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第二百四十九話 舌戦と聖剣

時刻は二十時五十五分。


東側の(しげ)みにて、片腕を落とされ激痛に苦しむ北条魅蓮がうずくまっていた。


北条「はぁはぁ、くっ‥まさか‥、あんな‥化け物がいるなんて‥はぁはぁ、はぁはぁ‥‥いい‥ね‥、ほしい‥、私のおもちゃに‥ほしぃ‥。」


ルイの覇気が妨害しているせいか、

片腕の再生が遅く、再生する際の激痛に耐えながら、腕を切り落としたルイを脳裏に刻んでいた。


するとそこへ、

杖をついた一人の老人が歩み寄ってきた。


?「そんな事はさせんよ‥お嬢さん?」


北条「っ!はぁはぁ、だ、だれ‥だ?」


上杉「‥わしは‥この学園の校長を務めている上杉だ。」


北条「へ、へぇ‥はぁはぁ、という‥ことは‥あなたが、(さや)ちゃんのお祖父さんね‥。」


上杉「おぉ、爽を知ってるとは‥、孫の友人かな?」


北条「はぁはぁ、ふふっ‥どうかしらね‥。」


苦しげだが、好意的ではないと言わんばかりの表情で上杉を見上げた。


上杉「なるほど、態度は変えずか‥。」


北条「‥はぁはぁ、それより‥学園なのに校長って‥‥間違えてないかしら‥。」


確かに、本来"学園長"と呼ばれる所ではあるが、なぜ上杉が"校長"にこだわるのか。


その理由は、学園の多くの生徒たちには知られている話ではあるが、何も知らない北条には当たり前の反応であった。


上杉は腰を下ろし語り始める。


上杉「よく言われるのだが、この学園が建つ八年前の。元々ここは私も通っていた小学校だったんだよ。老朽化で建て直しも二回あったが、とうとう、校舎全体を壊さなければならなくなってな。それから‥‥いや、これ以上は話が長くなるからやめておこう。とまあ、私が校長を名乗っているのは、以前存在した"春桜小学校"に敬意を表すためでもあるんだよ。」


思入れ深い話だが、

北条は激痛に苦しむあまり半分以上頭に入っていなかった。


北条「‥へぇ‥そうですか‥はぁはぁ、それで‥校長様は‥これから僕を‥どうするおつもりで?」


上杉「‥何もせんよ。」


北条「‥な、なんだと‥はぁはぁ、」


上杉「私がここでお嬢さんを殺めては‥我が生徒が交わした契約が果たせなくなるではないですか?」


北条「っ!はぁはぁ‥見てたって訳か。」


上杉「生徒を見守るのも、教師としての役目ですから。」


北条「‥ふふっ‥あんたは‥僕より相当なペテン師の様だね。」


上杉「‥おやおや、ペテン師のお嬢さんにペテン師呼ばわりとは‥滑稽(こっけい)ですね。」


北条「はぁはぁ、そうだろう‥、生徒を戦場に平気で立たせ‥自分は、安全な所で高みの見物‥‥手柄は生徒ではなく‥全て自分がかっさらう‥同じだ‥汚ならしい組織と同じだよ。」


上杉「ようやく、本心が出ましたね。」


北条「っ!な、なんだと‥。」


二人の舌戦で北条の本心を引きずり出した上杉は、杖を掴み腰を上げた。


上杉「わしが、今ここでお主を殺すのは容易い‥だが、先程も話した通りそれはわしの役目ではない。最悪の展開はやむ終えぬが‥、そもそも、我が学園の"モットー"は文化交流だけではない。各自の自主性と可能性、道徳などを探求し充実な学園生活を送ることにある。」


上杉校長が杖を強く地面に叩くと、

北条のまわりに魔方陣が浮き上がり、北条の脳内へ上杉校長が見ている"千里全利気眼(せんりぜんりきがん)"を叩き込んだ。


各地で生徒を支援する教員と奮戦する生徒たちなど、あらゆる視点の映像を見せつけた。


北条「‥や、やめろ!はぁはぁ、はぁはぁ、」


上杉「生徒が負傷しても死人がでない仕組みはこう言うことだ。誰かのため、何のために戦い、何のために重い(けん)を振り下ろすのか、その価値を見極める‥。これこそ今の時代必要な学びだ。」


北条「う、うるさい!黙れ!」


上杉「お主はわしにペテン師と言った。それでもわしは構わない。だが‥、お主の様な(やから)に我が生徒を誰一人も殺させん。よく覚えておくのだな。」


そう強く言い残すと、

上杉校長は暗闇へと溶け込んで行った。


北条「くっ、はぁはぁ、くそぉ‥。」


二度に渡って敗北を味わった北条は、

ただ、激痛に耐えながら悔しがる事しかできなかった。





一方北側では、

ラシュリーナを無事闘技場へ送り届けた近藤は、急いで"牛鬼(ぎゅうき)"と交戦している渡邉と白備の元へ走った。


だがしかし、


一直線の道中で目の前から豪速で飛ばされてきた渡邉と白備に捲き込まれ、三人は北第一防衛陣を越え第二防衛陣まで飛ばされた。


結果、近藤は豪速スピードで戻され、闘技場の壁と二人に挟まれ大ダメージを負った。


突然の事に、第二防衛陣を守るスザク率いる臨界制の魔候貴族たちは、目を点にして驚いた。


スザク「な、なんだ‥、って、お、お帰り‥と言うべきか‥?」


近藤「かはぁ‥ぁ‥は、はや‥く‥、か、回復ま‥がふっ。」


渡邉「いってて‥、油断した‥。」


白備「きゅ~、」


唯一(ゆいいつ)渡邉だけ上手く受け身を取ったが、

壁と二人に挟まれて受け身が取れなかった近藤は気絶し、白備に至っては真っ白い"もふもふ"の狐の姿になってダウンしていた。


渡邉「す、スザクか‥、すまん、二人を回復させてやってくれ。」


渡邉は"ふらふら"な体を起こし、

二人を託して牛鬼の元へ戻ろうとする。



スザク「そ、蒼喜!その体でどこに行く気だ!?」


渡邉「決まってるだろ‥牛鬼を倒すんだよ。」


スザク「牛鬼だと‥それって、あの海に現れては人を襲う大妖怪か!?」


渡邉「そうだよ、しかも大妖怪あって‥かなり強い。直人の弟と共闘してもこの様だ‥。」


スザク「それって‥まずくないか。」


渡邉「‥あぁ、かなりな。っ!」


スザク「っ!」



二人が話している内にも、牛鬼は強力な妖気を放ちながら味方関係なく踏み潰しながら突っ込んでくる。


幸い、北側の守りは(しのび)や魔族など機動力に()けた部隊なので、大きな被害は避けられていた。

しかし、幾度の攻撃を当てても止まらない牛鬼に守り手は苦戦を強いられていた。



二年女子「椿ちゃん!爆雷も効かないよ!?」


椿「くっ!諦めるな!怯まず攻撃を続けるんだ!(くそっ、魔法も物理もだめ‥いっそのこと足を狙いたいが危険すぎる。だが‥このままでは闘技場に突っ込んでしまう。)」


四風椿の号令により、

ありったけの武具や魔力を使用する。


牛鬼と闘技場まで残り五十メートル。

それでも、牛鬼は動じていなかった。


牛鬼「(われ)が聖女を喰らい、幻魔界、異界‥いや、すべての世界の王とならん!」


妖魔「ひっ!?ら、羅刹様!おとまりくださ‥がはっ!」


妖魔「皆離れろ!牛鬼となった羅刹様はもう止まらない‥ごふっ!」


欲望と野望に取り憑かれた牛鬼は、

そこに理性はなく、味方を捲き込もうとも突き進む化け物とかしていた。


スザク「くっ、化け物かよ‥。」


渡邉「二人の回復はあとどのくらいかかる!?」


魔族「今始めたばかりだ!早くて五分!」


渡邉「五分‥か‥。」


スザク「‥俺たちだけでやれるか。」


本来短時間ではある五分だが、

今の現状では五十分にも聞こえてしまう程である。


やむ終えない二人は覚悟を決め、

暴走する"狂気"に立ち向かおうとする。


すると、


突如牛鬼の目の前に、

二つの影が交差するように横切ると、

牛鬼の鋭利な蜘蛛の足が切断され勢いよく体を滑り込ませた。


牛鬼「ぐえぇぇぇっ!!!?」


これも執着心からか、牛鬼は滑り込みながらも闘技場へ突っ込もうとしている。


だが、これを渡邉とスザクは好機と見た。


渡邉「スザク!やるなら今だ!合わせろよ!」


スザク「おうよ、(ちり)一つ残さねえよ!」


牛鬼「どけ虫けらぁ!!大妖怪をナメデナイ!」


その狂気的な目は真っ赤に血走り、口から炎の様なものを見せた。


だが二人は、"それ"を放たれる前に刀と剣を抜きありったけの力で牛鬼を一刀両断にした。


牛鬼「ぐぎぇぇぇっ!!?ば、ばか‥な‥うがぁぁ!!?」


牛鬼の体は青い炎に焼かれ、闘技場の壁に(ちり)一つ触れることはなかった。


渡邉「はぁはぁ‥、うぅ‥。」


スザク「‥‥お、おい、蒼喜!しっかりしろ。」


力尽きた渡邉は、その場に倒れ込みぐったりとした。


スザクは急いで回復魔法を施しにかかると、

四風御影と東側の守りに着いていたはずの、シルフィーナ・コードルトが歩み寄って来た。



シルフィーナ「二人ともお見事でした。」


御影「二人なら上手くやってくれると思ったわ♪」


スザク「せ、生徒会長に四風先輩!?えっと‥もしかして、牛鬼の足を斬ったのって。」


御影「もちろん私たちよ♪」


シルフィーナ「うむ、少し強敵ではありましたが、あのくらい容易いものです。」


緩やかに語る御影と凛々しく語るシルフィーナの姿は美しく、スザクは見とれて言葉を失った。


するとシルフィーナは、ぐったりとしている蒼喜の前で片膝(かたひざ)をつき頭を撫でた。


シルフィーナ「さすが蒼喜ですね。私の目に狂いはありませんでした。」


渡邉「はぁはぁ、へへ‥、"天聖剣(てんせいけん)"の貴女様から‥直接お褒めいただき光栄です‥。これで‥俺も少しは‥貴女(あなた)様に近づけたでしょう‥?」


シルフィーナ「えぇ、もちろん。むしろ十分くらいですよ。」


渡邉「‥‥よか‥った。」


安心した渡邉は、その後力を使いきった反動で眠るように気を失った。


その後

牛鬼の妖気を察知して援護に駆けつけて来たシルフィーナは、東側の防衛へと戻り風の様に去って行った。


一方、

牛鬼が打ち倒されたことにより、

北側の妖魔たちの士気は急速に低下し、命さながら逃げ出す者や自棄(やけ)になる者が出始めた。


しかし、その抵抗も四風御影の指揮のもと、

完膚(かんぷ)なきまで叩きのめされるのであった。


こうして北側は平定された。



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