬から漂う"雄犬"の匂いに反応し、瞬時に接近しては、平然と人前で、あちらこちら犬の様に嗅ぎ回っていた。
桃馬「お、おお、お前ら何してんだよ!?」
ギール「くんくん。桃馬‥お前‥、誰と浮気したんだ?」
ジェルド「‥この匂い‥、ポメ公と駄犬の匂いだな。」
二匹のストーカー犬は、
桃馬から漂う知らない犬の匂いに、
かなりのジェラシーを感じていた。
それはまるで、
夫の浮気を察知した妻の様な感じであった。
ここで小話、
実は狼系獣人族の中には、
現実世界の犬や狼に、かなりの嫌(犬)悪感を持っている者もおり、温厚な獣人族ならまだしも、ライバル視や嫉妬しやすい獣人族を恋人に持つと、一部ペット禁止になる上、接近禁止、更には、自らをペットとして求めるそうです。
そう、これにギールとジェルドが、
普通に当てはまります。
良い歳したイケメンが、一人の男を巡り、
たまたま遊んだ得体の知らない二匹の犬に嫉妬し、羨ましそうに、ご主人様にすり寄り始める。
桃馬「うっ、ふ、普通の犬と遊んだだけだろ?何が不満なんだよ?」
ギール「俺には遊んでくれないくせに‥、見ず知らずの犬には、構ってやるんだな。」
桃馬「い、いや、そう言う訳じゃ‥、向こうからすり寄ってきたら仕方ないだろ?」
ジェルド「ふーん、俺たちがやると嫌がるくせに、初見には優しいんだな。」
だぁ~、めんどくせぇ!
もう少し、どうして嫌がられるのかを考えないのか‥。今もそうだが、イケメンの姿で、普通に人前ですり寄られれば、誰でも嫌だろに‥。
せめて"ショタ"か犬の姿で、
すり寄ってくれれば良いが‥。
しかし、
例え構ったとしても、調子に乗って押し倒しに来ることは目に見えている。
押し倒すのは俺だけの特権だってのによ‥。
些か、
不純を匂わす桃馬の心の叫びは、
正直、駄犬の飼い主なら、飼い主もまた駄主であると思える。
これには、隣で黙って見ている憲明は、
呆れながらも、いつもの光景に安堵する。
するとそこへ、
直人の弟である鴉天狗の昴が、声をかけてきた。
昴「あれ?エルン姉さん、大広間の入り口で何してるのですか?」
エルン「あ、昴くんか。すまない。ちょっと、他のみんなを待っているだけなんだが、もしかして、邪魔だったかな?」
昴「あっ、いえいえ、ただ何してるのかな~って、気になったもので。」
エルン「あはは、確かにな。こんなに人が集まれば気になるのも無理もないか。」
昴「あはは、俺も要らぬ誤解をして申し訳ない。あ、そうだ、ついでに兄さんはどこにいますか?」
エルン「えっ?直人なら身内の用事とか言って、昼間からどこかに行ったと思うが?」
昴「っ!?そ、それは本当ですか!?」
エルン「あ、あぁ、恐らく稲荷さん繋がりだとは思うけど‥。」
耳を疑う様な話に、昴は嫌な予感を感じる。
完璧な監視体制の中だと言うのに、
警戒していた最悪の展開を臭わす事に動揺する。
そんなイケメンの動揺に、
一応姉の立場であるリールも話に参戦する。
リール「ふぇ?昴くん知らないのですか?私はてっきり、稲荷さんたちと食事をしているのかと思ってたけど?」
昴「い、いえ、そんな予定は聞いていません。ま、まずい‥、早く兄さんに伝えないと。あ、あの、お二人には悪いのですが、もし稲荷姉さんを見つけたら何もせずに、俺か他の兄弟に伝えてください。」
エルン「あ、あぁ、わかった。」
リール「も、もも、もしかして、直人‥ごくり、稲荷さんにずっと‥はわわ!?。」
昴「‥さ、最悪は‥あり得ますね。で、では、俺は仕事に戻りますので、これで。」
エルンとリールに取っては、
不安と心配が残る話になってしまったが、
何となく直人の居場所が分かったため、
それだけでも安心するのであった。
しかし、安心するのも束の間。
晴斗について、聞きそびれるのであった。