第二百八十六話 不死鳥に想いを
信濃川大花火大会の花火は、
どの演目も飽きさせない素晴らしい花火だ。
しかし、そんな花火大会でも欠点はある。
それは風である。
なぜなら、超大型のスターマインが凄すぎるため、風の強さと向きで、煙に隠れてしまう事が多々あるのだ。
そのため、超大型の後には必ず控えめの大型のスターマインを入れて煙調整を行うわけだが、過去には風が吹かずに煙が停滞し、序盤から超大型スターマインが煙で隠れる例や、目玉の三尺玉がスッポリ隠れてしまう事態もあった。
更に最悪な例がある、
当時、三尺玉は二回見れるチャンスがあった。
シンプルに三尺玉一発の打ち上げ。
そして、長生橋のナイアガラに続い、花火玉の大きさの見比べと言うものがあった。
シンプルの三尺玉一発打ち上げ、
超大型の煙により見えず、
二度目の長生橋ナイアガラと花火玉の大きさ見比べでは、
ナイアガラの煙が原因で三尺玉が打ち上がっても切れっぱししか見れないと言う事があった。
当然会場からは"え~~っ!"と言う落胆する声が木霊する始末であった。
※確か‥。作者の記憶より。
そして、今日の風は極めて良好。
しかし、今の時代は魔法があるので、環境面を考慮して長年問題となっていた煙の回収が可能になっていたため、風の心配はなくなっていた。
そのため、ここ数年間、
煙によるトラブルはゼロとなっている。
※全く羨ましい時代である。
そして、時間は進み前半最後にして、
復興祈願の象徴たる"不死鳥"が天高く舞おうとしていた。
アナウンスから"復興"と言う最初の言葉が出た瞬間。会場からは、大歓声と拍手が巻き起こった。
シャル「っ!急に皆どうしたのだ!?」
ディノ「な、なんだか始めの頃よりテンションが高い気がしますね?」
桃馬「そりゃそうだろう。なんせ、次の演目はこの信濃川大花火が誇る最大級にして、日本三大花火と言われる由縁が始まるんだからな。」
シャル「おぉ~!」
ディノ「で、でも、それならどうして前半最後なのですか?」
桃馬「えっと、確かに昔は最後だったんだけど、そうなると色々問題があってね。」
ディノ「色々‥ですか?」
理由は色々あると思うが、
恐らく半分以上は"あれ"である。
憲明「シンプルに交通麻痺が起こるんだよ。」
ディノ「な、なるほど‥。」
桃馬「当時の帰りは、車だと二時間以上動かないし、電車と新幹線は当然麻痺。しかも、道路に人がはみ出る始末。ただでさえ狭いところなのに、よく一日で四、五十万人も来るよな。」
桃馬たちが、昔話に浸っていると、
小頼から声をかけられる。
小頼「ほらほら桃馬、憲明?そろそろカウトダウンだよ?昔話はあとにしなよ?」
桃馬「お、いよいよか♪」
小頼の言う通り、
アナウンスから打ち上げのカウトダウンが、
呼び掛けられた。
会場からは一斉に、
五、四、三、二、一、とカウトダウンすると、
"ジュピター"の曲と共に、
打ち上げ幅約二キロメートルにもなる、十ヶ所の打ち上げ場から同時に花火が打ち上がった。
約五分にも渡る、超時間のスターマインに、
見慣れない異世界出身のシャルたちは、口を開けて圧倒されていた。
曲の中盤には、
不死鳥の形をした花火が打ち上がり、
今宵も夜空へと飛び立った。
最後を飾る曲の終盤では、
一尺玉の連続打ちが始まり、シャルたちは徐々に高く昇る花火に思わず背中をつけて見始める。
そして最後は、
不死鳥の形をした花火が打ち上げられ、
今年もまた、祈りを込められた"不死鳥"は旅立って行った。
感動的で色鮮やか、絢爛豪華な迫力に会場中から歓喜の声と拍手喝采が起きた。
その頃、
異世界組はと言うと、
シャルたち癒し組は、
魂が抜けたかの様に"ぽけぇ~"っとしており、
もう一方の、
ギールたち異世界組は、
迫力満載ながらも儚い花火に感動していた。
ギール「ごくり‥、ひ、久々に近くで見たけど、す、すごいな。」
ジェルド「あ、あぁ‥。」
加茂「びゅえぇ~ん!な、なみだぁがぁどまりぃまぜぇん~!」
ギール「か、加茂!?お、おい!しっかりしろ!?」
リフィル「うぅ~、映像で見るよりすごいよ桜華ちゃ~ん!」
桜華「うんうん!心が揺れますね♪」
この様に大感銘を受けていた。
しかし、
信濃川大花火で感動する演目は、
他にも多くある。
正直"不死鳥"だけで、
感動するのは"にわか"である。
その証拠に、現実世界出身者たちは、
感想を述べながら次の演目を待ち構えていた。
桃馬「いや~、今年もすごいかったな~。」
憲明「だな、今年も見られて本当によかった。」
小頼「ふへぇ~♪爽快だね~♪」
桃馬「‥異世界の連中に黙って見せつければ、争いなんて馬鹿馬鹿しくなるだろうにな。」
憲明「‥確かにな、でも、それても完璧な平和は皮肉にもこの世には存在しないんだよな。」
桃馬「あぁ、その通りだ。平和は象徴されるから意味がある。一人でも平和を祈れば、地獄の様な争いも小さくなる‥、悲しい話だけどな。」
小頼「こらこら二人とも?そんな暗い話しはしないの。」
桃馬「っ、わ、わりぃ。」
憲明「ごめんごめん、ついな。」
感情に入り込みすぎた二人は、
小頼に注意を促され我に返った。
気づけば花火の演目は進み、
箸休めの大型が打ち上がっていた。
そんな中でも、
未だにシャルたちは、ぽけぇ~っとしていた。
シャル「ほへぇ~。」
犬神「わふぅ~。」
エルゼ&シール「わふぅ~。」
ディノ「‥はっ!?わ、私は何を‥。っ、シャル様?」
シャル「ふへぇ?」
ディノの呼び掛けに、
覇気のない返事で返すと、
ディノは慌てた様子で再度呼び掛ける。
ディノ「し、しっかりしてください!シャル様!?放心状態になってますよ!?」
シャル「‥放心?‥ディノは何を言ってるのだ??」
ディノ「えあっ、そ、それはその‥。(まずい、先程のインパクトが強すぎて、完全に我を忘れてしまっている!?)」
シャルからの返答は有るものの、
声に覇気がなかった。
しかし、シャルの事ばかり気にしていると、
エルゼやシール、豆太、犬神にも目が入り、
四人ともシャルと同じように、ぽけぇ~っとしていた。
この状態では、
先程の花火ばかりに捕らわれ、
他の演目が見えなくなってしまう。
気づけば花火の演目も、
"不死鳥"が飛翔してから三番目に入ろうてしていた。
すると、河川敷中に思わず警戒してしまいそうなサイレン音が木霊するのであった。