第二百八十一話 打ち上げ前の恋愛譚
八月二日、三日は、
信潟県が誇る中越地区の大イベント。
日本三大花火にして、"慰霊と復興"を願った。
信濃川大花火大会の日である。
この花火大会の目的は、
戦没者、被災者、震災復興、平和への祈りなどの思いが込められた。
ただ打ち上げるだけではない、
古き歴史ある大祭である。
そして、二日間に渡る花火は今年も晴天に恵まれ、一夜目の八月二日は、開幕の慰霊を込めた"白菊"を始め、二時間近くにも渡る大花火と"不死鳥"が夜空を舞った。
一夜目と二夜目では、花火の演目に若干変わるものの、ほとんど二夜目も一夜目と同じ勢いで打ち上げる"ごうぎ"な祭りである。
そして、今日は二日目の八月三日。
時刻は十六時にして、花火が始まる三時間前だと言うのに、中越駅から河川敷まで多くの人と車でごった返していた。
さすが一日で、全国から五十万人を越える人たちが訪れる祭りである。
今年は早めに来て正解であった。
前回は十八時に着いた時には、
良い所が取れずに、端っこに追いやられたものだ。
そんな経験もあり、
今年は場所取り関係で、
桃馬、桜華、憲明、リフィルの四人が先に行くことになった。
※ちなみに、ギールとジェルドは、
一昨日の不祥事が祟り、返り討ちと共に番犬の案は不採用になっていた。
桃馬「うわ~、電車の中でも凄かったけど、四時でも人がいるな‥。」
桜華「い、以前の新井田祭より、す、凄い人ですね。」
憲明「あはは、新井田祭は地元民向けだからね~。それに比べて"信濃花火"は、日本だけじゃなく世界からも注目されているイベントだから、規模が全然違うよ。」
桜華「な、なるほど~。」
物珍しそうに目を輝かせる桜華に、
桃馬は不思議そうに尋ねた。
桃馬「桜華は見たことないのか?」
桜華「えっと、小さい頃にお婆様と来た記憶があるのですが‥、大きな音に驚いて泣いていた記憶しか‥なくて//。」
過去を振り返ると、
子供ならではの恥ずかしい記憶が甦り、
徐々に声の音量が下がると共に赤面する。
桃馬「な、なるほど、あるあるな話だな‥。俺も初めて見た時は"花雷"の眩しさと音に驚いて目と耳を塞いでいたな。」
憲明「あぁ~、それ分かるな。俺もあの時は目が潰れると思ったからな。」
二人が昔話に浸っていると、
憲明の隣で"もじもじ"しているリフィルが、
何か言いたそうにしていた。
桜華「リフィルちゃんどうしたの??」
リフィル「っ//な、何でもないよ♪ただその‥、凄いってことは、テレビとかネットを通して知ってたけど、見に行ったことがなくてね~。」
桜華「そうなんだ~♪てっきり、去年辺りに行ってたかと思ったよ♪」
リフィル「ま、まあ、実際その時友達に誘われていたんだけどね。私としたことが、緊張と楽しみのせいで眠れなくて、気づいた時には夕方になってて~。」
桜華「ふぇ!?そ、そんな事が!?じゃあ、昨日はよく寝れたの??」
リフィル「えっと‥昨夜は憲明と‥んんっ~!?」
昨夜の話を言おうとしたリフィルに、
何かに反応した憲明が、素早く背後に回り込み口を塞いだ。
憲明「こら、リフィル~♪何話してるんだ~♪」
リフィル「んんっ~?」
桜華「な、なな、何してるのですか!?」
桃馬「おいおい、急にどうした憲明?急に発情か?」
憲明「んなわけないだろ!こ、これは‥そう!リフィルが二人に誤解させるような事を言おうとしたからだ!」
すぐに桃馬のいじりをあしらうと、
憲明は慌てた様子で弁解を図った。
桃馬「あはは、そう熱くなるなよ。どうせ、ゲームとかして、気づいたら一緒に肩を並べて寝てましたってやつだろ?それをリフィルが、一緒に寝たとか、変なところをかいつまんで話されそうだったから止めたわけだ?」
憲明「っ!あ、うぅ。そうだな。」
実際昨晩は、
偶然にもリフィルの発情期が重なり、
憲明は一晩中リフィルの性的疼きを抑えていた。
たまに訪れる鬼門に、一線は越えない程度で色々と奮闘した憲明は、その分鎮めるのに苦労したそうな。
まあ、どこかの誰かと違って、
襲われて死にかける環境ではないので、
憲明としてはある意味天国であった。
リフィル「ぷはぁ~、いきなり何するのよ??」
解放されたリフィルは、
改めて憲明に事情を聞こうとすると、
憲明は申し訳なさそうに耳元で事情を話す。
憲明「わ、わりぃ‥。その‥昨夜の事は恥ずかしいから言わないでくれよ。」
リフィル「な、なに勘違いしてるのよ‥。わ、私がそんな事を桜華ちゃんに言う分けないでしょ‥、私はただ、普通に二人で寝たって言おうとしただけよ。」
憲明「うぅ、それだと何か引っ掛かるけど‥。す、すまない。」
中々のグレーゾーン並の反論に、
憲明は困った顔をしながらうつむいた。
すると、憲明のこの表情に、
リフィルの心は射止められ、大胆にも抱きつき始めた。
リフィル「もう~♪そんな顔しないでよ~♪」
憲明「お、おい、こら!?」
桜華「ふぇっ!?リフィルちゃん!?」
桃馬「‥はぁ、納涼祭以降から忙しいな。」
納涼祭の一件からリフィルと憲明は、
今までより大胆になった気がする。
人前で抱きついたり‥、いや、これはいつもか。
一緒にいる時間が‥いや、これもいつもだ。
うん、やっぱ気のせいだ。
憲明「うぅ、こ、子供扱いするなよ‥。それに‥昨夜の事は‥二人だけの秘密だからな‥。」
リフィル「はいはい♪わかってるよ♪でも、子供扱いするのは語弊があるな~♪」
憲明「ど、どういう意味だよ‥。」
リフィル「クスッ‥、こうすると可愛い憲明が見れるからだよ~♪」
憲明「なっ//か、からかうなよ‥。バカ‥//」
リフィル「にまぁ~♪そう言うところだよ~♪」
憲明「お、おい!?や、やめろって~//。」
赤面する憲明に、大胆に抱きつく金髪エルフ姫の光景は、まさに絵に描いたようなバカップルであった。
そんな光景を、
呆れたような目で見る桃馬と
生唾を飲みながら羨ましそうに見る桜華が、
感想を述べる。
桃馬「‥ふぅ。スカーレットさんが"いる"と"いない"だけで、こんなに差が出るのか。」
桜華「ごくり、た、確かに‥、スカーレットさんの前ではクールでおしとやかだけど、"いない"とお転婆で悪戯好きの真逆ですからね。ある意味凄いです。」
桃馬「うん、‥まあ、桜華もちょっと似た境遇だけどな?」
桜華「ふえっ?そうでしょうか?‥あっ、も、もしお母様の事なら‥な、無しにしてください。」
桃馬「‥‥。」
桜華の指摘に沈黙する桃馬。
どうやら図星のようであった。
桜華の第二形態である桜華様。
それは桜華の母である藤霞の魂が、
桜華の体を借りて出てくる姑である。
しかも、今の藤霞は桃馬の事を大変気に入っており、隙を見ては現れ桃馬を襲っている。
これを踏まえて考えると、
リフィルは場によって態度を変えるが、
桜華の場合は、もはや人が違うため、
これを二重人格と捉えるか、別人として捉えるか悩むところだ。
すると、
沈黙する桃馬に桜華は痺れを切らせて、
リフィル見たいに抱きついた。
桜華「むぅ、えいっ♪」
桃馬「うわっ!?お、桜華!?」
桜華「わ、私も二人みたいに恋人らしくしたいもん!」
桃馬「お、桜華‥で、でも‥ひ、人が見てるし‥。」
すれ違う人たちは、大胆にも見せつける二つのカップルに視線を向けている。
しかも、
桃馬の声を無視して抱きつく桜華に、桃馬だけ視線を気にして目を泳がせながら羞恥プレイを味わうのだった。