第二百九十七話 睨む虎
無事に仕置きを終え、
金髪エルフの身柄を警察にも預け、
急いで会場へ戻る三人の男たち。
信濃花火も終わり、
多くの人たちが駅へと押し寄せる中、
三人だけが逆走する様な感じであった。
大手大橋から中越駅までの一本道には、
多くの人でごった返していたのに対して、
河川敷の近くまで来ると、混雑していた光景から一変。
後の祭りの様に、ガラガラとしていた。
渡邉「当たり前だけど、すっげぇ、いなくなってるな。」
星野「うん、本当の後の祭りだな。」
近藤「な、何て言うか‥、寂しい‥と言うよりは、バカップルたちが盛りそうだな。」
渡邉「‥‥。」
星野「‥‥。」
突然、ディープな話を切り出す近藤に、
あまり耐性のない二人は、ツッコめず返答に苦しんだ。
ちなみに、
近藤の下ネタのボケを簡単に返せるのは、
本間と番場くらいである。
近藤「ふぅ‥、すまん、行こうか。」
渡邉「あ、あぁ‥。」
星野「なんか、すまん‥。」
完全に滑った近藤は、
今の"ボケ"がなかったかの様に、
再び、エニカたちが待つ所へ向けて歩き出す。
九割近くの人たちが居なくなった河川敷には、
未だに飲み食いしている者や、帰るタイミングをギリギリまで見計らっている者、暗闇を良いことに"イチャ"つくカップルなどが残っていた。
一時は、直ぐに戻ろうにも、人波に押し戻されないかと心配していたが、思いのほか視界も開けて歩きやすかったので、直ぐに戻ることができた。
だが、そんな順調な展開も何の前触れもなく、
安全と思っていた美女に、強烈な圧と共に尋問を受けるとは思いもよらぬ事であった。
近藤「よう、待たせたな。」
本間「おぉ!やっと戻ってきたか!」
渡邉「いや~、ひどい人の量だったよ。人波に負けて、駅の方面まで流されたよ。」
星野「すまん、俺が遅いばっかりに‥、」
仕置きに出掛けた三人が、
ルイに怪しまれないように、
手慣れた様に嘘偽りを並べる。
それに続いて、本間たちも口裏を合わせ、
嘘を本当かの様に、コーティングをする。
近藤「そう気にするな仁くん?それより、エニカとラシュは、寝てしまったのか?」
番場「あぁ、娯楽疲れだと思うけどな、取りあえずもう少し寝かせてやれば良いさ。」
番場のナイスフォローに、
続けて茂野から、待っている間に気づいた事を、近藤に注意を呼び掛ける。
茂野「まあ、それより、ラシュが居る時は、近藤は離れない方がいいぞ?」
近藤「えっ?ま、まさか、一人で迎えに行こうとかしたのか?」
茂野「そうそう‥、だから‥今後の仕置きの時は気を付けた方がいい‥。下手をしたら捲き込むぞ。」
近藤「‥わかった。でも、今回の仕置きは‥、"じゃんけん"で決めたよな?」
茂野「そ、そうだけど、今回ので良くわかったからさ‥。近藤もラシュの事は大事だろ?」
近藤「まあ、妹としてだけどな。それより、新学期から"ラグラ"も入学するんだろ?上手く手綱を握らないと、漏らされるからな。」
茂野「‥わ、わかってる。一応口酸っぱく伝えているよ。」
次第に、仕置人としての活動がやりにくくなる中、近藤と茂野が互いの一抹の不安を語ると‥。
ついに、ルイが動く。
ルイ「尚弥と蒼喜、あと仁から‥血の臭いがする。何をしてたの?」
近藤&渡邉&星野「っ!!?」
七人男子「っ!?」
突如ルイの口から放たれた、
禁断にして証拠とも言える台詞に、
男たちは鳥肌を立て警戒する。
恐らく、エニカとラシュリーナが寝ている事で、聞きやすいと思ったのだろう。
それより三人が驚きなのは、
獣人族でも血の臭いを、誤魔化せられる程の香水を振りかけ、しかも今回は、念には念を入れて仁くんの魔法で清めたと言うのに、バレたのだ。
当然、驚くわけである。
じっと、見つめるルイの瞳は、
珍しく何かを訴えるかの様な圧を感じる。
納涼祭の一件から、
再び男たちが、隠し事をしてるのではないのかと、疑っているのだ。
しかし、この件は、
納涼祭の時みたいに、守るための話とは違う。
人間であれ、妖怪であれ、多くの外道を屠るための、特殊な殺し屋みたいな物なのだ。
そんな血に染まった姿を、
清らかな彼女たちには見せたくないものである。
そのため、問われた三人は、
驚きながらもお得意の誤魔化しにはいる。
渡邉「あはは、ルイは鋭いな?実はここに戻る途中で、尖った何かに刺さってな。直ぐに仁くんに治してもらったんだよ。」
星野「そ、そうそう、刺さり所が悪くてね。止血に手間取ったんだよ~。」
近藤「ちなみに、俺から血の臭いがしたのも、蒼喜の腕を握って止血していたからだろうな。」
ちょっと、胡散臭い内容ではあるが、
その場で直ぐに偽のストーリーを作り、
平然と息を合わせた。
しかし、そんな程度で誤魔化せるほど。
今のルイは甘くなかった。
ルイ「‥嘘。三人には濃い血の臭いがする。三人とも‥刀を見せて‥。」
三人の偽りのストーリーを見破ると、
早々に、三人が持っている刀を要求する。
まさかの展開に、三人は追い詰められた。
もし、要求を断れば、
今の会話が偽りだと認めることになる。
しかし、そこまで恐れることはない。
仕置き後には、必ず証拠を残さない様、刀に着いた血は拭き取っている‥‥。
だが、今のルイに渡すとなると、
何をするのか分からないため、抵抗してしまう。
だが、その抵抗も疑われる素であるため、
素直に渡す他なかった。
三人が大人しく刀を渡すと、
後方の七人は、背中に冷たい"何か"が走る。
ルイは、
始めに近藤の刀を手に取ると、
十人の男たちは、固唾を飲んで見守った。
柄を確認して、
何もないと見るや刀を抜いた。
すると、血の様な物がベッタリとついていた。
まさかの展開に、
近藤はその場にうずくまり、
早速のフラグ回収に、
本間と高野が吹き出す。
渡邉と星野は、
"うわぁ~"みたいな表情になり、
自分たちも同じ事になっている可能性を感じた。
ルイは刀を鞘に戻し、渡邉と星野の刀を抜くと、同様に血がベッタリついていた。
血は確かに拭き取ったはず、
では、なぜ血がついていたのだろうか。
答えは簡単。
三人は一度、刀に血が着いたまま、
無意識に鞘に戻していたのだ。
当然、鞘の中には少量の"血の雫"が落ち、
鞘の内側には血が付着してしまっている。
本来、鞘を洗ってから刀をしまうところだが、
当時は、金髪エルフさんも居たことから、つい怠ってしまったのだ。
しかも、急いで走っていたこともあり、
綺麗にした刀には、言い訳ができないほどの血が付着したのだ。
ルイ「‥三人とも、いや‥後ろの七人も。これはどう言うこと?。」
ルイの表情は、
いつもと変わらぬ無表情なのだが、
不思議とその表情は、凄く怒っている様に感じさせた。
これにはたまらず、
ひれ伏してうずくまる近藤に続き、
これまでと感じた九人の男たちも、
その場にひれ伏したのだった。