第三百四話 エルフの悩み
桃馬と桜華が、
茶番な草むしりをしている頃。
ルクステリアの近郊にある湖にて、
のんびりとベテラン釣り師たちと釣りを楽しむ憲明がいた。
もちろん、
リフィルも一緒に来ているのだが、
そこには、メイドである、
銀髪ポニーテールの"リーゼ"と、
金髪ストレートロングの"アクス"
二人のエルフも付いていた。
憲明と体を重ねてから、
やけに積極的になる二人のエルフに、
リフィルは少しばかり危機感を覚えていた。
子孫を増やすため、二人も受け入れてくれることは大変嬉しいことだが‥。
今まで、憲明に取って自分は、
唯一無二の一番であったのに、
昨夜は、二人の夜這いを許してしまい、
あっという間に、先を越されていく感覚に焦りを感じていた。
今まで二人には、話だけで詳しくは知らなかったとは言え、知り合って早々、近くなりすぎである。
確かに、あの二人のスタイルと自分のスタイルを比べたら"誤差"ではあるが、二人の方が理想的‥。
いや、そもそもあの二人は、
愛と性欲を一緒にしている。
それに比べて私は、
愛一筋の純粋な嫁であり、
憲明の唯一の理解者でもある。
そう、これこそ、
未熟な二人との大きな違いである。
この様に朝からリフィルは、
複雑な思いになっていた。
すると横から、その戦犯の一人であるリーゼが、
慌てた感じで声をかけてくる。
リーゼ「っ!?り、リフィル様!?お手を止めては焦げてしまいますよ!?」
リフィル「ふぇ?はわっ!?」
リーゼの素早い指摘もあり、
何とかカレーを焦がさずに済んだ。
調理中の考え事は、できる限りやめた方が良い。
すると、リーゼから思わぬ質問を投げられる。
リーゼ「り、リフィル様‥もしかして、昨夜の事で何か考えてましたか?」
リフィル「ふえっ!?あ、えっと‥それは‥。」
分かりやすい反応に、
リーゼは気難しいそうに謝る。
リーゼ「も、申し訳ありません。やはり、長い禁欲のせいか‥。気付いたときには‥体が動いてしまって‥。」
リフィル「し、仕方ないわよ。そ、それに、わ、私も覚悟はしていたから‥。」
リーゼ「し、しかし‥、リフィル様の夫になられる憲明様をあの様に淫らに押し倒しては‥。」
自覚があるリーゼの悩みに、
リフィルは答える。
リフィル「‥リーゼは、憲明の事をどう思ってるの?」
リーゼ「っ、そ、それはもちろん、リフィル様と同じくらいお慕えしています。」
リフィル「‥好意はないの?」
リーゼ「っ‥そ、それは‥。」
肝心なところで迷うリーゼに、
リフィルは、好意があるのだと確信する。
これにより、一夫多妻の展開になる女の子たちの気持ちをようやく肌で感じるのであった。
直人の嫁である。
リールやエルンの気持ちは、
こうも複雑な想いを感じながら、
日々乗り越えているのだと思うのだった。
※しかし、エルンとリールは、
そう言った複雑な想いは一切なく、一番と言うよりも一緒に過ごして普通に愛されたいと言う、清らかな想いを掲げていた。
リフィル「クスッ‥憲明の一番は私であってほしいけど‥、もし、リーゼとアクスも好意があるのなら、一緒に支えてほしいわ。」
リーゼ「‥リフィル様‥はい♪」
悲しくも不安な表情から笑みを浮かべると、
リフィルとリーゼは、メイドと主の垣根を越えようとするのであった。
一方、
憲明にお茶を運びに行ったアクスはと言うと。
ちょうど周りに人が居ないことを良いことに、
エッチなお姉さん属性を全快にさせ、憲明に再び言い寄っていた。
憲明「あ、アクス‥、そ、その‥。釣りに集中できないんだけど‥。」
アクス「クスッ‥、釣りなら‥私が釣れたでしょ?」
憲明「な、何を言って‥んんっ~!?」
敢えて顔を合わせない様にしていると、
アクスは、憲明の頬に手を起き少し強引にキスをした。
完全に舌を入れるほどの恋人キスに、
憲明は釣竿を手放し押し倒される。
こうなっては、昨夜と同じ展開。
憲明は抵抗しようにもキスをされた拍子に、精気を吸われ動けなくされた。
憲明「あ、アクス‥。だ、だめだよ‥こ、こんなところで‥。」
アクス「クスッ、憲明様‥可愛いです。そんな憲明様には、淫らで変態な"アクス"をお仕置きして‥誰の従者であるのかを‥教え込んでください♪」
まさかのドM宣言に近い物言いに、
憲明は生唾を飲む。
目の前には、
発情したスタイル抜群のエルフ美女が、
お仕置きを待っている。
襲うなら、
これ程までのチャンスはない展開である。
しかし、憲明は、
アクスの両肩に手を起き、誘いを拒んだ。
憲明「ご、ごめん‥、その‥い、今は、答えられない。」
アクス「‥‥えっ?」
完全に襲ってくれると思ったアクスは、
憲明の返事に"キョトン"としながら固まった。
普通の男なら確実に本性を現して、
襲いかかるところではある。
昨夜の夜這いを入れて、
憲明とは三回ほど体を重ねている。
ここまでくれば、二人の間は完全に打ち解け、
抵抗感が無くなり簡単に受け入れるはずである。
まして、人がいない今がチャンスとも言えるこの空間に、何故襲わないのか疑問であった。
しかも、これまで、
憲明から手を出すことは一度もなく、
体を重ねた三回ほどは、全てアクス、リーゼ、リフィルからによる行為であった。
するとアクスは、思わず憲明に尋ねた。
アクス「ど、どうして‥ですか。」
憲明「‥‥えっと、どうしてって‥、その‥せ、性欲を晴らすために、アクスとするのは間違いかなって‥。」
アクス「‥っ。わ、私は憲明様の従者です‥、そんな事は気にしなくても‥。」
憲明「い、いや、気にするよ。だって‥その、アクスやリーゼは、性欲を晴らすための道具じゃないんだよ?」
アクス「っ!」
憲明の嘘偽りの無い答えは、
アクスの心を震撼させた。
今から二百年前にあった、
奴隷制度の活発化に、
多くのエルフ族が捕らえられ、
多くの同士が慰み物にされてきていた。
今では、衰退しているとは言え、
完全に無くなったわけではない。
リフィル様が、人間の男と付き合っていると知った時から、私は村上憲明と言う男を、実はマークしていた。
しかし、
二人の仲は普通に良く。
多少のイチャつきは見えるが、
至って普通であった。
だが、所詮は人間。
敢えて不浄を隠している可能性は十分あり得る。
"あの時"、その場のノリに任せて、リフィル様の初めてを散らさせてしまったのは不覚であった。しかし私は、リフィル様がここにいない今、自らの体を差し出し、この男の不浄な本性を引きずり出して、内容によっては殺すつもりでいた‥。
だが‥それなのに、この人は‥。
私の様な従者に、
"性欲を晴らすための道具ではない"と、
はっきり答えたのだ。
これにより、
長年"アクス"が心の奥底で求めていた。
満足する答えに、たどり着いたのだ
アクス「‥憲明様。」
憲明「ご、ごめん‥、傷つけるつもりは‥んんっ!?」
アクスは、再び憲明の口にキスをする。
しかし、このキスは舌は入れずに、ただ唇を重ねるだけであった。
そして、二人がゆっくり離れると、
アクスから思いがけない言葉が放たれる。
アクス「‥憲明様‥私をあなた様のご伴侶にしてください。」
憲明「っ!?え、えっと‥それは、従者として?」
アクス「クスッ‥いえ‥あなたの妻としてです♪」
憲明「な、なんですとぉぉ~!?」
思いがけない告白に、
憲明は声を大にして叫ぶのだった。
その後、魚たちが憲明の竿に近づくことはなかったそうな。