第三百十四話 金髪受付嬢の彼氏
時刻は十六時。
小頼と犬神、ディノの三人が、
"カオスギルド"へ戻り始めた頃。
ギルドの外では、
ルクステリア郊外で大量発生した薬草(ドクガ草)をむしり、籠一杯に敷き詰めた桃馬と桜華。そして、湖にて釣りと"イチャイチャ"なキャンプをしていた、憲明とリフィルが合流していた。
ちなみに、
メイドのリーゼとアクスは、
一足先にリフィルの家に帰宅していた。
憲明とリフィルは、
籠一杯に敷き詰められた薬草を目にすると、
感心を通り越して驚いていた。
憲明「にしても大量だな?こんなに沢山取ってどうするんだ?」
リフィル「も、もしかして‥だ、誰かに一服盛るとか!?」
桃馬「んなわけないだろ?このクエストの臨時報酬ためだよ。」
憲明「臨時報酬?」
桜華「はい♪エルドリックさんとランドルクさんが、適量以上の薬草を採取すれば、その分の報酬がもらえると言っていました。」
憲明「報酬ね~。たぶん、二束三文だろ?」
桜華「ほえっ?」
桃馬「へっ?」
憲明の発言に、二人は小首を傾げた。
そう言えば、どのくらい採取をすれば、どのくらい報酬が貰えるのか聞いていなかった。
桃馬と桜華は、ただひたすら、
お互いのプレゼント代を稼ごうと必死であった。
しかも、
薬草こと"ドクガ草"の単価を知らずに‥。
薬草の単価について、一応知っているリフィルは、カオスギルドの二人のおじさんに、からかわれたのだと察するのだった。
ちなみに、
ドクガ草の単価は、
異世界単価
一束(五本根っ子付き)
青銅貨三枚。
日本円で言う三十円である。
詳細、
青銅貨一枚で十円。
銅貨一枚で百円。
準銀貨一枚で千円。
銀貨一枚で一万円。
金貨一枚で十万円。
である。
重要かつ安い薬草に、
リフィルは苦笑いをしながら結論を述べる。
リフィル「あはは、えっと、ちょっと二人には、言いにくいんだけど、一杯食わされてるかも。」
薬草学も通じているリフィルの鑑定に、
桃馬の表情が曇る。
桃馬「‥はぁ、ま、まあ‥落ち込むのは、結果を見てからだな。」
まだ判明していない鑑定に、
半分程度の希望を掲げる桃馬に対して、
桜華は、安ければ数で勝負と言わんばかりのフォローを入れる。
桜華「そ、そうです!この籠の他にも、ギルドには、八籠ずつ納めてありますからね♪」
桜華の八籠ずつ納めている発言に、
リフィルと憲明は耳を疑った。
リフィル「ふぇ!?こ、これだけじゃないの!?」
憲明「は、八籠ずつって‥、一人八籠か、どんだけ無我夢中でむしってたんだよ。」
桃馬「あ、あはは、そ、それりゃぁ‥まあな。」
桜華「えへへ~♪そ、そうですよ~。」
二人は照れながらも、
お互いを見つめ合いイチャつき始めた。
リフィル「は、八籠ね~。うーん、一籠準銀貨一枚‥千円になれば良いくらいかな?」
憲明「と言うことは、八千円前後か。そ、そこそこ良い時給だな。」
リフィル「クスッ♪良いお小遣い稼ぎね♪」
その後四人は、
期待と結果を楽しみにしながら 、
外からでも分かる程の騒がしいギルドへ入る。
すると、金髪スレンダー美女のシシリーが、
暖かな笑顔で出迎えた。
シシリー「あ、お帰りなさい♪」
桃馬「ただいま戻りました。えっと、よっと、これで今日の分全部ですね。」
シシリー「クスッ♪たった一日で、こんなに集めるなんて凄いですね♪」
桃馬「ま、まあ、目的のためですからね、このくらい楽勝ですよ。」
桜華「うんうん、私も同じくです♪」
シシリー「クスッ♪二人は本当に仲が良いですね♪さて、えーっと、一応二人合わせて十六籠分の確認と精算は終わったけど、その分の報酬を受け取りますか?」
桃馬「あ、いや、全部終わってからで良いですよ♪」
シシリー「わかりました♪じゃあ、十分くらい時間をもらうわ♪あと、またこれを持って来てもらっても良いかしら?」
桃馬「いいですよ。よっと。あ、桜華は先に休んでて良いよ?」
桜華「あ、うん、わかった♪」
桜華の籠を担ぎ上げ、
もう一籠は両手で持ち上げ、
シシリーの後を追った。
シシリー「あ、そうそう、二時間前なんだけどね。私の彼氏が会いに来てくれたんだ♪」
桃馬「えっ、し、シシリーの彼氏が?」
シシリー「うん♪みんなには内緒だけど、ちょっとだけ、知り合いと称して私のお手伝いをしてもらってるの♪」
桃馬「へ、へぇ~、えっ?もしかして、今もいるの!?」
シシリー「うん♪でも、"誠太"のお友だちもいるけどね♪」
嬉しそうに語るシシリーに、
桃馬は嫌な予感を感じる。
彼氏の名前はさておき、
お友だち付きってのが怪しかった。
現状的に怪しいのは三つだ。
人気のない所。
あまり顔を見せない彼氏登場。
そして、お友だち付き。
どう考えても、騙しからの強姦展開である。
確か、その"彼氏"とシシリーとの関係は、
三年前、シシリーが盗賊に捕まり、たまたま近くに居合わせた"彼氏"に助けて貰ってからの、付き合いだそうだが‥。
話が上手すぎる‥。
きっと、その彼氏は盗賊の黒幕で、
人が良いシシリーを油断させて、
慰み物にした後、闇市場に売る気に違いない。
完璧とも言える推理に、
桃馬は思わず、両手で持った籠を片手持ちに変え、刀に手を置いた。
そうこうしていると、
地下にある精算鑑定室に着く。
シシリー「ちょっと待っててね♪」
桃馬「っ、は、はい。」
笑みを浮かべて待機をお願いするシシリーに、
桃馬は、いつでも斬りかかれる準備をしていた。
シシリー「"誠太"今入っても良い?」
扉へノックをし、彼氏の名前を呼ぶと、
扉の置くから少し騒がしい音と共に、
聞き覚えのある彼氏の声が聞こえる。
彼氏?「シシリー!?あ、ちょ、ちょっと待って!?‥は‥く‥かく‥ろ‥、は、入って良いよ♪」
シシリー「はーい♪桃馬お願いね♪」
桃馬「あ、あぁ。」
怪しすぎる間に、更に警戒する桃馬は、
片手で持った籠を盾代わり風に持ちつつ中に入った。
気になる彼氏の正体。
桃馬は、その彼氏の姿を見た瞬間、籠を落とす。
そこには、
春桜学園、二年五組微食会のメンバーの一人。
番場誠太が居たのだ。
桃馬「ば、番場くん!?な、なんでここに!?えっ、なに?シシリーの彼氏って番場くんなのか!?」
番場「よう桃馬?シシリーが、世話になってるな。」
シシリー「ふえっ?二人とも知り合いなの?」
知り合いと思える、桃馬と番場の反応に、
シシリーは、冷静に驚いていた。
番場「あぁ、同じ学園の同級生だ。」
シシリー「へぇ~♪それは凄いね♪」
番場「だろ?あはは♪」
結果的に、
安心する展開を迎えられて良かったが、
恥ずかしくも予想を大きく外れした桃馬は、
罪悪感に囚われてしまった。
しかし、時には都合の良い展開を考えるよりも、
最悪の展開を視野に入れるのも、大切なことである。
その後桃馬は、
ラブラブな二人の光景を前にして、
溢した薬草を拾い籠に入れると、無言でお辞儀をしてその場を後にした。
ちなみに、番場の友達についての話だが、
その人物とは本間孝と大西雷音の事であった。
現場に本間と大西の姿はなかったが、
実は、シシリーが尋ねてきた時に身を隠していたのだ。
そもそも、番場はともかく
どうして二人がここにいるのか。
既にお気づきかもしれませんが、
この三人、
シシリーの仕事を手伝いながら、
仕置きの準備をしていたのだ。
的はルクステリアに潜伏する、
殺人犯及び野心家の仕置きであった。
裏の仕事ついでに恋人に会うとは、
何とも言えない罪な男である。