第二百六十六話 姉御騎士とヴァンパイア
ラグラ・ノーヴァを含めた、
微食会の話し合いは、闇の内容には触れることなく、うまい具合に進めていた。
エニカ「なるほど、みんなで妖魔退治をね~。それでラグラさんは、敵対と言うよりは相容れぬ関係である、退魔協会の一員って訳ね。」
茂野「そう言うことだ‥、勘違いせずに捉えてくれてありがとう。」
今のところ、変な誤解もなく進むなか、
エニカは重要な点を突く。
エニカ「でも、昨夜の件で何人かは退魔士を殺めたのでしょ?それなら、ラグラさんを生かす意味とは?」
ラグラ「確かに‥沙茉や万里など、しかも北条魅蓮まで殺めたお前たちが、どうして私を生かすんだ?」
茂野「あ、いや、それはだな‥。」
茂野は言葉に困り藤井と坪谷へ目を向ける。
当時の一騎討ちで卑怯ながらも勝利した茂野、
そしてラグラを匿ったのも茂野である。
そのため、どうフォローしてやるかわからず、
二人は目を逸らし茶を濁した。
見てられない近藤は、補足の一手を打つ。
近藤「こほん、俺たちは全ての退魔協会を嫌ってるわけではない。本能のままに暴れる亜種族と同様に、全うな考えを持つ者を見極めて"仕置き"している。」
エニカ「し、仕置き?」
近藤「あっ‥っ!」
九人男子「っ!!?」
渡邉「こほん、‥殺めるって意味ですよ。尚弥は時代劇が好きですからね。つい口にするんだよ。」
エニカ「そ、そうか‥仕置きか‥うむ、良い響きだな!」
つい口が滑った禁止ワードに、
思わず十人の男たちが反応する中、
渡邉による見事なフォローが決まる。
すると、
会話を聞いているラグラは、
姉御風に笑いだす。
ラグラ「あはは、いいね♪お前たち気に入ったよ♪なぁ、あたしはお前さんたちの仲間にしてもらえないだろうか?」
エニカ「えっ?」
茂野「はっ!?」
藤井&坪谷「っ!!?」
突然の申し出に、微食会一同は驚愕した。
近藤「あ、いや、仲間って言われても‥、」
渡邉「‥元々戦闘をメインにしたギルドじゃないんだけど。」
本来なら男だけで組織したものだが、
最近、エニカとルイの加入もあり、気を使うことが増えて来ている。エニカとルイは気にするなと言ってはいるが正直無理な話である。
しかも、姉御系のラグラを入れたらヤバイことになるだろう。
渡邉の脳裏では、
一瞬で今後の展開がプログラミングされる。
闇の一件を知るラグラ・ノーヴァ‥、
もし彼女が微食会に参加すれば、闇に隠れるどころか表に出始めて問題を起こすだろう。
それ故に、この申し出は難しい。
ラグラ「だ、だめなのか?なぁ、天~?藤井?坪谷からも何か言ってくれよ~!?」
茂野「‥そ、そもそも、ラグラはこの学園の生徒じゃないだろ?」
ラグラ「そうだけどよ~、妖魔退治とかで合流できるだろ?」
大胆にもみんながみている前で、
茂野の膝に座り込む。
茂野「なっ//何してるんだよ!?」
ラグラ「何ってお前の太ももの上に座ってるのだが?」
茂野「す、少しは恥じらいをもてよ!?」
ラグラ「なんだよ~?あ、もしかして‥あたしに意識してるのか?」
茂野「ば、ばば、ばかか!?と、取りあえず微食会の正規メンバーはこれ以上増やす気はない。入学してか出直すんだな。」
完全にラグラと茂野は、お互いに意識していることが読み取れる光景に、男たちは再び動く。
渡邉「ま、まあ、確かに正規メンバーは本来十人のところ、特別にエニカとルイを入れて今は十二人だけど、準なら受け入れるよ?」
ラグラ「おぉ!それは本当か!?」
茂野「待て待て蒼喜!?その前に学園の生徒じゃないと‥。」
星野「ご安心を編入希望の書類はこの通り。」
茂野「おい待て!?なんでそんなの持ってるんだ!?」
茂野が一人で焦る中、
誰一人も入学手続きを止めようとしない。
星野は茂野を拘束魔法で縛り付け、ラグラの前に入学手続きの紙を並べた。
その様子に、
ラシュリーナが羨ましそうに見ていた。
近藤「ん?どうしたラシュリーナ?もしかして、興味あるのか?」
ラシュリーナ「ふぇ!?あ、う、うん、そうね。下僕たちと一緒に居られるのも悪くないわ‥‥けど、」
近藤「けど、どうした?」
昨日までの様子なら喜びそうな話ではあったが、以外にも顔色を暗くして悩んでいた。
ラシュリーナ「私がこの学園に入ったら‥村の子供達を誰が守るのかなって‥。」
近藤「‥っ、ラシュリーナ‥、」
ラシュリーナの言う通り、
魔界進出を企む組織を壊滅しても、
牛鬼なる妖怪を倒しても、異世界の情勢は揺れに揺れている。いつどこで侵略、統一戦争が始まるかわからない。
そんな時に、力が弱い守護者が安全なところで暮らして良いものなのか。
その間に、城と村が襲われたらどうなるのかと‥。
ラシュリーナの心は葛藤していた。
ラシュリーナ「尚弥‥、私は異世界に帰るわ。」
近藤「‥そうか‥、ならこれは俺からの餞別だ。」
近藤が席を立つと、ラグラへの入学手続きの書類をビリビリに破いた。
ラグラ「なっ!?何しやがる!?」
近藤「くっ!」
微食会に入れるチャンスを破かれたラグラは、
机を叩き近藤の胸ぐらを掴む。
エニカ「っ、尚弥!?」
ルイ「っ!」
渡邉「なっ!」
全員が席を立ち引き剥がそうとすると、
近藤から制止の声がかかる。
近藤「みんな手を出すな!ラグラさん‥あなたの最高のチャンスを踏みにじったことはお詫びします‥、しかし‥あなたを別口で準メンバーに迎えることはできます。」
ラグラ「な、なんだと?それは本当か?」
近藤「えぇ、この条件を呑んでくれるのであれば‥全責任を持ってラグラさんを準メンバーに加えます。」
ラグラ「で、その条件とは?」
近藤「と、取りあえず、離してもらえますか?」
ラグラ「あ、あぁ、すまない。」
胸ぐらを掴んだままの体勢から解放されると、
近藤は本題を切り出した。
近藤「こほん、条件ですが、こちらにいるラシュリーナ・ダクリロード様の元で騎士として働いてほしいのです。」
茂野「っ!」
ラシュリーナ「ふえっ!?」
ラグラ「ほう‥そのお嬢ちゃんの騎士か。」
ラシュリーナ「えっ、ふぇ!?」
ラグラは、自分より小さなラシュリーナに、
顔を近づけ観察する。
ラシュリーナも突然の事に困惑し、取り乱していた。
ラグラ「ふっ、まあいいぜ。あんたからには、相当このお嬢ちゃんを大切にしている感情が伝わってくるからな。それによく考えれば、勉強をしているより騎士に戻るのも悪くないからな。」
近藤「御理解を頂けて何よりです。感謝します。」
ラシュリーナ「ま、待ちなさいよ!?何かってに決めてるのよ!?」
近藤「まぁまぁ、ラグラさんはかなり強そうだし、お城と村を守るための仲間が増えるのは良いことだろ?」
ラシュリーナ「そ、それは‥う、うぅ、そうね。」
近藤「それに、日が昇っている手薄な間を考えれば、ラグラさんは大きな戦力になるしな。」
ラシュリーナ「う、うん‥。確かにね‥。」
一理ある説得にラシュリーナは、
そのまま言いくるめられてしまった。
茂野「あ、安心しろラシュリーナ?ラグラは信頼できる人だぞ?」
ラグラ「あはは~♪言ってくれるじゃねぇか、天~♪ほれほれ~!」
茂野「うぐぐっ、ぐるじぃ‥。」
やけに茂野に懐いているラグラは、
両腕を茂野の首にまわし、絞めながら抱きついた。
ラシュリーナ「し、信頼ね‥。」
近藤「まあ、あれは茂野限定だと思うから、気にするな。」
こうして、
茂野、ラシュリーナ、ラグラの三人が満足する提案がここに締結された。
時刻は気づけば十一時半を過ぎ、
特別ライブがとうに始まったこともあり、
一行らは、ラシュリーナが住む城へと赴くのであった。