第二百七十二話 神より白毛玉
加茂から犬神関連の話を聞くと、
どうやら犬神は朝から姿が見えず、
行方不明になっているようであった。
しかもその原因には、心当たりがあった。
昨夜のライブで犬神は、エルゼと瓜二つのココロを悪く言ったことにより、温厚なエルゼを怒せ、その衝撃からショックを受けたようだ。
小頼「なるほどね。犬神君もまだまだ子供だね~。」
加茂「あはは‥、犬神様も少しずつ変われていますけど、未だに節操がないですからね。」
小頼「クスッ♪加茂ちゃんも言うようになったね~♪」
加茂「~っ///あっ、いや、これはですね!?そ、その~、ギール兄さんの言いつけであって‥その‥うぅ。」
つい本音を漏らしてしまった加茂は、慌てた様子で苦しい言い訳を並べて誤魔化した。
しかし、
純粋乙女の雄の子は、
ギールの名前を出した瞬間、徐々に声の音量を落としていった。
神様の初恋の相手が、あのギールとは、
あの駄犬も罪な犬であると、小頼は思うのだった。
小頼「クスッ、ギールも隅に置けないわね~♪こんな可愛い妹が居て羨ましいわ~♪」
加茂「うぅ、茶化さないでくださいよ~//」
犬神から恋バナへと変わり、再び犬神の事を忘れる中、エルゼとココロは夢の対面を果たしていた。
エルゼ「わふぅ~♪ココロちゃんが目の前に~♪凄く嬉しいです~♪」
ココロ「わふぅ~♪ジェルドさんの妹さんに会えて私も光栄です~♪」
二匹は互いの両手を合わせて、
尻尾を振りながら無邪気に跳び跳ねていた。
ココロちゃんに会えた喜び、
ジェルド(通称白継君)の妹に会えた喜び、
内容は違えど、喜びの前では一緒であった。
そんな可愛らしい二匹が意気投合する中、
ココロは、思いきって白狼族なら非常に気になる、犬神様について切り出した。
ココロ「ねぇねぇ、エルゼちゃん♪犬神様ってどんな方なの??」
エルゼ「わふっ!?そ、それは‥加茂ちゃんが話して通り‥節操がなくてわがままな神様ですよ。」
犬神の話に、エルゼは呆れたような表情で返答するも、噂程度でしか分からないココロは、つい羨ましそうに話してしまう。
ココロ「わふぅ~、噂通りの方なのですね。で、でも、犬神様から好意を持たれるなんて凄いじゃないですか♪」
エルゼ「ふ、ふん、ココロちゃんを悪く言う犬神様なんて大嫌いです!私が好きなのは、豆太先輩です!」
ココロ「わふっ!?ま、豆太先輩って、ギールさんの弟さんの!?」
犬科の種族なら誰もが平伏する偉大な犬神様に対してこの態度。しかも、ギールの義弟である豆太を選ぶエルゼの度胸にココロは驚いた。
まだ、犬神の姿を見たことがないココロは、
頭の中で犬神のイメージを、白黒犬遊譚に出てくる白継君と黒江君並みの高身長でイケメンの優しくて少し俺様風の美男子だと想像していた。
しかし実際は、
わがままで、節操がなく、
俺様主義の生意気ショタである。
エルゼ「そうだよ~♪豆太先輩は犬神様より謙虚で優しくて大好きなんですよ~♪」
ココロ「はわわ!?と、と言うことは三角関係‥ですね!」
エルゼ「わふっ?」
ココロ「くぅん?」
ココロの発言にエルゼはよく分からず首をかしげると、ココロも釣られて首をかしげた。
話が噛み合わない二匹の前に、
小頼からある程度の情報を伝える。
小頼「あはは、まあ、エルゼちゃんは犬神君の事をただの友達として接していたからね~♪むしろ、犬神君の方が一方的な片想いな訳だよ♪」
加茂「そうですね、エルゼちゃんの第一候補は、豆太兄さんで決まってましたからね。」
ココロ「と、と言うことは‥、エルゼちゃんを取り合ってるわけですか!?」
加茂「ま、まあ義理ですが、そうなりますね。」
ココロ「‥はわわ!?(とんでもないことを聞いてしまった!?)」
少々複雑な恋愛フラグに、
ココロは触れてはいけないものに触れたと後悔するも、すぐに小頼からフォローが入る。
小頼「そう深刻にしなくていいよ~♪実際この学園では、そういう関係の生徒は非常に多いからね♪通常運転だよ♪」
ココロ「はわわ!?兄弟で取り合い‥ごくり、そ、そそ、それって、"もふイケ"の逆ハーレムって奴ですね!」
純粋なココロちゃんの心が、
小頼ゾーンに呑み込まれ始めた。
ちなみに"もふイケ"とは、
通称、もふもふのけもみみ少女が、幼馴染みのイケメン兄弟に狙われています。
と言う、長岡小頼監修のもとで作られ小頼商会から出版されている、十八禁同人誌である。
内容は、
高校二年生で白狼族のエルマが、
黒狼族の幼馴染みにして、同じクラスのマヒロと一つ上のマリカ、一つ下のマルタのイケメン三兄弟に襲われる話である。
小頼「いや~♪それも知ってるなんて♪ココロちゃんは上級者だね~♪」
ココロ「え、えへへ~♪それほどでも~♪もしかしたら、エルゼちゃんが、豆太さんと犬神様に‥わふぅ~。」
興奮度MAXになったココロは、
とうとうオーバーヒートをしてしまった。
エルゼ「こ、ココロちゃん何を考えてるの!?わ、私と犬神様はそんな関係じゃないよ!?」
これには、ヒソヒソと愛読しているエルゼも察したのか、慌ててココロに誤解を解こうとする。
小頼「ふへぇ~♪可愛い~♪」
加茂「‥あ、あはは、そ、それより犬神様を早く探さないと‥‥うぅ。」
再び犬神を探そうにも、
目の前にいる白くて可愛い"まふまふ"に目を奪われ、犬神の捜索に未だに出れないのであった。
そんな様子を、少し離れた木の影から一匹の黒いショタ犬が顔を覗かせていた。
犬神「わふぅ‥(な、何を話しているのだろうか‥。)」
エルゼから敢えて距離を取り機嫌を伺っていたが、ココロとの遭遇もあり、エルゼが注目する程のココロについての観察をしていたのだった。
犬神(うぅ、本当にエルゼと似ているな‥。白狼族と黒狼族の女の子が似る事は、良くあるけど‥それにしても似すぎている。)
犬神でもエルゼと似ていると思うくらいのココロの容姿に、心が若干揺れ始める。
しかし、エルゼとココロの様子を見るところ、
お互い気が合う様だし、エルゼはココロの事が本当に好きな様だ。
そしておバカな犬神様は考えた。
ココロとやらも自分の嫁にしてしまえば、
きっとエルゼは、機嫌を取り戻してくれると考えたのだ。
愚かにも何とも言えない、堂々たる二股行為。
エルゼを嫁にするため、全世界を敵にまわそうとする、生意気けもみみショタ。
真っ直ぐすぎるのか、おバカなのか、
犬神は木の影から飛び出し四人の前に現れるのだった。