第二百六十一話 一途と多妻
事の一件を桜華から聞くと、
女の子たちの着替えを見てしまったギールは、
殺伐とした控え室に連れ込まれ、時奈による多少の情けもあり、シャルを代表に処罰された。
その後、興味を持ったルルーに精気を吸われ放置され今に至るようだ。
一方、女の子たちはリハーサル場にて集まっており、ユキツバキの五人が、昨夜のライブを楽しめなかった生徒たちのために、特別ライブやり直しの準備をしていたそうだ。
桃馬「‥ふぅ、取りあえず事件性がなくて良かったよ。」
ジェルド「全くだ。それより、あの駄犬をどうしようか。」
憲明「今"弟"二人が必死で声をかけているが、未だ反応はなし‥、こうなったら、桃馬かジェルドがキスして起こすしかないな。」
桃馬&ジェルド「はっ?」
憲明「いや、だからキスして起こしてやるんだよ。舌入れオプションもつけてな‥。」
二人の"マジ"な返事にも屈せず、
最強のBL展開を勧める憲明は、
拒否される覚悟で提案をした。
もちろん、二人からしては論外な提案である。
それにやったとしても、その後の展開が目に見えている。
例えば、
ジェルドがすれば、豆鉄砲を喰らったかの様な反応と共に目を覚まし、嗚咽からの喧嘩が始まる。
また、桃馬がすれば一瞬で目に光を取り戻し、尻尾を振り回しながら押し倒すだろう。
桃馬「ギールとキスだと‥、しかも、舌入れてって‥。」
ジェルド「ふ、ふざけんな!そんなの死んでもお断りだ!」
京骨「良い考えだが‥漠然としているな。」
桃馬&ジェルド「どこがだ!?」
憲明「まあまあ、桃馬は人前だから出来ない理由だとして、問題はジェルドだな。」
桃馬「何で"俺は"出来る前提なんだよ!?」
ジェルド「ちっ、問題のくそもあるか!俺は論外だ!論外!」
強引にギールとのキス展開に持っていこうとする
憲明に、当然二人からの反発は大きかった。
憲明「まあ、聞けって、桃馬?お前なら誰もいなければできるだろ?」
桃馬「っ//そ、そそ、そんなの、で、できるわけないだろ!?」
京骨「‥。(わかりやすいな‥。てか、まじで男とできるのか‥。まあ、ギールと桃馬だからな‥。ワンチャンあるか‥わんちゃんだけに。)」
桃馬の慌てようと満更でもないような反応に、
京骨は冷めた目で桃馬を見つめながら、
冷めたギャグを心の中で呟いた。
憲明「なるほどな、んで、ジェルドは‥相変わらずギールとは犬犬の仲だからな。女子からの色々な要望はあるけど、プライドが高いジェルドは、二人きりにしても何もしないだろうな。」
少し嫌みを込めた挑発をすると、
ジェルドは当然のように反論する。
ジェルド「ふざけんな。ギールを正気に戻すためにどうして俺まで捲き込まれなきゃいけないんだよ!?てか、女子の要望って言ったな?地味に小頼とかに頼み事をされてないか!?」
憲明「さ、さぁ?何の事ですかね?」
憲明はジェルドの強めのツッコミを無視して、
我関せずの構えを見せた。
ここで小話
昨夜男子と女子に分かれた際に、
憲明は、リフィルと小頼に"サンプル"を頼まれおり、超貴重映像などを盗撮していたのだ。
注意、
盗撮は犯罪です。絶対にやめましょう!
桃馬「‥はぁ、これだと埒が明かねぇ。」
未だ終わりが見えない展開に、そろそろケリを着けようと桃馬はため息をつきながら控え室に入った。
憲明「お、おい、まさか本気でやるのか!?」
ジェルド「わふっ!?と、とと、桃馬やめろ!?やるなら俺にしろ!」
桃馬「うっさい、事件性がないなら早くこの犬を起こして異端審問にかけるぞ。」
二人の声を軽く受け流し、
ギールに声をかけている弟たちにも目をくれず、桃馬はギールの背後に回った。
ディノ「と、桃馬?に、兄さんに、何をするのですか?」
豆太「ごくり、も、もも、もしかして‥とうとう‥兄さんの"処男"を‥ぼ、僕はめ、目と耳を閉じますので‥ど、どうぞ!」
ディノ「っ!ごくり‥。」
下手な誤解をした豆太に続いて、
遂にギールが本懐を遂げると誤解したディノも、反対の意見は述べずに目と耳を塞いだ。
桃馬「んな分けないだろ!(ったく、さっきの話を聞いてたな‥。しかも、後ろにまわっただけで下手に誤解しやがって‥、この二人も汚染され始めている証拠だな。)」
初めて会った頃は、あんなに真面目で純粋な心を持った二人だったが、ここ最近は、色々と知識や経験を受けさせられているせいか、心の一部が腐りかけている様だ。
このままでは、
完全に純粋な男の娘が、穢れまみれの変態に成り下がってしまう。
桃馬はどうすることも出来きず、
ただ、無情な現実を哀れむのであった。
桃馬「はぁ‥、いいか?こう言う時のギールはこうするんだよ?」
桃馬は、
手慣れた手つきで、ギールの垂れ下がった尻尾の先端を握り、親指と人差し指、中指の三本の指でこねくりまわした。
ギール「きゃふっ!?」
すると、ギールの口から可愛らしい声が漏れ、
光を無くした瞳に輝きが戻ると、情けない蕩けた表情になった。
ギール「わふぅ~、ふへぇ~♪」
桃馬「とまあ、こんな感じだ‥。」
ギールの正気を少し戻した桃馬は、
そのまま拘束も解いてやると、ディノと豆太は蕩けたギールに飛びついた。
ある意味職人とも言える光景に、
憲明たちは思わず声が漏れる。
憲明「さ、さすが桃馬‥、手慣れてるな。」
桜華「ごくり‥す、すごい!でも‥ちょっと‥え、エッチです//」
ジェルド「ごくり‥‥うらやましい‥。」
京骨「こりゃあ‥狼族‥いや、全獣人族の天敵だな‥。将来、獣たちのマッサージ店でも開けば凄く繁盛しそうだな。」
桜華「た、確かに獣たちを喜ばせる才能がありますよね。」
憲明「そう感心してる場合じゃないよ?もし、女の子にあんなことしてみろ‥、大半が桃馬に堕ちてしまうよ?」
桜華「‥ふぇ?それはどう言うことですか?」
未だに理解できない桜華に、
京骨が少し分かりやすく伝える。
京骨「桜華は純粋だな?要するに、快感を教え込まれた"もふもふ"の可愛い女の子たちが、桃馬に集まるってことだよ?」
桜華「それは良いことじゃないですか♪マッサージで気持ち良くなるのは良いことです♪」
京骨&憲明「‥‥‥。」
桜華のポジティブ心には敬意を評するが、
ここまで来ても気づかないとなると、将来的にいけない気がする二人であった。
憲明「ち、ちなみに、もし、桃馬が"けもみみ"の女の子に好意をもったら‥どうする?」
桜華「‥クスッ♪私は構いませんよ♪でも、ちょっと不安だけど、蒼紫お兄さんを見ていたら"もふもふ"した女の子も居ても悪くないかな~って思いますね♪」
憲明&京骨「お、おお~。」
意外と寛大な返答に二人は驚いた。
さすが精霊様、
一応、一夫多妻は受け入れているようだ。
となると、将来の心配は無さそうだ。
後は、どれくらい許されるのか‥気になる所。
さすがに、精霊様でも女の子。
クソハーレム見たいな、何でもオーケーと言うわけではないだろう。
憲明はついに"パンドラの箱"に手を伸ばそうとする。
憲明「じゃあ‥二人以降は何人まで許せるの?」
桜華「クスッ‥出来ても二人までですよ♪でも‥できるなら私一人が良いかな~?」
やはり、愛が分散される事は少し嫌な様だ。
まあ当然だろう。
ハーレムの責任は重いし、
後の事を良く考えれば、色々と大変な事になるのは目に見えている。
ゲームやアニメとかであるハーレムの様に、一見幸せそうに見えるが、後日談が色々抜粋されて良いところだけ見せて終わる夢物語なケースが多い。
だが、今の時代はそんな夢物語が現実となり、
異世界にも全うな司法制が広まり始め、安易な行動が自分の首を絞める時代になっている。
これに、ふと改めて考えさせられた憲明は、
桜華の意見に少し安心しながらも、会話を終わらせようとした。
憲明「まあ、無難だよな。二人までなら愛が薄れる心配は少ないもんな。」
桜華「あっ、うぅん。そういう心配はしてないの♪」
憲明の心配の的が外れたのか、
桜華は笑顔で憲明の心配を否定した。
憲明「えっ?違うのか?」
京骨「でも、ちょっと不安があるんだろ?」
二人には、
桜華の心配事と不安事が分からなかった。
愛じゃなければ、やはり結婚後に起きてくる多くの問題についてか‥、
まあ、これに関してはあまり考えたくないけど‥。
今の段階では関係の無い二人が思っていると、
桜華から不安の理由を答えてくれた。
桜華「クスッ‥えぇ、さっきも言ったけど二人目はギリギリ許せるけど‥三人目となると‥私がどう動き出すのか分からないかな~って‥。」
京骨&憲明「っ!?」
ジェルド「わふっ!?」
明るい笑顔から徐々に暗い表情へと変わり、
瞳に宿った光を無くし、声を低く語ると、
完全にヤンデレモード化するのであった。
冷たい殺気は、京骨、憲明、ジェルドの背中を差し、ギールに嫉妬していたジェルドは驚いた様子で振り向いた。
桜華から漂う負の念は恐ろしく、
三人の目には、紫色の桜の花弁が映っていた。
暴走しそうな桜華の前に、
ギールの尋問に難航していた桃馬が、
一旦諦めて控え室から出てきた。
桃馬「豆太、ディノ?またすぐに戻るから、ギールの監視を頼むよ。」
ディノ「わかりました~!」
豆太「は、はーい!」
間の悪い登場に、
三人の男たちは一斉に桃馬を見る。
桃馬「っ、な、なんだよ?そんな目で俺を見やがって‥、そんなに結果が不満だったか?」
桜華「クスッ、うぅん♪桃馬らしい起こし方だったわよ♪」
憲明&京骨&ジェルド「っ!?」
柔らかないつもの桜華の声に、
三人は驚きながら桜華を見ると、
先程のヤンデレモードが気のせいだったかの様に、いつもの桜華に戻っていた。
桃馬「まあ、ギールの体は素直だからな~♪あのくらい簡単だよ♪」
桜華「クスッ♪さすが桃馬ね~♪」
桃馬「そう誉めんなよ♪そんじゃ、みんなの様子でも見に行くか。」
桜華「うん♪」
桜華は桃馬の片腕に大胆にもしがみつき、
リハーサル場へと向かった。
その様子を、残された三人の男たちは複雑な思いで見つめるのであった。