第三百二十話 お叱りと注意
化堂里屋の入り口で、
豆太の土産話とヴィーレの過去話で盛り上がる中。
迷子になっていたシャルとディノが、
加茂と犬神に連れられ、ようやく合流した。
とまあ、当然シャルには、
ギールからのお説教が待っているわけで‥。
ギール「この大バカシャル!ろくに道を覚えていないくせに、何勝手に先行して迷子になっているんだ!」
シャル「うぅ、ごめんなのだ‥。」
久々の感情が籠った雷が落ちると、
流石のシャルも縮み込んだ。
一方で、豆太、シール、エルゼの三匹は、
尻尾と耳を直立させ驚いた。
ギール「全く、無事だったからよかったものの‥。」
ディノ「す、すみません兄さん。僕が付いていながら‥。」
ギール「いや、ディノが謝ることはないよ。むしろ、シャルと一緒に居てくれて助かったよ。ありがとう。」
ディノ「んんっ。に、兄さん‥。」
シャル「ぬわっ!?ディノばかりズルいのだ!?」
ギール「あぁっ?(ギロッ。)」
シャル「ひっ、な、何でもないのだ~。」
ディノに対してかなり甘いギールに、
シャルも同等の処遇を求めるも、元凶であるシャルに、そんな待遇はもちろんなかった。
いつも通りの"ズルい"抗議も虚しく。
しかも、睨まれただけで大人しくなる始末。
恐らく将来夫婦になるであろう二人。
きっと夫婦になっても、この騒がしさは変わらないのだろうとジェルドは思うのだった。
すると、良くない空気の中で、
見るに耐えない加茂は声をかける。
加茂「あ、あの、お兄ちゃん!それ以上シャルお姉ちゃんを責めないでください!」
ギール「うぐっ、か、加茂‥、うぅーん。加茂の気持ちも分かるけど‥、も、もし、シャルとディノが、事故や人拐いとかに捲き込まれたとか考えると‥怖いんだよ。」
確かに、加茂の言いたい事はよく分かるが、
実際ギールは、シャルの事を兄妹以上に愛している。しかも、突然の別れに非常に敏感なギールは、目の前からシャルを失いたくない思いが非常に強かった。
もちろん、兄弟であるシールとディノ、豆太や加茂、一応犬神も同じことが言えた。
ここで、"ザクッ"と話
耳の痛い話かもしれないが、
心配して怒るのは、恐怖や安堵から来る感情的なものが殆どです。これは、人の捉える感覚にもよりますが、当事者同士の受け取り方と、第三者の受け取り方は、言葉の言い方一つで必ずズレが生じるものです。
そのため怒る側は、必ず怒る側へ自分の思いを伝えなければならなりません。一言一句全部とは言いませんが、重要な所を相手に気づいてくれるだけでも良いものです。
しかし、心配と称して何しても良いと言うわけではありません。もちろん、相手の気持ちを無視して自分の思いを言葉の暴力を加えて、ぶちまける行為は言語道断です。
それはもはや心配ではなく、自分の個人的な意見を怒りに込めて"モヤモヤ"を晴らしてるに過ぎません。
一部では叩く行為もありますが、
怒り任せか、感極まってか、理由は様々ですが、
叩く以上はそれなりの覚悟を持ってやらなければなりません。叩く行為を肯定するつもりはありませんが、一発叩くことに、その者の人生を幸か不幸かの分岐に立たせることに繋がります。
叩いて全員が、
幸の道に行くならそれに越したことはない。
しかし、その行為の大半は、
人の意見を蔑ろにするきっかけとなり、不幸の道へと歩ませる事にも繋がります。
つまり、行き過ぎた心配は、
暴力に匹敵するほどの凶器になり得る、
可能性がある。
世俗的な例えなら、
大人と子供の関係が言い例である。
教育や指導と称して、暴行、暴言を平気で行い合法化させ、逆に大人同士での行為は駄目などとは、都合が良いものだ。
自分中心、思い通りに人を動かし、
子供の言葉など戯言と罵り。
絶対的な地位に酔いしれる。
これを持って人のためと言うのなら、
まさに、ご都合主義の偽善者の鏡である。
そして、話を戻し。
ギールから胸の内を聞いた加茂は、
シンプルな第三者的な反応をしてしまった自分を恥じた。
加茂「あぅ、ごめんなさい。お兄ちゃん。」
ギール「‥いや、加茂が謝ることじゃ‥うわっ!?」
徐々に気まずくなる空間に、
ヴィーレはため息を付きながら、
ギールの背後へ回り飛び付いた。
ヴィーレ「何しみったれた空気作ってんだよ?それでも、こいつらの兄ちゃんか?」
ギール「う、うぐっ、ブクブク。」
完全に首をキメられ、
反論どころか泡を吹き出し気絶してしまった。
ヴィーレ「あ、おい、ギール!?」
シャル「ぬわっ!?ギールが死んだのだ!?」
加茂「はうっ!?」
シール「わふっ!?」
ディノ「な、何を言ってるのですかシャル様!?」
豆太「はわわ、ヴィーレ姉さん!?何してるのですか!?」
未だに入り口付近から動かないギールたちに、
ジェルドは額に手を置き、ファミコンの競馬ゲーム並みの進展の無さに困り果てるのであった。
それからと言うもの、
気絶したギールをジェルドが担ぎ上げ、
そうそうに、遊び広場へと案内されるのであった。
その頃、
人間界の温泉街では、
早速路地裏にて、口では言えない程の激しい愛を育むルシアと京骨は置いといて、一応健全で安全なリールとエルンは、直人なしで温泉街を満喫していた。
リール「ふへぇ~♪おいひぃ~♪」
エルン「こ、こらリール?そんなに食べ過ぎては夕飯が食べられなくなるぞ?」
リール「大丈夫大丈夫~♪このくらいは"おやつ"だから~♪」
エルン「白玉ぜんざい、かき氷、そしてプリンに、饅頭十個とは、豪勢なおやつだな?」
リール「えへへ~♪そう言うエルンだって、白玉ぜんざいと団子と饅頭食べたでしょ??」
エルン「リールほど食べてはいない。それに、初日から無駄遣いをしては、いざ、直人と回る際に何もできなくなってしまうぞ?」
リール「もくもく、考えすぎだよ~♪だって、今回私は二万円も持ってきたんだよ?それに加えて朝、昼、夕ご飯は妖楼郭で"タダ"で食べられるから、一週間なんて余裕だよ♪」
かなりフラグを立てまくり、
しかも禁句まで漏らすリールに、
エルンは呆れてため息をついた。
ここで小話
実際最初はタダで泊めてもらえる話であったが、さすがに、それでは気が引けると桃馬の意見で少し払うことになった。
しかし、この意見に何故か直人は、頑なに拒んでいたが、後に白備たちとの相談により一万円となった。
ちなみに、
一万円は妖楼郭一泊分の値段である。
そして話を戻し、
エルン「はぁ、それで、今の残金はいくらだ?」
リール「ふぇ?残金?えっ、もう確認するの?」
エルン「いいから。」
リール「う、うん。えっと。」
エルンの指示に、
言われるがまま財布の中を確認する。
リール「えっと、諭吉生存、樋口生存、あと、野口二人と小銭が二百円くらいかな?」
エルン「‥残り一万七千二百円か。かなりのスタートダッシュだな。」
リール「そ、そう言うエルンはどうなの?」
エルン「私も二万円持ってきてはいるが、一万八千八百円だな。」
リール「なっ!?わ、私より千五百円も多い!?」
エルン「それはそうだ。リールは饅頭、かき氷、そしてプリンまで手を出したのだからな?」
リール「うぐぅ、で、でも~、一週間でこのペースなら何とかなるよ♪うん!」
エルン「果たしてそうかな?食べ歩きも良いが、観光地の入場料とかも頭に入れておけよ?」
リール「う、うぅぅっん!わかった!」
エルン「‥はぁ、心配だな。」
かなり葛藤しての理解の様だが、
その崩壊も時間の問題だと、エルンは思うのだった。