第二百九十二話 生きた光
春桜学園、花火部副部長兼、片貝大花火財団、片貝正衛門想花の名に懸けて打ち上がった最後の花火は、
会場中から大歓声を響かせた。
これには、シャルたちも心残す事なく、
ご満悦していた。
一方で、正五尺玉の迫力から、
ギリギリ我に返った"けもみみ"たちは、
想花率いるチームの花火に魅了されていた。
しかし、一部では、
花火よりも想花の力に驚く者もいるわけで‥。
憲明「さすが、代々花火職人の家柄、片貝大花火財団の跡取りだな。」
桜華「ふぇ!?想花さんってそんなすごい人なのですか?!」
桃馬「そうだよ。まあ、知らない人から見ては、不良、あるいは、いたいけなショタを見つけては押し倒す痴女にも見えるけどな。」
小頼「いや~♪想花ちゃんは容姿とスタイルも抜群だからね~♪性格も姉御系だから、おねしょた同人誌の良いモデルだよ~♪」
桜華「ふぇ!?こ、小頼ちゃん!?勝手にそんなことして良いの!?」
小頼「まあまあ、あくまでもモデルだからね~♪特に、"褐色お姉ちゃんに襲われて"シリーズの売り上げは上位だよ~♪」
桜華「あう、そ、そんなに‥。」
小頼の底知れぬ変態創作欲に、
とうとう桜華は、小頼の創作に恐怖する。
もしかしたら、"お母様"をモデルにした物が、作られているのではないかと思うのであった。
そのため、
小頼に思いきって問いただそうとすると、
対面の河川敷から何やら大量の光が輝き始めた。
桜華「こ、これは?」
桃馬「信濃花火最後の名物、光のメッセージだよ。」
桜華「光のメッセージ??と、桃馬は何をしてるの?」
小頼から簡単な説明を受け、桃馬へ視線を向けると、スマホのライトをつけ左右に振っていた。
他にも、
憲明や会場中の人たちが、同じ動作をしていた。
スマホの光も然り、懐中電灯でも、ペンライトでも、魔法でも、光る物なら何でも良い様だ。
会場には、花火とはまた違う光が照らされ、
蛍の様に美しく、そして寂しい想いにさせた。
打ち上げ場からも、多くの花火師たちが、
発炎筒やら、花火部の特性手持ち花火などを振り回していた。
光のメッセージとは、
花火師への感謝と、慰霊と平和を願い。
来年も再び"会おう"と言う意味が込められている。
それ故、しばしの別れと言うこともあり、
寂しさを感じさせるのである。
一方で、
この寂しくも美しい光景に、
シャルたちは、目を奪われていた。
シャル「‥夜の光とは、こんなにも感動させるものなのか。」
ディノ「こ、これは、建物から漏れる光とは違い、ここに広がる光たちは、まるで生きているかの様ですね。」
加茂「~~っ!ぐすん。こんなに沢山の人たちが見ていたなんて‥、ぐすん。すごぎまずぅ~!」
感極まった加茂は、
霊の干渉も受けず純粋に感動していた。
光が徐々に増えるに連れて、
夜空に輝く星々の様に、
地上でも負けず劣らずの輝く星々が、
広範囲に輝いていた。
エルゼ「わふぅ~♪シールちゃんすごく綺麗だね♪」
シール「うんうん!花火もすごかったけど、こんなに、綺麗な光景は初めて見るよ~♪」
豆太「妖怪の温泉街でも、こんなに綺麗な光景は見たことありません!こ、これは‥、化堂里屋でも、使えるかもしれません!」
可愛い狼が見とれている中、
突如、商売魂に火がついた豆太が、妖怪の温泉街や化堂里屋に取り入れようと考え始めた。
それから、光が徐々に消え始めると、
今年の信濃川大花火大会は幕を下ろした。
会場にいる人たちは、
我先にと立ち上がり帰ろうとする。
当然、道はごった返し大渋滞を引き起こした。
そう、信濃花火の最大級の難所‥。
"帰り道"である。
行きの頃は、混みはするものの、まだ人がまばらで来るため、まだ良い方である。
しかし、帰りの場合はそうは行かない。
会場に来られた数十万の人たちが、
一斉に動くため、交通麻痺が確実に起こる。
例外として、空を飛べる者、転移魔法を使える者は楽で良いが、それ以外の者たちはある意味地獄である。
実際、こうならないために、中間に"不死鳥"を置いているわけだが、段々演目が派手になるにつれて、結局最後まで見てしまう現状である。
シャル「す、すごい人なのだ。」
ディノ「大半の人が座っていた分、一斉に立ち上がられると、人の量に圧倒されますね。」
シャル「う、うむ‥、それよりここでも、人間、魔族、亜人などの種族たちが楽しそうにしているのだ。学園でも見慣れている光景だが‥、外でもこんなに共存共栄が、盛んに起きているのだな。」
ディノ「‥平和の象徴ですね。シャル様‥私はこんな素晴らしい光景を見たら争いなんて馬鹿馬鹿しく思えてきます‥。」
シャル「そうであるな‥。余も争いは沢山なのだ。こんなに素晴らしい世界があるのなら、必ず我らの居た世界でも、平和にできると思うのだ。」
ディノ「シャル様‥はい、そうですね。」
シャルの本音を耳にしたディノは、
その平和的思想から安心感を得るのであった。
その頃桃馬たちは、
この大移動に乗じて動こうとはせずに、
落ち着くまで待機していた。
桃馬「ふーん、今年は下手に動けないな。」
憲明「そうだな。俺と桃馬ならまだしも、土地勘のないリフィルたちとはぐれたら大変だからな。」
小頼「うんうん。それに急いで駅に着いても、すし詰めになるだけだしね。ここは焦らず終電を狙った方がいいかもね♪」
さすが、
信濃花火の事情を知っている三人である。
焦って人混みに飛び込まずに様子を見始めた。
桜華「つい皆さんの後を追ってしまいそうになりますけど、実はよくないのですね?」
小頼「そうそう、少人数なら話しは別だけど、今回は大人数だからね♪憲明も言ってたけど、人混みに飲まれて"はぐれ"たりしたら、知らないお兄さんやおじさんに、痴漢されるかもしれないからね~♪」
桜華「ふぇ!?」
桜華の疑問に答える小頼であったが、
少し誇張された返答に桜華は取り乱す。
リフィル「ま、まあ、小頼ちゃんの意見も一理あるからね~♪」
小頼「比較的に安全かもしれないけど、必ず悪い人は紛れているからね~♪特に、私たちの様に"可愛い"女の子は、注意しないといけないからね~♪」
桜華「うぅ、人混みは怖いですね。」
ある意味、人混みの恐怖を教えられた桜華は、
桃馬の袖を掴み怯え始める。
桃馬「どうした桜華?」
桜華「と、桃馬‥、い、家に帰るまで、こうさせて‥。」
桃馬「っ、あ、あぁ‥いいけど。(な、何があったんだ?)」
女子トークの内容がわからない桃馬は、
訳もわからず、怯えながら袖を掴む桜華を抱き寄せた。
この光景に、
小頼は色んな意味で期待するのだが、
十分、二十分経っても進展のない展開に、
顔をひきつっていた。
小頼「‥ちっ。(桃馬の腑抜け!少しは、暗闇に乗じて、桜華ちゃんを襲いなさいよ!スカートの中に手を入れて‥"自主規制"とかしなさいよ!)」
日々同人誌のネタを求める小頼は、
最大級のチャンスを目の前にして、イライラを見せるのだった。