第二百六十九話 死か迫害か
会場にいるだけなのに、
公開処刑を受けている様な感覚に襲われている、
両津直人、エルン、リールの三人は、
ルルーが、一言話す度に危機感を植え付けられていた。
本来、楽しい楽しい、特別ライブのはずなのに、ここまで動揺が隠せない娯楽はないだろう。
しかも、この場から逃げようにも、
前列と中段の列の間にいるため、下手に動けば勘の良い同級生に捕まる可能性がある。
更に、ルルーより電撃発表の危険性もある。
この状況を例えるなら、綱渡りのゴール寸前で、綱を切られそうになっている場面だ。
直人「‥うぅ、もういっそのこと‥暴露してくれ‥。」
エルン「あ、姉上は何を考えているのだ‥。」
リール「か、完全に今の台詞は直人の事だよね。凄く分かりやすかったよ~。」
エルン「感心している場合か。このままでは、直人が孤立してしまうんだぞ!?」
リール「で、でも‥よく考えれば‥三人だけになれるチャンスがあるってことだよね?」
エルン「っ、ま、まあ‥それは‥そうだな。」
夫を挟んで満更でもない話をする中、
直人は、1%の絶望と99%の諦めの中にいた。
エルン「って、そうではない!直人のまわりから人が去るのは嫁として苦しいだろう!?」
リール「う、うーん‥‥。」
直人の心の穴埋めは、
嫁の役目だと思っているリールは考えた。
直人が同級生に挨拶をしても無視される光景。
机の上には落書きの嵐。
下駄箱には無数の脅迫状の数々。
登校や下校中の嫌がらせ、暗殺など。
そして、耐えかねた直人は、
"さようなら"、
"生まれてきてごめんなさい"‥、と書き残す。
嫁の力ではどうにもならない程の、
心が死に絶えていく直人の姿を想像すると、
感極まって直人に抱きついた。
リール「だ、だめ!死んじゃだめだよ!?」
直人「っ!?い、いきなりどうしたんだ!?」
リール「だ、だって‥直人が屋上から~。」
直人「お、屋上から?な、何の話だよ?」
エルン「恐らく、相当悲惨な想像をしたみたいだな。」
直人「はぁ‥俺が屋上から飛び降りるとでも思ったのか。」
どうやらリールは、直人が全生徒から迫害を受け、それがきっかけで命を捨てると思っている様だ。
まあ、あまりにも酷ければその選択もゼロではない。だがしかし、こんな楽しい時代に自ら命を捨てるなど罰当たりにも程がある。
直人は、二人の頭に手を置き撫で始めた。
直人「まぁ、最悪の場合を考えれば死ぬより、このまま二人を連れ去って学園を自主退学の上、のんびり異世界で暮らすのも悪くないかな。」
エルン「な、直人‥ふっ、私はどこでも着いていくぞ。」
リール「わ、私も!」
二人の嫁は嫌な顔をせず、
直人にもたれかかった。
それを目にしたルルーは、
微笑みながら口を開いた。
ルルー「‥さて、そろそろ"嘘"の恋バナは終了ね♪」
スカーレット「へっ?」
ココロ「わふっ!?」
稔「はっ?」
ダクト「えっ?」
超リアルな恋バナであったが、
まさかの嘘と言う結末に、
会場からも"えぇーーっ!?"と驚きの声が木霊した。
覚悟を決めていた直人たちであったが、
強烈な展開に耳を疑った。
ダクト「‥えっ、えーっと、運命の人って話は?」
ルルー「嘘よ♪うーそ♪」
スカーレット「じゃあ今の全部、ルルーちゃんの作り話だったの?」
稔「それにしても、現実的な話だったね?」
ココロ「‥はわわ!?」
ルルー「クスッ、全部じゃないけどね~♪」
どこまで本気なのか分からない話に、
ルルーが言う、"運命の人"とやらの有無がハッキリ判明しない中で、ダクトが思いきって問いただす。
ダクト「焦れったいぞルルー?思い人が"いる"のか"いない"のか、ハッキリしてくれ。」
ルルー「‥クスッ、仕方ないわね♪ダクトが言うなら~♪」
再び掌を返そうとするルルーに、
直人たちに緊張が走る。
ルルー「私の旦那は‥、佐渡桃馬くん♪」
桃馬「っ!?」
桜華「っ!!!?」
百八十度以上曲がった答えに、
会場からざわめく声が響く。
桃馬では、
ルルーの妹を含めた四人の嫁がいる話と、
人間の姿をした妖怪である話に該当しない。
確かに全部嘘ではないと言っていたが、
もしかすると、従兄弟同士で間違えたのではないかと二年生たちは思った。
しかし、どこまでが嘘で本当なのか分からないため、この答えにも半信半疑の状態であった。
逃げる準備を整えていた直人は、従兄弟の桃馬に矛先が向けられたことにより、腰を抜かして安心していた。
直人「‥ふぅ‥、な、なんだ‥桃馬も襲われてたのか。」
実際桃馬は襲われてはいないが、
この発言により自分の後に、桃馬が襲われていたのだと思い込むのだった。
一方、無関係と思われた桃馬には、桜華を始め異種交流会のメンバーが、こぞって顔を向けた。
桃馬「はっ?お、俺!?な、なんで!?」
桜華「桃馬‥‥。」
桃馬「お、桜華!?誤解するな!?俺は何も知らないって!?てか、さっきまでの話だと、どう考えても直人だろ!?」
危機迫るなかで従兄弟を売るも、
桜華の瞳に光はなく、負のオーラを放ちヤンデレモードになりかけていた。
更にそこへ、
火に油を注ぐかのように小頼が尋ねる。
小頼「と、とと、桃馬!まさか、夜中にルルーさんとしたのですか!?」
桃馬「お、おいおい!?変なことを言うな!?昨夜は部室で寝てたっての!」
桜華「へぇ~、じゃあ‥少し失礼しますね♪くんくん♪」
桃馬「ちょっ!?お、桜華!?」
ヤンデレモードの桜華は、
犬のように桃馬の首筋や腕などを嗅ぎ、
普段なら恥ずかしがる様な事を率先していた。
桜華「‥た、確かに‥ルルーさんの匂いはないですね。」
映果「ふむふむ、体の関係はなし‥、なるほど、では、脅しですか?」
桃馬「脅してもないよ!?てか、なんでここにお前がいるんだ!?」
その場の答え際に振り向くと、
そこにはメモ帳にネタを書き、手慣れた手つきでマイクを突き出し、次の質問をする亀田映果がいた。
映果「まあまあ、生徒会から許可は得てますからおきになさらず‥。それでは、国民的アイドルのルルーさんに気に入られた件についてお気持ちをどうぞ。」
桃馬「そ、それは光栄だけど‥、お、俺には桜華がいるから‥お断りするよ。」
映果「なるほど、調教済みの女が良いと?」
桃馬「誤解で人を陥れる質問はしないでくれますかね?」
映果にジャーナリスト攻撃を受ける中、
驚愕する会場にステージでは新たな進展があった。
ダクト「る、ルルー?もう一度聞くが‥適当に言ってないよな?」
ルルー「クスッ♪やっぱり人をからかうのは面白いわ♪」
稔「‥日常生活の部分が出てるわね。」
スカーレット「うーん、これじゃあ、本当なのかわからないよ~。それに桃馬さんと桜華ちゃんの間にルルーちゃんが入るスペースはないと思うけどな??」
ルルー「クスッ‥なら、その従兄弟の"直人"くんでも取ろうかしら~♪」
従兄弟に注目が行き安心したのも束の間、
とうとう、レッドワードが飛んでしまった。
スカーレット「その人って、桜華ちゃんが言っていた桃馬くんの従兄弟さんのこと?」
ルルー「そうそう~♪会ったことないけど~♪」
稔「はいはい、生徒たちの弄りはそこまでにしなさい。」
事実がハッキリしない中、
稔はキャラを捨てクールな対応を取ると、
会場は徐々に桃馬と直人への弄りであると認識し始め、驚きから羨ましい思いが混ざった笑いへと変わった。
しかし、幸か不幸か
直人たちは脱力のあまり、
この話を聞いていなかった。
これにより、
間接的で超分かりにくい電撃発表が明かされ、
その後、特別ライブが再開されたのだった。