表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
290/431

第二百九十話 世界一と万物一

今年の信濃花火、

最後の正三尺玉が打ち上げ終わり、

気がつけばクライマックスの一尺玉百連発に迫っていた。


振り替えれば、

ナイアガラ、不死鳥、正三尺玉の他


紹介はしてませんが、

昔からある、

カラフルながら短いワイドスターマインや

"この空の花"、"故郷はひとつ"など、

素晴らしい演目で染められていた。


※ちなみに、"この空の花 "の演目は三日の花火で、前日の二日には"天地人"と"なっている。

詳しくは、ユーチューブにて。


ディノ「うーん、次で終わりみたいですね。」


シャル「ぬわっ!?もう終わるのか!?」


桃馬「信濃花火は、後半から早く感じるからな。」


憲明「確かにな、はぁ‥これが終わると不思議と夏休みが終わった気分になる。」


シャル「そ、それは大袈裟すぎないか?夏休みは始まったばかりだぞ?」


夏休みが始まってから一週間と数日。


まだ、四週間もあると言うのに、

気が早いと思う憲明に、シャルはツッコむと、

小頼から驚きの言葉がかけられる。


小頼「クスッ♪シャルちゃんの気持ちは良く分かるわ♪でも、憲明が言っていることも満更でもないよ♪」


シャル「ど、どういう事なのだ?」


ディノ「ま、まるで、これから風の様に過ぎていく様な言い方ですね?」


小頼「そうそう♪二人にも時期に分かるわよ♪」


未だ、言葉の意味がわからないシャルとディノは、後にこの言葉の意味を理解し、長い様で短い夏休みを振り返る事になるのであった。



一方、その頃。

寂しがり屋の犬神様は、

何とかここでエルゼと仲直りをしようと、

一世一代の賭けに出ようとしていた。


犬神「わふぅ‥(このまま花火を見るだけで終わってしまうのは心許(こころもと)ない‥、こ、こうなったら、エルゼに男らしさを見せて印象を良くした上、爪痕を残さないと。)」


犬神は、エルゼの背後にそっと近寄ると、

あろうことか、尻尾に手を伸ばした。


シール「きゃふっ!?」


犬神「っ!?」


すると、

何故かエルゼの隣に居たシールが、

突然声を挙げた。


正直暗くて前がよくわからない犬神は、

エルゼの後ろに回れば必然的に、エルゼの尻尾があると愚かしくも考えたのだ。


しかし、実際は、

エルゼとシールの尻尾は互いに交差しており、

エルゼの後ろにはシールの尻尾が合ったのだ。


そうとも知らない犬神は、

訳もわからずシールの尻尾を掴んだまま、

固まってしまった。


エルゼ「わふっ!?シールちゃん!?どうしたの!?」


シール「わふぅ、誰かに尻尾を‥あれ、犬神様?」


当然シールは、感じる尻尾の方に視線を向けると、エルゼの背後に(しのび)寄り、自分の尻尾を掴んで固まっている犬神がいた。


同時に、エルゼも後ろを振り向き犬神を見ると、

ゴミを見る様な冷たい眼差しで、白い"もふもふ"を逆立て始めた。


エルゼ「何してるのですか‥犬神様。」


犬神「わふっ!?あ、いやこれは‥その‥ち、違うんだ!?お、俺はただ‥エルゼと仲直りしたくて‥ひっ!?」


エルゼ「じゃあ‥もし‥私の尻尾だったら‥何するつもりだったのですか‥。」


犬神「あ、いや‥えっと‥。」


変態染みた犬神の行為に、

温厚なエルゼから異様な圧が放たれる。

それは、神ですらも恐怖させる静かな圧で、

犬神は本能から危機を感じて言葉を失った。


すると、

動揺しつつ困惑する犬神に対して、


とうとうエルゼは、

本来持ち合わせていた"本能"を目覚めさせてしまう。


エルゼ「この変態‥、あなたは神様ではなく、クズで変態な‥最低な淫獣です!」


犬神「へぶっ!?」


シール「きゃふっ!?エルゼちゃん!?」


エルゼは犬神に対して、

"犬神"としての尊敬を全て消し去り、

大胆にも犬神と言う淫獣に、渾身のビンタを浴びせるのであった。


これも神からのイタズラなのだろうか、

ビンタと同時に、祝福とも思える様な一尺玉百連発の花火が始まった。


これには、

黙って見守っていた桃馬たちは笑い、

救い様のない犬神の姿に対して色んな感情が漏れる。


桃馬「ぶっ!またやらかしたな~♪」


桜華「あ、あはは‥、ひどい展開ですね。」


ギール「‥犬神の野郎。終わったらお仕置きしてやる。」


ジェルド「そうだな‥。俺のエルゼに痴漢をするとは‥"(おとこ)"として許せないな。ギール‥、俺も少し噛ませろよ。」


ギール「もちろんだ。シャルは‥見てないからいいか。全く、呑気なものだ。」


シャルにも判断してもらおうとしたが、

ディノと共に一尺玉の花火に夢中であった。


憲明「犬神様って‥もしかして、わざとやってるのか?」


小頼「うーん、悪意はある見たいだけど、上手く行かないようだね~♪」


最後のクライマックスだと言うのに、

犬神に気を取られつつも、轟音と共に咲き誇る花火を見上げた。


終盤には、不死鳥の演目に負けず劣らずの、

空一面に咲く花火に圧倒され、儚くも消えていった。


会場からは最後に相応しいと言わんばかりの、

大歓声が上がり、大いに盛り上がった。



そして、ここから‥。


匠の花火と言う、日本全国からの花火師による。独特で個性ある単発花火が打ち上がって終わるのだが‥。


今年に限っては、

とんでもない花火を打ち上がろうとしていた。



実際には、

二日の日にも打ち上げられたそうだが、

この時の桃馬たちは、知る由もなかった。



今年の匠の花火は魔法等を取り入れたことから、安全面がかなり確保されたため、禁断の花火に力を注いでいた。


そう、

"世界一"大きな花火とされる正四尺玉を始め、

"史上初"にして"万物一"となるであろう。

"正五尺玉"が打ち上げである。


普通こんな河川敷で正四尺玉を上げる時点で、

かなり危険行為であり、夢の様な事である。

しかし、今の時代は、一工夫を(ほどこ)せば、それすらも凌駕(りょうが)する時代である。



そして桃馬たちは、

そんな大きな花火が打ち上がるとは知らずに、

個性豊かな匠の花火を見ていると、アナウンスから耳を疑うような話が舞い込んできた。


アナウンス「それではここからは、信濃川大花火財団より、特別なサプライズ花火をお届けしたいと思います。」


会場にいる人たちは、

待っていたかのように大歓声をあげた。


桃馬「な、なんだ?終わりじゃないのか?」


憲明「何か、まわりの人たちが凄く歓声あげてるけど何やるんだ?」


小頼「サプライズって言ってたけど、何かのスターマインかな?」


いつもの通例を知っている三人だが、

見たことないまわりの歓声に疑問を持っていた。


シャル「なんじゃ?まだ、あるのか??」


ディノ「みたい‥ですね?」


シャル「まあ、何かやるのなら楽しみなのだ!」


ディノ「はい♪そうですね♪」


終わりを受け入れていたシャルとディノも、

何かが始まると思うと、わくわくしていた。



アナウンス「今年起きた、草津事件、帝都事件などの悲しき争いによって、数多くの命を落とされた方々への慰霊を込め。この共存、共栄の素晴らしき世界の永遠(とわ)の平和を願い。世界一の正四尺玉、そして、史上初にして万物一と(うた)われる正五尺玉の打ち上げを行いたいと思います!」


アナウンスからの宣言に、

会場からは更なる大歓声が木霊した


桃馬「な、ななっ、なんだと‥。」


憲明「こ、こんなところで、そんな花火を打ち上げるのか!?」


小頼「こ、これはすごいことになりそう!」


予想を超える。

慰霊ながらも異例的な展開に、

三人は思わず背筋を震わせたのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ