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第二百八十五話 慰霊の花火

小頼たちが用意した補給物資に、

色々とツッコミを入れたいところだが、

さすがに(おおやけ)の場で、下手に目立ちたくない桃馬と憲明は、"ぐっ"と(こら)えて我慢した。


対して、二人を除く同胞たちは、

相変わらず賑やかに戯れていた。


そして時刻は、十九時十五分。

太陽は山に隠れ、辺りが少々薄暗くなる頃。


ギール(いじ)りに飽きが出始めたシャルは、

楽しみのあまり、"そわそわ"し始めていた。



シャル「むぅ~、ま、まだ始まらぬのか~。」


ディノ「えっと‥確かパンフレットには、十九時二十分から始まると書いてありましたから‥えーっと、あと五分足らずですね。」


シャル「ご、五分だと!?むむ~。」


まるで子供の様な反応に、

"現実世界"出身の者たちが微笑む。


桃馬「シャルを見ていると、俺も昔はあんな感じだったな~って思うな。」


憲明「わかるな~、その気持ち。楽しみが先行しすぎて待ちきれないんだよな。」


小頼「そうそう、避けては通れない道よね~♪」


桜華&リフィル「っ!」


三人の会話を聞いた桜華とリフィルは、

思わず"ドキッ"とした。


二人は黙っていたが、

実際二人もシャルと同様に、楽しみが先行し過ぎて、"そわそわ"としていたのだ。


特に、憲明の"子供あるある"みたいな話し方には、思わず恥ずかしさから赤面するのだった。


するとリフィルは、

恥ずかしさを誤魔化すため、

大胆にも憲明の背後から抱きついた。


憲明「うわっ!?り、リフィル!?いきなりどうした!?」


リフィル「ど、どど、どうしたじゃないわよ!こ、このばか!た、確かに、わ、私は、た、楽しみにしていたけど、こ、子供みたいに"そわそわ"してた訳じゃないんだからね!」


憲明「な、何を言って‥うぐぐ!?」


動揺しながら墓穴を掘るリフィルは、

更に誤魔化そうと憲明の首に腕を回して、

後ろへと倒れ込んだ。


憲明の背中には、

スタイル抜群のリフィルの体が密着し、

地味に頸動脈(けいどうみゃく)を絞められ苦しそうにしていた。


桜華「り、リフィルちゃん!?絞まってる!絞まってるよ!?」


桃馬「こら憲明、リフィル!?こんな狭いところで暴れんなって!?」


小頼「あはは~♪相変わらずのバカップルだね~♪」


何とも言えない羨ましい展開に浸っている頃。


突如一発の一尺玉が、

(そら)へと打ち上がった。


同時に観客席から歓声が上がり、

見事な赤い"牡丹"が勇ましい音と共に咲いた。


待ちに待ったシャルたちも、

目を輝かせながら大喜びを見せていた。


これを合図に、

会場中にアナウンスが響き渡り、

大歓声と共に拍手喝采が起きた。


そして、信濃川大花火大会の開催に先立ち、

慰霊の花火、十号花火"白菊(しらきく)"三発から始まった。


ここで小話。

この慰霊の花火"白菊"とは、


歴史上最大の地獄として語られる、

第二次世界大戦太平洋戦争で、命を落とされた戦没者への供花(きょうか)として打ち上げられる花火であります。


一説では、

中越(長岡)大空襲に起きた戦没者への慰霊と平和を祈るための供花(きょうか)として打ち上げられて来ましたが、徐々に慰霊と平和をへの思いが大きくなり、太平洋戦争の第一被害であるハワイ真珠湾で打ち上げられたり、震災で失くなられた方へ慰霊、世界の不幸を(いた)み、平和を願う物として打ち上げられている。


他諸説あり。


一発ずつ打ち上げられる"白菊"は、

勇ましい音と共に白色の花を咲かせ、

一瞬で(はかな)くも消えていく。


三発ながらも堂々とした、見事な花火である。



会場から拍手と歓声が上がる中で、

シャルたちも声を上げるかと思ったが、

意外にも大人しく真っ暗い空を見上げていた。


そしてその近くでは、

加茂様が涙を浮かべていた。


ギール「っ!か、加茂!?ど、どうした急に!?」


加茂「うぅ、うぐっ‥、亡くなられた方々の‥ひっく、情が移っちゃって~、ずみまぜん。」


桃馬「な、亡くなられた方々って‥それらしき人は見えないけど。」


ギール「くんくん、た、確かに‥。」


加茂「ひっく、おぞらぐ‥ぎょうごづさんならみえるがど~。」


ろれつが回らない加茂に、

なんとなく"京骨なら見える"と聞こえたので、京骨に聞いてみることにした。


が~。


京骨は上を向いているどころか下を向いてルシアにもたれかかっていた。そしてなぜか、腰辺りには膝掛けの様な物がかけられており、何やら"もぞもぞ"としていた。


少々暗くてわからないが、

桃馬は何やら二人が"慰霊"の場で、

罰当たりな事を仕出かしていると察知した。


桃馬は、

捲き込まれるのを恐れて直ぐに目線を逸らした。


桃馬「こほん、加茂様?泣くのは良いですけど、序盤で枯らさないでくださいよ?」


加茂「ひっぐ、わがりまじだぁ~。」


見えない幽霊にもらい泣きする加茂さまに構っていると、気づけば次の花火が始まった。


陽気な音楽と共に、

大手大橋から大量の煙と共に突然火がつき始めた。


そう、ナイアガラ花火である。


突然、目の前の橋が燃えている光景に、

何も知らないシャルとディノは慌て始める。


シャル「ぬわっ!?大変なのだ!?橋が燃えてるのだ!?」


ディノ「っ、は、早く消さないと!?事故なら大変ですよ!?」


ギール「ぶっ!?二人とも落ち着け!?大丈夫だなら!」


完全に火事だと勘違いをしているシャルとディノが、ナイアガラ花火を"マジ"で消そうとすると、ギールは慌てて二人の腕を掴んで座らせる。


桃馬「ぷっ、ふふっ!」


小頼「クスッ‥可愛い~♪」


ジェルド「ま、まあ、気持ちはわかるな。」


育った環境もあるが、

未だに中世レベルの常識を頭の中に持つ者には、

これを火事だと誤認しても仕方がない話である。



桃馬「ほら、シャルとディノ?よーく見てみろよ?普通の火事にしては、滝みたいに火の粉が落ちてるだろ?」


シャル「むっ?う、うむ‥確かにそう見えなくはないのだ。」


ディノ「い、言われてみれば‥そうですね。げ、幻想的にも見えますが‥。」


桃馬が簡単に説明してあげると、

二人は誤解だと認識し大人しく花火を見始めた。



一方で、可愛らしい"もふもふ"たちは、

目をキラキラと輝かせながら、シャルとディノをそっちのけで見ていた。


シール「ふぁ~♪綺麗ですぅ~♪」


エルゼ「わふぅ~♪まるで火の滝みたいです~♪」


豆太「す、すごい!これが本場のナイアガラ花火なんですね!」


犬神「‥こ、これはすごい‥‥っ//。(い、いかん、人間の作った者に感心するなど‥‥でも‥。)」


素直な三匹の尻尾が左右に揺れる中、

ツンデレ生意気短パンショタは、素直に喜ばずに葛藤していた。


ナイアガラの火が消えると、"冠菊(かむろきく)"と言われる、信濃川大花火では定番の花火が勇ましく打ち上がった。



シャル「す、すす、すごいのだ~!」


ディノ「ふぁ~♪壮大ですね♪」


序盤からお気に召したシャルは、

まるで子供の様に大はしゃぎをした。


すると、もはや保護者であるギールは、

子供を(しつけ)るかの様に、対応に追われるのだった。






おそらく、分かる人もいると思いますが、

この信濃川大花火大会は、新潟県が誇る長岡花火を参考に作ったら物語の花火大会名です。


実際に、"白菊"三発の打ち上げは、

長岡花火の開幕に必ず打ち上げる慰霊の花火です。


八月二日、三日。

土日と重なれば、来るのも大変、帰りは地獄と言う。車で来る人にとってはトラウマ級の会場である。


それでも、見る価値のある素晴らしい花火です。

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