第二百五十三話 家族と信頼
長い一日を通して、
春桜の変に決着がついた。
これにより、国民的アイドル"ユキツバキ"の五人を狙う巨大なグループは壊滅。後に逮捕した妖魔らの証言により、関係性のある者、それに通ずる者、同じ企みを持つグループなどが芋づる式に検挙されることになるのであった。
警察機構の春桜学園内の大警戒は、
夜が明けるまで続き、その甲斐もあって怯えて潜伏する者、千載一遇のチャンスを狙う残党の逮捕、抹殺に成功した。
そして、時刻は二十二時の頃。
聖唱魔法の使いすぎにより、
最年少のココロがダウンしてしまい、
この日の特別ライブは急遽幕を下ろした。
結局春桜の変で活躍した学生たちは、
残念なことに特別ライブを楽しむことは出来なかった。
そもそも、戦場に出ている時点で諦めはついていが、それでも運良く見れると思った矢先の事に複雑な気持ちよりも、ココロちゃんの体調が心配されるのであった。
その頃、
学園本館会議室では両津家が家族会議を開いていた。
界人「いや~、学園の生徒たちはみんな強いな~。幸い負傷者は出ても戦死者はゼロ。ずっとこんな風に勝てれば良いのだけどな。」
稲荷「そうですね♪それに今回逮捕した連中から色々聞き出せば、関与していた悪人たちを芋づる式で逮捕できますからね♪」
界人「あぁ、また明日から忙しくなるな。」
父、界人の一言に、
息子の桃馬の表情が暗くなる。
直人「やっぱり、そうなるよな‥。当然‥母さんも‥。」
白備「に、兄さん。」
月影「‥兄上。」
リヴァル「‥‥。」
最初から予想がつく話ではあったが、
いざ、現実に直面するとショックは大きかった。
母である両津杏佳は女性公安警察官であり、今回の件は警界庁長官である父と同様に忙しくなる立場であった。
再び一人ぼっちの生活になるため、
暗い顔をしていると"兄ラブ"の白備と兄好きの月影、実の弟と思っているリヴァルが心配そうに見つめた。
界人「すまん直人‥、また一人にさせてしまうな。」
直人「だ、大丈夫だよ‥し、仕事だから仕方ないよ。それに‥芋づる式で悪人を捕まえられるチャンスなのに警察が遊んでちゃ‥また、昔見たいな汚職になっちゃうよ。」
界人「‥すまん、親として何もしてやれなくて。」
良い言葉が見つからず、
界人は申し訳なさそうに謝った。
しかし、そんな苦しい時に、
界人の脳裏から良い案が思い付いた。
界人「っ、そうだ直人?リールちゃんとエルンちゃんを家に招いたらどうだ?」
直人「っ、そ、そそ、それはだめだろ!?」
稲荷「まあ~♪それは言い考えですね♪」
直人「い、稲荷姉まで!?」
界人「まあ落ち着け直人?まだ入籍には早い年頃だが、いずれは嫁に来る子達だ。夫婦生活の一環として練習するのも悪くないと思うぞ?なんなら、リグリードさんにもアポを取ろうか?」
直人「り、リグ姉まで‥さ、三人が一つ屋根の下で‥。い、いやいや、学生の俺には刺激が強いから‥。」
稲荷「クスッ♪それなら、お姉ちゃんが一緒に居てあげようかしら?」
その言葉を待っていたかの様に、
稲荷が本音をぶちまけると白備とリヴァルが異議を唱える。
白備「姉さん、それは僕たちが許しませんよ?」
リヴァル「そうです。帰ったら早速、山積みのお仕事を終わらせてくださいよ。」
稲荷「えぇ~、二人でやってよ~。」
白備「ダメです!それと‥リヴァルとはやりたくありません。」
リヴァル「うぐっ‥。」
ここで問題の種が開花する。
白備は、元敵であるのにも関わらず、長男の座についたリヴァルの事を未だに不満を持っていた。
直人「‥そうだった。この件があったんだった。」
界人「ふむぅ‥これは予想以上に直人を崇拝しているな。」
話には聞いていた二人だが、
初めて見る光景に二人は頭を悩ませた。
白備「そもそも私の兄さんは、両津直人ただ一人です。リヴァルの様な者が兄さんを差し置いて、長男になるなんて認められません。」
リヴァル「‥そう言われると‥返す言葉がない。」
直人「白備?俺を気にかけてくれるのは嬉しいけど、リヴァル兄さんは俺にとっても、良い兄さんだと思うぞ?」
一方的に毛嫌っている白備に、
直人がフォローを入れるも聞く耳を持ってはくれなかった。
白備「兄さんは優しすぎます!リヴァルは亜種族で元は敵なんですよ!いつ兄さんに牙を向くかわかりません!」
直人「‥っ、ま、まあまあ、それは言い過ぎだぞ?それに亜種族ならアイシュ姉さんも同じだろ?」
白備「そ、それは‥で、でも‥僕は兄さんを長男の座から下ろさせた‥リヴァルを絶対に認めません!」
直人「っ!白備‥。」
感情が先走り差別的な発言した白備に、
直人は思わず手を上げ様とするも、
稲荷は席を立ち、白備に近寄ると頬を叩いた。
白備「っ!‥ね、姉‥さん。」
稲荷「‥白備‥今すぐリヴァルに謝りなさい。」
白備「‥い、いやです‥ぼ、僕は兄さんのために‥。」
稲荷「‥例え白備に不満があっても、リヴァルに対する差別を言って良い権利は、あなたにはないわ。」
白備「‥‥‥。」
弟闇落ち展開フラグを感じた直人は、
白備に対して大きな非難をせずに語りかける。
直人「‥白備、俺を想ってくれるのは本当に嬉しいよ。けど、家族同士で歪み合ってもしょうがないだろ?リヴァル兄さんは‥俺にとっても理想的な兄さんだ。例え亜種族だとしても、全うな心を持った兄さんじゃないか?」
白備「に、兄さん‥‥。」
直人「差別は悪の素だ。差別は真の悪に付けて相応しいもの‥決して善を差別してはならない。そして善を悪に染めてはならい。忘れたか‥白備?」
白備「‥うぅ、そ、それは‥。」
重い空気の中で、
界人は父親として白備に声をかける。
界人「白備よ‥、俺は昔、己の正義を掲げるのは良い事だと教えた‥、だが、今思えばその正義に呑まれてはならいと、俺は最後まで教えられなかった様だ。すまない‥、今回の件は父さんの教育の結果だ‥リヴァル‥白備‥本当にすまない。」
リヴァル「‥父さん‥。」
白備「うぅ、父さん‥うわぁ~!ごめんなさい‥ごめんなさい。」
とうとう白備は泣き出し、
稲荷と直人は優しく白備を抱き締めた。
稲荷「全く‥あなたって子は‥。」
直人「‥大丈夫だよ白備?白備は嫉妬してただけなんだろ?兄ちゃんは、よーく分かっているからな?」
悲しい空間を作ってしまい責任を感じているリヴァルは、界人に自分の存在有無を聞こうとする。
リヴァル「父さん‥やはり‥私は‥。」
界人「リヴァル‥、それ以上言うな。辛い中、一人で抱え込ませてすまなかった。」
リヴァル「‥いえ‥このくらいどうと言うこともありませんよ。」
界人「‥ふっ‥そう言いながら、目から汗が出てるじゃないか?」
リヴァル「‥っ、これは‥‥な、何でしょうね。俺にも‥わかりません。」
亜種族であるリヴァルは、
愛と言う物を知らずに生きてきたため、
避けられていた事には慣れていた。
しかし、
家族の愛に触れ人並みの感情を覚えると、
今の空間がとても"いとおしく"感じるのであった。
しかし、
そんな感動的な空間でも一人だけ惚気ている弟が一人いた。
昴「ふんふーん♪」
月影「‥‥昴兄さん、さっきから場違い並みに気持ち悪いですよ?何かあったのですか?」
昴「んん~?まあな♪(兄さん等身大の抱き枕~♪早く使いたいな~♪)」
月影「‥‥はぁ、この温度差は‥なんだろう。」
春桜の変に一段落ついた時、
昴は共に戦った坪谷に頼んで、
兄である直人をモデルにしたキャラを作り、
禁断の抱き枕を作って貰っていたのであった。
その後、
落ち着いた白備は改めてリヴァルに謝罪し、
両津家のいざこざは収まるのであった。
そして稲荷たちが妖楼郭へ帰る頃、
稲荷は直人ごと持ち帰ろうとするが、
弟たちに止められ渋々諦めてお帰りになった。
界人「そうだ、直人?リールちゃんとエルンちゃんを家に呼ぶ件だが、好きにしていいからな?」
直人「‥む、向こうが乗ってくれたらな。」
エルン・リール「もちろん、私たちは大丈夫だ・よ。」
直人「っ!?」
まるで出待ちでもしていたかの様に、
直人の後方に二人の嫁が現れた。
界人「おぉ、話が早くて助かる。二人共、もしよければ、夏休み一杯‥いや、私と妻が仕事で戻るまで息子を頼めないかな?」
直人「お、親父!?」
リール「ふっふっ、お任せください!」
エルン「この身にかけて夫を支えます。」
完全に逃げ場を失った直人‥。
いつかは来る運命だが、まさかこんなにも早く同棲することになるとは‥夢にも思わないのであった。
その後、直人は道場で約束した通り、
リールとエルンに捕まり、煮るなり焼くなり好きにされるのであった。