第二百九十三話 後祭のお品書き
二日間に渡る信濃川大花火大会が終わり、
帰路の道のりは、名物とも言える地獄の大渋滞が発生していた。
その規模は、人が道路にはみ出るほどであった。
その頃、桃馬たちはと言うと。
花火が終わってから三十分以上、
会場で待機していた。
いやむしろ、遅めの夕食を取っていた。
シャル「はむはむ、花火に夢中になり過ぎていたせいで、食べ損ねていたのだ‥はむはむ!。」
ギール「こらシャル?食べながら話すのは行儀悪いぞ?」
シャル「むっ?ゴクリ、これでよいであろう?」
ギール「今はな?また、口に詰めながら話すなよ?」
シャル「はむはむ。うむ!わかっひゃのら!」
ギール「ふぅ、全く‥、喉を詰まらせんなよ?」
さすが、
どんな時でも先行してしまうシャルだ。
ギールから注意を促されるも、早速フラグを回収してしまうお転婆っぷりに、まわりの女子たちはほのぼのする。
桜華「はぅ~♪いつ見てもシャルちゃんとギールは、仲が良いですよね~♪」
リフィル「うんうん、"兄妹"、あるいは"親子"、いや"恋人"‥、う~ん!どちらに転んでもぴったりだよね♪」
小頼「そうそう、でも私からして見れば、いい加減付き合ってほしい所よね。」
桜華「シャルちゃんとギール‥ごくり。い、いたいけなシャルちゃんの体をなめ回して‥ぎ、ぎぎ、ギールのお、おお、おち‥を‥ぷしゅ~//」
小頼によって毒された桜華は、
大人びたシャルの姿よりも、今の"身長差"のある展開を予想してしまった。
※毒された原因
小頼商会出版
発情期に入った"けもみみお兄ちゃん"が、
嫌いで好きな義理の妹にお手を出す。より
女子たちが、
ラブラブな二人に盛り上がる中、
当然男たちも同様であった。
桃馬「‥早く付き合えば良いのに。」
憲明「でもそれだと、加茂ちゃんどうするんだよ?」
ジェルド「どうするって、そりゃ淫犬ならではのハーレムコースだろ?俺からして見れば、良いと思うけどな?」
やけに押しを入れるジェルドは置いておいて、
未だに"兄妹"レベルで止まっている二人の関係に、苛立ちを込めていた。
だらしのない先輩たちが、
プチ醜態を晒す中、可愛い後輩たちはと言うと。
満腹と娯楽疲れで、
眠っていた。
シールとエルゼは、
豆太の"もふもふ"の尻尾に抱きつき、
豆太も満更でもない顔で寝ていた。
こんなにも愛らしい光景だ言うのに、
犬神だけ例外であった。
間違った反省のやり方で、再びエルゼを怒らせてしまい、メンタルを"ズタボロ"にされた挙げ句、神としてのプライドも噛み砕かれた。
生まれて初めての感覚に、
犬神は、一人寂しくうずくまっていた。
その哀れで可哀想な姿に、
ディノと加茂は見ていられず慰めていた。
犬神「ひっく‥もう‥だめだ‥、豆太に取られる~。」
加茂「え、えっと‥犬神様‥そう落ち込まないでください。こ、今度は間違いのなく誠意を持って謝れば許してくれますよ。(うぅ、取られるも何も、エルゼちゃんは豆太兄さんと出来てるんですけど‥。)」
ディノ「そ、そうですよ?それに尻尾を掴んで仲良くなるのは、兄さんとシャル様くらいですからね。」
犬神「わふぅ‥、もし我の体がもっと大きくてかっこよければ‥上手く行ったのに‥。」
ディノ「‥え、えっと‥、(そうじゃないと思うのですけど‥。)」
加茂「あ、あはは‥。(うぅ、これじゃあ徐々に嫌われちゃいますよ~。)」
せっかくの慰めも、
犬神の下手な勘違いのせいで台無しとなり、
ディノと加茂は、哀れみの表情で見届けるしかできなかった。
そして、お忘れかと思うが、
超バカップルなルシアと京骨はと言うと、
桃馬たちの前からいなくなっていた。
桃馬「あれ?京骨とルシアどこ行った?」
憲明「ん?あ、そう言えばいないな?」
ジェルド「ん?普通にトイレじゃないか?」
桃馬「二人仲良くか?‥あっ‥いや‥、あり得るか。人が多い所で、ルシアを一人で行かせるわけないもんな。」
憲明「そうそう、何せ京骨は、ルシアがいないと上の空だからな~。」
ジェルド「確かにな、あそこまでバカップルになると、直人とエルンのペアと良い勝負だな。」
桃馬「そ、そうだな、確かに言えてる。そうなると、直人たちも今日来てるのかな‥。」
終わった後で気にするところではないが、
桃馬は従兄弟である直人への恋路‥ではなく、
無事に"新婚花火"を満喫できたのか心配するのであった。
憲明「まあ、見に来ていたとして、リールとエルンのスイッチが入らなければ、無事に帰れるだろうよ。」
桃馬「ならいいけどな‥‥ん?直人‥あっ‥。」
ここで何かを思い出したのか、
思わず桃馬は声を漏らす。
憲明「ん?どうした桃馬?」
桃馬「‥はぁ、しまった‥。直人で思い出した‥。」
ジェルド「な、何か変なことでも思い出したか!?」
桃馬「変ではないけど‥重要な話をな。明日予定していた草津なんだけど、一昨日の夜に直人から連絡があって‥出発が四日から七日になったんだった。」
憲明「お、おっと‥。」
ジェルド「そ、それは重要だな‥。や、やっぱり、テレビとかでやっている"あの一件"が影響してるのか。」
少し遡ること、
八月一日の勉強会が終わり、
ジェルドとギールが、桃馬の襲撃を返り討ちにした日の夜の頃。
突然直人から電話が入り、草津行きの予定変更を申し訳なさそうに伝えられたのだ。
しかし、当時の桃馬は、短時間での宿題を片付け及び、駄犬二匹による襲撃の一件で、かなり疲弊していた。
そのため、直人の話を半分近く空返事で返していたのだ。
そもそも変更の理由は、
そこまで詳しく語らなかったが、
取りあえず、気難しそうに私用と称してお願いしていた。
ここまで聞けば、
テレビとかで騒がれている"政府の世直し"の一件で、全警察機構が駆り出されている事から、草津どころではないと察せられる。
しかし、実際は、
テレビで注目されている"政府の世直し"の件ではなく、単純に直人の姉である稲荷が、ガチの"子作り計画"を練っていたらしく、白備からの知らせで少し時間を空けて行くことを決めたのだ。
その後、桃馬は、
一昨日の気難しそうな直人見たいに、
申し訳なさそうに、みんなに発表するのであった。
当然シャルからのバッシングは、
避けられないと覚悟はしていたが、
意外な反応を見せる。
シャル「な、なんと‥そうなのか。それは少し残念なのだ。きっと、直人の両親も"世直しの一件"で忙しくて、それどころではないのだな。」
ギール「‥‥。」
いつもなら、子供っぽい反応を見せるシャルであるが、ここに来て大人の反応を見せた。
これにはギールも驚き、
無言でシャルを見つめた。
シャル「むっ?どうしたのだギール?」
ギール「お前‥本当にシャルか?」
シャル「っ!ふがぁ~!なんだその言い方は~!」
一時はシャルの大人びた成長にみんなが驚くも、ギールのせいで、一瞬にして"いつものシャル"へと退化するのであった。