第二百九十六話 鋭い察知
今宵も平和な舞台に隠れ、
好き放題"外道行為"に勤しむ"クズ"共を始末した三人の男たち。
深い眠りについた、
被害者の金髪エルフさんを連れ出して、
早々に暗く狭い裏路地を抜ける。
近藤「さて‥この人をどうするべきか。」
渡邉「それより、本当に連れがいるのか?」
近藤「う、うーん、確かそんな風に聞こえたんだけどな~。」
後詰め役だった近藤は、
当時のチャラ男と金髪エルフさんとの会話を、影から聞いていたのだが、聞き流す程度だったため自信がなかった。
星野「まあ、例え連れの人がいたとしても、どうやって探すかだな。」
渡邉「確かにな。それより、ないとは思うが、こんな所、エニカとルイ、あと"ラシュ"に見られたら大変だな。」
"ラシュ"とは、
微食会が納涼祭前の一件で知り合った。
ヴァンパイアにして、
ダクリロード家のお嬢様。
ラシュリーナ・ダクリロードの事である。
微食会の男たちからは、
近藤の嫁として扱われている。
実際、エルフ派の近藤ではあるが、
珍しい金髪ツインテドリルっ娘に、
意外にも満更ではないご様子である。
しかし、残念なことに、
近藤の思いは可愛い妹として接しており、
ラシュも実の兄の様に接していた。
なんか、
どこかで聞いた事のある様な、バカップルである。
近藤「うーん、確かにそうだな‥。ラシュは俺の背中を"自分の物"って言ってるからな。もし、こんなところを見られたら何されるか‥。」
星野「そう深刻になるなって。そうならないために、七人も会場に待機させてるんだからさ。」
渡邉「まあ、実際はこの人混みだからな。本間たちも会場が落ち着くまでは動かないだろう。」
近藤「うーん。‥まあ、大人しいルイに関しては百歩譲って置いといて、問題はエニカとラシュだ。あの二人の内どちらかが動こうとすれば、互いに便乗し合って、強行する可能性がある。」
監視役兼引き留め役の七人に対して、
一抹の不安しかない近藤に、
星野と渡邉は、改めて考えさせられる。
星野「そう言われると‥そうだな。エニカも気の合う友達が出来てから上機嫌だし、勢いに任せて、ルイを捲き込んで動こうとするかもしれない。」
渡邉「だ、だな。そうなれば、早いところエルフさんの連れを探さないと‥。」
可能性は低いが、
1%でも可能性があるのなら、
何とかして解決したいところ。
すると、
近藤の脳裏に単純な解決方法が思い付く。
近藤「いや、冷静に考えてみれば、このまま警察に頼んだ方が良くないか?」
星野「確かに‥。」
渡邉「あ、あはは、そうだ‥警察がいたな。」
夏休み早々から異世界に住み込み、
エニカとラシュリーナの公務の手伝いをしていた十人の男たち。
そのため、異世界慣れをしていたこともあり、現実世界のルールを忘れ、警察の存在をシンプルに忘れていた三人であった。
三人は早速、近くの警察に駆け込み。
事情を説明すると"自爆"の素なので、
適当に迷い人と称して、
金髪エルフを託して去って行った。
しかし、この時の金髪エルフが、
実は、春桜学園の同級生で、
異世界では、名の知れたお嬢様だと言うことは、当然三人は知るよしもないことであった。
まして、
微食会の"三金姫"と、
言われるなど考えもつかないことであった。
その頃。
徐々に人混みが落ち着く
花火会場では、
三人が思っていたより、
頗る良い状態であった。
ラシュ「すぴぃ~♪すぴぃ~♪」
エニカ「スヤスヤ~♪」
一時は、
帰りの遅い三人に対して、
何かに感づき、探しに出ようとしていたが、
残った七人の男たちによる、決死の誤魔化しと説得により、引き留めに成功。
次第に娯楽疲れからか、
エニカとラシュリーナは、
姉妹の様に眠りについていた。
七人の男たちも、
これで一安心かと思った‥。
しかし、
実際はそう甘くはなかった。
そう、
ルイの存在である。
仕置きに出掛けた、
三人はあまり危険視はしていなかったが、
実際現場では、無言の圧に押し潰されそうになっていた。
ルイ「じーー。」
深紅の赤髪美女は、一言も話さず、
ただじっと七人を見つめるだけであった。
トレンドマークである二本のアホ毛は、
どういう原理なのか、小さく左右に揺れ、
不思議と二本とも"?"マークに見えた。
もしかしたら、
まだお腹を空かせているのではないかと、
七人の男たちが思った。
しかし、
空腹を満たすための食料は、
早い段階で、ルイに完食されており、
気を逸らせるための"アイテム"は既に存在していなかった。
それにしても、エニカの実家(城)から、
十人の男たちが総出で持ってきた量を、
あっという間に食い尽くすとは、ルイの胃袋は相変わらず凄いものである。
とまあ、こんな感じの空間で、
七人の男たちは、小声で切り込み隊長役を選抜していた。
本間「おい、せいっちゃん、何か話せよ‥。」
番場「そ、そう言うのは言い出しっぺが言うものだろ?」
茂野「や、やっぱり、近藤を仕置きに向かわせるべきじゃなかったな‥。こう言う時の誤魔化しはずば抜けて上手いからな‥。」
本間「‥でも、どうする。このまま、放置して俺たちが"こそこそ"してたら怪しまれるぞ。もう既に、怪しまれていると思うけど‥。」
ルイ「‥じーー。ん?」
ずっと、視線を逸らさず見つめていたルイが、
何かを察知したのか、視線を駅の方向へと向ける。
小さい行動ながらも、
ルイの近くにいた本間、番場、茂野の三人は、
ルイが向ける視線の先を見るや嫌な予感を感じた。
そのため、本間が思わず話しかけた。
本間「‥る、ルイ?どうかしたか?」
ルイ「‥今‥血の臭いが‥した気がした。でも、すぐに、しなくなったから‥勘違いかも。」
本間「そ、そうか。ま、まあ、出店も出てるから後片付けとかで、怪我でもしたんだろうよ。」
一瞬、"血の臭い"と言うワードに、
三人は固唾を飲んだが、すぐに臭いが消えたようなので一安心する。
恐らく、仕置きされた外道の血の臭いが、
風に流されて来たのだろう。
それにしても、
ルイの気配察知が、あの納涼祭の一件以来、
更に鋭くなっていると実感するのであった。
しかし、三人の男たちは、
そこまで実感しておきながら、肝心な所を見落としていた。
それは‥、仕置きを終えた三人が、
戻ってきた時に明らかになる。