第二百八十二話 場所取りと満車講座
時刻は、十六時四十分。
駅前で視線地獄とも言える空間から脱した桃馬たち四人は、一キロ先にある信濃川河川敷へと到着する。
桃馬「人はいるけど思っていたより、空きがあるな。」
憲明「まあ、俺たちがいるのは大手大橋からちょっと下流側だからな。超激戦区の大手大橋付近から長生橋の間はもう満席だろうな。」
桃馬「確かに、昔一度だけそこから見たことあるけど、明るい内から場所取りが凄かったな。」
憲明「そうそう、昔はテントとか持ってきて、花火大会の二日間過ごす人もいたな。」
桜華「て、テントまで!?」
リフィル「そ、そこまでして見たいのか‥。」
桃馬「あぁ、中には河川敷きの道の端っこに作る人も居てね。帰る時はほんと大変だったな。今は‥まだ見えないけど、そんな頃もあったな。」
昔話に浸る桃馬と憲明に、
未だ経験のない二人の女の子は、
とにかく初めての感覚に浸っていた。
憲明「おっといけねぇ。早いところ場所を取らないと。」
桃馬「だな。取りあえずはトイレに行きやすいあの辺りにしよう。」
桃馬と憲明が動くと、桜華とリフィルは二人に導かれるかのように後を追った。
桃馬と憲明は、緩やかな斜面の中段辺りに大きめのシートを敷いた。
一応直ぐ左には人が行き来する道もあるので、
後から来るシャルたちにも分かりやすいだろう。
それに、下手に斜面の終わり辺りに設置すると、若干花火が見ずらかったり、多くの人が目の前を往来するため、あまりよくない。
信濃花火の場所取りは、下過ぎず、トイレや買い出しに適した所に、陣取るのがポイントである。
安易に空いているからと言って、真ん中とかに場所を取ると、いざという時に動けなくなるのだ。
桃馬「よーし、場所取りは成功だな。後は小頼が無事にシャルたちを連れてくればっと。」
場所取りが完了すると、
桃馬はスマホを取り出し位置情報を送った。
一方その頃、
小頼たちはと言うと、
混雑し始める電車内にいた。
運良く四人席に座れた女の子と男の娘たちは、荷物番をしながら、男たちを立たせていた。
メンバーは、
ギール、シャル、シール、ディノ、豆太、加茂
犬神、ジェルド、エルゼ、小頼、京骨、ルシアの中規模であった。
小頼「あ、桃馬から連絡が来たっと、どれどれ、ふむふむ、場所取りは成功したみたいだね~。」
シャル「おぉ~♪それはよかったのだ♪それにしても、本当に早く場所を取らないと駄目なのか?」
小頼「えぇ♪今の時間で取りに行こうとすれば、まず良いところはないね。」
ルシア「確かにそうかもね。私も去年、ルビアやエルンたちと一緒に見に行ったけど、人が多い分良いところは取れなかったわね。それに、あちらこちらと歩いていると、しつこいナンパも酷くてね。結局、盛った子を残してビルの上から見ていたわ。」
小頼「あ、あはは、サキュバスの悩みだね。特に、この花火大会は日本だけじゃなく、世界中の人たちが見に来るほどの大きなイベントだからね~。」
ルシア「えぇ、"あれ"を見たらやっぱり近くで見たくなるわ。ネットでも見たけど、音楽に合わせての花火は本当に凄いわ。納涼祭で見た"ユキツバキ"の歌と花火の合わせの時もとても胸が踊ったわ。」
小頼「る、ルシアちゃん、以外とハマってるね。」
シャル「う、うむ‥、ルシアがこんなに喜んでる姿を見るのは初めてなのだ。そ、それほど凄いのか。」
魔界の皇国
"シフェルム"の第三皇女殿下を楽しませ、
ハマらせる程の余興に、見たことのないシャルは徐々に気になっていくのであった。
しかし、その隣では、
よだれを滴しながら、
寝ている犬がいるわけで‥。
犬神「ZZZ‥ZZZ‥。」
シャル「‥はぁ、ポチは呑気なのだ~。」
小頼「クスッ♪本当に無防備なショタ神様ですね♪もし、エロ同人ならお姉さんたちに襲われちゃう展開ですよ♪」
ルシア「ふふっ、拘束してア○メしてもずっと、喰われちゃうのよね~♪」
シャル「いっそのこと、三日ばかりサキュバスにでも、預け入れて見ようかの?」
ルシア「クスッ、それなら、紹介するわよ♪」
冗談かはさておき、
気持ち良さそうに寝ている犬神の近くで、
天国か地獄か、犬神に"女性への恐怖を植え付ける"ための合宿計画が練られ始めた。
そしてたまたま目の前にいた、
すし詰め状態のギールは、心の中で犬神に待ち受けているかもしれない運命を笑った。
そして、
すし詰め状態のギールとジェルド、京骨を挟んだ隣の席では、愛らしい光景が広がっていた。
エルゼとシールは、
まるで姉妹の様に肩を寄り添って寝ており、
加茂、ディノ、豆太の三人にもふられていた。
加茂「ふへぇ~♪エルゼちゃんまふまふ~♪」
ディノ「うぅ~、やっぱり、シールちゃんも、た、たまりません。」
豆太「エルゼちゃん~♪可愛い~♪」
"もふもふ"と電車の揺れが心地よかったのか、二匹のけもみみ少女たちは、いくら触られても起きる気配がなかった。
京骨「‥‥こ、この光景はヤバイな。」
ジェルド「あぁ‥エルゼとシールを合わせると破壊力が増すな。」
これには、
さすがのお兄さんたちも"びっくり"仰天であり、すし詰め状態も何のその、ほのぼのしい光景に浸るのであった。
その後、中越駅に着くと、
すし詰めの環境から解放されたい乗客たちが、
一斉に下車し始めた。
その勢いは雪崩の如く、
一瞬で駅のホームは人で埋め尽くされた。
シャル「うわぁ~、凄いのだ。こんな鉄の箱にこんなにも多くの人が乗っていたのか‥。」
小頼「そう驚くものじゃないよ♪イベントの時や朝の通勤通学、夕方の帰宅ラッシュになればこんなの毎日だよ♪」
シャル「う、うむぅ‥これが毎日とな‥。頭がクラクラしそうになるのだ。」
小頼「あはは♪初めはそんなものだよ♪それに、東京とか大きな所だともっと人がいるからね~♪」
シャル「"とうきょう"?‥確かそれは、この国の首都だな?」
小頼「そうそう♪よく勉強してるね♪」
シャル「ば、バカにするでない‥、そのくらいは分かるのだ。」
二人が他愛のない話をしていると、ホームに群がっていた人たちが徐々に少なくなっていった。
ギール「おっ、小頼?そろそろ、降りても良いんじゃないか?」
小頼「ん?あ、そうだね~♪よーし、みんな!ここからが戦場だよ!はぐれたら人生の終わりだと思ってね♪」
シャル「ふぇ!?そ、そんなに恐ろしいことが待っているのか!?」
ルシア「そんな分けないでしょ?小頼も変に脅かさないの。」
小頼「えへへ~♪でも、はぐれたら大変なのは本当だし、このくらい良いと思うけど?」
ルシア「う、うーん、そうだけど例えば、迷子になったら、チャラいお兄さんに声をかけられて、裏に連れ込まれては、凌辱されるとか。」
小頼「うん、ルシアちゃんの方がオーバーだね♪」
ギール「三人とも早くしないと置いてくぞ?」
三人が話してる最中に、
ギールたちは、荷物とおやすみ中のけもみみ三匹を連れ出しホームに立っていた。
その後、
慌てて三人が下車すると、早速桃馬たちが待つ所へ向かうのだった。