第二百七十四話 詫び寂神情
ここは、闘技場内にある更衣室。
小頼たちが控え室に帰還すると、
直ぐにシャルを更衣室へと誘い、
犬神が犯した行為をシャルに伝えた。
話の内容に慌てたシャルは、
犬神を床に押さえつけながら、
共に土下座をし始めた。
シャル「す、すまぬのだココロよ!間違えたとは言え、ポチがそんなことをしでかすとは‥。余に免じて許してほしいのだ!」
ココロ「わふっ!?あ、頭を上げてください!?わ、私は気にしていませんから‥。」
シャル「うぅ、一応姉として、あるいは飼い主として上げられぬのだ。」
犬神「うぅ‥。」
犬神だけならまだしも、
シャルまで頭を下げる光景は、
見ているだけでも心が痛く感じた。
エルゼ「シャル様!?私からもお願いです!その淫犬だけ土下座させて、シャル様は頭を上げてください!」
ココロ「はわわ!?(エルゼちゃんが‥。エルゼちゃんが‥。)」
加茂「え、エルゼちゃんが壊れちゃいました‥。」
小頼「こ、これは不味いわね。」
想像以上にきついことを言う激おこモードのエルゼに、ココロ、小頼、加茂の三人は、かける言葉を無くして驚愕する。
すると、エルゼのきつい思いが通じたのか、
シャルがようやく頭を上げた。
シャル「うぅ、ココロよ。何か償わせてほしいのだ。」
ココロ「わふっ!?つ、償いって‥、さすがに大袈裟ですよ!?」
シャル「それでは余の気がすまぬのだ。何でも良いぞ!言ってくれ!」
魔王としてのプライドとして、
償いをしたいシャルは、ココロに懇願する。
しかし、
欲のないココロは困り果てるばかりで、
小頼にアドバイスを求める。
ココロ「わ、わふぅ‥、小頼さんどうしよう。」
小頼「わ、私!?え、えーっと‥犬神様の恥ずかしい写真とかは‥、」
突然振られ驚くも、
小頼は犬神を見るなり、咄嗟に売ってしまった。
すると、
ココロは"パァ~っ"と表情を明るくして、
犬神の有無を言わさず、即小頼の提案を受け入れた。
しかし、
残念なことに恥ずかしい衣装が無いことから、
この件は後日郵送と言う形になり、犬神はプライドをズタズタにされるだけじゃあきたらず、シャルにきついお灸を据えられるのであった。
それから、間もなくして
控え室に戻ると。
加茂とエルゼからしてみれば、
夢のような空間が広がっていた。
エルゼ「わふぅ~♪目の前に"ユキツバキ"の皆さんが~♪」
加茂「ほ、ほほ、本物!み、稔様まで居られる‥はぅ。」
夢のような対面に耐えきれずみとれていると、一目散に金髪エルフのスカーレットが二人に向けて駆け寄ってくる。
スカーレット「きゃ~♪君がエルゼちゃんだね♪話しは聞いているよ~♪ふへぇ~♪本当にココロちゃんにそっくりだね♪」
エルゼ「ふにゅ~♪」
上級者並みの手つきで頭を撫で始め、
柔らかなほっぺを"ぷにぷに"と引っ張る。
エルゼも先ほどの怒りを忘れてご機嫌に尻尾を振り出していた。
すると、二人の光景に気になった、
ダークエルフのダクトもエルゼに近寄ってくる。
ダクト「へぇ~♪これは可愛い子だな♪兄のジェルドより賢そうだ♪」
エルゼ「わふぅ~♪お兄ちゃんより賢い~♪えへへ~♪」
ダクト「‥っ。ふっ。」
てっきり、"お兄ちゃんを悪く言わないで"と言い怒るかと期待したが、純粋に受け入れ愛嬌たっぷりのエルゼに、ダクトの口が緩む。
すると、スカーレットが楽しんでいるのにも関わらず、しれっとエルゼを抱き上げ膝の上に乗せると、私の物だと言わんばかりに抱きしめ始めた。
ダクト「‥こ、この"もふさら"は、たまりゃん♪」
エルゼ「ふへぇ~♪」
スカーレット「あぁ~!?ダクトちゃんずるいよ!?」
ダクト「‥ふ、ふん、あ、後で代わってやるから少し待て‥。」
ルルー「あらあら~♪私にも抱かせてよね~♪」
とうとう、サキュバスお姉さんである、
ルルーまでもが気になって近寄って来た。
"ユキツバキ"の三人に囲まれ、まさに天国のような居心地に、エルゼはただの犬として脱力するのだった。
一方、
稔と対面を果たした、
加茂は土下座状態でひれ伏していた。
稔「あ、あなた、な、なにしてるのよ!?」
加茂「わ、わわ、私、小京加茂と申します!神盟宮神社の守護神です!」
稔「え、えぇ、存じているわ。でも、どうしてその守護神がここに?」
シャル「ふっふっ、それは余が説明するのだ!」
本来いるはずのない守護神が、
なぜ、この学園に居るのか疑問に思う稔に、シャルが説明に入る。
しかし、何を仕出かすか分からないシャルに、
加茂は少し不安になるのであった。
加茂「あぅ、シャルお姉ちゃん‥あまり、変なことを言うのは控えてくださいね?」
シャル「うむ!任せるのだ。」
シャルは胸を張って稔に近寄ると、
事の次第を話した。
加茂がいない間は、
神盟宮神社の仕事は神共番に任せ、
帰宅すれば、魔空間でフォルト家と神盟宮神社が繋がっているので、フォルト家から直通で神務が出来る様になったこと。
義理の妹になったことなどを話した。
それを聞いた稔が一息つくと、
微笑みながら口を開く。
稔「全く、我々では想像もつかないことをなさるわね。もし、丸一日神務をサボっていたのなら大事だけど、その方法なら効率がいいわね。」
加茂「み、稔様‥。」
稔「でも、小京?」
加茂「は、はひっ!?」
このまま何事もなく終わると思った加茂であったが、最後の最後で注意を呼び掛けるような呼び声に反射的に背筋が伸びる。
稔「今のあなたは守護神として、良い意味でも悪い意味でも、とても異例な事をしているわ。」
加茂「は、はひっ!」
シャル「むぅ?それは‥‥どういうことなのだ?」
緊張のあまり固くなる加茂に対して、
シャルは逆に、呑気に言葉の意味を問う。
稔「そうね、今 小京がしている事は、長年神社に縛られた守護神への働き方改革に繋がるって事よ。」
加茂「は、働き方‥ですか?」
稔「えぇ、小京は知ってるでしょうけど、守護神となった神様は、そのほとんどが神社の敷地内から出られないのよ。」
シャル「なぬっ!?そ、そうなのか!?」
加茂「稔様の言う通りです。本来、私の様な守護神は、神社の外には出られず、毎日神務に励むのです。」
シャル「で、では、屋敷に閉じ込められてるのと同じではないか!?」
加茂「うぅ、はい‥悪く言えばそうなりますね。それに、多くの守護神様が外に出られるのは、お祭りの時か、神輿に入って担がれてる時しかありませんからね。」
シャル「な、なんと言う事なのだ。それでは、守護神とやらが可哀想なのだ!?」
意外と窮屈な神界事情に驚くも、
問題な点はそれだけではなかった。
稔「問題はそれだけじゃないわ。神社と守護神は一心同体。守護神が掛ければ神社は廃れ、神社が廃れば守護神の力は弱くなり災厄の場合は消えてしまうわ。まだ、小京は優秀だから良いところに配置されてるけど。中には山奥の小さな神社に送られて、寂しい思いをしている神様の数多いわ。」
シャル「‥そ、そんな。そんなの寂しいのだ。」
加茂「神社の守護神は、個々の神様が持つ神力で決まりますからね。ですが、小さくても神共番はいると言う話ですし、山なら釣りとか楽しめるとか。」
稔「まあ、今の娯楽を考えなければ良いかもしれないけどね。それでも、ずっと同じ所に閉じ込めるのは、もう古いと思うわ。」
シャル「な、なるほど、それで加茂のやり方をを試しているのだな!」
稔「そう言うこと。それと、この件は"上"も注目しているわ。上手く行けば考えるだろうし、上手くいかなければ、小京を神盟宮神社に強制送還になるわね。」
加茂「はわわ!?し、神界でそんな事が!?」
シャル「おぉ~♪それなら神様たちに見せつけてやろうではないか~♪」
意外にも神界で注目されていることに、
シャルは心高ぶり、加茂は緊張して取り乱していた。
稔「クスッ、小京も頑張ることね。上手く行けば、私みたいな現人神になれるかもよ?」
加茂「わ、私が‥現人神!?」
稔「クスッ、あくまでも可能性よ?頑張りなさい♪」
稔は優しく、
加茂の頭を撫でエルゼの元へ向かった。
加茂「‥‥。」
シャル「よかったな~♪加茂よ♪」
加茂「~~っ//は、はい♪」
憧れの稔に頭を撫でられ、
赤面しながらも大いに喜んだのだった。
そして、もう一方では、
ココロとギールの妹であるシールは、女の子たちに"もふり"倒されていた。
桜華「ふへ~♪シールちゃんの毛並み~♪」
小頼「ひっぽが二本あるからしゃいこぅ~♪もふしゃら~♪」
シール「くぅ~ん♪きもひぃれふぅ~♪」
リフィル「ま、全く二人とも、浮かれすぎです。」
ルシア「クスッ、そう言うリフィルもココロちゃんの耳を触ってるじゃない♪」
リフィル「‥う、こ、これは‥。その‥」
ルシア「クスッ、お姉さんがいるから気を張っちゃって~♪らしくないわね~?」
リフィル「~~っ//。うぅ、い、言わないでよ。」
ココロ「わふぅ~♪しゃいこうれふぅ~♪」
その後、三匹の"もふもふ"タイムが終わると、
とうとう、禁断のエルゼ、ココロ、シールを引き合わせるのだった。
一方、心的ダメージを負った犬神は、
異端審問は免れたものの、シャルにこっぴどく叱られ、一人寂しく控え室の隅っこに追いやられていた。
犬神「わふぅ‥。(わ、我の何がいけなかったんだ‥‥。どうしたら‥エルゼと仲直りできるんだ。)」
思惑は悲しくも序盤で積まずき、
更に悪い印象を与えたことになり、
一人悲しくショックを受けるのであった。