第二百八十八話 獣も驚く正三尺玉
突如鳴り響くサイレン音に、
"不死鳥"の演目で唖然としていた、
シャルたちが我に返った。
シャル「むわっ!?い、いきなりどうしたのだ!?」
シール&エルゼ「わふっ!?お、お兄ちゃ~ん!」
慣れないサイレン音に怯える二匹は、
後ろに座っている二匹の兄たちに抱きついた。
ジェルド「おっと、どうしたエルゼ?」
ギール「あはは、もしかして驚いたか?」
ジェルドとギールは、
怯える二匹を落ち着かせるために頭を撫でると、
二匹の"けもみみ"少女たちは小さく頷いた。
しかし、その怯えを落ち着かせる前に、
一発の大きな花火が打ち上がった。
シャル「ぬわっ!?な、何かデカいのが上がったぞ!?」
豆太「っ!この音は‥ま、まさか三尺玉!?」
ディノ「えっ?」
打ち上がる際の音と、
重そうに打ち上がる昇曲導付の花火に、豆太は急いで耳を閉じた。
すると、巨大な花火は、
形は崩れながらも轟音と共に咲き誇った。
ギール&ジェルド「わふっ!?」
エルゼ&シール「きゃふっ!?」
シャル「うおぉぉ~っ!凄いのだ!」
ディノ「す、すごい‥まるで爆裂魔法でも打ち込んだみたいですね。」
たった一発ではあるが、
その迫力ある花火に、会場中が大歓声を上げた。
シャル「す、凄いのだ!凄いのだ!余は、こんな大きな花火を見たのは初めてなのだ~!」
ディノ「大きくて迫力があるけど、最後は儚い‥。し、痺れます!」
豆太「うぅ~、(耳がキーンってする~。)」
想像を越える素晴らしい正三尺玉の花火に、
シャルとディノは大喜びであった。
しかし、
"けもみみ"たちはと言うと、咄嗟に耳を塞いだ豆太でさえ耳にキーンっと響くん中、
耳を塞がず聞いてしまったギールとジェルドたちは、驚きのあまりショタ化し、耳と尻尾を直立させながら、エルゼとシールを抱き寄せた。
当然、四匹の敏感な耳は、悲しいことに"キーン"っと、耳鳴りがするのであった。
ギール「あわわ‥み、耳が~。シール大丈夫か~。」
シール「わ‥わふぅ~。」
ジェルド「うぅ~、耳がキーンって響く‥。エルゼは大丈夫か?」
エルゼ「ふにゅ~。」
聴覚が極めて優れている獣人族にとって、
正三尺玉の音を近くで聞くと言うことは、イヤホン越しから音楽を大音量で聞くような物である。
加茂「はわわ!?犬神様~!?」
犬神「ぶぶっ‥。」
そのため犬神に至っては気絶していた。
さすがのこれには、
桃馬たちも心配する。
桃馬「だ、大丈夫かお前たち!?」
桜華「はわわ!?な、何が起きたのですか!?」
小頼「ありゃ~、これは獣人族の"あるある"な話だね。」
桜華「ふえっ!?そ、そうなのですか!?」
小頼の言う"あるある"のレベルは分からないが、もし、今気絶している犬神レベルなら大変である。
小頼「まあね、犬神くん見たいに気絶するケースや、怯えて震えるケース、後は、放心状態になるケースかな♪」
桜華「えぇ!?そんなに例があるの!?」
どうやら気絶のケースは、
"あるある"の部類のようだ。
しかし、そこまで例があるなら対策とかは、
どうしているのか気になるところ。
辺りを見渡せば、
もちろん獣人のお客さんも多くいる。
しかし、小さくなったり、怯えたり、
気絶する人は見当たらなかった。
すると、
桜華の疑問に察した小頼は、
簡単な種明かしをする。
小頼「桜華ちゃん♪桜華ちゃん♪もしかして、まわりの獣人たちが、あんなに凄い花火を肌で感じたのに、どうして普通にしているのかって、疑問に思ってるでしょ??」
桜華「っ、う、うん。見たところ、豆太くんは軽症みたいだけど、ジェルドたちはどうして"あるある"に該当してるのかな?」
小頼「それは簡単だよ♪単に耳栓をしてなかっただけだよ。」
桜華「み、耳栓!?」
小頼「そう、それも獣人用のね♪」
"あるある"の原因理由が、
あまりにもシンプルだったので桜華は驚いた。
桜華「で、でも、耳栓なんかしたら花火の音が聞こえないんじゃ?」
小頼「だから、獣人用の耳栓を使うんだよ♪私たちが使うと普通の耳栓だけど、聴覚に優れている獣人族が使うと、人並みの聴力になるみたいだよ?」
桜華「そ、そんな便利アイテムが‥。」
小頼「でも、まさかみんな着けてなかったなんて‥、ここに来る道中で説明したのに‥。」
桜華「えっ?そんな前から!?」
小頼は、説明したと言ってはいるが、
実際は、小頼たちが河川敷に入った時にボソッと話した程度であった。
当然、
更に人が混み始める所で注意を促されても、
話を聞けるわけもない。
まして、
小頼以外ほぼ、"信濃花火"は未経験である。
小頼「まあ、忘れてたのなら仕方ないわ。三尺玉はもう一回打ち上がるから、その時につけさせよう。」
シャル「なぬ!?もう一回打ち上がるのか!?」
シャルが、小頼の情報を受信すると、
嬉しそうに小頼に聞き返した。
小頼「そうよ♪しかも、今年の三尺玉は例年通り、一夜ごとに二回だからね。」
シャル「ほぉ~!と言うことは昨日も打ち上げたのだな?」
小頼「クスッ、今日のシャルちゃん食いつくね~♪」
シャル「あ、当たり前なのだ!これ程まで見たことのないものが、見れておるのだからな!」
ディノ「も、もう一度あれが、見れるだなんて‥楽しみです!」
正三尺玉のおかわりを耳にして、
心から喜ぶシャルとディノ。
気づけば演目は進み、
再び迫力ある正三尺玉が打ち上がる事を楽しみにしながら、シャルとディノは花火を見上げていた。
ちなみに、
"あるある"に囚われた獣たちは、
桃馬たちが尻尾と耳を撫でることで、
一瞬で落ち着きを取り戻したのであった。