第二百八十四話 開始までの緊張感
時刻は十八時十分。
小頼たち御一行、桃馬たちと合流。
人混みのレベルが徐々に増していく中で、
迷子と言う最悪の展開を回避しながらも、
無事合流を果たした。
桜華「よかった~♪ちょっと遅いから心配したよ~。」
小頼「心配かけてごめんね♪思った以上の人混みに手間取っちゃってね♪」
リフィル「まぁ、そうよね~、今や河川敷は満席、道は大渋滞だもん。」
小頼「えぇ♪それにしても、良くこんな良いところが取れたわね♪」
三人の女子が他愛のない話をしている中、
歩き疲れた、シャル、エルゼ、シールの三人は、腰を下ろしてくつろいでいた。
シャル「うぅ~、思った以上に遠かったのだ。帰りはギールにおんぶしてもらうのだ~。」
エルゼ「わふぅ~、私も賛成です~。」
シール「‥あぅ。わ、私は‥。」
シャル「っ!や、やっぱり余はディノに頼むのだ!」
一度はギールに甘えようとするシャルであったが、シールの困った表情に続いて、弱々しい声が耳に入ると、直ぐにディノに乗り換えた。
これを聞いたディノは、
少し驚くもシャルの乗り換えに嬉しそうに微笑んだ。
シール「わふっ!?シャルお姉ちゃんどうしたの?帰りの時、お兄ちゃんにおんぶされなくて良いの?」
シャル「よ、良いのだ!よく考えてみれば、疲れてるこの身に"ゴツゴツ"としたギールの背中では眠れないのだ!」
シール「で、でもそれって‥わふぅ。」
ギール「誰がゴツゴツだって~?」
ギールは、荷物をまとめ終わって早々、
シャルの口から自分の名前が聞こえ、嫌な予感を感じたギールは、直ぐにシャルの後方に回り込んでいた。
シャル「ふっ、ギールにきまっふぇ~!?」
完全に悪口であったと認定すると、
ギールは、早速両手でシャルのほっぺを引っ張った。
ギール「ゴツゴツで悪かったな~。」
シャル「ふへぇ~!?いひゃいのらぁ~!?」
シール「シャルお姉ちゃん!?お、お兄ちゃんもここではやめ‥。」
公共の場でじゃれ合う二人に、シールは慌てて止めようとするも、ディノに肩を掴まれ止められる。
ディノ「シールちゃん、お二人はこれでいいのですよ?」
シール「ディノお兄ちゃん‥。でも‥恥ずかしいよ。」
豆太「まあまあ、僕は二人らしくて好きですよ♪」
シール「うぅ~、豆お兄ちゃんまで‥。」
豆太「はうっ!(お、おお、お兄ちゃん‥。ふへぇ~♪)」
未だに、お兄ちゃん慣れをしていない豆太は、
シールの呆れた様な、お兄ちゃん呼びでも喜び、無意識にも尻尾を揺らす。
すると、
左右に揺れる"まふまふ"の尻尾に、
横で見ていたエルゼが無意識に抱きついた。
豆太「はうっ!?」
エルゼ「ふへぇ~、ひんやり~♪」
一件暑そうに見える"まふまふ"の尻尾だが、
触れてみると意外とひんやりとサラリとした感触が伝わっていた。
シール「わふぅ‥。」
気持ち良さそうにしているエルゼの姿につられ、
シールも豆太の尻尾に導かれるのであった。
しかし、こんな平和的な光景でも、
一匹のけもみみショタからして見れば、
残酷な光景であった。
犬神「わふぅ‥エルゼェ~。」
加茂「あ、あはは‥この展開、早くも二度目ですね。」
豆太とエルゼが仲良さそうにしている光景に、
一方的に片想いをしている犬神は、羨ましそうに見つめていた。
狼や狐ならまだしも、
恋敵が一介の豆狸である。
しかも、負けていると言う屈辱的な展開に、
犬神は初めて劣等感を味わった。
一方、桃馬と憲明は、
飲み物欲しさにクーラーボックスの中身を物色しようとしていた。
憲明「はぁ、なんか喉乾いてきたな。」
桃馬「そうだな、流石にこれだけじゃ足りないよな。おーい、京骨~?飲み物が入っているクーラーボックスはどれだ?」
京骨「あぁ、それならギールが持ってたやつだから‥えーっと、これかな?」
京骨が、これと思うクーラーボックスを開けた。
すると、まず目に入って来たのは、飲み物の真ん中に堂々と横に置かれた、"めんつゆ"と書かれた容器があった。
桃馬「‥めんつゆって。」
憲明「おいおい‥まさかコーラと間違えたって言う古いオチじゃないよな?それとも普通に素麺を持ってきたか‥。もし、違うなら‥ある意味"ガチ"だぞ。」
京骨「んなわけないだろ‥。全く誰が入れたんだよ。まあ、検討はつくけど‥。」
突如目の前に現れた"めんつゆ"。
かなりツッコミ所のチャンスだと思われるが、
めんつゆの配置とラベルの向きが祟り、
汁だけに、薄い反応を見せる三人。
某アニメの展開を借りるなら、
コーラと称して手渡しするも、違和感を感じてラベルを見るや、そこには"醤油"と書かれており、"醤油じゃないか!"と言いながら叩きつける場面である。
桃馬「取りあえず‥奥に沈めておこう。」
憲明「だな‥、」
京骨「お、おい!?‥はぁ‥誰かが誤って飲まなきゃいいけど。」
なんと桃馬は、
めんつゆの容器を叩きつけるどころか、
ご丁寧に他の飲み物の下へと押し込み隠すのであった。
これに対して京骨は、
最悪の展開にならない事を願うばかりであった。
桃馬「にしても、飲み物の全部めんつゆと醤油じゃなくて安心したよ。」
憲明「確かにな‥、もしそうなら買い出し班は何をしていたんだって言いたいよ。」
京骨「あ、あはは‥。ぐうの音もでない。」
一応買い物班の京骨は、
反論できるほどの材料はなかった。
桃馬「そうなると、あと二つのクーラーボックスが気になるな‥。」
京骨「それなら、花火を見ながら食べる飯だと思うけど?」
桃馬「クーラーボックス‥二つも?」
京骨「う、うん。」
まあ、今回は十人以上いるから変ではないけども、不思議と伝わる嫌な予感はなんだろうか。
憲明「気になるんなら開けてみるか?」
桃馬「だな、それにしても‥ジェルドと京骨は重そうにしていたけど、一体何を入れてきたんだか‥。」
憲明と桃馬が、
二つのクーラーボックスを開けてみると、
憲明の方は、大量の不揃いおにぎりとスーパーで購入した惣菜が詰められており、至って普通であった。
しかし、桃馬の開けたクーラーボックスには、
生の豚肉に、キャベツ、人参、もやし、玉ねぎ、焼きそば麺が入っていた。
嫌な予感は的中である。
誰が何のために、
"これ"らを入れたのか、わからないが‥。
ここで桃馬の脳裏に、
あの"めんつゆ"の存在が過った。
しかし、鉄板もなければ調理器具もない。
あるとすれば、
布に巻かれた二本の包丁が食材の底に、
隠れていたくらいだろうか。
桃馬「なあ、憲明、京骨?これを見てくれ、こいつをどう思う?」
憲明「ん?うわぁ‥す、凄く‥生々しいな。」
京骨「‥う、うん、まだ家とか、キャンプ場でやるならまだしも‥、完全に観覧席でやるには場違いだな。」
桃馬「だよな。人の少ない下流側ならまだしも‥、てか、鉄板とか無い時点で終わってるよな。」
憲明「それな、てか、誰が持ってきたんだよ‥。まあ、十中八九シャルだと思うけど‥。」
キャンプと混合している様な荷物に、
おそらく、この世界の常識に疎い者の行為だと思われる。
この時点で、
これを用意したのはシャルであると絞り込まれた。
しかし、
シャルに追求して面倒事が起きるのは嫌なので(焼きそばだけに‥)、そのままクーラーボックスを閉めるのであった。