第二百五十二話 夢幻と現実
北条魅蓮を打ち破りエニカとルイを守った高野と大西は、何事も無かったかの様に二人の美女と共に闘技場へ向かおうとする。
しかし、ルイとエニカは二人の肩を掴むと、
早速他のメンバーの居場所を吐かせるのであった。
その場に駆けつけた警察機構らは、
一瞬とも言える決着に目を疑っていた。
駆けつけた時には、
北条は重症を負っており、その後直ぐに眩しい閃光が広がり、視界が戻るとそこには北条の姿はなく、変わりに青い炎が灯されていた。
まさに十数秒の出来事であった。
一方西側では、
最後の抵抗を見せていた妖魔連合隊も壊滅し、
残るは蛇姫のみとなった。
そして視点はライブ会場へ移る。
時刻は二十一時二十五分。
一時間近くにも渡る聖唱魔法の甲斐もあり、
学園内で起きた春桜の変は学園側の大勝利で幕を閉じた。
その後、
一曲終えた頃合いを見計らい、
上杉校長がステージ上に現れると、
学園中に勝利宣言を発表した。
これにより学園中の生徒たちは大歓声を上げ、
警察機構らは敬意を表して拍手で祝福した。
上杉「此度の事変の勝利は、全生徒とここに居られる五名の聖女による結束力の結果である。学園を代表して皆にお礼を申し上げる。皆、危険を省みずよく戦ってくれた。そして、よく生きてくれた。ありがとう‥本当にありがとう。」
心から放たれた上杉の言葉は、
全生徒の心に響いた。
それは、
"ユキツバキ"の五人も同じことであった。
スカーレットは、初めて自分たちの歌が平和を導くための戦いに役立てれたことに未だに信じられず、その場で立ち尽くしていた。
そんな様子にダクトが声をかける。
ダクト「何ボーッとしているんだスカーレット?」
スカーレット「ダクト‥、私たち‥歌で何かを守れたのかな‥。」
弱々しく今にも泣きそうな声でダクトに問う。
ダクトは少し戸惑ったが、直ぐに後ろから抱きつき答えを返した。
ダクト「‥守れたさ。私達を守ってくれた後輩や先生方を誰一人、死なせることなく終わらせれたんだ。これほどの成果はないよ。」
スカーレット「でも‥‥よく考えれば私達が‥。」
しかしスカーレットは、
元の原因は自分達にあると思い込むと、
ルルーが声をかける。
ルルー「スカーレットちゃん、そう以上言ってはだめよ?」
スカーレット「っ‥ルルーちゃん。」
ルルー「確かに言いたいことはわかるわ。私たちは常日頃から不審な妖魔に狙われていたわ。でも、普段のライブでは姿を現さない妖魔たちが、こうして学園に集まりみんなが退治してくれたのよ?」
稔「そうそう、お陰で安心して暮らせるものよ。」
ココロ「わふぅ~♪ちょっと複雑ですけど平和への第一歩ですよ~♪」
スカーレット「うぅ‥で、でも‥、」
罪悪感に囚われる気難しいお転婆エルフに、
会場から声援が送られる。
男子「スカーレットちゃーん!気にしないでくれ~!」
女子「そうよ~!私たちスカーレットちゃんたちの力になれて私たち嬉しいから~!」
あろう事か、
五人の会話はマイク越しから全て漏れていた。
するとここで上杉校長から、
スカーレットたちに取って驚きの事実を明かされる。
上杉「スカーレットさん、そう気になさるな。実は外で奮戦してくれた生徒たちは全員、事情を知った上で参戦してくれた暴れん坊たちなのだからな。」
スカーレット「えっ‥で、では‥、みんなこうなると知って‥。」
上杉「生憎、この会場に居る九割の生徒たちには知らせてはいなかったですがね。外に居る者たちは、全員知っていますよ。」
スカーレット「で、では‥リフィルもこの事を‥。」
上杉「えぇ、ですがその様子ですと‥何も聞かされてなかったようですね。きっと、気を使ったのでしょうな。」
スカーレット「り、リフィル‥。」
スカーレットがリフィルの方を向くと、
桜華と小頼で嬉しそうにしていた。
上杉「さてと‥老人の出番はここまでだ。今ここでライブを閉めるのも良し、続けるのも良し、好きにすると良いぞ。」
そう言い残すと上杉はステージを降り、
生徒会長である新潟時奈に全て任せた。
スカーレット「‥上杉さん‥、」
スカーレットが深々とお辞儀をすると、
続いて四人も深々とお辞儀をした。
そんな様子を警護を務める男たちは、
彼女たちの苦労を察していた。
桃馬「有名人は大変だな‥。」
憲明「結成時から狙われてたとなると、オフの時でも気にして安らげないよな。」
京骨「‥アイドルの性もあるけど、相手は私利私欲のために殺しにかかってくるからな。普通の有名人よりきついだろよ。」
ジェルド「グルル‥ゆ、許せない‥。」
憲明「京骨?お前大妖怪の末裔なら何とかしろよ。」
京骨「無茶言うな。今のを例えるなら日本の政治家が他国の政治に口を出すような物だぞ?」
憲明「そ、そんなレベルなのか。」
京骨「そう言うものだよ。未だに反共存派が蔓延っているんだ。"万物千里夜行"をやっても思想は一つにならないさ。」
憲明「‥ば、ばんぶ‥なんだ?」
京骨「万物千里夜行。妖怪、妖魔の頂点に君臨する"天幻魔"様が行う巡礼だよ。従う者と従わぬ者を分ける‥伝説の世直し統一だな。」
憲明「それならさっさとやれば良いのに‥。」
京骨「簡単に言うな‥"天幻魔"様にお目通りするだけでも恐れ多いのだぞ?お願いなどできるか。」
憲明「‥天皇陛下みたいな立場か。そりゃ、だめだな。」
京骨「だろ?」
京骨と憲明の二人が、何か対策はないかと話し合っている中、桃馬とジェルドの二人は目線を上に向け舞台の鉄骨にうごめく"何か"を見つけていた。
桃馬「‥なあ、ジェルド?やっぱり"あれ"動いてるよな?」
ジェルド「うん‥動いているな。見た目は"ナーガ"みたいだけど、学園にあんな緑色の奴いたか?」
桃馬「俺は見たことないな。‥まあ臨界制の可能性はあるけど‥それにしても奇抜な衣装だな。」
うごめく種族は断定しても、なぜそんな所に居るのか気にならないバカは、じっと様子を見ているのであった。
恐らくお気づきの方はいるかもしれませんが、
その正体は闘技場へ忍び込んだ蛇姫であった。
蛇姫「しゅるる‥、近くで見ると‥ほんと‥美味しそうね‥特にあの小さな"もこもこ"は‥。じゅるり」
"ユキツバキ"の真上からじっくりと見定めていると、蛇姫は一番愛らしいココロにターゲットを絞った。
だが、ここで問題なのは襲うタイミングである。単純に襲っては返り討ちに合うリスクが大きい。しかも、煙幕などの目眩ましアイテムはなく、どこかで真っ暗になる瞬間を待つしかなかった。
千載一遇のチャンスに、
蛇姫は神経を尖らせて集中する。
そんな時、
後方から一人の女の子が声を掛けた。
?「お主こんなところで何しているのだ?」
蛇姫「っ!」
突然の声をかけられた蛇姫は、慌てて振り向くとそこには小柄な女の子が立っていた。
そう、魔王"シャル"様である。
シャル「微量であるが、変な妖気を感じたので来てみれば、お主‥もしや曲者だな?」
蛇姫「しゅるる‥お、お嬢ちゃん‥私は今‥点検作業中なんだ‥危ないから下がってもらえるかな?」
的確に勘が当たるシャルに、蛇姫は動揺するも苦しい言い訳を並べてやり過ごそうとする。
ここで騒ぎを起こせば確実に無事では済まない‥。
彼女が大人しく後ろを向いてくれれば‥と、
切に願うのであった。
その後、数秒間沈黙する中、
蛇姫に取って運命の歯車が動く。
シャル「そうなのか♪それはお疲れ様なのだ♪」
なんとシャルは、納得して背を向けたのだ。
これぞ九死に一生、
蛇姫は口封じのため容赦なくシャルに襲いかかった。
だが、それが仇となり蛇姫の命運が再び変わる。
蛇姫「しゅるる!ごほっ!」
伸びきった胴体に、
突如鉄骨からスライム状の棒が複数飛び出し、
蛇姫の"みぞおち"や胴体やらを突き上げ、場外へとぶっ飛ばした。
シャル「ふぅ、全く救いようがないのだ。ディノよくやったのだ。」
ディノ「はい、シャル様♪会場に戻りましょう♪」
スライム状のディノは、シャルを包み込み何事もなかったかの様に、鉄骨から降りるのであった。
そして、一部始終見ていた二人のバカは。
ジェルド「‥敵だったみたいだな。」
桃馬「‥勝利宣言から早々に紛れ込んでいるとは、変なのを見たら検挙だな。」
ジェルド「わふっ!それで、飛ばされた奴はどうする?」
桃馬「‥ほっておけ、俺たちは任務優先だ。」
ジェルド「わふっ!」
その後、殴り飛ばされた蛇姫は、
運悪く両津界人の目の前に落下。
そのまま瀕死の状態で御用となった。
これにて、
完全に春桜の変の終幕である。