表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/431

第二百六十三話 再開と宣告

春桜の変から一夜明けた学園内。


学園生徒たちが一斉に、

納涼祭の後片付けと学園内の修復に勤しむ、


午前九時半の頃。



多くの生徒たちが、

昨夜のココロちゃんの件を心配する中、


突如、上杉校長による学園放送が流れた。



上杉「えー、生徒諸君おはよう。校長の上杉だ。実は皆に伝えたいことがある。まず、この場を借りて、改めて昨夜の一件を感謝させてほしい。学園と"ユキツバキ"の方々を守ってくれてありがとう。そして、誰一人欠けることなく、無事に生きてくれたことに感謝する。」


上杉校長の本心からの感謝は、生徒たちにとって改めて身に染みる評価があった。



数秒の沈黙の中、

上杉校長が再び話し始める。



上杉「さて、本題に移ろう。まず、昨夜のユキツバキのメンバーのココロさんの件だが、無事に元気を取り戻したと新潟(あらがた)生徒会長より報告を受けた。心配している生徒たちは、安心せよの事である。」



この報告に、

多くの生徒たちは大歓喜を上げた。


男子「よかった~!ココロちゃん、元気になったんだ~!」


女子「うぅ、えぐっ、よがっだぁ~!」


男子「粟島~!よかったな!ココロちゃん元気だってよ!」


浦雅「‥元気‥ほ、本当か‥?」


ユキツバキの大ファンの、

粟島(あわしま)浦雅(うらまさ)は、

喜ばしい朗報に声を震わせた。


その表情は、

男らしく涙は見せず、目を真っ赤に充血させ、

真っ黒い"くま"ができていた。


ここで小話

ココロちゃんがダウンして以降、

浦雅は、現実を受け入れられず無言で大量の涙を流し、寄宿舎に戻っても止まることなく、床についた頃には涙は枯れ、目を開いたまま眠れず今に至っていた。


彼をよく知る者は、

こうなっては何度声をかけても無反応で、

ただその日を生きるだけの"無"の存在になると言う。


しかも、発動条件が結構なシビアで、メンバーの一人が風邪で寝込んだ情報が入るとこうなるらしい。


まさに、

恋愛と言う概念のない純粋ファンの鏡である。


男子「お、おう!校長の発表だから間違いはない。」


浦雅「‥は、はは‥よかっ‥た‥。」


男子「っ!?お、おい、しっかりしろ粟島!?」


浦雅「ZZZ‥‥。」


安心して気が抜けた瞬間、一気に睡魔が襲う。

浦雅はその場に倒れ込み、深い眠りへと入っていった。




しかし、また数秒後、

上杉校長の放送はまだ続いた。



上杉「皆、喜ぶにはまだ早いぞ。これより重大発表を宣言する。この度ユキツバキの皆さんが、昨夜の失態を挽回させてほしいとのことで、特別ライブのやり直しを申し出てくれた。」


ざわつく学園内。

まさか、まさかと思う生徒がほとんどの中、

多くの生徒たちは、この後上杉校長が言うであろう言葉を待った。


浦雅「っ!なんだと!?」


男子「うわっ!?」


これには、

深い眠りに入った浦雅も反応し起き上がる。

その瞳には期待の光が宿り、真っ赤に充血していた目と真っ黒い"くま"は消え去っていた。



上杉「しかしながら、私はユキツバキの方々の体調を考え、受け入れを拒否しようと思った。」


なんとも期待外れな、()らしを匂わす話し方に、生徒たちは更にざわめく。


上杉「だが、私はユキツバキの方々を信じようと思う。彼女たちは素晴らしい意思を持った方々だ。ゆえに、その想いを無碍(むげ)にする者は人道に在らず。校長権限により、午前十一時、闘技場にてユキツバキの特別ライブのやり直しを宣言する。」


ついに放たれた特別ライブの再開宣言。

学園中の生徒たちが、今年一番の大歓喜を上げた。


花火部では歓喜のあまり、

大量の花火を打ち上げ再びお祭り騒ぎとなった。




しかし、そんな喜びの讃歌が響く中、

再び恐怖に狩られる者もいるわけで‥。



直人「な、なんで‥、昨夜の内に帰ったんじゃ‥。」


リール「あ、あはは‥どうやら、どこかで泊まってたみたいだね。」


エルン「あ、安心しろ直人!こ、今度は姉上から守ってやるからな!」


直人「‥今襲われたら‥‥死ぬかも。」


昨日はルルーさんと稲荷姉に襲われ半殺しに合い、その数時間後にはリールとエルンの餌にされボロボロになり、不本意に築いてしまったハーレム男に人生のリーチがかかっていた。


どこに逃げても危険な行動。

麻雀で例えるなら、相手が国士無双十三面待ちと言う超最強最悪な待ちで、自分の捨て(はい)を待っている感じである。


しかも昨日は、序盤から奥の手である、

"お札付き引き籠り作戦"が失敗に終わり。


もう打つ手がない状態である。


直人「‥‥はぁ、妖気促進剤‥もう少しもらえばよかったな。ごほごほ‥。」


エルン「っ、大丈夫か直人!?」


リール「うぅ、これは相当なストレスになってるね。正直ボロボロな体には堪えるよね。」


直人「‥はは‥、今の内に遺言書でも書いておこうかな‥。」


誰もが羨む展開に恵まれた直人、

しかし実際は、皮肉にも生命の危機感じかせる綱渡りであった。


それに"妖人(あやと)"と言う妖怪になっていなければ、昨夜の内にリールとエルンに吸い殺されている。



今度こそ終わったと感じた直人は、

道半(みちなか)ばで終わるかもしれない人生に別れを告げようと、ふらふらな体でノートとペンを取りに動く。


エルン「な、直人!?しっかりしろ!?」


リール「あわわ!?ちょっと、遺言書はダメだって!?わ、私たちが責任を持って守るから~!?」


バグり始めた夫に、

二人の嫁は責任を感じながら飛び付いた。


直人「は、話してくれ二人とも!?お、俺が死んだら後が大変になるぞ!?せ、せめて‥お、俺の思いだけでも‥。」


エルン「お、落ち着けと言っているだろ!?姉上にこれ以上直人を渡させはしないからな!」


リール「わ、私も手伝うから~!早まらないで~!」


道場に響く三人の声が響く中、

三人の様子を見に来た三条晴斗が、

慌てて道場に入ってきた。


晴斗「っ、直人!一体何の騒ぎ‥だ?」


声の大きさからただ事じゃないと思った晴斗であったが、意外にもいつもと変わらぬ光景に唖然とした。


リール「あ、晴斗!良いところに!」


エルン「すまん、晴斗‥手を貸してくれ!直人が遺書を書こうとしてるんだ!?」


晴斗「い、遺書って‥な、何考えてるんだ直人!?」


直人「‥ご、誤解するな晴斗!俺は今日中にルルーさんに吸い殺されるかもしれないんだ‥。の、残せるものは残したい!」


晴斗「ルルーさん?おいおい、変な夢でも見てたのか?さすがの直人でもルルーさん見たいな完璧サキュバス様が、ターゲットにする訳ないだろ?」


昨夜の一件と、

ルルーがエルンの姉であることを知らぬ晴斗は、直人の"ガチ"の悩みを夢だと称して突っぱねた。


エルン「あ、あはは‥そ、そうなんだが‥。(そうだった‥晴斗には話していなかったな。)」


リール「夢じゃないよ!本当のんんっ~!?」


直人「いたたっ!?」


危うく口を滑らそうとするリールに、

エルンは急いで口を塞いだ。


その際に直人の左腕を強引に後ろへとまわしたため、関節をキメられた直人は悶絶する。


エルン「す、すまぬ直人!?」


直人「うぅ‥これは予兆なのか。」


そんな平和な三人に、

晴斗はため息を付きながら注意を促す。


晴斗「‥はぁ、まあとにかく、変な行動は慎めよ?十一時から特別ライブが再開するそうだし、()たければ早く行った方がいいぞ?どうせ、士道部の出し物の片付けは終わってるんだからな。」


直人「‥っ、そうか!その手があるな!」


何を思い付いたのか、

突如直人は抵抗を止めて声を上げた。


晴斗「ど、どうしたいきなり?まさか昨夜の営みで脳がバグったか?」


直人「ば、バグってない!?そうだよ、会場に行けば安全じゃないか‥、よ、よし!急いで闘技場へ向かうぞ!」


目の輝きを取り戻した直人は、

三人を置き去りにし、道場を飛び出した。


エルン「あ、待って直人!?一人でいくな!?」


リール「あぁ~!?待ってよ~!」


唖然とした二人であったが

しばらくして、慌てて後を追った。



晴斗「な、なんだよ‥。今日はやけに忙しいな?‥昨夜どんだけ激しく営んでたんだよ。」



残された晴斗は、

昨夜の三人による激しい営みを想像しながら、

身の毛をよだたせるのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ