第二百九十一話 片貝花火
突然発表された予想を越えるサプライズに、
信濃花火のプログラムを大体知っている桃馬、憲明、小頼の三人は驚愕した。
一方、
大体の流を掴めていない者たちはと言うと‥。
シャル「ほぅ~!それは‥すごいのか?」
ディノ「お、おそらく、三尺玉より大きい物かと思われますね。」
シャル「おぉ~!それは楽しみなのだ!それと、加茂よ?お主ずっと泣いておったが大丈夫なのか?」
加茂「ひっぐ、大丈夫ではありまぜんよ~。」
一から最後まで霊の感情を受けて泣いていた加茂は、目を真っ赤に充血させ、鼻声の状態で返事を返した。
シャル「うむぅ、かなり面倒な体質なのだな。」
ディノ「おそらく、神様の力が強すぎて霊たちが集まってるのかもしれませんね。えっと‥確かこういう時‥南無南無、」
加茂「ひっぐ、ディノお兄ちゃん‥ひっく、僕はひっく、神社の神様なのに‥ひっく、。」
シャル「ぬはは♪加茂は可愛いからな~♪霊たちが寄って来るのも納得なのだ♪」
加茂「ひっく、皮肉にも‥花火を‥ひっく、だのじめまぜん。」
再び霊たちの感情を受信してしまい、
泣き出してしまう加茂様。
これにはシャルも、
思わず同情するのであった。
更に一方では、正三尺玉より大きな花火が打ち上がると言う事で、不安になる者もいるわけで‥。
豆太「に、兄さん、この耳栓大丈夫なのでしょうか?‥ふぇ!?な、何してるのですか!?」
一抹の不安にかられる豆太は、
"耳栓の機能に影響はないのか"と、
ギールに訪ねようと振り向いた。
するとそこには、
犬神様をもふり倒している、
ギールとジェルドがいた。
犬神は、よだれを垂らすほど蕩けきっており、
ピクピクと体を跳ねさせている。
豆太「に、にに、兄さん!?」
ギール「ん?どうした豆太?」
豆太「あっ、えっと‥四尺玉が‥。」
豆太がギールと話しかけた瞬間。
聞き覚えのある大きなサイレンが鳴り響いた。
ギール「っ!?な、なんだ?また三尺玉をあげるのか?」
ジェルド「そうみたいだな。でも、これをつけてるから怖いものはないさ。それより、こいつを"もふり"ながら見ようではないか♪」
豆太の声も二人の声もサイレンでかき消され、
もう間に合わないと悟った豆太は、一抹の不安を抱えながらも見守ることにした。
サイレンが鳴り止むと、
正三尺玉が打ち上がるより大きな音が響いた。
緊張と期待、不安などの思いが入り乱れる中、
重たそうに打ち上がる正四尺玉が、夜空に正三尺玉を越える轟音と共に弾くと、広範囲に冠型の"千輪"が花を咲かせた。
思わず耳を塞ぎそうになる程の迫力に、
"けもみみ"たちは、尻尾を直立させた。
会場では、大歓声と拍手が起きる中、
立て続けに、正五尺玉が打ち上がる。
四尺玉より更に大きな打ち上げ音に、
会場からは、上がれ!上がれ!と木霊し、
見るからにも危険そうな花火が天高く打ち上げられた。
夜空に巨大な花が咲くと、
全身に伝わる衝撃と勇ましい轟音と共に、
"冠"が花を咲かせ、そのまわりには大量の"千輪"が咲いた。
会場からは今日一番の大歓声が響き渡り、
拍手喝采が起きた。
シャル「すこいのだ!すこいのだ!」
ディノ「こ、これは見事です!」
加茂「はわわ!?な、なな、なんですかこれは!?」
これにはシャルも、
大興奮で喜んでいた。
加茂も迫力ある花火に、
霊たちから解放されたのか、
驚愕していた。
桃馬「うわぅ~、すっげぇ~、威力だな。」
憲明「三尺でも、体に響くってのに‥五尺になると、身がすくんでしまうな。」
小頼「だ、だね~。確かにすごいけど‥、私は四尺までで良いかな~。」
現実世界出身の三人は、
初めて見る正五尺玉に驚くも、
凄すぎる故に、評価はあまり高くなかった。
ましてやこれで、
魔法とかで抑えられているとすれば、
海まで持っていかないと、安全に見れないだろう。
心臓に難ある人や耳の良い種族たちには、
おすすめできないものだ。
そう、目の前の"けもみみ"たちみたいに。
ギールとジェルドは、
犬神の耳と尻尾を強く握りしめながら、
まるで双子の様に耳と尻尾を直立させ、
放心状態となり。
その頃犬神は、
敏感な箇所を急に強く握られ、
気絶。
更に更に、
ビックリした豆太は、
死んだふりをしている。
しかし、
エルゼとシールは、尻尾と耳を立てるものの、
気絶はしていなかった。
その代わりに、姉妹の様に抱き合っていた。
まわりの獣人たちも同様に、"チラチラ"と気絶したり、落ち着きが無くなっていた。
恐らく今後、
信濃花火に正五尺玉の打ち上げは、
当分ないだろう。
そもそも、
昨日打ち上げても中止にしない辺りがすごい。
打ち上げたとしても、
更なる研究と研鑽を積むことが、
今後の課題となるだろう。
桃馬「おーい、"けもみみ"たちよ?大丈夫か?」
可愛い"けもみみ"たちが、
正五尺玉に圧倒される中、
桃馬たちは、信濃花火の最後名物が始まる前に、何とか、起こそうとするのだった。
が‥。
アナウンス「見事な正五尺玉いかかでしたでしょうか?昨夜の世界初の打ち上げ成功に続いて、今宵も見事に咲かせました。そして本日は、もう一つサプライズがあります。」
まさかの、
サプライズが、まだあると言う知らせに、
会場からは拍手と歓声が木霊する。
すると、
アナウンスから聞き覚えのある声が響き渡った。
?「やぁやぁ、信濃花火をご覧の皆様、今年最後の信濃花火はいかがでしたでしょうか?最後に相応しい見事な正四尺玉と正五尺玉でしたが、ここで終わらせては、味気無いと思いませんか?」
謎の男勝りな女性の声に、
会場中が、大賛同する。
そんな中でも、
桃馬と憲明は声の主について考えていた。
桃馬「うーん。この声‥どっかで聞いたことあるな?」
憲明「確かに‥。でも、どこでだろう?」
小頼「‥もしかして、想花ちゃんかな?」
桃馬&憲明「そうだ!五組の片貝想花だ!」
小頼の答えから、桃馬と憲明は声をあげた。
代々花火職人の家系で、春桜学園では花火部の副部長にして次期部長である。
銀髪高身長で健康的な褐色肌を持ち、
胸の谷間を大胆に開き、羞恥心を感じさせない姉御肌を見せつけていた。
しかし、ここは公共の場、
桃馬たちもしっかりとした服装をしていると思っていた‥。
実際の服装はと言うと‥。
上半身は、
さらしで胸の辺りを巻き、
法被を羽織るだけで前はオープン。
そして、袴姿と言うハレンチな姉御ファッションとなっていた。
この時の片貝想花は、
昨日と今日で、信濃花火の作業員として活動していたのだ。もちろん、花火部の見学と体験込みである。
そんな想花が、何をするのかと注目する中、
驚きの発表がされる。
想花「それでは、正四尺玉と正五尺玉に花を持たせるための、最高の花火をご覧にいれましょう!春桜学園、花火部副部長兼、片貝大花火財団、片貝正衛門想花の名の元に、尺玉五十連、三尺玉五発一斉打ち上げを行います!」
前代未聞過ぎる今年の信濃花火に、
会場中から再び歓声が響いた。
想花は"いつもの"アナウンスの人に代わると、直ぐに打ち上げ開始の合図を流すのだった。
五ヵ所打ち上げ場から、
五発の一尺玉が一斉に打ち上げられた。
のっけから迫力ある光景に、
再び、夜空が明るく照らされた。
そして、一尺玉五十連発が終わると、
直ぐに、五発の正三尺玉が打ち上げられた。
"冠"、"千輪"、"冠"、"千輪"、"冠"
の並びで打ち上げられ、
最後に相応しい締めで終わった。