第三百二話 特別記念話 天下覇道編 11
そして、一方
エニカ・リブルと、
アリシア・ダクリネスの一戦は‥。
意外にもエニカ劣勢であった。
アリシア「どうしましたか?リブル公国のお姫様はその程度ですか?」
エニカ「はぁはぁ、さすが‥、ダクリネス公爵家の令嬢ね。」
剣を地面に突き立て片膝をつくエニカは、
帝国に仕える五公爵の一角、ダクリネス家の一人娘に苦戦していた。
日常では清楚でおっとりとしており、
ルイに引けを取らない程の大食いであるアリシアだが、剣を持たせれば並みの男では太刀打ちできないほどの力を持っていた。
アリシア「クスッ‥、これでも小さい頃からお父様に鍛え上げられてますからね♪」
エニカ「っ!?」
余裕を見せるアリシアに対して、
エニカは驚愕する。
アリシアの強さは小さい頃から鍛え上げられたものであり、対して物心ついてから独学で鍛えていたエニカとの差は大きい。
いや、それよりアリシア自身が、
自分より才があるのだと実感した。
いくら幼少から鍛えていたとしても、
平凡であればそこまでは強くはなれない。
例えるなら、ダイヤの原石だ。
磨けば磨くほど光輝きは増し成長していく。
対して自分は、ただ石である。
磨いても光ることはなく、
そしてダイヤよりも脆い。
それは人と同じく、形と色はバラバラ、
そして飾り気もなく、
何をしてもこれ以上でもそれ以下でもない。
低俗な物である。
とある人は言った。
"努力は報われる"と。
しかし、私はこの言葉が嫌いだ。
所詮、天才に生まれ運良く成功した人間の決まり文句だからだ。
自分より努力していない人間が、
成功するケースは当然存在する。
なぜなら、
人の能力は生まれ持って平等ではないからだ。
天才は凡人の上を行き、
凡人は天才を越えることはできない。
天才を越えるには、
その土俵に立つための原石では無い限り、
あり得ないのだ。
そんな世界の真理に、
微食会の男たちは言った。
天才に挑む者はただの"バカ"だ。
しかし、その"バカ"が天才を越えるなら。
これほどまで面白いものはない。
凡人には凡人に見合った生き方がある。
例えるなら、小鳥風情が優雅に大空を空駆ける大鵬に憧れたとしたも、所詮は無理な話だ。
平凡だからこその自由はある。
天才には"プライド"と言う柵が付きまとい、人にもよるが、一回の敗北と失敗で自分の価値が崩れ落ちる者はごまんといる。
そう、努力や夢など、
その人に見合った物で充分である。
叶えられるわけもない目標を提示するのではなく、自分に見合った事をやるに限る。
それは決闘も然り、
下手に勝とうなどと考えなくていい。
所詮均衡でもいいではないか。
勝てない。でも負けたくないのなら、
引き分けに持ち込め。
それでも無理なら諦めろ。
そして、学べ。
命を懸ける戦いならまだしも、
大会風情に本気になる必要はないのだから。
"努力は必ず報われる"のではない、
"努力は時に裏切る物"である‥。
裏切られて落ち込みたくなければ、
片隅に刻むことも大切である‥。
そして限られた選択肢の中で、
劣勢化におかれるエニカは、何を取るのか‥。
エニカ「クスッ‥、なるほどね。なら‥、私も燃えてきます!」
当然、お転婆の姫様の答えは、
天才に挑む"バカ"であった。
エニカは、立ち上がり剣を握りしめ、
アリシアに挑んだ。
アリシア「クスッ、(エニカちゃんの心はダイヤよりも硬ね♪)」
力の差を見せつける様に戦っていたアリシアであったが、エニカの折れない意思に心を打たれ、迫り来るエニカに全力でぶつかった。
五合に渡る、忖度なしの真剣の打ち合いに、
エニカは、華々しくアリシアに斬り上げられたのだった。
あれほどまで、
男たちに渇を入れていたと言うのに、
自分の番になれば、あっさりやられてしまう、
情けない姿を晒してしまった。
きっと、十人の男たちは、
私の情けない"バカ"とも言える無謀な結果に、嘲笑っているだろう。
自分もできないくせに、
それ以上の結果を求めた恥ずべき行為に、
目を閉じて謝るのだった。
すると、
地面に体を打ち付けそうになる瞬間、
突如、糸の様な物が張り巡り、エニカをキャッチした。
エニカ「ふぇ?」
想像と違った地面の感触に、
エニカはキョトンとする。
アリシアも突如現れた糸に驚いていた。
アリシア「あら?これは糸‥?うーん、あっ‥クスッ。」
なんとなく辺りを見渡すと、
観客席から微食会の糸使いである高野槇斗が糸を操り身を乗り出していた。
渡邉「ナイスマッキー!」
星野「よーし!そのままこっちに寄せろ!」
高野「あいよっと!」
エニカ「ふぇ!?んんっ!?」
ちょっと、口を塞ぐ形になったが、
それでも巧みな糸捌きで、エニカの体をす巻きにすると、男たちとルイがいる観客席に引っ張り込んだ。
映果「おおっと!なんとここで!地面ギリギリの所でエニカを救った高野が、そのまま観客席に引きずり込んだ!なんと言う、お姫様愛なんだ微食会!」
やはり目立った分、
映果に実況される微食会に、
会場からは謎の拍手が送られた。
それからエニカを糸から解放すると、
大号泣しながら謝ってきた。
エニカ「ごめんなざい‥、ひっく、わだひも弱いぐぜに‥ひっく、偉そうに‥ふえーん!」
渡邉「そ、そんなに泣くなって!?」
本間「そ、そうだよ。エニカも頑張ったんだろ?」
エニカ「ひっぐ、でも‥でも‥。」
ちょっとループ気味の展開に、男たちは頭を抱えていると、ルイが語りかけた。
ルイ「エニカは良く戦った‥、例え‥、圧倒的な相手だと知っても‥、エニカは、みんなが言う"バカ"を選んで、怯まず挑んだ"バカ"‥。」
褒めているのか、貶しているのか、
よく分からない語りかけ方に、エニカは複雑なダメージを受ける。
これには男たちも、
どうフォローしていいか、更に難しくなった。
エニカ「あぅ‥。」
藤井「る、ルイ?今はあまりバカとか言うのは、控えた方が良いと思うぞ?」
ルイ「??」
ルイは思わず小首をかしげて、
何を言っているのか分からない顔になる。
大西「こ、これは、天然入ってるな。」
坪谷「し、仕方ないよ。たぶん、俺たちが前に話してた事を引用したんだろうよ。」
茂野「ま、まあ、俺たちの言葉を善意で引用したのに控えろって言われたら、そりゃあ、ルイは困惑するよな。」
外部の男たちは、冷静に分析する。
まあ、一理あることだが、
今メンタルをやられているエニカに、
マイナスの言葉は禁句であることも事実だ。
藤井「えっと、ルイも悲しい時にバカって言われたくないだろ?」
ルイ「っ、う、うん‥いや。」
藤井の簡単な例えに、
何とか直ぐに伝わった様だ。
するとルイの口から、
ルイらしい提案が持ち込まれる。
ルイ「それなら‥一緒に、ご飯を食べよう。」
突然の"ルイワールド"に、男たちは笑った。
番場「それは良い提案だな。まあ、次の試合が遅れたとしても、藤井と茂野が欠場するだけの話だしいいよな。」
茂野「いやいや!?よくないだろ!?」
藤井「うんうん、それだと観戦しているだけの一般人じゃないか!」
どうやら、二人はやる気満々の様だ。
取りあえず、
エニカを落ち着かせる事が第一だ。
微食会一行は、藤井と茂野を残して先に飯を食いに出掛けるのであった。